揃う末児達
第26話 お姉さんはホームレス
今日も今日とて夏休みの合間に霊関連のお仕事をこなす俺であった。
その帰り道。
「小僧は大変ヘビ。その……他の小僧どもが休んでいる時でも働いているヘビ」
おそらくは夏休みの事をどこかで学んだらしい。駄蛇にすら同情されるとは少しばかり悲しくなる。
「言うな。俺だって普通の学生みたいな生活はしてみたんだ。けどな……、仕事しないとお金が入ってこないんだよ!」
「でも今は
「あれな? 人気が出ないとお金にならない商売なんだ……」
何千年前の存在にVtuberを説明するのは難しそうなので、適当にぼかすことにする。
「人気がでねーって思ってるってことは、やっぱり小僧は根暗ってことヘビ!」
「うるせー!」
駄蛇にこんなの言われるまでもなく、ああいったものに向いていないのはよく分かってる。
「俺だって、そんなのは自覚してるんだよ。けどそう見えないようにうまくやってるだけだ」
子供の頃に他者と違うっていう自覚を持ってから、自分が世の中にとって異物みたいな存在だと考えてしまってるんだ。外面はともかく深層の部分なんて簡単に変えようがない。
「確かに『その辺の人間』っぽく擬態してるヘビ。小僧は『普通』が良いヘビ?」
「この世の中は普通じゃない人間は生き難くなってるんだ。お前みたいのが見えるってだけでも、おかしい人物扱いされかねない」
「昔と変わり過ぎヘビ。蛇は昔、ブイブイ言わせてたヘビ」
「それが行き過ぎて討伐されたんだろ、お前」
駄蛇が苦虫を嚙み潰したような顔になっている。考えたくなかった事らしい。その駄蛇が何かを思い出したように頭の上に電球が光っているようなイメージが見えた。
「そういえば
「あー……、いいな。暑いし……。俺も食いたくなってきた。どうせならクリームあんみつにするか」
甘味処へ足を進めていると、道端で外国人らしき人物とクラスメイト数名が立ち話をしている。少しばかり耳を傾けると、道を聞いているらしかった。素通りも良くないかなとも思い、そちらへと近づいてみる。
「おーい。皆の衆、どうした?」
「あ!? 坂城君、あのね……、この人が道を教えて欲しいって。日本語なんだけど……、探してるお家が……、うぃざーす? って分かる?」
分かるも何もウィザース家は俺のお家ですよ。誰が訪ねて来たのかとみんなと話していた外国人の方を見ると、あちらも俺を一目し、お互い時が一瞬止まってしまった。
「……レイチェルねーさん?」
「コウ!?」
このレイチェルねーさん、俺やローラと同じであの
「ゴヴ! いっじょに、ルーにあやまっでぇぇぇぇ!?」
「ねーさん! ここ街中! 大声出したら目立つから!!」
抱き着かれた俺を見てクラスメイト達はヒソヒソ話を始めていた。
「坂城君を追いかけて来た人!?」
「もしかして痴情のもつれ!?」
「金髪美女に抱き着かれるだと!? 貴様! アイドル一筋じゃなかったのか!」
「拙者達の誓いは嘘だったでござるか!?
これ……、どうやったら終息するん?
レイチェルねーさん、数年ぶりに顔を合わせたが、十九歳の現在は短いポニーテールの金髪碧眼美女に見事に成長してくれた。ついでに抱き着いているので胸がめっちゃ当たってる。バインバインです。違う方もかなり成長している!!
だがこの状況はマズすぎる。夏休み明けの学校で俺に変な噂が立つの確定じゃないか!
「ねーさん! とりあえず離れて!!」
「いやー!! ルーの所まで一緒に行って!!」
「これから家に帰るから! どっちみち一緒だから! そこにるーばあもいるから!」
そこまで言うと、ねーさんは上目遣いに……なって、本当に? と目で訴えていた。
俺……、いつの間にか、ねーさんより背が高くなってたのか……。
子供の頃はいつも見上げていた人から上目遣いで見られるという状況に新鮮さを感じながら、クリームあんみつ5個購入し帰宅。
クラスメイト達には、ねーさんは親戚です。うちは多国籍なんですと説明したのだが、どこまで火消しになるのか不安を拭い切れなかった。
帰宅後、レイチェルねーさんが日本にいる理由を聞くと――
「このズボラ娘が!!」
お家の中にルーシーの怒号が響き渡る。そのまま、ねーさんへと掴みかかろうとばかりの雰囲気に思わず偽ロリを羽交い絞めにしてしまった。
「るーばあ! 落ち着け! 気持ちは分かるが落ち着いてくれ!」
「離さんかい! 仕事で失敗した挙句、訴訟になって自宅を取られたじゃと!? 何やっとるんじゃ!!」
ねーさんの説明を要約するとこうだ。
アメリカでフリーランスの退魔業というか、滅魔業をしていたのだが、つい先日に依頼を受けた案件で、こちらでいうとこの化生を倒した……が、共同でお仕事をしていた人達にも被害が出たり、昔々にあちらの術者が張っていたかなーり高度な結界まで破壊してしまったとかで、損害賠償請求。
お見事にレイチェルねーさんは大負けでアメリカのお家売却。なけなしのお金で来日、この家に住まわせて貰えないかと懇願しに来たと。
「だってだって! あたしは細かい事は苦手なんだもーん!!」
「ちゃんと術も覚えろとあれだけ口を酸っぱくして言っておったろうが!! 生来の能力に頼り過ぎなんじゃ!!」
「使えることは使えるもん! けど面倒なの!!」
ねーさんの口答えに、顔が真っ赤になって、お怒りマークが浮きでている偽ロリを俺は更に力を入れて止めにかかる。
「功。いい子じゃから離せい。もし離さんと……、二人揃っておしおきコーススペシャルマキシマムで行くぞい!」
「ひっ!?」
るーばあの脅しに一瞬だけ力を緩めてしまいそうになったのだが、間髪入れずにレイチェルねーさんの懇願が耳に入る。
「コウはあたしの味方だよね? 小さい頃は、お姉ちゃんお姉ちゃんって、あたしの後を着いてきた可愛い子だったんだから!」
「うっ!?」
そんな泣きそうな顔でこっち見ないでくれ!
「うわー。全然羨ましくねー両手に花ヘビ。見事な板挟みだヘビ。この……、くりーむあんみつっての、なかなか美味いヘビ」
「コウ……。あんなに困ってる顔は初めて。アイスクリームを日本のお菓子の上に乗せるのって、面白いし美味しい!」
駄蛇とローラは俺等を見物しながら、クリームあんみつに舌鼓を打っている。羨ましい。
「二人とも……、そろそろ……」
「功、お主はワシの味方じゃろ?」
「コウは、あたしを助けてくれるよね?」
ふ……、二人の視線が痛い。どっちに味方しても、後でもう一方に責められる奴だ。
「ね、ねーさんは、少しばかり……、いや、かなりやり過ぎたけど、寝床もないのは可哀そうだし……。ほら! 一応は謝りに来たわけだし……さ?」
俺の一言に、ぱあっと明るい顔になったねーさんであった。しかし自分の意見を蔑ろにされてしまったルーシーは、おっかない眼で俺を睨んでいた。
「よおし。分かったわい。おしおきコースを所望というわけじゃな……」
ルーシーがパチっと指鳴らしをする。その音に一瞬気を取られてしまった隙に俺の羽交い絞めから抜け出していた。
「まったく……。この程度なら抜け出そうと思えばいつでも抜けられるわい。さて……二人とも、覚悟は良いな?」
真剣な表情でそう宣言すると、スマホを取り出し電話をかける。
「あー、神屋か。突然すまんの。ちょっとお主のとこの演習場貸してくれい。……ん? ああ……、なに、
スマホの通話を終え、俺とレイチェルねーさんの方を向いたルーシーは凄まじく良い笑顔でこう言い放った。
「さあ……行くとするかの。功、今更逃げようとか考えても無駄じゃぞ? 黙って付いてくるのじゃ」
るーばあの眼は、逃げたら後でどうなるか分かっとるな? と訴えていた。
もう逆らえないと感じてしまい、言う通りにするしかない俺であった。
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