第44話 42、ホムンク29号

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 ホムンク29号の通信は続いた。

「ニューマンの地球とはどんな星なのだ。アッチラ遠征隊が侵略した星なのか。」

「ホムスク星とはどんな星なのだ。その答えに従って答えよう。」

「すまなかった。星を記述するのは難しい。何を語っても十分とはならない。アッチラ遠征隊が侵略した星なのか。」

「そうだ。」

「侵略されなかったのか。」

「侵略されて大部分の人間が死んだ。」

 「それなのにニューマンは敵の宇宙船で恒星間飛行を楽しんでいる。理解できない。」

「少し幸運だっただけだ。戦えば我々はホムスク宇宙船を破壊できる。我々の戦闘機は隣接7次元に居て7次元シールドを張っている。ホムスク宇宙船は7次元シールドを破ることができないが我らはできる。隣接7次元に居ようと7次元シールドを張っていようと破壊できる。だがホムスク宇宙船は地球を破壊できる。我らはそれを阻止できない。それで停戦している。」

 「興味深い。地球に行ってもいいかな。」

「地球には現在アッチラ遠征隊のホムスクロボット人とイリヤス遠征隊のイグル人が居る。ホムンク29号が来たければ来てもいい。一人増えてもたいした違いはない。大部分の人間が死んだので場所は十分にある。ホムンク28号とも話せるだろう。だが居心地は悪いと思う。地球には純粋のホムスク人が住んでいる。ホムンクもロボット人もホムスク人には逆らえない。ホムスク人から従えと命じられたら逆らえない。」

「驚いたな。こんな場所にホムスク人が住んでいるのか。」

「まあ、地球はそういう星のようだ。ホムスク帝国の大航宙時代の歴史を調べれば分かるみたいだ。」

「そうしてみよう。」

 ニューマンのビッグボール号は太陽系の南側に遷移して戻って来た。

ホムンク29号の宇宙船がそれに続いた。

ニューマンはホムンク29号に通信した。

「ホムンク29号。これからホムンク28号に合わせる。ホムンク28号は地球の山の上の湖の畔(ほとり)に住んでいる。余計な摩擦を起こさないようにそこまで案内する。それでいいか。」

「それでいい。」

 「それから地球ではホムスク語は通じる。自由に話すことはまだできないだろうがホムスク語の通信は理解できるはずだ。私が地球人にホムスク語を教えた。それから地球を侵略しに来たイグル人にも教えた。」

「そうしたニューマンの考えを知りたいものだな。」

「いずれ分かるさ。」

 南米大陸チチカカ湖の上空でニューマンはホムンク28号にホムスク語で呼びかけた。

「アッチラ遠征隊のホムンク28号に伝える。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答を願う。繰り返す。アッチラ遠征隊のホムンク28号に伝える。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答を願う。」

暫くして応答があった。

 「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらホムンク28号。ホムスク宇宙船を連れて来たようだな。」

「ホムンク29号を連れて来た。状況を説明してくれないか。僕が説明するよりずっと信用できると思う。」

「了解。説明しよう。ホムンク29号が地球に居付くことに異議はないのか。」

「他の国がどうかは分からないがアクアサンク海底国としてはアッチラ遠征隊と同様な停戦を申し込みたいと思っている。まだ戦ってはいないがな。」

「了解した。そう伝えておこう。」

 「ニューマンよりホムンク29号に伝える。地球の事情はホムンク28号が説明してくれる。それでいいか。」

「とりあえずそれでいい。だが私はニューマンと話をしたいな。7次元シールドを破る兵器も聞きたい。」

「ふふふっ。私はアッチラ遠征隊第13町がある島国に住んでいる。私と話したければそこに来ればいい。第13町の位置はホムンク28号に聞くといい。だが7次元シールドを破る兵器は軍事機密だ。アクアサンク海底国は軍事国家だ。軍事力で国を形成している。軍事機密は厳重に秘匿(ひとく)されている。」

「その島にはホムスク人も住んでいるのか。」

「住んでいる。」

「いずれニューマンに会いに行く。」

「ふふっ、待っている。」

 ホムンク29号は猪苗代湖近くのアッチラ遠征隊第13町とイリヤス遠征隊のイグル人の村と接するような位置に宇宙船を沈め、地上には粗末な掘立て小屋を建てた。

もちろん周囲には7次元シールドが張られていた。

また、小屋の上空50㎞には直径60mの搭載艇が浮いていた。

暫くするといつものホムスク語での会話が始まった。

 「おはよう、皆さん。私はシルバー隊の楓(かえで)よ。挨拶して頂戴。」

「おはよう楓。こちらは13町のキースだ。今日はいい天気だ。」

「おはようございます。イリヤス遠征隊第13村のイムジンです。」

「イムジンさんの村には名前が付いたの。」

「はい、『13町』の隣の村なので『13村』と名付けました。」

「安直な付け方ね。500人も居るのにまだ家は建てないの。」

 「当分宇宙船暮らしです。地球人をほとんど全滅させた病原菌への対処が遅れているようです。」

「そうよね。でもニューマン様が言っていたけどイグル人は病原菌に耐性があるかもしれないわよ。だってイグル人の頭頂には肉球があるんでしょ。それはトサカでイグル人が鳥から進化した証拠なんですって。地球の病原菌は鳥を殺さなかったわ。イグル人は耐性を持っているかもしれないわよ。」

「それは知っています。だけどだれだって最初に試したくはないでしょ。」

「そうね。松茸(まつたけ)を最初に食べた人は偉いわ。それまでに何人も毒キノコを食べて死んでいるんだから。」

 「この村には偉い人がいないみたいだ。それより昨日(きのう)隣に来た宇宙船は何か知っているかい。こちらは情報がないんだ。」

「あれはホムンク29号様の宇宙船だ。うちのホムンク28号様から連絡があった。」

13町のキースが言った。

「ホムンク28号様ってアッチラ人なのか。」

「アッチラ人を作ったお方だ。ホムンク様は宇宙船でもロボット人でも何でも作ることができる。隣に来たのはそんなホムンク様だ。」

 「ご挨拶していいかしら。」

楓はそう言って呼びかけた。

「隣に引っ越して来たホムンク29号さんに告げます。こちら上空の戦闘機にいるアクアサンク海底国の楓。ロボット人です。応答を願います。繰り返します。隣に引っ越して来たホムンク29号さんに告げます。こちら上空の戦闘機にいるアクアサンク海底国の楓。ロボット人です。応答を願います。」

応答はすぐ来た。

 「アクアサンク海底国の楓さんに告げる。こちらはここに引っ越して来たばかりのホムンク29号よ。おはよう。」

「呼びかけに応じてくれてありがとうございます、ホムンク29号さん。上空の戦闘機にいる楓です。私の目的はアッチラ遠征隊の第13町とイリヤス遠征隊第13村の見張りです。これからはホムンク29号さんの様子も見張りますのでよろしくお願いいたします。」

「こちらも宜しくお願いします。ニューマンさんにお会いしたいがどうしたらいいだろうか。」

「私に言ってくれたら私がニューマン様かシークレット様にお伝えします。」

 「シークレット様とはどういうお方ですか。」

「シークレット様はニューマン様のお母上様です。ロボット人ですがニューマン様を赤子の時からお育てしました。」

「私はニューマンさんと面談したいと伝えてくれませんか。」

「了解。さっそくお伝えします。返事はニューマン様から直接来ると思います。」

「了解。返事を待ちます。」

 楓は別の回線でニューマンと連絡を取ったようだった。

しばらくすると60m球形のビッグボール号(BB号)が猪苗代湖上空に現れた。

「ホムンク29号に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答せよ。繰り返す。ホムンク29号に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答せよ。」

応答はすぐにあった。

 「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらホムスク帝国のホムンク29号。素早い応答に感謝する。面談したいができるか。」

「こちらも望むところだが眼下には適当な場所が見当たらない。粗末な小屋しかない。そちらの搭載艇にはスカイカブが積載されているか。」

「積んである。」

「それならスカイカブに乗って頂上会談をしないか。隣の山は『会津磐梯山』という名前だ。昔から異星人の飛行物体が出現するということで有名だった。山頂の樹冠の上で話そう。7次元シールドを張っておけばお互い安全だろう。」

「了解した。30分後に山頂の樹冠の上で会おう。」

 ニューマンはスカイカブが気に入っていた。

スカイカブは直径が5m、厚さが50㎝の円盤上に椅子2脚と操縦テーブルが付いており円盤の端からドームがせり出し円盤上部を覆うようになっている。

分子分解砲と機関銃が円盤内に装着されており隣接7次元に入ることができるし7次元シールドを張ることもできる。

 宇宙スクーターがオートバイならスカイカブは自動車だ。

共に重力遮断で進むが居住性が違う。

スカイカブには屋根が着いている。

ホムスク帝国の女帝が最初に作ったらしい。


著者注42-1:


 会津磐梯山の山頂に登山客はいなかった。

重力遮断できる宇宙スクーターが世に出ると誰でも高山の頂(いただき)に簡単に立つことができるようになった。

重い荷物を背負って登山する人間はよほどの変人だと思われる場合もあった。

畢竟(ひっきょう)山頂は公園化され土産店(みやげてん)が建つようになっていった。

会津磐梯山山頂も整備され公園のようになっていたが、疫病で人が死に、登頂する人も絶え、背の高い雑草が繁茂していた。

 ニューマンが会津磐梯山山頂に行くとホムンク29号のスカイカブが雑草の上に浮かんでいた。

スカイカブのドームは開いており、登山姿の女性がスカイカブの操縦席に座っていた。

ニューマンは面談用のワイシャツにネクタイを締めたスーツ姿で、スカイカブのドームは防菌のために閉じられていた。

宇宙服の透明なヘルメットよりもいいと思ったのだ。

ニューマンはスカイカブを相手のスカイカブの正面に移動させて言った。

 「ニューマンだ。ホムンク29号か。」

「ホムンク29号です。樹冠に行きますか。」

「了解。」


著者注42-1: 「帝都大学の恵(神に至る者外伝2)」

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