第29話 お姉さんへの試練
なんやかんやあり、この家に住むことになったレイチェルねーさんであった。しかし、居住するに当たって偽ロリから条件が出されていた。
①アメリカの家を勝手に売却してしまったので、少しずつでも良いからルーシーへお金を返すこと。
②鍛錬についてもきちんとやること。
③年齢的に大人なので家事は分担して行うこと。
などなど、それを飲んで坂城兼ウィザース家に住むことになったのだが――
「なあ……、るーばあ……、これどう思う? この姿に色気感じない俺がおかしい?」
「立てば
これは美しい女性の容姿や立ち振る舞いを表現する言葉として有名なものだ。
「るーばあ、イングランド出身なのに、よくそんな難しい言い回し知ってるな」
「こう見えてもワシ、日本
俺と偽ロリの二人が呆れながら見ていたのは、レイチェルねーさんである。
彼女は居間のソファーで寝息を立てている。ソファーの近くのテーブルには、ジュースとお菓子が転がっており、おそらくは深夜までテレビで動画配信を視聴していたと思われる。
――下着姿で。もう一度言う。下着姿で……だ。
「うにゃあ……。シャチはどこでも現れる。コーン畑でも国際宇宙ステーションでも……だ!」
どんな夢見て寝言を言ってんだ、このねーさんは。
流石に朝食の準備があるし、起こすべきかと悩んでいると……、あちらが先に目を覚ました。そして自分の姿を確認した後で俺へと向かって笑顔でからかってきていた。
「ダメだぞ。お姉ちゃんが、こんなあられもない姿だからって
「……馬鹿言ってないでさっさと服着ろ。もうすぐ朝飯」
「スルー!?」
それに引き続き、偽ロリからも可哀そうな者を見る目で
「のう……、もし本気でこやつを落とす気があるのなら、慎みは持った方が良いぞ。居間でそれでは、ただの痴女じゃ」
「ルーも!?」
大雑把は人なのは分かってはいたが、年頃の男子がいる状況でもこれなのだ。偽ロリ的にもNGらしい。
「……レイチェル、……だらしないのはダメ! はしたないよ!」
二階からパジャマ姿で降りて来た小学生のローラにすら、注意を受けていた。
「ローラまでー!? あたしが何したっての!?」
「生活態度が悪すぎる!」
「生活態度が悪すぎるの!」
「生活態度が悪すぎるのじゃ!」
このレイチェルねーさんの姿を見て、ルーシーがローラを日本へと連れて来たのは
トーストとサラダとヨーグルトといった軽い朝食を取りながら、これからの事を話し合っていた。
「功はまだ学生じゃから、この生活でも良いが……。レイチェル、お主はこれからどうするつもりじゃ?」
つまるところ、ニート生活お断り。ついでに自分への借金も返せ。偽ロリはそう言いたいのだろう。
「んー……。対策室でお世話になる! 人手不足でしょ?」
「ねーさん……、お祓い系は……」
「苦手! 霊って叩けば消えるから!」
俺とルーシーは目を見合わせ、はあ……とため息をついてしまった。
「お主を一人で生活させていたのは間違いじゃったろうか……。功と共に神屋に預けておけば……」
「前と違って戦闘とかそんな無いからなあ……。この前の狼。
ちなみに
ルーシーは俺の方を向き、こう提案してきた。
「対策室の世話になるのもええが……、もう一度基礎を叩き直さねば、アメリカの二の舞になりかねん。功、頼めるか?」
「仕方ないか……。色々とぶっ壊されると俺が困るから……。……えっ!? 俺? のじゃロリが一からやるんじゃなくて?」
「お主、得意じゃろ? 一緒にローラにも教えればええ」
朝食後の居間にて、俺による術の基礎についての講義が開催されることとなった。目の前には少しばかり緊張している表情のローラと、にっこにっこな顔をしたねーさんがいる。
「これから
「はい!」
「はーい」
二人の返事を聞き、静かに口を開く。
「実は魔力とか気とかオーラとか呼ばれている物はそこら中に散らばってます。ややこしいので、今回は魔力の呼び名で統一します」
「知ってるー! 妖怪とか霊とかを構成してるのもそれだよー!」
元気よく、そりゃもう当たり前と言わんばかりに、ねーさんが解答をする。
「で、そのそこら中にある魔力を集めなければ術というのは使えません」
「あたしはその辺の敵ぶっ叩けば、霧散して魔力にできまーす!」
――すっぱーん!
レイチェルねーさんの頭部からハリセンのいい音が響き渡る。いつの間にか背後にいた偽ロリが一撃を食らわせていたのだ。
「こんの馬鹿娘が! それで大失敗しとるじゃろ!」
「ルー! 痛いって!?」
「杖ではないだけ、ありがたいと思うのじゃな!」
ねーさん、アメリカで痛い目にあってコレである。ねーさんが来た時、るーばあの味方しても良かったかもしれない。
「コウがのりと? を唱えながらやってるのがそれ? 刀を打った時とかの」
「そうだな。俺だと使うのは神道系になるから、魔力の呼び名も『神気』になるけど」
ローラさん、今までの出来事を振り返り、俺が教えていることと頭の中で照らし合わせている。
すると横の駄蛇からも文句がでた。
「それをガンガン打ち込まれたヘビ! それであんなに黒い蛇が綺麗な蛇になったヘビ!」
「漂白されて、ありがたいと思え。駄蛇」
「蛇は黒い方が良かった……、白くても良いかもしれんヘビ。酒飲めるし、現代にはおもしれー物が沢山あるヘビ」
良いのかよ!? と思わずツッコみたくなったが、そこは堪えて講義を続ける。
「そして、この魔力を集める行為……。『魔力
うんうんとレイチェルねーさんの後ろで頷く偽ロリであった。俺の講義はとりあえず及第点らしい。
「……? 基本ならみんなできるの? レイチェルも?」
「うん! できるよー! やらないけど! あっ!? やばっ!? ……が、頑張るよ……。うん」
最初は元気よかったねーさんが、後ろでハリセンを掌にパンパンと叩きつけるルーシーに威圧されてしまっている。
そして、ハリセン装備のロリ婆から補足説明が入る。
「
それに引き続き、俺も説明をする。
「熟練者になるほど、『広範囲』から、『多くの魔力』を『即座』に集めるようになれる。つまり――」
「初心者だと使える魔力が少ない?」
「その通り。または大量の魔力を扱うためには時間を要する……だな」
ローラが一通り理解したところで、今度は実技に入るのだが……。
「さてどうするか……。初心者には、まず指先に集める練習をさせるのがセオリーだけど……」
「お主が毎日やっておるのをやらせればええよ」
「いや、それやりすぎ!」
偽ロリもなかなか無茶を言うと思ってしまったが、その厳しい眼は今回の騒動の発端になっているレイチェルねーさんへと向けられている。
「レイチェル、ローラ。二人で協力して構わん。夏休みが終わるまでの間、この家の結界を維持してみい」
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