第35話 現地調査

「じゃ、行ってきまーす!」


「お邪魔しました」


「朝飯どうもな。行ってくるわ」


 お家のメンバー、プラス金城さんと成田さんでの朝食後、特にねーさんは朝からご飯三杯&玉子3つの目玉焼きとボイルソーセージ二袋、サラダ大盛を平らげて写真に写っていたほこらがあるという現地へと向かっていった。


「あの二人……、誰かにスカウトされたかの?」


「多分……。ねーさんに付かせる辺り、自分の身くらいは守れるって判断だろうけど」


 俺と偽ロリは家を訪れた二人について色々と考えを巡らせていた。


「あの日焼け娘きんじょう釣り目男なりたは……、遠い海の匂いがするヘビ」


「そうなの?」


「うまく表現できないヘビが、日焼け娘きんじょうの方がその匂いが強いヘビ」


 駄蛇はあの二人について何かを察したらしい。ドヤ顔でローラにその所感を説明していた。







 一時間後。レイチェル、成田、金城の三人はくだんほこらがある場所へと辿り着く。

 そのほこらは写真の通りに古めかしく所々が痛んでいるものの、その存在は知られているらしく、お供え物が置かれている。


「これ何だ? 中に粒々の実が入ってる赤いやつ」


「あ、これなら知ってる。カリフォルニアでよく栽培されてる……、ポムグラネイトだ」


「「ポムグラネイト?」」


 レイチェルの言葉に日本人の二人が揃って首を傾げて不思議がっている。聞いたことがない単語なので困惑しているようだ。


「日本語だと……何だっけ? 日本人だから分からない?」


 二人へ恥ずかしそうに日本語訳を求めるレイチェルだが、そもそもあまり見たことがない果物なので答えようがない。


「こういうのはコウが得意なんだけどね。今は嫌な気配はしないし、ここの神様かな? それから直接事情を聞けるから」


「そう言えば坂城さんは写真を視ただけで、祀られてるのが分かってたみたいな?」


「うん。あの子の認識能力って普通じゃないから。下手すればただの霊視のカテゴリーにも収まらないくらいの」


 その一言を聞いて反応したのは成田の方だった。


「あの……アイツ、こないだの模擬戦で存在を薄くした方の使い魔も認識してたよな?」


「えっ!? アレ見てたんだ……。恥ずかしいなあ……。ルーが言うには修行でも、何かのきっかけででも、霊とかが分かるようになるのは大体が視覚からだって。人間の情報取得の大半を占めてるからで……。ただし、それを誤魔化すすべも古くからあるらしいよ」


「本来は視えない存在を更に隠蔽する技術とか……、あの婆さんは何なんだ?」


「さあ? あたし達の先祖で長生きってくらいしか知らないしね」


「いいのか……、それ……」


 レイチェルの回答に半ば呆れ顔の成田だったが、今度は金城から質問が飛ぶ。


「これからどうします? おかしな現象が起きるかもですから、夜まで張ってますか?」


「ん……。次は周辺を見てみよー! 何か訴えたくなるのがあるのかもしれないからね」


 その提案に従い周囲の探索を始めようとしていたその時、後ろから少しばかり驚いたような声が聞こえて来た。


「あらまあ……。ここに人がいるなんて珍しいわ。どうしたの?」


 少しばかり間延びした声の中年くらいの女性の声。三人は後ろを振り向く。


「ど……どうする? 怪しまれるんじゃ……」


 成田は予期せぬ来訪者に緊張した顔を見せている。それを尻目にレイチェルは怖気づくことなく、ニコニコしながら女性へと接近する。


「こんにちは。おばさん……、ここって何? あたし、見ての通り日本人じゃないから分からなくて。こっちの二人も知らないんだ」


「あら? 外国の方? その割には日本語がお上手ね」


再従兄弟はとこが日本人なの。こういった神様? とかは……、その子が詳しいんだけどね。今日いなくて」


「そう……。ここはね、鬼子母神を祀っているらしいのよ。かなり古くて修繕もしてあげたいんだけどね」


 『鬼子母神』、その言葉に目を見開いてしまった金城と成田の両名だった。その二人がヒソヒソと小声で話をしている。


「そういえば、アイツが言ってた……『き』って……」


「やっぱり『視えて』たんだ……」


 そうこうしていると、レイチェルとその女性は話が弾んでいたらしく、少しの間で仲良くなっているようだ。


「私、この近くの乳児院で院長をしているのよ。もうすぐお昼だから帰らないといけないけど……、良かったら今度遊びに来てちょうだい」


「はーい! まったねー!」


 職場へ帰ろうとする女性に対して、腕を上げてブンブン振りながら元気よく見送るレイチェルであった。

 女性の姿が見えなくなると、二人の方へと向き直り一言。


「ダメだよ~。あんなに警戒しちゃ。あの態度だと不審者だと思われちゃうよ?」


「は……、はい。……すいません」


「だって普通はそうなるだろ! 後ろから声かけられると……」


 その返答に少し困ってしまったレイチェルだが、二人へと言い聞かせるように語りかけていた。


「だって、人が来るかもってのは想定内だよ? 新しいお供え物もあったしね。むしろ、そのお供え物をしている人に会えれば色々聞けて良いでしょ」


 レイチェルの説明に感心している金城と成田だった。

 二人としては、彼女はそこまで深く考えるタイプではないとたかくくっていたのだが、その予想がまるっきり外れてしまっていた。


「それにしても鬼子母神……か。一回帰ろう。コウの部屋になら資料になりそうな本がいっぱいあるから、それも見てみようか」


 その指示に黙って頷くしかできない二人だった。









「んで、それで帰ってきたと?」


「うん。あとお昼ご飯もお願い」


「冷や麦で良いか? そっちの二人も」


 俺が台所にて、お昼ご飯の冷や麦を茹でている最中に調査から返ってきた三人の姿があった。どのみち追加で茹でるだけなので、そこまでの手間ではない。


「功、裏ごしした梅干しも頼むぞい。麵つゆに混ぜるとさっぱりして良いのじゃよ」


「はいはい。注文の多い偽ロリだな」


 言われた通りに梅干しを裏ごしする。確かに暑い夏にはぴったりなので、希望者分を用意することにした。


「小僧、蛇的には錦糸卵が欲しいヘビ。付け合わせにするヘビ」


「……お前……、箸も持てないくせにどうやって食う気だ?」


娘っ子ローラに食べさせてもらうヘビ!」


「お前用の器に、麺つゆと冷や麦と錦糸卵も入れとくから顔を突っ込んで食え。ローラにもゆっくり食事させてやれ」


 何故、俺は食わなくても平気な駄蛇の注文にまで応えなければならないのだろうか?


「……なあ、この光景ってどう考えてもおかしいよな? 人間だけならともかく、年取らない婆さんと刀から生えてる変な蛇が一緒に食卓にいるとか」


「成田さ――」


「忍でいい。さんもいらない。その代わり俺も功って呼ぶ」


「忍、言いたいことは分かるが……、自分じゃどうにもならない事を考えたって仕方ないぞ?」


 俺の諦めともとれる発言を聞いて無言で食卓に着く忍の姿があった。すると彼の隣にいる金城さんが申し訳なさそうに頭を下げている。


「結局お昼までいただいてしまって……、すいません……」


「そこは気にしなくていいですよ。しばらくはそうなるかなって思ってたし」


「……もしかして、夕飯の準備も?」


「こないだ師匠せんせいから、ご当地名物のお中元を沢山もらったんで……。そこまで手間じゃないですしね」


 そこまでで全員が食卓へとつき、雑談をしながら楽しい食事の時間を過ごしていた。

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