第15話 結界談義
現在、俺とローラはお昼ご飯中。本日のハムサンドイッチの出来はというと、少しばかりマスタードが多かった。辛い。
すかさずキッチンカーで買ったアイスコーヒーを流し込んで辛さを中和する。
「ローラ? どうだ?」
「うん。美味しいよ。コウって料理上手だよね」
「一人暮らししてれば、これくらいはな」
どうやらローラが食べている卵サンドは問題ないようだ。それよりも気になる事があったらしく、俺に顔を向けて問いかけて来た。
「さっきのって……何やってたの?」
「ん。この辺で幽霊とか目撃されるようになったらしいから、その原因調査。結果はさっき見た通りの結界の歪み」
「んと……。何が何だか分からない……」
俺のやってる事だけ見て理解出来たら凄まじい才能と知恵の持ち主という事になる。これが普通の反応だろう。
「ローラはさ、俺がどんなことすると思ってた?」
「ええと……。前みたく刀持って何かするとか……、難しい言葉を使うとか……」
ルーシーがこの娘に対して一番最初に俺と化生の戦いを見せたのは、自分の現状を把握してもらうためだろうが、普段からあんなのばかりやってるわけじゃない。
「こう……、アニメの魔法少女みたくバーンとやるとか?」
「一つ聞くが……日本語教材だったやつか?」
「うん! 魔法少女が悪の組織のアジトに魔法で爆弾仕掛けてバーンとするの!」
それ、魔法少女がテロリストしてない? 最近そんなアニメやってるのか!?
「待て! 俺が爆弾で何かするとか思ってないよな!?」
「まっさかー。フィクションなのは分かってるよ!」
よ……良かった……。話が変な方向に行くかと思った。
「あと魔法みたいに……魔力で色んなことするとか?」
「うん。そういうのも全くないってわけじゃない。さっきの石とかみたいに。あれにしたって配置だのを計算した誘導法も兼ねてるから、
ローラの頭の上に大量のはてなマークが浮かんで困惑しているのが目に見えて分かってしまう。
「じゃあ結界についての基礎知識から。まず質問だけど、ローラが二つの部屋を自由に選んで泊まれるとします。一つは掃除が行き届いた綺麗で清潔な部屋。もう一つはGさんが出て、窓から隙間風が入ってきて雨漏りしている部屋。どっちに泊まる?」
「そんなの綺麗な部屋の方に決まってるでしょ?」
「ま、そうだな。けどこれな、もの凄く大雑把に言ってしまうと、ローラは綺麗な部屋の方に誘導されてしまってるんだよ」
未だにはてなマークが浮かんでいるローラさんだったのだが、さらに説明を続ける。
「普通の人間だったらこうするだろう、ああなるだろうっていう習性とか行動パターンを計算して相手をその通りに動かして、目的地に近づけさせないのが基本的な部分になるんだな」
「……? でも、それって魔法じゃないよね?」
「そうだな。どっちかっていうと行動心理学にも絡んでくるかもな。そこらはあんまり詳しくはないが」
ちょっとずつだが、質問も出て来たのでいい感じになっている。
「そして、それは元が人間だった霊も、その習性に縛られてしまうものなんだよ」
「つまり……、幽霊になっても無意識に生きてる時と同じ行動をする?」
「はい。その通り」
思わず良くできましたと、満面の笑顔で頭をなでなでしてしまう。すると少し顔を赤くしてしまったローラであった。
「……すまん。昔……、
「ううん……。大丈夫」
お互い、少しばかり気まずくなってしまったが、説明を続ける。
「さっきの石に関しては、この周辺の八ヵ所に設置されていただろ? その石に見えないロープを……ローラが言うとこの魔法で張って囲っていたようなもんだな」
ローラさん、少しずつ理解してきたのか、うんうんと頷いている。
「それだけなの?」
「ここに関してはそれだけ。それだけでも、なんとなくここから先には入っちゃいけないって気になってしまうだろ? その『なんとなく』を故意に相手に対してさせるのがコツなんだ」
まあ……、ここのは障害になるほどじゃないから、
「で、八か所の石のうち、一つだけ位置がズレてしまっていたわけで、そこが入口になってしまっていたと。もし今まで閉じてた場所に出入り自由の入口ができていたら、どう思う?」
「あっ……! 入ってもいいと思っちゃうかも」
「だから今度は入り口を閉じて入れなくする。まっ、それは俺じゃなくて工事で石を元に戻してもらうけど」
ほう……と納得したような表情をするローラだった。
「昔々の術者はそういった人の習性とか行動の仕方とか……、自分で研究して技術として使ってたものあるんだろうけど、今の時代じゃ大っぴらになってる部分もあるからな。昔から人が住んでいたような場所って、そんなのを駆使して魔除けとしているのも意外と多かったりする。んで、あまりにも昔過ぎて何も知らずに壊しちゃったりとかな」
「あの石みたいに?」
「そういうこと」
これで基礎的な講義は終了。ローラは感心したような表情で俺の方を向いている。
「コウって、ちゃんと教えるのもできるんだ」
「霊視の時はすまなかった……。アレ本当に分からなかったんだよ」
あの様だと教え下手だと思われていても仕方がない。すると今度は彼女から質問が飛んできた。
「あれ? じゃあ魔法でバリアみたいの作ったり、杖からドーンとやったりとかはしないの?」
「できるやつはいる。割と近くに」
と、そこまで言ったところで、ローラも俺と同じ人物を想像してしまったらしい。少しばかり暗い雰囲気となっている。
「ねえ、コウは何で……、ルーシーと一緒にいても平気なの?」
それは俺という人間の核心に迫ってしまう質問だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます