第59話 昔語り
ローラが偶然目撃してしまった功の体にある傷。大きく鋭い何かで切られたような、または
「あれを見た……かの?」
あまりにも厳しい顔になってしまっていたルーシーを見てしまい、聞いてはいけない事だったのかと考えてしまっていたローラだった。
「お主が日本へ来てすぐ
懐かしむような、それでいて悲し気な表情を浮かべるルーシーに対して無言のまま頷くしかできないローラであった。
「あの当時。六年前……、受肉した強力な魔が出現した。人間が携帯できる通常の重火器では歯が立たず、まともにやり合えるは術者だけじゃった……。戦車や戦闘機なんぞも使うわけにもいかんかったしの」
「それが……あの写真?」
「うむ。まだ半人前であったレイチェルや功ですら駆り出さねばならぬほどであったのじゃよ」
ルーシーはお
「紙一重……。本当に紙一重じゃった。もしも……、功があの傷を負っておらねば……、ワシらが全滅しておった可能性すらあった」
「えっ!?」
「封印を構築していた神屋が術式を完成させる手前で、奴等が襲いかかって来ての。無防備であった神屋を庇って功があの傷を負った。結果、封印は成功したが、功は生死の境を
ルーシーの雰囲気からただ事ではないと察してはいたものの、ローラにとって来日する前の自分では考えられない事実として受け止めるしかなかった。
「そういえば……、その時に見舞いに来ていた
「功って……、そんな感じには全然見えなかった。強いし、面白い人だから……」
「まあ、暗いよりは全然良いがの。あの時は神屋もじゃが大人達全員が悔やんでおったよ。本来は自分達が守らねばならん一番若い功が、ああなってしもうたからの」
来日以来、不思議だが楽しい人達だと思っていた対策室の面々が、そうなっていたことが信じられないといった表情となってしまったローラであった。
「ローラの篭手や先日装備しておった功の防具も、もう二度とそんな事態にならないようにと真司が知恵を絞って作成しとるはずじゃよ」
「そうなんだ……」
「九死に一生を得た功も、あの傷に関しては自分が弱かったせいなどと考えてしもうたのじゃろうなあ……。回復した後から今まで相当な鍛錬を積んでおったはずじゃ。あれで芯の部分は真面目君だからの」
「そういえば……レイチェルが家の結界を維持していた時でもちゃんと鍛錬してた……」
ローラがそういった事を思い出して口に出すと、少しばかり口元が緩んでいた目の前の魔女の姿があった。
「それと、こないだ教えた……、お主と功の縁談についてもじゃが……」
「あうっ!? あの後、わたしも聞いたけどそんなの知らなかった!」
「すまぬ。お主に才能がなかった場合の緊急措置じゃった。仮にお主が普通の生活を送っている間でも、功の奴ならば自分の人生を
その言葉を聞いて、それ以上ルーシーを責めることができなくなってしまっていた。
「あの傷に関してはもう終わった話じゃ。参考程度に覚えておけば、それでええ」
「はーい……」
昔話も一区切り、とばかりに最後の酒をお
「それでの? まあ……ローラも年頃じゃし? 異性の体に興味を持つのは仕方ないがの。お主を両親の元へ返す際、『ふしだらな娘になって帰ってきた』と言われると、ワシも立つ瀬がないのじゃよ」
「違うから! それ言ったらルーシーだって鉢合わせてたかもしれないでしょ!」
「別にワシ、構わんしの。功なら、『十年前から全く変わり映えしない偽ロリの全裸にどう反応しろと?』くらいは言うじゃろ」
その光景を想像してしまい、微妙な表情を浮かべてしまったローラであった。彼なら絶対にそう言って無反応なのが想像できてしまったらしい。
「さて……、酒も無くなってしもうたから、そろそろ上がろうかの。ローラも長湯するとのぼせるぞい」
「うん。わたしも出る」
そうして彼女達は自分達の部屋へと戻って、夢の中へと旅立っていった。
次の日、朝早く目覚めた俺は神屋家敷地内にある鍛錬場で木刀を振るっていた。
鍛錬後に朝風呂もありかもしれない。
そんな事を考えながら、相手を仮想しながら木刀で戦う動きをする。数十分後、俺を呼ぶ声が耳に入ってきていた。
「兄様。おはようございます。朝ご飯の用意ができました」
「おはよう。
そう言うと彼女はにっこりと笑って居間の方へと向かって行った。
女性達が寝泊まりしている客間の前へと到着しノックする。数分後、着替えて部屋から出て来た三人であった。その中にあって、ローラのみ俺を見た途端、少しばかり顔を赤くしていた。
俺も思わず顔を背けてしまう。
「ん? どしたの二人共?」
ねーさんが俺達の態度を不審に思ったらしい。すかさず偽ロリが解説していた。
「昨日、ローラが功の風呂を覗いて――」
「違うって! 覗いてないから!」
「確かにの。正面から堂々と入っておったな」
そのシーンを想像したレイチェルねーさんは、数秒程考える素振りを見せていた。
「ローラ間違って入っちゃった?」
「そう! そうだからね!」
ねーさん、これできちんと状況を想像してくれていたらしく、昨日のは不幸な事故と判断したらしい。
「次はあたしがやってみよ――」
「やるな! そんなのやったら人格疑うぞ?」
「大丈夫。責任は取るから!」
「何の責任だよ!?」
「ちゃんとあたしが間違ったって弁護したげるから」
お願いですから絶対に止めてください。
心の中でそう祈りながら、三人と共に居間へと向かうとご飯に味噌汁、大根おろしが添えられた焼き鮭、きゅうりの漬物といったオーソドックスな朝の定番が並んでいる。
「今日の朝食は
「うまい……。それに手間がかかってる……」
鮭もただ焼くだけではなく、おそらくは前もって酒粕に漬けていたものだし、漬物もスーパーで買ってきたのではなく、自家製のはず。
「ほう……。酒粕の風味がええな~」
「ほんっと美味しい。びっくり!」
などなど、俺以外からも好評だった。
「ありがとうございます。そう言って頂けると頑張った甲斐がありました」
ペコリと一礼し、
朝食後に洗い物をしてから、この後の予定について奥様から説明があった。
「挨拶周り……ですか?」
「はい。今年はお義父様や主人がおりませんので、この近くの商店街へ説明も兼ねて行っていただきたいのです。事前に私からも伝えてはおりますが……」
俺自身は
「承知しました」
「案内で
奥様もどことなく俺を子供扱いしてる気がする。子供の頃のイメージが先行しているのかもしれない。
二時間後、商店街の店舗が開店するタイミングを見計らって俺と
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