第71話 コラボ提案

 カズさんに従い、『面白そうな物』がありそうな場所へと彼を案内する。


「おっ! こりゃあ装備品の倉庫か。儂の生前に比べりゃ随分と軽装備だのぉ」


「戦国期の鎧兜と一緒にすんな。このベストだって、科学技術と霊的な技術を融合してるもんなんだぞ」


「……なあ、普通出来るのか? そんなん。ここの技術者はおかしくねえ?」


 実際、カズさんの言う通りで対策室の技術部門責任者は普通の頭脳の持ち主ではない。天才的な意味も然り、思考のぶっ飛び方然り。


「なあ……、そういや装備品ってどんななんだ?」


「……忍さんや、説明を受けてないの?」


「受けたけど……、訳分からないんだよ! 月村さんが難解な言葉ばかり使うから」


 美里さんの方を見ると、彼女もこくこくと頷いている。


「えーっと。例えばこのベスト。月村さんが言うには何かの合金らしいけど、その中に金属繊維を編み込むときに術的な編み方をしていたり、金属そのものが魔力を通しやすい素材なんだと」


「何でそんなのできるんだよ?」


「月村さんだから? あの人からすれば……、『魔法? プログラムと変わらんぞ』……つってたらかな」


 実際のところ、対策室での月村さんの功績は計り知れない。良くも悪くも個人の能力が戦果に直結する仕事で、その能力を引き上げる装備品の開発が可能な人材はそうはいないのだ。


「あれ? なら霊刀とかも作れるんじゃ?」


「それがな。ある程度の効果がある装備品は出来るけど、本当に強力な武具はまだ再現できてないのが実情なんだよ」


 俺達の横で顎に手を当てながら感慨深いような表情を浮かべ、カズさんが口を開いていた。


「この科学技術が発達してる時代でも……、まーだ再現ができねえとはなあ……」


「科学技術と反対方向の物だし」


「まあな……。とはいえ儂の時代にこれと同じ物があればなあ……」


 カズさん。なんか思い出にふけってる。その彼が今度は子供のように目を輝かせて武具の方へ顔を向けていた。


「おい。あの機関銃ぶっぱしてみたいんだが? 昔アレがあれば常勝無敗だったろうに」


「嫌だよ、そんな戦国時代」


 俺の呆れた様なツッコみに、斜め上に視線を向けながら口笛を吹いているカズさんであった。


「なあ……。お前なんでそんなに親し気なんだよ? この霊って――」


「……自称だし、本物かどうかも分かんないし……」


 忍がカズさんに対して遠慮がちな態度となりながら、俺へと耳打ちをして来たのだが、その俺の一言を聞き逃さなかったカズさんは少しばかり不機嫌になっていた。


「まーだそんなん言ってんのかよ。儂が偽物? ありえねえって」


「……中学の頃のテストでアンタの証言通りの解答したら、思いっ切りバッテンつけられたが?」


「それ、教科書が間違ってるからな! 後世の歴史研究家も使えねえ!」


 俺がカズさんの言葉を訳しながら、忍たちへと伝えていると二人は引いている様な、はたまた困ったような表情を浮かべている。


「ま……、まあ……教科書の通りに解答するのは大事だよね。うん!」


 そんなフォローをしてくれた美里さんを余所に、カズさんは俺へと真剣な眼差しで向き直っていた。


「それで? お前、あの男に教わってるのなら、神風の技を使えんのか?」


風薙斎祓かぜなぎさいふつか? 使えないことは無いけど……、俺がまともに使えるのは一つだけだぞ?」


「ほう……。それでも継承はしているわけか」


「正式な継承者って意味なら一人娘がいる。俺のは、あくまで亜流。ついでに言うなら、使うと同じ場所にいる術者に迷惑が掛かる」


 神屋家に伝わる戦闘法——『風薙斎祓かぜなぎさいふつ』。それについてはカズさんも覚えがあるらしく、色々と詮索して来ていた。

 その様子を見ていた他二人も興味津々と言った感じだ。


「なあ? その……室長が使えるってヤツ、どんななんだ?」


「ん? 自分の周りの空気を操って色んな事ができる神屋家の秘伝……。こんなのとか」


 俺が掌を団扇うちわの様にパタパタとさせると数メートル先の自分用の羽織が激しく揺れている。鬼子母神さんの一件で影ながらレイチェルねーさんを手助けできるようにしていた際、羽織っていた物だ。


羽衣ういさんも使ってたけど、これも術なんだ……。わたしってまだ基礎しか教わってないから……」


「これ、魔力使ってないぞ。風薙斎祓かぜなぎさいふつは、魔力無しで周りの空気を操作できないと次には進めない」


 ローラの質問にそう答えると、忍達が驚愕した表情を浮かべていた。


「マジ?」


「嘘でしょ……」


 これが神屋家以外の人間にはまともに扱えない理由のはず。偽ロリは魔力を使用しての気流操作は可能らしい。その偽ロリですら魔力無しでは不可能と断言しているのだ。


「コツは空気を掴んで自分の周りで振り回すような感じ……らしい。自分で説明していても言葉がおかしくなってるけど」


 そんな俺の解説にカズさんが懐かしむように語りだしていた。


「おめーの師匠の先祖もかなりヤバかったぞ。風の力を使って鎧武者を飛ばしてたからな。それだけじゃねえ、神気を混ぜた神風で化け物どもを一網打尽にしてたぜ」


「……カズさん、妖怪とか怪異とかと戦ったことあるのか?」


「戦った……と言えるかは微妙だがな。普通の人間にゃ荷が重い。当時の術者に頼っていたのは確かだ」


 それで師匠せんせいの先祖とも親交があったらしい。


「あれから四百年余り。その末裔や、おもしれー教え子と知り合うとは奇縁ってもんだな」


「誰がおもしれー教え子だ!?」


 俺のツッコミへ更なるツッコミが飛ぶ。


「お前だろ。どう考えても」


「自分で自覚無いの? かなりおかしい事してるからね?」


 忍達の意見を耳にして、そこまでしてないはずなんだけどなあ……。などと考えていると、カズさんにバンッと両肩を叩かれてしまう。


「良いじゃねえか。変に尖って周りに誰もいないような人間よりは幸せってモンだ」


「えー。俺、もっと普通がいいよ……」


 そんな俺の不満に対して、ローラが即座に反論してしまう。


「だって、コウって怪異のお友達も多いし、カズさんだってそうでしょ? その時点で普通って……無理があるよ」


 ローラの言葉に、その通りと言わんばかりの視線を向け、苦笑いをする忍達であった。カズさんはニヤニヤとしながら楽しそうに俺を眺めている。


「んじゃあ、帰るか。あの婆さんもそろそろ機嫌直ってる頃合いだろ」


「そうだよ。偽ロリの機嫌が悪いのはカズさんのせいだった。戻ったら謝ってくれ」


「ババアにババアつって何が悪い。その位、軽く流せないやつが悪い」


 なんつー暴論。


「まあ……とりあえず、俺らは帰るわ。二人共またな」


「おう。またな」


「じゃーねー」


 軽く挨拶を交わし、数十分後に自宅へ戻ると偽ロリが珍しく怪訝な表情を浮かべている。

 最初はカズさんの態度で機嫌が悪いだけかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。その偽ロリが俺を見るなり困ったように説明を始めていた。


「功、このメールなんじゃが……」


 のじゃロリが差し出したスマホにはメールの画面が映し出されており、そこには先日、神屋家の祭りで知り合ったプロダクションの社長さんからの企画が記されていた。


「なになに? 拝啓……とかはいいとして。偽ロリの配信とキラ☆きらぼし撫娘なでしこでコラボをしたい? 心霊スポットに行って生配信……」


「うーむ……。あの社長、思っておったよりも動きが早いの。ワシのチャンネルをうまいこと使おうと考えておるようじゃ」 


「別に良いだろ。どうせ現地に行くのは、あの娘達だけじゃくて少し離れた場所で誰かが付いて来るよな?」


「それがの……。念のため、お祓いとかできる人間を……と先方は言っておっての」


 その一言にその場の女子達、駄蛇、そしてカズさんの視線まで集まっている。


「……俺?」


「神主代行させたのが、こんな形で帰って来るとは思わなんだ。どうする?」


 その返答に対し、どう答えるべきか思い悩んでしまったのであった。

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