第17話 お泊り会開催

 藤田さん姉妹は着替え等を持ってくるために一旦別れ、俺達は家路へとついていた。


「そういえば……、藤田さんって俺の家知ってたっけ? 教えてない気がする」


「あ……、それなら大丈夫。千佳ちゃんが遊びに来たことあるから」


 どうやらローラも機嫌が直ったらしく、少しばかり笑顔が見えている。ただし、町中の霊についてはまだ怖いので、腕を組みながら歩いている状態だ。

 急遽、遊びに来ることになった藤田さん達のため、夕飯用の食材を調達すべく、商店街へと立ち寄る。

 すぐさま、魚屋のご主人が俺達へと声を掛けて来た。


「おっ! 坂城のボウズじゃねえか。婆さんは元気かい?」


「元気すぎて俺より長生きしますよ。あの人」


「はっはっはっ! 何よりだろ。その子は?」


 魚屋さん、ローラについて興味津々といった感じだ。


「ああ……、国は違いますけど、俺と同じであの婆さんの曾孫ひまごなんです。ローラっていいます。先月から婆さんと一緒にうちに住むことになりまして」


「そうかそうか。じゃあお近づきの印だ。マグロの赤身のいいとこ安くしてやるぜ!」


「マジで! 助かりますよ。これから友達が家に遊びに来るんで、夕飯の献立どうしようかと思ってて――」


 丁度よく、刺身用のマグロの赤身が手に入ったので、これでメインのおかずは決まりだ。

 俺と魚屋さんの会話を聞いていたローラが不思議そうな顔をして、疑問をぶつけて来た。


「わたし……、ルーシーの曾孫ひまごじゃないよね? コウも」


「んー。対外的にはそういうことになってる。だって、八代前の先祖とか誰も信じないだろ? 一応、日本での俺とローラの保護者もルーシーだし、それ用の戸籍もあったりする」


「ふぇー。そういうところはアニメみたい」


「……ついでに言うと、のじゃロリルーシーは一般人の前に出るときは、相手から年相応の姿に見えるように幻覚と暗示を駆使してる」


 ローラはそれについて心当たりがあったらしい。


「そういえば、日本に来たばかりの時……、買い物してたら、わたし……、お孫さんって言われた気がする」


「そういうこと。破天荒な割に、周囲が怪しむような事はしないんだよ。アイツ」


 さっきのマグロの他にも色々と購入し、自宅へと戻っていった。








 数時間後。


 ――ピンポーン


「おじゃまします」


「ローラちゃん来たよー」


「千佳! ちゃんとご挨拶する!」


「はーい。おじゃましまーす」


 藤田さん姉妹到着。特に妹の千佳ちゃんは元気いっぱいだ。


「どうぞ、遠慮せずに上がって」


「あれ? そういえばお家の人は? ご挨拶しないと」


「あ、二階にいるから案内する」


 そうして、藤田さんをルーシーの部屋まで連れていく。偽ロリには前もって、彼女達が来ることは伝えてある。

 ルーシーの部屋の扉をノックすると、程なくして部屋の主が姿を現す。


「ああ……、功のやつから話は聞いとるよ。遠慮せず、こやつをこき使っていいからの」


「初めまして。今日はお世話になります」


 ペコリと頭を下げて挨拶する藤田さんだった。


「ひいお祖母さんって聞いてましたけど、思ってたよりお若いですね」


「いやいや、いい年寄りじゃからな? 今日は相手をしてやれないが、ゆっくりしていっておくれ」


 藤田さんには優しい笑顔を向ける老婆に見えているだろうが、俺からは同年代が話している光景にしか映らないのは不思議なものだと感じる。

 その後、一階へと向かう途中で、藤田さんが興味津々といった表情で俺へと質問を投げかけて来た。


「坂城君のひいお祖母さんって外国の人? もしかしてローラちゃんと同じフランス人?」


「いや、あの婆さん出身はイングランドって言ってたな」


「あー、もしかして、坂城君の英語って……」


「んー、あの婆さん仕込み? というか子供の頃、色々と特に欧州辺り回ってた時期があったから、それでか」


 そこまで話したところで、藤田さん、俺に顔を接近させ、凄まじく真剣な表情でもって泣きつきそうな声色で訴えかけて来た。


「坂城くーん! 英語の宿題教えてーーー! 今日持ってきてるから! お願い!!」


「そ……、そんな必死にならなくていいから! どのみち、ちびっ子達だって、遊ぶだけじゃなくて、宿題だってやるだろうし」







 現在、四人揃って居間で宿題しつつ、ちびっ子達はそれ以外にゲームをしたり、BDを物色していたりと少しばかり騒がしい。


「あー! これキラ☆きらぼし撫娘なでしこのライブBDだ。見ていい?」


 千佳ちゃん、俺の秘蔵BDを発見。ちなみに『キラ☆撫娘』とは今、ブレイク中のアイドルグループである。


「千佳! あんまりご迷惑にならないようにね!」


 妹をさり気なく注意する藤田さんだったが、俺的にはあまり気にしなくても良いと思っている。むしろ、こう提案しなければならない。


「千佳ちゃん、気に入ったのなら貸してあげようか?」


「それは悪いよ」


 すぐさま藤田さんがそう言うが、俺としては願ったり叶ったりなのだ。


「それは観賞用だけど、布教用のBDなら持って行って大丈夫」


「ふ、ふきょうよう?」


「ファンたる者、観賞用、保存用、布教用を持つのが責務なのです」


「そ……、そうなんだ……」


 ちびっ子二人がライブ映像に見入っているうちに手早く藤田さんの宿題を片付けることとなった。


「やっぱり実際に英語話せると違うね~」


「まあ、スラングもたまーに混じったりするから、学校のテストだと気を付けないといけない時があったりするんだな」


「ほうほう」


 などなど、色々とやっているうちに夕飯や入浴も済ませ、後は就寝するのみとなっていた。


「じゃあ、わたし達はこっちだから」


「はいよ。おやすみ」


 女子三人はローラの部屋で寝ることになっているので、今夜は一人でゆっくり眠れそうだ。

 その前にロリばーさんの部屋へと立ち寄る。ノックをすると、中から返事が聞こえて来たのでそのまま入室する。


「さっき、あの女子おなごと来たときから気になっておったが……、その目の下の隈、どうした?」


「……言わないでくれ。自分の女の子耐性の無さに愕然がくぜんとしている最中だから」

「意外じゃのう。昔はワシやレイチェルだって近くにおったというのに、ローラと数日二人っきりになった程度でそうなるとは」


 ほんとだよ。何でなんだか。


「ははーん。お主、さては……、ああいった庇護欲を掻き立てる系の女子が好みじゃな?」


「だとしたら、アンタ等みたいな女傑ばかり周りにいたせいだ」


「まあよい。して、ローラの様子はどうじゃ?」


 ここからが本題だ。あちらも真剣な眼差しとなっている。


「とにかく見えるようになった霊やらが怖くて仕方ないってとこだ。こればっかりは時間かけて慣れるしかないんじゃないか?」


「最初はそれで良い。むしろ、そうでなければならぬよ」


「そなの?」


 俺が間の抜けた返事をすると、溜息交じりに返答をしてくるルーシーだった。


「はあ……。この際だからはっきり言っておくがの。今のローラより、昔のお主の方が余程危うい状態だったのじゃぞ?」


「……いやまあ、そこそこ危ない目にはあったけどさ……」


 目の前の魔女がいつものふざけた雰囲気を出さずに淡々と語りだす。


「未知への物、闇夜への恐れというのものは、いわば人間が持つ根源的な恐怖、防衛本能に根差すものじゃ。だがの、功。お主は生まれつきそういったモノを認識できるが故に、連中に対する恐怖心自体が薄いのじゃよ」


「そりゃあ……、その通りだけど……」


「そして、連中は自分の存在を分かる人間に寄って来る。当り前じゃな。何も分からない人間より、分かる者へ近づいてくるのは道理じゃよ」


 もうルーシーの言葉に黙って耳を傾けるしかない雰囲気となっている。


「少し話を聞いて欲しい程度の奴ならまだ良い。しかしの、辛い自分と同じ境遇になって欲しいと、そうして自分を理解して欲しいと思っている連中も少なからずおる。例えば――」


「激流の川だの、崖下だの、屋上から飛び降りる……とかか?」


「覚えはあるようだの。お主を見つけた時は、よく生きて五体満足でいてくれたものだと安堵したものじゃよ」


 それは良い。この人が昔の俺を助けてくれたのは分かっている。今はそれよりも――


「なあ……。言いたいことは理解したが……、何でそんなにヘコんでるんだ?」


 よわい二百歳オーバーのおそらく本気で戦ったら、俺など木っ端のように成す術もなく敗北してしまうような存在が、周りに暗黒オーラを纏い、もはや死霊すら暗すぎて逃げ出す雰囲気を漂わせている。


「いやの? 頭では……、理屈では理解しておるのじゃよ? しかしの……、分かっていたこととはいえ、幼子ローラおびえられるのはこたえてしまっての……」


「あー、まあ元気出せ。そのうち霊視のピント合わせとやらもできるようになるだろうし。俺はできないけど。ピント合わせ」


「お主はもう、その辺は生まれつきぶっ壊れていると思ってよいぞ。ワシですら、それ直すの無理じゃったから!」


 酷い言われようである。とりあえず、偽銀髪ロリおばばも少しはいつもの調子に戻ったということで、安心しながら部屋へ戻り、ベッドに横たわっていた。

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