第65話 63、原子力潜水艦飛龍での話

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 翌日ニューマンとミシェルは疑問を解くためメレック号を格納した直径60m球形のビッグボール号で東京に行った。

上空1000mから日本語ではなくホムスク語で呼びかけた。

「新日本町の担当官に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。高度1000mから243メガヘルツの国際緊急周波数でホムスク語で発信している。応答せよ。・・・繰り返す。新日本町の担当官に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答せよ。・・・ホムスク語で話している。もう一度繰り返す。新日本町の担当官に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。高度1000mから243メガヘルツの国際緊急周波数でホムスク語で発信している。応答せよ。」

応答はなかった。

 「ふーむ。ホムスク語の電波では応答なしか。ホムスク語はまだ覚えていないのかな。不勉強だな。しょうがない。」

ニューマンはそう言って増幅器を付けたホムスク通訳機での発信を加えた。

「日本国緊急東京政府の大岩俊輔総理大臣に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。ホムスク語で発信している。応答せよ。繰り返す。日本国緊急東京政府の大岩俊輔総理大臣に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。ホムスク語で発信している。応答せよ。頭の中では日本語で聞こえているはずだ。応答は日本語でなくホムスク語を使え。ホムスク語の通訳機を渡してあるはずだ。またこの言葉は全ての人間が母国語で聞こえているはずだ。・・・総理大臣が出られないのであれば首都防空隊の代表でもいい。首都防空隊はホムスク語を覚えていないのかな。その場合は日本語での発信を許(ゆる)す。しばらく待つ、ふふふっ。」

 応答は直ちにあった。

日本語だった。

「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。総理は現在は直ぐにはお出にはなられない。何用か。」

「首都防空隊の応答はいつも早いな。ホムスク語は覚えたかな。」

ニューマンは相変わらずホムスク語で電波発信と脳波発信機で話した。

通信士は電波受信ではホムスク語が聞こえ、脳波受信では母国語の日本語が聞こえた。

「覚えていない。」

「今でも総理大臣は大岩俊輔か。」

「そうだ。」

「身分は今でも日本国緊急東京政府総理大臣か。」

「そうだ。」

 「総理大臣はホムスク語を覚えるように言わなかったのか。」

「言ったが忙しくて覚えることができなかった。」

「通信で忙しかったのか。」

「色々な仕事があるんだ。」

「ホムスクロボット人からホムスク語で呼びかけがあった時はどうするつもりだったのか。」

「誰かを呼んでくる。」

 「先ほどホムスク語で呼びかけたが聞こえたか。」

「聞こえた。」

「その言葉がホムスク語だと判ったのか。」

「分からなかった。」

「だから誰も呼ばなかったのだな。」

「そっ、そうだ。」

「ホムスク語の分かる通信士に替わった方がいいかもしれないな。」

「・・・何用だ。」

 「初期の目的から少しずつ変わっている。現在は話をしたいと思っている。聞きたいことがある。現在はどんな職階かは分からないが自衛隊の原子力潜水艦飛龍の艦長沖田遥、航海士の速田学、あるいは外務審議官の岡本太郎のだれかと話したい。この3人とは以前会ったことがある。」

「しばし待て。」

応答は5分後に来た。

発信場所はこれまでと違っていた。

 「アクアサンク海底国のニューマン殿に伝える。こちら日本国原子力潜水艦飛龍航海士早田学です。お久しぶりです。」

日本語での電波発信であった。

「日本国原子力潜水艦飛龍の早田学航海士に伝える。こちらアクアサンク海底国のニューマン。お会いして話をしたいと思います。」

ホムスク語の電波発信と脳波発信だった。

「了解しました。どこでお話ししましょうか。」

「早田さんは現在潜水艦艦内ですか。」

「そうです。」

「そちらに伺(うかが)いましょう。」

 浮桟橋に係留された原子力潜水艦飛龍は発信位置から直ぐに見つかった。

ニューマンとミシェルはスカイカブに乗り隣接7次元状態で原子力潜水艦飛龍の真上から静かに重なっていった。

潜望鏡に沿って潜水艦橋(潜望鏡艦橋)を通り抜け発令所(操縦室)と重なった。

原子力潜水艦飛龍の発令所は狭くニューマンとミシェルは潜望鏡を背中にした。

 「すみません。こちらの潜水艦の発令所は少し狭かったようですね。それにしても潜水艦と重なって互いの操縦室で話しができるとは信じられない状況です。」

早田学航海士が最初に言った。

「この技術は7次元位相界を利用することで成就できます。私がいる隣接7次元の方が少しだけポテンシャルエネルギーが高いのでこの位相界から出たものはゼロ位相のこの世に戻ります。水中も地面の中も通ることができます。」

「何とも便利な状況ですね。・・・それで何でしょうか。自分を呼んだのは聞きたいことがあるのだと思います。この艦に居るのは自分と通信士と機関長の3人だけです。あとの乗組員はみんな働きに出ております。潜水艦業はほぼ休業です。」

 「そうですか。厳しい状況のようですね。一緒にいるのはミシェルさんというロボット人で相棒です。・・・ここに来たのは日本国は一体どうなっているのかが分からなくなったからです。早田さんは『日本』ではなく『新日本』ってご存知ですか。」

「知っています。」

「新日本と日本の日本国緊急東京政府との違いを教えてください。」

「新日本は火星の日本町の住民を地球に連れて来て作った集団です。地下に町を作り火星人を住み込ませ新日本と名乗っています。人数的には日本国よりも多いですね。」

「ふーん。数日前に新日本の町に行きました。そこで日本国の自衛隊は新日本国の軍隊になったと聞きました。本当ですか。」

 「自分はそう思っておりません。自分たちに命令できるのは一義的には日本国緊急東京政府の大岩俊輔総理大臣です。」

「新日本町の人口構成は火星人45000人、自衛隊員が4000人、上級市民が1000人になっているそうです。自衛隊員というのは陸上自衛隊員と航空自衛隊員なのかもしれませんね。」

「分かりません。情報が入って来ません。航宙自衛隊は疫病の感染がなかったのかもしれません。宇宙船は潜水艦と同じようなものですから。」

「火星人を地球に運んだのも航宙自衛隊かもしれませんね。」

「そうかもしれません。」

 「大岩俊輔はお元気なのですか。」

「病気で政務ができない状態です。」

「副総理はいないのですか。」

「居ません。政府と言っても閣僚が揃っているわけではないし、これまでの大部分の閣僚は必要なくなりました。手足がありません。特権階級で生き残った人達ですが自分たちのために働いてくれる一般人間は居なくなってしまいました。」

 「そうでしょうね。・・・この艦の乗組員は何をしているのですか。」

「農作物を作っています。とにかく米と野菜を作らないと話になりません。後は潜水艦の維持です。私は今日は当番で飛龍に乗っていました。」

「新日本との経緯をご存知なのは誰でしょう。」

「やはり大岩総理だと思います。」

「分かりました。大岩総理の病気を治しましょう。治療箱を使えば短時間で完治できると思います。」

「治療箱とは何ですか。」

 「ホムスク文明の一部です。地球人にも適用できると分かりました。昨日から新日本町で使っています。粉砕骨折された62人の警察官と15mの高さから落とされて意識不明の13人の警察官を治しています。粉砕骨折はおよそ30分で完治し、意識不明の病人はおよそ3時間で快癒されます。今日中には治療は完了しますから明日には大岩総理を治すことができると思います。新日本との事情は大岩総理に聞きましょう。」

「お願いします。とにかく人数が少ないことがこんなに痛打だとは思いませんでした。人型ロボットをもう少し作っておくべきでした。」

 「新日本の町では通貨がありました。紙幣はこれまでの円紙幣でした。そしてそのお金で物が買えるのです。私は新日本町でチャーハンを食べました。ここでは俸給が出るのですか。」

「いいえ。でもこれまでの通貨は使えます。例えば上水料と下水料は払わなければなりません。バカ高いんですよ。まあ使用者数が激減しましたからそうしなければ食べていけないですからね。水道管理者はその金で食料その他を買うわけです。電気はまだソーラー発電システムが使えますから今のところ只です。でも外から電気を買うようになれば金が必要になります。・・・自衛隊の原子力潜水艦の防衛力に対して対価を払ってくれる方は居ませんね。」

 「これから必要になりますよ。それにはグランドデザインと警察力を持った指導者が必要です。ここには警察官は居るのですか。」

「あまり見かけません。我々に俸給が出ないのですから警察官にも出ていないはずです。警察官は潜水艦の乗組員ほど纏(まと)まってはおりません。バラバラでは警察官としては生きていけないと思います。」

 「ふーむ。公務員に俸給が出ないことは由々しきことです。治世システムとして崩壊しています。こことは違って新日本町では公務員には俸給が出ます。しかも俸給は職階ではなく年齢によって定まっています。それに誰でも公務員になれるようです。少なくとも新日本の方が正常に機能しているように見えます。」

「そうですか。新日本町に行って公務員になったら自衛隊に合った公務を与えられるのでしょうね。」

「それが適材適所というものです。まずは大岩総理を元気にしましょう。」

 ニューマンとミシェルは飛龍を離れ新日本町に行った。

ビッグボール号から隣接7次元位相のスカイカブに乗って駐機場から地下に入った。

エレベーターの穴には照明がなかったがスカイカブの前照灯と室内灯で周囲の様子はおおよそ分かった。

エレベーターの穴をゆっくりと降り照明されている通路が見えると通路に入った。

通路の先にあるエアロックを通り抜け、さらに通路をいくと町に入る大扉に突き当たる。

渋井直人は大扉を開けるのに壁のボタンを押したがニューマンは大扉を突き抜けて新日本町に入った。

 新日本町に入るには駐機場からエレベーターで地下に降り、長い通路を経てエアロックに着き、再び長い通路を通って大扉に当たり、壁のボタンを押すと分厚い扉は地中に沈み込んで通路ができる。

このような面倒な方法は多分に新日本町の防衛を意味している。

エレベーターシャフトもエアロックも頑丈な大扉も突き抜けて町に侵入されたら新日本町の防衛担当者は屈辱を感じるだろう。

もっとも最初の屈辱は昨日の3機の戦闘機が上空から地面を突き抜けて町の広場に到着した時だったろう。

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