第20話 とっても熱くなる夏!?
むか~し、むかし。それよりもずーうっとむか~し。日本の神の国で大暴れして、追放された神様がおりましたとさ。
その神様は地上に降りて歩いていると、箸が川上から流れていました。川上に人がいると思い、神様はそちらに向かうと、一人の娘を囲んで泣いているお爺さんとお婆さんがおりました。
神様は夫婦が泣いている理由を尋ねます。
「私達には八人の娘がいました。……子沢山じゃな、この夫婦。でも毎年、八岐大蛇が山から下りてきて、娘を一人ずつ食べていったのです……。今年も八岐大蛇が来る時期になり、最後に残った娘も食べられてしまいます。それが悲しくて泣いていたのです……。よよよ……」
八岐大蛇は真っ赤な瞳で、一つの胴体に八つの頭と八つの尾を持ち、八つの谷と八つの丘をまたがるほど大きかったのです。
神様は夫婦の娘との結婚を条件に八岐大蛇を退治することを持ち掛けました。夫婦はその人物が偉い神様だと知ると、二つ返事でOKしたのです。
「おい、昔話の語り口調じゃなくなってるぞ」
「別によかろうて。分かれば良いのじゃ」
神様は大蛇退治の準備に取り掛かります。
「まずは酒を用意せい! めっちゃ強くて酔いが回りやすいのを山ほどじゃ! それと垣根に八つの門を作って、八つの門に棚を置いて、全てに酒を置くのじゃよ!!」
夫婦は言われたとおりにし、八岐大蛇がやってくるのを待ちました。しばらくすると八岐大蛇が、ものっそでっかい地響きを立てながら夫婦の家へとやってきました。
八つの門の全てに頭を入れ、酒をがぶがぶと飲み始めたのです。
「うぃ~。酔っぱらっちまったぜ……。zzz。……何で俺が大蛇役?」
「ええじゃろ。ほれ続けるぞい」
その時です。神様は持っていた剣を抜き放ち、八岐大蛇を斬り刻んでスプラッターな姿に変えていきました。こうして、八岐大蛇は退治され、神様と娘は結婚しましたとさ。めでたしめでたし。
「クシナダヒメを櫛に変えたとか、天叢雲のくだりとかは良いのか?」
「色々詰め込むとローラが混乱しそうじゃしの。とりあえず大蛇がどんなのか知ればよい」
はい、これにて説明終わり。
「つまり、とっても昔にすっごく悪い事した大きな蛇が、お酒飲んで酔っぱらって寝てる間に退治された?」
「うん。それでだいたいあってる」
フランス人でしかも小学生のローラに対して、日本神話の一つである八岐大蛇のお話を分かりやすく聞かせていた俺達だったのだ。
「じゃあ、その蛇さんの骨がこれ?」
「って話だけどな。確かにおかしなくらいの怨念が籠ってはいるけど、それだけで何で八岐大蛇って話になるんだか」
十中八九どころか千中九百九十九は偽物と言っていいはずだ。
そんな俺の疑問に答えるように
「それがな……。そいつを安置していた神社の神主が夜な夜な八つ頭の蛇に睨まれて金縛りになるんだと。他の場所に移しても同じらしくてな。……で、困りに困って――」
「ここに来たと。ねえ、前室長……、俺らってマジで便利屋じゃないですか? 自分で
「そう言うな。それだけ『
さて、俺の愚痴はこの際、どうでもよいとして……、どうしてこれが俺の新しい刀につながるのだろう?
チラッと
「それで……だ。お前、これを刀にしてみる気はないか?」
「こんな小さな骨の欠片を?」
「正確にはこれを混ぜて、そこから出来た鉄で打つ……だな」
確かに……こいつが原料なら、ここまでのやばい念を有しているのなら、打ってすぐの刀でも化生相手には有効かもしれない。
「刀って……そういうの入れてもいいの?」
「まあ……、普通はしないはず。けど昔々の中国の言い伝えだと髪や爪を入れたとか、奥さんが炉に身を投げたとかあるけど」
ローラさん、ちょっと引き気味の表情になっている。これは仕方ない。
とはいえ、問題はそれだけじゃない。
「こんなの使って刀を打ってくれる人がいるんですか? 今は封印してるからまだ良いですけど、剝き出しになったら鍛冶師さんにだって影響出ますよ。これ見つかった場所でもそうなった人いるんでしょ?」
「そうだな……。だから……」
あ、嫌な予感がする。聞きたくない。
「おーい! 往生際が悪いの。ちゃんと聞かんかい!」
「いーやーだー!」
耳を塞ぐ俺の手を引き放そうと、ロリ婆が力を入れて腕を掴んでいる。
「うぉ!? 力強よっ!? ヌギギギギ!!」
「どうだ! 成長期の腕力なめんな!」
数分後、双方疲れ果てて、ぜえぜえと息を荒くしている。
「あー……。そろそろいいか? でだ。刀を打つ間、お前が立ち会え。んでもって、邪気を祓え」
「やっぱりですか!? 1週間くらいかかりますよね!? 夏休みですよ! プールは!? 海は!?
(あー……。やっぱり買っておったか……。やめておけと言うたのに……)
(可哀そうだがなあ……。また今度にしろや)
ご年配二人は、憐れむような瞳で俺を眺めていたが、ローラは屈託のない笑顔である提案をしてきた。
「んっと……。だったら千佳ちゃんがライブに行きたがってたから、チケットあげていい? コウは刀が必要だし……、チケット無駄になっちゃうから良いでしょ?」
それを耳にした年寄り二人は戦慄していた。
(まったく悪気無くトドメ刺しにきおった……。ローラ、末恐ろしい娘じゃ……)
(うぉ!? 天然ってのはおっかねえな……。あんな笑顔じゃ怒るに怒れねぇ……)
にこにこしながら善意からくる提案をするローラに対して、できることは一つだけだった。
「……そうだね。千佳ちゃんに楽しんできてって渡してあげて……。(布教用で)ローラの分もあったけど……、子供だけで行くのは怖いから、代わりにお姉さんにもどうぞって」
「うん! 分かった! わたしはコウの近くにいるからね!」
こうして、高校一年生の夏前半。
俺は鍛冶場へと赴くこととなったのであった。
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