第50話 相手の正体は?
本日の演劇稽古も終わり帰宅したのだが、まずはローラへと問いたださなけばならないことができていた。
「ローラ、さっき校舎裏に迎えに来た子は?」
「え!? うん。クラスメイトだよ。コウ達が初めて来たときはお休みしてたけど……」
「あの子だ。怪異に関係してるのは」
先日の撤退の際、奴の追跡を遮るために張った結界の前にローラが作った魔力糸を蜘蛛の糸のように張り廻せていたのだ。
俺の術で感知し
「――それで、こないだ見たのが本体の所に戻って……?」
「その糸があの子に付いてた。怪異の本体らしきモノは視えなかったけどな」
「そうなんだ……。わたしはあの子を観察してればいいの?」
「ああ……。頼む」
そこまで言うとローラは自分の部屋へと戻って行った。その後で俺の様子がおかしいと察したのか、るーばあが近づいてきていた。
「お主、隠そうとしてはおるが……どうした?」
「うっ……。じ、実は……」
ルーシーへと今日の羽織が破かれた
「お主なあ……。羽織を貰った時にローラが相当喜んでおったじゃろ? 破けてしもうたのは不可抗力としても、そこはちゃんと注意でもしておれば良かったものを……」
「いやー……。あの羽織、傷がつくとか当たり前すぎて気にもならなくて……」
「まあ良い。あれは後でワシが補修しておく。ローラの近くに怪異の本体がおるのであれば、お主がしっかりせい」
るーばあにも苦言を呈されてしまい少しばかり落ち込んでしまったが、そんな気持ちでいてはいけない。そう言い聞かせて自分の部屋へと戻った。
次の日となり、小学校のローラのクラスへと足を踏み入れると、本日は体育館の舞台上での稽古になるといったことを聞かされ、そちらへと行くことになった。
「今日は男子達……大人しいな?」
「そりゃなあ。あの羽織、元はお前のだって? ウィザースさん、満面の笑顔で持ってきてくれたのが、あんなのになったらなあ……」
「そこは先生がフォローしてくださいよ」
「反省はしてるからな。ぼくが注意するまでもないさ」
担任の先生も昨日の件は気になっていたらしく、俺の近くで今日のクラスの様子やらを打ち明けてくれていた。
「おーい! 男子ども。落ち込んでないで演技の練習してくぞ!」
忍の号令で配役に合わせて指導をしていくが、一つだけ困っていたことがあった。
「主役は刀を使うんだろ? 誰が良いんだろうな?」
「お前がやったのを見せたら尻込みしちまったぞ」
忍が俺の剣の演技指導について困ったような表情を見せていた。俺が小学生の時にやってたのをマイルドにしたつもりだったのだが、それでも無理難題だと思われてしまったらしい。
「あの……」
考え事をしていたとはいえ、後ろから声を掛けられてしまい咄嗟に後ろを振り向きながら居合と同じ構えで手刀を繰り出してしまう。後ろにいた子の顔面一寸前で止めたが、驚いたのはそれではなかった。
「お兄さんの真似して居合? をしてみたんですけど……」
それは昨日、校舎裏にローラを迎えに来た子であった。怪異と関係しているのもそうだが、舞台用で作ってきていた鞘付きの竹光を想定していたよりも、速く抜き放っていたのだ。
「……居合とかやるような道場にでも通ってるのかな?」
「えっ!? こういったのを持つのは初めてですけど……」
なんてこった。これ逸材かもしれない。
「君に主役をやって欲しい」
「何で!?」
彼の両肩にポンと手を置き、彼を主役へと抜擢する。何か怪異からのコンタクトでもあるのかと勘ぐってしまったが、今のところそれらしきものは感じられない。
「大丈夫。舞台用の偽物でも、初めてであんなにうまく刀を使えるのならイケる! 頑張ろうな! まずは俺の動きを真似してみようか!」
「ふ……ふぇええ!?」
情けない声を上げてしまった主役(仮)ではあるが、とりあえず舞台上まで引っ張っていき俺とひたすらチャンバラでやり合っていた。
ちなみに他の男子は羨ましいような、どこか安堵していたようなそんな雰囲気になっていたらしい。
稽古後、またしても学校に身を隠して夜になるのを待ち、幻の四階へと訪れる。俺以外の三人も二回目の訪問という事で、前回よりはスムーズに四階へと足を踏み入れていた。
「やっほー。そっちの様子はどうだい?」
「こんな頻繁に功が来ると四年前に戻ったみたいだワ」
花ちゃんがニコニコしながら俺達の方へと足を運んでいた。そして今回も人体模型のもっさんが声帯ユニットを使って花ちゃん達の言葉を忍達へと伝えている。
「昨日と今日は奴の姿が見えないぞ。なーんか想定外でもあったのかもな」
「てっさん、こないだ俺達も戦ったよ。本体じゃないのまでは分かったけどな。どうやらヤツと関係していそうな子がローラのクラスにいてさ。
その質問に七不思議達は首を傾げてしまっていたが、今日の彼の様子を聞いて思い当たる節があったのか落ち武者のおっちーさんが口を開いてくれた。
「その子……、刀の様な武具を使うのは初めてと言っていたそうだな? それで功を驚かせるほどの剣筋を見せる……か」
「おっちーさん? 才能があるってだけかもだし……」
「または……、その子に
「むー……。守護霊とかいるなら俺は視えますって。けど、そんなのは全然いませんでした」
おっちーさんの推測に思わず反論してしまうが、そこに美里さんが口を挟んできた。
「あの子がこないだの怪異に関係しているとして……、その糸? が絡みついていたってことは、あの子に憑りついているとか……」
「憑りつかれているのなら、怪異が隠していたって不自然な部分は出るはず……」
人間組も頭を捻ってうんうんと唸ってしまっていた。そこにローラから意見が飛び出ていた。
「あのね? 幽霊とかって人にしか憑りつけないの? 身に付けている物に入ったり……とか」
「無いわけじゃ……。駄蛇なんてそのものだろ。アレの場合は自己主張が強すぎて霊体がはみ出ちまってるが」
「じゃあ、そこまで自己主張しないと隠れることもできる?」
ローラの言う通り、身に付けている物に取り付いたりなら可能だろうが、そこまでうまく気配ごと消せるものなのだろうか?
そこまで話すと、おっちーさんが重い雰囲気で推測を語りだしていた。
「よいか? あくまで推測だがアレは我が生きていた時代と近いモノかもしれん」
「根拠は?」
おっちーさんの推測へと俺達全員が耳を傾け集中してしまう。
「我がヤツと戦った際、分身体とはいえ見覚えのある動きをしていた。それも我々の様な武士ではなく
「らっぱ?」
ローラが首を傾げながら頭の上にはてなマークが浮かび上がる。その疑問に答えるとしよう。
「分かりやすく言うと、忍者だ」
「に……にんじゃ!?」
『忍者』――その単語を耳にした途端、目を輝かせて俺へと詰め寄るローラさんであった。
「ほんとに日本にはニンジャがいたの!?」
外国人に大人気な日本ワード。サムライ、ニンジャ。ローラさんもその例に漏れず詳細を聞きたいらしい。
「昔は忍者いた。しかし……忍者か……」
「忍者だとマズいのか?」
忍者と同じ字を持つ忍が、今度は俺へと質問をする。俺が困ってしまっていたのが意外らしい。
「忍者っていうか、
「ごめん。もう少し分かりやすく」
美里さんも忍も俺の説明ではよく分からなかったらしい。なので
「簡単に言うと、あの子に関係している怪異は俺らみたいに術にも通じている忍者の霊かもしれないってこと」
そう考えると俺が気配を全く感じなかったり、先日戦闘となった分身体も自らの術で作り出しているといった推測も成り立ってしまう。
「つまり今回の敵は術者と戦うって事か?」
俺がこくりと首を縦に振ると、その場にいる全員の顔に緊張が走ってしまっていた。
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