第12話 その目に映るもの
その日の晩は結局ルーシーと彌永さんに付き合ってしまい、自宅に帰れずに一泊する事となってしまった。
そうして、翌朝にローラが目を覚ますと、台所から包丁のトントンといった音が聞こえて来ている。
「おはようだの。よく眠れたか?」
「ルーシーが料理してる……」
「ワシのエプロン姿が珍しいかの? 男二人……、特に功はバテて
髪を後ろで束ねポニーテールにして、エプロンを纏うルーシーの姿にポカンとするローラであった。
「さて、少し手伝ってくれんかの?」
「えっ? あっ……、何すればいいの?」
そうしてルーシーはローラの目の前に煮干しを置く。
「これの頭とはらわた部分を取り除いてくれい。そうすれば味噌汁の良い出汁が取れるからの」
「ダシ? ブイヨン?」
「まあそうじゃの。今は出汁入り味噌だのフリーズドライもあるが、こうやって取ったのも良いものじゃよ。どんな事をするにせよ、まずは食べねば話にならん。ならば美味しい料理を食べた方が良いじゃろ」
ルーシーに言われた通りの作業をして、そろそろ終わりといったところで、いつも顔を合わせている少年の姿が見えない事に気付くローラだった。
「そういえば……、コウは?」
「んー。庭におると思うから、呼んで来てくれんか。早くしないとせっかく作った
と、その言に従い庭へと向かうと、カンカンと棒がぶつかり合っている様な音が響いていた。
「はっ! ふっ!!」
「甘ぇよ。おめーは何でそう力任せかね」
そこには彌永と木刀をぶつけ合う功の姿があった。
剣に関しては素人のローラではあったが、絶え間なく攻めているはずの功が有利になっていない事だけは明白であった。
功の繰り出す斬撃を受け流し、返す刀で致命打となる場所に木刀で寸止めする彌永だった。
五分後、功は疲れ果ててその場に倒れこんでいた。
「引退して……、その前だってデスクワーク中心だったはずなのに……、何で
「
「ぐっ……」
「ま、体力も力も速さも、多分お前の方が上だろうが単調すぎるんだよ。だから簡単に受け流される。んでもって、余計に体力を使ってそうなる。もう少し落ち着いて相手に合わせる事を覚えな。とりあえずここまでにするか。嬢ちゃんも来たしな」
ふらつきながら居間へと行き、ルーシーが用意したという朝ご飯を食べる。ご飯に味噌汁、焼き鮭、海苔といった定番だ。
「……うめえ」
「思った通りバテバテじゃな。おかわりもあるからたんとお食べ」
「パクパクモグモグごっくん!! おかわり!!」
疲れ果てていたためか、食べて体力回復しなければという欲求に従い、ご飯のおかわりを頼む。
「はい。どうぞ」
ローラがおかわりをくれてまた口に朝食を掻っ込む。
「若いってのは羨ましいな……。あれだけ動いても食えば回復できんだからよ」
「そうそう彌永、出し殻の煮干しと油揚げで簡単なおかずも作っておいたからの。昼飯か晩飯にでもするといい」
「すまねえな、ルーシーちゃん」
何だかんだで世話焼きなルーシーなのだ。でなければ俺含めた異能ともいえる力を持った子孫を見つけて面倒見るとかできないだろう。
朝食後の片づけをしてから、自宅へ帰ろうとした時に、彌永さんに呼び止められてしまう。
「功、あの嬢ちゃんのこと、ちゃんと面倒見てやりな。今はまだ良いが、本格的に『視える』ようになったら大変だぜ」
「……? はあ……、元からそのつもりですが……」
ポンっと肩を叩かれた後で彌永さんの家を後にした。
自宅に戻り、ソファに腰かけていると不意にルーシーがカレンダーを見ながら俺達に話しかけてくる。
「そういえば、すぐに夏休みだの。何処かに遊びにでも行くか?」
「……仕事が入りませんように」
「なんじゃ? 対策室は夏休みに働かせるんかの?」
「むしろ夏休みだから仕事振られる場合が……な」
そう、長期休暇に入ると待ってましたと言わんばかりに、対策室であちこちに行かされる場合が多々あるのだ。何だかんだで人手不足らしい。
「中学以降は夏休みの宿題は一日で終わらせるのが当り前だぞ、俺は」
「コウ……すごい……」
「ローラ……、せめてお前は夏休みを楽しんでくれ……」
少しばかり暗い気持ちになってしまったが、夏休みまであと数日、いつも通りに過ごそうと考えていた。
——数日後、学校の終業式を終えて帰宅したローラの様子がおかしい。あちこちを見回して、顔が青くなったりしてる。
「……どうした? って……もしかして……、『視える』?」
「う……うん。学校から帰る時に色んなのがはっきり見えるようになって……、これ何!? 何でコウはあんなに普通にしていられるの!?」
泣きそうな顔で小刻みに震えているローラだった。
「とりあえず、この家にはそんなのいないだろ? 結界張ってるしな。余程強力なヤツじゃないと入いれないから、外出た時にキツくなったらここに戻って来い。いいな?」
こくりと頷いていたローラだったが、俺の服の袖を握って放そうとしない。
「……どうする? 今日はもう家から出ないようにするか?」
「うん……、でも窓の外とか玄関前とかでも視えるから……、怖い……」
これは重症だな……。とりあえず今日一日は付きっきりの方が良さそうだ。
「まあ、今日は外出する用事も無いし、部屋で宿題でもやってるか」
「一緒にいてくれるよね? ね!」
「大丈夫だって。
そうしてローラは俺から離れることなく、その日を過ごしていた。
その後……、夜も更けて自室で眠っていたのだが、目を瞑ったままでも何故かベッドが狭く感じる。これは夢か……、夢の割に何かが当たっている気がする。そしてなんか良い匂いがする。この当たっている物体は何かと少しばかり撫でていると……。
「……んっ!? ひゃん!?」
聞き覚えのある声が聞こえていた。
……声? しかもこれって……。
すぐに飛び起き布団を引っぺがすと、そこにはパジャマ姿のローラが丸まってベッドの中にいましたよ。
「ローラ! 何でいるんだ!? おい!」
「ふぇ? コウ……。まだ夜だから一緒にいて……」
「いや待て! ちょっと待て! マズいシチュだからなこれ!!」
……そんな感じで騒いでいると、バンッと勢いよくルーシーが部屋の扉を開けて文句を言ってきた。
「もう深夜じゃぞ! 静かに――」
俺の部屋のベッドでスヤスヤ寝ているローラを一目すると、愕然とした表情となっていた。
「……すまぬ、功よ。通報させてもらうからの。せめてあと六年後ならば、この場を目撃してしまっても謝罪して見なかった振りをするのじゃが……」
「ほんと待って! せめて説明をだな!?」
「ワシは、お主が綺麗な体になって戻って来るまで、信じて待っておるからの!」
「逮捕される前提かよ!? 弁護は!?」
スマホ片手に電話を掛けようとするルーシーだったが、俺達が騒いでいた事でローラも完全に目を覚ましてしまったらしい。
そのローラがルーシーを見た途端、顔を真っ青にし……。
「嫌あああああ!? 来ないでええええええ!!!」
そう叫んでルーシーを拒絶していた。
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