小学校の怪異編
第44話 小学校への潜入は?
夏休みの間、ローラが霊視を覚えようとしてひと悶着あったり、駄蛇刀が誕生したり、レイチェルねーさんが来日したりと色々とあったのだが、無事に新学期を迎えることができた……のだが。
「功! あの金髪美女は誰だ!」
「アメリカのお姉さんって何? 親戚?」
「紹介しろ! なあ! いいだろ!?」
始業式を終え教室に入った途端、予想通りこうなってしまった。
「あの人は
「ローラちゃんはフランス……。そのお姉さんはアメリカ……。ひいおばあさんはイギリスだっけ? 多国籍で凄いね」
「うん。あの婆さんの血筋はバイタリティに溢れてる。本人含め」
「坂城君、それ自分も入ってる事になるからね」
二学期に突入して久しぶりに顔を合わせた藤田さんが、切れ味鋭いツッコみを入れてくれた。
藤田さんの妹さんである千佳ちゃんはローラとも仲が良い。なので最近は俺にもよく話しかけてくるのだ。
「小学校はいいなあ~。始業式が終わってすぐに下校だから。わたし達は授業だけど」
そういやローラがそんな事を言ってた気がする。
「俺達は勉学に励もう。それが課せられた義務なんだ……」
「と言っても今日は確認テストだろ。ああダリぃ……」
クラスメイト達は大きくため息をついて、全員が席についた。
確認テストが終了して放課後、とりあえず帰宅のために友人数人と校門をくぐろうとしたその時、見知った金髪の女性が姿を現した。
「やっほー! コウ、今から帰り?」
私服ではなくビシッとスーツを着込んで俺へと手を振るレイチェルねーさんであったが、俺ではなく周りの男子がそちらへ急接近していた。
「お姉さん! 俺は坂城の親友……、いや心友です! どうぞよろしく!」
「お姉さん……、今度二人っきりで英語の授業をしてくれませんか! お姉さんに教えられたら絶対に覚えますよ!」
などなど調子の良いことを言い出した友人達であったが、当のねーさんはにこにこして愛想よくしている。
「うんうん。楽しい学校で良いね。けど、ごめんね。今日はこの子を借りてくから」
そう言いながら俺の手を握り、校門前に駐車していた車へと引きずり込んだのであった。
「くっ!? 功! 後で覚えてろー!」
「おねえさーん! また今度会いましょうー!」
友人の下心満載な慟哭が校門前に響く中、車の後部座席に乗り込んだ。運転はねーさん担当だが……。
「ねええええさああああんんんん!? 安全運転!?」
「大丈夫だよ! この程度のドリフトなんて軽い軽い!」
「公道でドリフトすんな! あんぜんうんてーーーーん!?」
ねーさんの危険極まりない運転で、何故か警察のご厄介にもならず、幸運なことに事故らず無事に対策室へと到着した。
「……もう絶対……、ねーさんの運転する車には乗らない……」
「ごめんごめん。でもほら面白かったでしょ? ジェットコースターみたいで」
「町中で絶叫マシーンなんて求めてない!」
ガクガクブルブル震える自らの足に活を入れて降車する。
「それで? わざわざ迎えに来てどうしたんだ?」
「せんせ……、じゃなくて室長が急ぎで連れて来てくれって」
……緊急の案件が発生したのか!?
足早に執務室へと向かい、ドアをノックし入室すると、見知った顔がその場にいたのだ。
「坂城、入り……? 何でローラまで……」
「あ、コウ。あのね……、小学校で変なことが起きてるの」
「小学校で……?」
どうやらローラの通っている学校絡みの案件らしいが、それで何故に俺が緊急で呼び出される羽目になるのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだが、そこは口にせずに黙って成り行きを見守ることにした。
「それで……ローラちゃん。学校で何があったのかな?」
「ええと……、学校の窓とか壁に傷みたいのが沢山あって……。先生達も誰かの
「ふむ……。それでだ――」
「無理です。この年で小学校に潜入とかできません。なんなら、ねーさんが英語の講師として潜入する方がまだ自然だと思います」
「レイチェルに任せても良かったのだが、お前はあそこのOBだからな。知り合いもいるはずだ」
「……そのために俺は緊急で呼び出されたんですか? てっきりふう――」
「学校の様な公共の場でおかしな事案が起こると保護者だって心配するんだ。早期に解決するのは当たり前だろ?」
俺の予測していたことを遮る形で
正論と言えば正論なのだが、どうも解せない。そもそも放課後に小学校へ向かうとかになるのか。それだったら夜中に忍び込めでいいはずだが……。
「コウ、これ知ってる?」
ローラが俺に差し出したのは一枚のプリントだった。どうやら何かの行事のお知らせらしい。
「小学校で毎年恒例の演劇大会だろ。俺も昔やった」
「そうだな。お前が小学校最後だからって、ちょこっと本気出して
俺の答えに
「当時、室長だった
「……思い出話はいいです。その演劇と俺が小学校に行くのと何の関係が?」
そこからはローラが俺へと、それはそれは申し訳なさそうに上目遣いでお願いを口にしてきたのだ。
「その……ね? その演劇でアクションしたコウと一緒に住んでるって言ったら……クラスのみんなが、その人に教えてもらえば演劇大成功だろ! って……。先生もコウを知ってるみたいでノリノリで……」
後から聞いた話だが、ローラの担任は俺が小学生だった頃の担任と同じらしい。偶然って怖い。
「だからな……。お膳立ては揃ってる。やってくれるな?」
というか
「……分かりました。いつ小学校に行くかなどは、自宅で相談しますがよろしいですね?」
「ああ。それで構わない。頼んだぞ」
そこまででローラと一緒に執務室を後にする。すると横を歩いていた彼女が一言。
「その……ごめんね? クラスのみんなにダメって言えない雰囲気になっちゃって……」
「別に良いよ。結果的にすんなり調査に行けるから」
ぽんぽんとローラの頭を触り、気にしていないと意思表示をする。そうするとにっこりと笑ってくれた。
「やっぱりコウってお兄ちゃんみたい。わたし一人っ子だから新鮮かも」
ローラの家族構成なんて全く知らなかった。偽ロリが何も言わないから追及はしなかったが、一人娘なら親御さんも本国で心配しているかもしれない。
「まっ! 俺が演劇教えに行く日程は晩飯の時にでも相談するか。今日は何が食べたい?」
「じゃあ……、トンテキがいい! わたしも手伝う!」
そんな他愛のない会話をしながらスーパーへと向かっていった俺達であった。
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