第45話 43、29号との樹冠会談
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二人はアッチラ遠征隊の第13町とイリヤス遠征隊の第13村が見下ろせる側の頂上の林の上で互いのスカイカブの7次元シールドを接して対面した。
ホムンク29号から話し始めた。
「あらためて自己紹介させてもらいます。ホムスク帝国のホムンク29号です。単調な日々を含めれば1億歳以上になります。ニューマンさんは若いですね。」
「アクアサンク海底国のニューマンです。現世での時間では25歳になりますが実際に過ごした時間では32歳ほどになります。ホムスク文明の延命シャワーを浴びているので若めに見えます。」
「ニューマンさんのことはホムンク28号から聞きました。ニューマンさんは地球人にも異星人にもホムスク語を広めようとしているそうですね。ニューマンさんはどんな未来が見えているのでしょうか。」
「地球人の人口は激減しました。100年ほどは現状を保つことができるでしょうが、それ以後は衰退すると思います。言語が統一されていないこともその一因として挙げられるでしょう。地球が無事で地球人が生き残るのには異星人を排斥するのではなく共通の言語の下(もと)で共に発展するという方法があるだろうと思いました。
「・・・生物人間もロボット人間も共に生きるということですね。」
「そうです。知り合いにホムスク国の物語に傾注している者がおります。ホムスク国であろうが日本国であろうが面白い物語は面白いのです。ホムスクロボット人もそんな物語がおもしろいのです。みんな自己を持った人間だからです。発展の礎(いしずえ)は構成員の多様性だと思います。同族間での多様性も発展に寄与するでしょうが多異星人や多ロボット人が加われば多様性の裾野は広がると思います。ですから同一の言語が必要なのです。」
「ロボット人にも入り込める世界ですね。」
「入ってもらわなければ成立できない世界です。」
「私も多様性の一つに加わってもよろしいのですか。」
「歓迎します。ホムンク29号さんは女性のように見えます。女性がお好きなのですか。」
「ふふっ、女性の方が多様性に適合しやすいと思いませんか。」
「確かに。服装も自在だし、男性よりも幅広い職業がありそうだ。」
「ホムンクも様々(さまざま)で、争いを好まないホムンクもいるということです。」
「了解。」
「ニューマンさんのお仕事は何ですか。」
「仕事とは働いてその報酬を得て生活することだとすれば、私はこれまで仕事をしたことがありません。子供でしたから働かなくても好きなことができ生きていくことができたのです。趣味は研究です。尊敬するマリア・ダルチンケービッヒ先生の研究を進展させています。」
「マリア・ダルチンケービッヒ先生とはどのような方でしょうか。」
「ダルチンケービッヒ先生はアクアサンク海底国のロボット人兵士でした。研究所の警備をしていたのですが正義の味方になろうとして街に出て、縁があって研究の仕事に入り、そこで赫赫(かくかく)たる成果をお出しになりました。この世界は7次元の世界であるとの仮説をお出しになり超空間通信とか7次元世界への移行にも成功されました。天才ですよ。」
「ロボット人も研究の天才になれるのですね。」
「そうです。」
「7次元シールドを破ったのもその研究ですか。」
「そうです。最初の発明品はサイクロトロンエンジンでした。水素分子イオンと電子を光速近くで放出します。時間処理をしてありますから強力な推力を出すことができました。最近分かったことですがアッチラ人から貰(もら)ったホムスク宇宙船の推進エンジンもそっくり同じサイクロトロンエンジンでした。数はもちろん違いましたけどね。ふふっ、私の鼻は10㎝ほど高くなりましたよ。1億年文明の最終宇宙船の推進エンジンが恒星間飛行もできない惑星で発明されたエンジンと同じだったんですからね。」
「そんな場合には地球人の鼻は高くなるのですね。」
「そうです。ホムスク人の場合にはどうなるのですか。」
「私は見たことがありません。」
「ホムスクロボット人の場合にはどうなるのですか。」
「・・・目を閉じてクックックッと言うかもしれません。」
「地球人もそんな一人笑いをするかもしれません。鼻は実際には高くなりませんから。」
「同じですね。」
「同じです。」
「それはサイクロトロンエンジンが7次元シールドを破る事とどう関係するのですか。」
「7次元シールドの破壊方法に興味がおありのようですね。」
「それはニューマンさんがホムスク文明を超えたことを意味するからです。興味を持つのは当然です。」
「・・・軍事機密ですが教えてあげましょう。どちらも電子の質量が1x1022倍の9マイクログラムになったってことで共通します。時間処理をするとみかけの質量は増加するのです。」
「良くわかりません。」
「ちょっと待っていてくださいね。サイクロトロン銃を見せてあげます。」
ニューマンはスカイカブの床の隠し戸を開け、サイクロトロン銃を取り出して言った。
「これがサイクロトロン銃です。私が作った実験銃とは違って工場で作った実用銃です。弾は水素分子ですが結構な破壊力を持っています。空に向かって打ちますから音を聞いてください。・・・あっと、だめですね。病原菌が入るからドームを開けるわけにはいかないですね。・・・ともかく重い物体が高速で飛ぶような音がします。個人用7次元シールドは貫通し、中のダミー人形は粉砕されました。銃を大きくしたサイクロトロン砲では隣接7次元にいる宇宙船に穴を開けるし7次元シールドを張った宇宙船にも穴を開けることができます。正確に言えば『穴を開ける場合があります』かな。」
「みんなニューマンさんが発明なさったのですか。」
「そうです。でも私が試作した発明品は安全性が良くないみたいで、完成品は工場のロボット人が作ってくれました。」
「ナノロボットが作るのではないのですね。」
「そうです。アクアサンク海底国は軍事国家ですから武器は全て自作です。」
そう言ってニューマンはサイクロトロン銃を床下に戻した。
「少しホムンク29号さんのことを聞いてもいいですか。」
「どうぞ。何でしょう。」
「ホムンク29号さんは毎日何をしているのですか。・・・ホムンク28号はロボット人と宇宙船を作ってアッチラ遠征隊を組織して地球侵略を企(たくら)みました。行動と目的がはっきりしています。私が生まれる前のことですが地球にはホムンク12号が来たことがあります。おかげでホムスク語が話せるのでしょうが当時のホムンク12号も一人だったと聞いています。一人のホムンクは毎日何をしているのでしょうか。・・・聞くところによればホムンクはホムスク人の碌(ろく)でもない命令を果たすべく大宇宙に散ったそうです。しかも意地悪をされて時間を掛けて現場に行くよう命じられたそうです。ホムンク29号さんの年齢が1億歳以上というのがそうだった結果だと思います。そんなホムンク29号さんは毎日何をして過ごしているのですか。」
「ニューマンさんはホムンクのことをよくご存知ですね。私は28号さんのように目的を持って行動してはおりません。周辺の変化を見ています。それと物語を書いています。」
「周りの変化を見ていたので29号さんはここに居られるのだと思います。私は時々ホムスク文明の名作小説を勧められて読んでいます。29号さんの物語はどのような種類(ジャンル)ですか。」
「お恥ずかしいですが空想科学分野です。」
「驚きました。至高の科学文明を持つホムスク帝国の代行者のロボット人がさらに進んだ科学を模索する空想科学分野を考えるのですか。恐れ入りました。だから7次元シールドを破る方法を知りたかったのですね。」
「そうです。」
「7次元シールドは色々な位相の7次元位相界を空中配線に沿って展開させています。7次元の特徴は重力に関係することです。高い位相ほど重力場は届かなくなって弱くなり、時間速度は早くなります。ですから巨大な質量をシールドの近くで発生させれば7次元シールドの膜に穴が開くだろうと推測したのです。もしそうならサイクロトロン砲で見かけ上の巨大な質量をシールドに当て同時に分子分解砲を撃てば分子分解砲のガンマー線は7次元シールドの穴を通過することができると考えました。」
「ありがとうございます。理解できました。」
「こんなことを考えることができるのはマリア・ダルチンケービッヒ先生が提案された7次元時空界の仮説があるおかげです。」
「その仮説は知りません。どんな仮説ですか。」
「んー、ちょっと待っていて下さいね。」
ニューマンは操縦席から少し離れた位置の床の蓋を開け、画用紙と鉛筆を取り出し、テーブルの上で7次元時空界のイラストを描き、それを29号の方に掲げて言った。
「これが7次元時空界の模式図です。我々の居るのは7次元のゼロ位相で一つの6次元世界で、過去から未来への5次元位相の一点で、存在するための4次元位相のどこかにおります。」
「その模式図は知っております。過去や未来や別世界に行くのを説明するのに便利な図です。」
「ホムスク文明ではこの7次元時空界は仮説ではないのですね。これが常識だとすると29号さんが考えている空想科学分野とはいったいどんな世界なのですか。」
「私が考えているのは14次元時空界です。」
「驚いた。想像もしたことさえなかった。いったいどんな世界なのですか。」
「ニューマンさんは宇宙地図で大宇宙全体を見たことがありますか。」
「もちろんあります。星で詰まった球形だった。」
「それは星を大きく表示したからで実際サイズではスカスカの空間になります。」
「もちろんそれは分かります。」
「14次元時空界は大宇宙の外側なのです。」
「大宇宙の内側と外側では次元が異なるのですか。」
「そうだと思っております。」
「・・・違いは何か。・・・一つは重力場が無いから時間速度は非常に早くなる。・・・他には証拠がないから分からない。・・・次元が異なるはずだと主張する根拠は何ですか。」
「ホムスク帝国の大航宙時代、そして宇宙地図が出来上がった後でも大宇宙の外側への挑戦は行われて来ました。でも一隻の宇宙船も戻って来ませんでした。一隻で出かけたものもあれば多数の船団を組んで探検に出かけた宇宙船もありました。でも一隻も戻って来ませんでした。そして大宇宙の外側は謎のままで空想科学の分野となったのです。」
「ホムスク文明でも分からないことが有ったのですね。・・・大宇宙の外側は断崖になっていてそこを過ぎると消えてしまうのですね。」
「『断崖』ですか。何の断崖でしょう。時の断崖かもしれませんね。あるいはもっと別の断崖かもしれません。」
「こんな話は楽しいですね。ホムンク29号さんが考えた14次元時空界を教えてくれませんか。」
「ふふふっ。さっきと逆ね。ちょっと待っていて下さいね。」
ホムンク29号は楽しそうに操縦席から立ち、少し離れた位置の床の蓋を開け、スケッチブックと鉛筆を取り出し、テーブルの上で14次元時空界のイラストを描き、それをニューマンの方に掲げて言った。
「これが14次元時空界の模式図です。我々の居るのは14次元のゼロ位相で一つの13次元世界で、過去から未来への12次元位相の一点で、存在するための11次元位相のどこかにおります。」
「ふふふっ。要するに14次元時空界は7次元時空界と同じ構造をしているんだね。」
「そうよ。変かしら。」
「変だとは思わない。・・・でもこの模式図は重大な予想を暗示している。信じられない予想だ。」
「何かしら。」
「我々の体が大宇宙の規模に拡散してしまうことだよ。だって8、9、10次元の1点が我々の大宇宙なんだろ。我々の体は拡散することになる。大宇宙の端を越えた探検宇宙船は大宇宙ほどに拡大され消えてしまうんだ。向こうでちょっとでも動いたら元には絶対に戻れない。だから一隻も戻ってくることが出来なかったんだ。」
「ニューマンさんの想像って素敵ね。」
「14次元を考えた29号さんの方がずっと凄いよ。」
イラスト14次元時空界:みてみんhttps://27752.mitemin.net/i606316/
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