第11話 思い出話からのこれから
新しい刀の件で打ちひしがれていた俺ではあったが、ローラが頭にはてなマークを浮かべながら俺の隣へと座っていた。
「ねえ? コウ。かいしょうなしって何?」
「……クラスの男の子にそんなの言ったら駄目だからな……。多分傷つくやつ」
何となく悪口なのは理解したらしく、うんうんと頷いていた。そのローラの視線が棚の上へと行く。何かが気になるようだ。
「あの写真……?」
「なんじゃ? これが見たいのかの?」
ルーシーが少しばかりふらついた足で棚の近くまで行き、写真を手に取ると俺達の所まで持ってきた。
「これ、写ってるのはルーシーとイヨナガさんと……」
「こっちは幼い頃の功だの。今のローラよりも年下じゃ。懐かしいの」
その写真には、この場のローラ以外全員の他に四人、計七人の人間が写っている。その中で俺が指差したのが、柔和な表情で微笑んでいる男性。
「この人が俺の
「こっちの人は?」
ローラが質問してきたのは、ツインテールの金髪で人懐っこい笑顔を向けながらピースサインをしている少女についてだ。
「この人はレイチェルねーさん。俺より3つ年上で――」
「こやつもワシの子孫の一人じゃな」
「ってことは……」
「ま、今はアメリカで俺と似たような生活してる。大学生かどうかまでは分かんねー」
昔の写真を見ながらの人物紹介に目を輝かせて興味津々のローラであった。
「コウの子供の頃ってどんなだったの?」
その素朴な質問にニコニコしながら答える偽ロリの姿があった。
「そうじゃなぁ……。弱っちかったぞい」
「当たり前だ! こんな子供が物の怪だの霊だの見えて触れたとこで何ができるってんだ! ぶっちゃけゲームだと補助系キャラだから俺! るーばあとか……、ねーさんと一緒にするな!」
「あー! 昔みたいに『るーばあ』って呼んだの。最近は偽ロリだの若作りロリだの言われて泣きそうだったぞいシクシク」
なーにがシクシクだ。口に出してるだけで全然泣いてないじゃないか。
「大体……、祈祷とかそっち方面は、ほぼ
「それはの……。深い理由があるのじゃ……」
いつになく真剣な表情でその説明をしようとするルーシーに俺も思わず唾を飲みこんでしまう。もしかしたら適性が無いとか、覚えると呪われるとか、そんなことを考えてのものだったのかと頭に浮かんでしまう。
「ワシには
「てめーの趣味かよ!? ってか俺は必須アミノ酸じゃねえ!」
それまで俺とルーシーがギャアギャア騒いでいるのを
「――で? この嬢ちゃんはどんな能力なんだ? わざわざ日本まで連れてくるくらいだ。面倒事ではあるんだろ?」
「功は霊体へ直接的な干渉。この嬢ちゃんは――」
「物質化……じゃよ。霊体のな」
そう、先日犬霊に噛まれた部分が傷になり流血までしていた。あの時はローラが犬霊に触れているような状態だった。ローラ本人も無意識のうちにその力を発動させたらしい。
――物質化。その単語を耳にした途端、
「おいおい……そりゃあ……」
「本来ならば、互いに干渉できぬはずの存在が実体化する。それには深く暗い淀み、負のエネルギーとも表現できるかの。それに時間も必要じゃ」
「けど、ローラの能力はそれを簡単にすっ飛ばせる。それでこうなったしな」
俺は犬霊に噛まれた時の傷を
「今はまだ物質化の持続時間も短いがの。だが、ワシがローラを見つけたときは、受肉目当ての
「肉を持つ人ならざるモノがどういった脅威になるかは、六年前の災禍を知っておるお主達ならば想像しやすいじゃろ。この国のお主らが一番協力を仰ぎやすかったのも事実じゃ」
「成程な……。現室長の神屋にこの事は?」
「真っ先に説明したぞい。じゃから入国から何からスムーズにできたしの」
俺達の話し合いを横で聞いていたローラが不安げな表情を浮かべているので、少しくらいは安心させなきゃいけないと思い、口を開く。
「あー。そのな、あまり気にするな。俺も似たようなもんだったしな。寂しがりの幽霊に崖下に落とされそうになったり、斬首された霊に恨み言を延々と説明されたり……、色々とあったぞ、うん」
「……功、それ慰めになっておらぬからな。こういう時は、俺が絶対にお前を守ってやると言うところじゃよ。もう少し
ジト目で俺を批判するルーシーではあったが、ローラの顔はまだ暗い。そこはちゃんと言ってやるべきだろう。
「ローラ。俺は……、俺だけじゃない。ここにいるルーシーも彌永さんだって、
ローラの手を握りながら、力強く言葉を紡いでいった。その様子を見ていた老人二人は――
「功とレイチェルはその力を脅威とされて奴等から狙われ、嬢ちゃんは利用するために狙われる……か。難儀なこったな」
「すまぬの。迷惑をかける」
「気にすんな……。嬢ちゃんのあんな泣きそうな顔見たら、どうにかしてやりてえじゃねえか」
「やはりお主は男前じゃよ。なーんでその年まで独身しとるのかの」
「余計なお世話だ」
……と、そんな事を言っていたらしい。
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