第49話 小学校での一幕

 小学校初日の夜は接敵したものの、奴を祓うまでま至らず……というより正体を暴く必要があったため、撤退という形となってしまった。

 今日の所は解散となり、自宅へと戻ったのだが……。


「何じゃ? 歩き方がおかしいぞい? 怪我をしたのか?」


「あー……。これはローラが……」


 俺の足へのダメージを察したらしい偽ロリが少しばかり驚いた表情をしながら出迎えてくれた。


「ローラよ、そのむくれっ面はどうした? 喧嘩かの?」


「だって……、コウがわたしを軽く抱っこしていたのに、重いみたいなこと言うから……」


 学校でのあらましを居間にて偽ロリに語ると、大爆笑してしまった。


「こーうー。おーぬーしー! もう少し格好よく決めればよいだけじゃろ! ぶあはははははは!!」


「別に俺は重いなんて一言も言ってない! 大体そんなに負担がかかってたら、忍達と走っていて置いてきぼりにされるっての! ねーさんならともかくローラ位なんて、なんでも――」


 そう言いかけた瞬間、背筋にゾッと悪寒が走った。


「……あたしが何なのかな? 最後まで言ってみて?」


 いつの間にか居間へといたレイチェルねーさんは、目が笑っていないニコニコ顔で俺を見ている。

 今日の俺は失言多すぎらしい。一人暮らしが長かったせいか、その辺の配慮について欠けてしまっていたようだ。今度からは気をつけよう。








 

 居間にて、全員揃ったところで本日の調査について情報共有を行っていた。


「――そっか。意外と時間が掛かりそうだね。美弥には、あたしから報告しとく」


「すまない。ねーさん頼む」


 対策室にはメールでも送ろうかと思っていたが、ねーさんからの報告でも問題はないだろう。


「して? その怪異の本体を見つける算段は付いておるのか?」


「細工は流々仕上げを御覧ごろうじろってね。分身体だからか、単純な思考の奴で助かった」


「そこまで言うなら心配せずともよさそうじゃな」


 お茶を一口飲み、澄ました顔をしている偽ロリではあったが、次はローラ何かを思い出したようで少しばかり困った顔をしている。


「あ、あのね。そういえば……、舞台の衣装なんだけど……。何か良いのないかな?」


 ローラが言うには刀を扱っている人間が着ているような衣装が欲しいとのことだ。無かったら先生が用意するので、もしあったら程度の話らしい。


「それならば……、功が子供の頃に着ていた羽織があるはずじゃな。確かこないだタンスにあると言うとったぞ」


「ん? ちょっと待ってろ。出してくる」


 自分の部屋へと行き、タンス中からその羽織を出して居間まで持っていく。


「あっ! これ、前のフル装備で着ていたのと同じ……? でも大きさが違うし……」


「……フル装備って何?」


 首を傾げながらレイチェルねーさんが疑問を口にする。


「功のヤツな……。ぷぷっ……」


「言わんでいい!」


 またしても大爆笑しそうになりながら説明しようとしている偽ロリを制止すると、ローラが羽織を手に取って、手触りを確認したり広げて全体を興味津々といった瞳で観察している。


「せっかくじゃから、袖を通してみたらええ」


 のじゃロリにそう促され、羽織をまとったローラであった。


「ほう。少し小さいかもと思ったが、丁度いいサイズじゃな。まあ、これを作った時には大きめにしておったが」


 そのままトテトテと洗面台の鏡の前まで行って、羽織を着た自分を正面から、または背中を鏡に向けて顔を鏡の方を向たりなど、色々な角度から自分を見ていた。

 そのローラが居間へと戻ってくると、目を輝かせて口を開く。


「ねえねえ! この右腕の模様って何!」


「んー。これはの。功の花なんじゃよ。ワシが縫ったんじゃ。かっこええじゃろ?」


 のじゃロリが懐かしむように、その花の部分を触れながら解説をしていた。長い楕円形の複数の葉と、その葉の中央には白い花弁の小さな花が数輪ほど刺繍されている。


「そんなに気にいったんなら、その羽織やるよ。どのみち俺だとサイズが小さくて、もう着れねーしな」


「ほんとに!? いいの?」


 俺がこくりと頷くと、満面の笑顔で踊るようにくるりんぱして大喜びのローラさんであった。


 俺のお下がりでここまで喜んでくれるのは良い。……なんだろう? 何故ねーさんが俺を責めるような視線を見せているのか。


「……いいな。わたしも何か欲しい! ちょうだい!」


「えっ!? じゃあ……この駄蛇が口で筆を咥えて書いた『蛇』の字の習字を……」


「いらない!」


 秒でお断りされてしまった。どうすれば良かったのだろう?


「蛇の達筆に何か文句があるヘビか金髪レイチェル!」


「そうじゃないの!」


 ねーさんは、そっぽを向いてそのまま自分の部屋に引っ込んでしまった。


「……明日の朝には普通にしとるだろうが……、朝食はレイチェルが好きな物でも作ってやれい」


「は……はあい?」


「まあ、なんじゃ? 姉扱いも悪いわけじゃないがの。もう少し気遣いできるようになった方がええぞ?」


 ちょっとだけ引き気味のるーばあに注意されてしまう。とりあえず明日の朝食は言う通りにしておこう。





 次の日、放課後にローラのクラスへ行くと昨日、彼女へと渡した羽織がクラスの男子で取り合いになってしまっていた。


「それ俺も着てみたい!」


「こっちにも寄越せよ!」


 ……それ、ローラのなんだが。


 男の子なのであんなの着てみたくなるのも分からなくはないが、引っ張り過ぎではと心配になってしまう。それはローラも同じだったようで、男子達に止めるように

注意をしている。


「ちょっと! 駄目だよ。それは――」


 ビリッ!!


 男子達が引っ張り合っていた羽織は、左袖の肘の上あたりで嫌な音を立てて破けてしまう。それを目撃したローラは力なくへたり込んでしまった。


「あ……ああ……」


「その……ご、ごめん」


「悪かったって……」


 一瞬にして静まり返ってしまったクラス内であった。


「あー。まあ俺のお古だし、色々あって元々痛んでいた部分もあるしな。あんま気にすんな」


 座り込んでしまったローラの肩に手をポンと置きながらそう言って慰めていたのだが、破れてしまった羽織を男子から奪い取り教室から出て行ってしまったのだ。


「お、おい!? ちょま!?」


「コウなんて知らない!」


 俺、なんかやっちまった!?


 そんな思考をしてしまい、美里さんの方を向いてしまう。


「とりあえず追いかけて、落ち着くまで近くにいてあげて!」


 その指示に従う形でローラを追いかける。幸い小学生と高校生の身体能力の差で、すぐに追いつくことができた。


「ちょっと待てって! いきなりどうしたんだよ!」


 校舎裏にてローラを捕まえて、この子の言い分に耳を傾けてみる。


「ルーシーから貰った大事な物なのに何でそんなに気にしないでいられるの!? わたしだって昨日貰った時は凄く嬉しかったのに!」


「大事っちゃ大事だけどな……。このくらいなら自分で補修すれば――」


「そうじゃなくて! 大事な物を壊されて何とも思わないの?」


 お、俺が怒られてるみたいになってるよ。どうしよう!? どうすればいいんだよ、るーばあ!? いや、るーばあじゃねえよ! この場にいない人間に何期待してんだ俺は!?


「あ…いや。ごめん……。ほら、昔はこれ着て連中かいいと戦ってたから……、破れたり切れたりとかは日常茶飯事で……気にしてなかった……」


 実際、気にしていなかったのだがローラにとっては重要なことであったのだろう。責めるような怒っているようなそんな瞳で俺を見続けていた。


「分かった。……もう教室に戻ろうよ」


 ど、どうにかなったのか!? よし! 帰ってからウチの女性二人に相談してみよう。そうしよう。


 俺とローラが教室に戻ろうと一歩踏み出したその時、一人の少年が俺達を探していたらしく校舎裏まで来てくれていた。


「あっ……。みんな困ってるからそろそろ戻った方が……」


 その少年と一緒に教室へと戻ろうとした時、彼の肩から伸びている普通の人間には見えない糸が絡みついていた。

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