第43話 41、ケンタウルス座α星への飛行

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 ニューマンはホムスク宇宙船の搭載艇が気に入っていた。

まず球形であることが気に入っていた。

「搭載艇」では個性がなかったので「ビッグボール号、BB号」と名付けた。

球形のビッグボール号は中央に操縦室があり、操縦室の上側に居住区の空間があった。

ニューマンはそこに自宅を作り寝起きをした。

家に隣接するガレージの幅広の階段を降りると操縦室になっている。

自宅敷地は8m12mの長方形で高さが6m3mのL字型(二階建て)になっている。

 自宅は居間があり台所があり寝室がありバストイレが完備されている。

実験室と作業室を作りメレック号の実験室と作業室にある物と同じ物を設置した。

家の横の水タンクから上水が採取され、下水は屋外の下水槽で分解されて分子になってしまう。

上水の水タンクはナノロボットによって常に純粋の水が満杯になるまで供給されていた。

電源は100ボルトで家に隣接する発電機から供給された。

発電機は1個のエネルギーセルから電気を取り出していた。

何万年使っても使いきれないらしい。

 操縦室にはジークが居た。

ビッグボール号の電脳もパピヨンと言った。

母船の電脳と同じ電脳だとビッグボールのパピヨンが言った。

 ニューマンはビッグボール号を改造した。

新しく手に入ったお気に入りの自動車をより良くしようと改造するのは楽しみの一つだ。

ニューマンはサイクロン砲をビッグボール号の外部左右に2門付けた。

さらにサイクロトロンエンジンを外部前後に2台付けた。

そしてそれらを制御するため、操縦室に独立した操縦コンソールを作った。

それはメレック号と同じ操縦コンソールだった。

 サイクロトロンエンジンは搭載艇の加速度中和装置とは無関係に作動するのでサイクロトロンエンジンを作動させると搭載艇には加速度が生じた。

ニューマンにはそれが心地よかった。

とは言え、ニューマンは最初の1回だけでサイクロトロンエンジンの使用を止めた。

メレック号と違い、ビッグボール号には普通の自宅が建造されていた。

加速をかけると家中の家具はめちゃくちゃに散乱したのだった。

家は1Gの下方への加速度だけがいい。

パピヨンもジークもニューマンの失敗に笑うところだが二人とも慎み深いらしく何も言わなかった。

 ニューマンはそんな失敗にもめげずビッグボール号を自在に操縦した。

超空間通信機で時差なく連絡できることは安心だった。

「アクアサンク海底国の通信士に告げる。こちらニューマン。母さんに連絡して応答するよう伝えて欲しい。現在地は海王星の近くだ。地球からの方向は分からない。」

「ニューマン様に伝えます。こちらアクアサンク海底国通信士の綾乃。超空間通信機で受信しております。ニューマン様の現在位置は海王星の近辺。シークレット様にそのようにお伝えいたします。」

「了解。待っている。」

 10分後に母から連絡があった。

「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらシークレット。何ですか。繰り返します。アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらシークレット。何ですか。」

「母さん、これから4光年離れたケンタウルス座α星に行ってα星の惑星を見てくる。」

「短距離の遷移は練習してあるの。」

「土星から天王星へと天王星から海王星へと遷移した。宇宙地図の中で現在位置が常に表示されているし目的地を指定するだけだったので問題は生じなかった。」

「了解。α星の近くに行ったら連絡しなさい。」

「了解。地球人の初めての恒星間飛行だ。」

 ケンタウルス座α星は一つの恒星のように見えるが三重連星でα星Aとα星Bとプロキシマ・ケンタウリから成っている。

一番大きい恒星はαAで質量は太陽の1.1倍、2番目の恒星αBは太陽の0.9倍、3番目は太陽の12%だ。

プロキシマ・ケンタウリはかなり(太陽系半径の500倍)離れているから2連星と言えるかもしれない。

1個の惑星が恒星α星Bにあることが知られていた。

ニューマンはその惑星を見に行こうとしているのだった。

 ニューマンは宇宙地図を拡大し、ケンタウルス座α星近くの宇宙空間に印をつけた。

印は三重連星から離れた宇宙空間の1点でその印の位置が遷移到着位置だった。

印と現在位置の距離が計算され7次元位相の位相高度が計算された。

 遠距離の遷移ほど宇宙船を高い位相高度に持ち上げなくてはならない。

同様に過去や未来に行く時も遠い過去や遠い未来に行く時ほど宇宙船を高い位相高度に持ち上げなくてはならない。

そのためにはガーザー(ガンマー線発振機)の高い周波数が必要となりそのためには大きなエネルギーが必要となる。

高い位相高度から変調を掛けて現世の7次元ゼロ位相に戻ると遠距離に遷移したり過去や未来に遷移したりできるのだ。

近くに隣接6次元世界がある場合にはもう一段7次元位相を上げてから別の変調をかけてゼロ位相まで戻るらしい。

 遷移は自動で行われた。

「それでは遷移致します、ニューマン様。」とパピヨンが言ってすぐさま「遷移に成功いたしました、ニューマン様。」と言っただけだった。

ニューマンは船外の星を見ていたのだが、大宇宙の星はほとんど動かず星座に関(かか)わる明るい星だけが瞬時に少し移動した。

明るい星は比較的近い星だからだ。

 例えばおおいぬ座の1等星のシリウスは上の方に大きく移動しオリオン座のベテルギウス星の隣になっていた。

またカシオペア座のW字の左下には0.4等星の明るい星が現れた。

それは今飛んできたばかりの太陽系の太陽だった。

宇宙地図でも遷移開始点が太陽系に印(しるし)されていた。

 ニューマンは早速超空間通信を開始した。

「アクアサンク海底国通信士に告げる。こちらケンタウルス座α星の近くにいるニューマン。感あれば応答願う。繰り返す。アクアサンク海底国通信士に告げる。こちらケンタウルス座α星の近くにいるニューマン。感あれば応答願う。」

返事は待つことなく来た。

 「ケンタウルス座α星の近くにいるニューマン様に告げます。こちらアクアサンク海底国通信士の綾乃。ニューマン様のお声は明瞭に聞こえます。おめでとうございます。どうぞ。」

「アクアサンク海底国通信士の綾乃に告げる。そちらの声も明瞭に聞こえる。4光年が時差なく通話できるなんて感動だ。母さんに連絡できるかい。」

「もちろんできます。シークレット様は待機されております。通信をお待ちください。」

「了解。」

 「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらシークレット。無事にα星近くに行けたのね。良かったわね。」

「思ったより簡単だった、母さん。ホムスク文明は偉大だね。」

「帰り道は分かっているの。」

「4光年移動しても星座はあまり変わらないよ。太陽はカシオペア座のWの左下に明るく輝いている。これだけ明るいならよく探せば宇宙地図が無くても分かるかもしれない。でも10光年以上遷移したら太陽は周りの星と同じ明るさになってしまうだろうから帰りの方向は分からなくなる。宇宙地図様様だよ。」

「そう。帰る方向が分かれば安心ね。気をつけるのよ。」

「了解、気をつける。」

 ニューマンは初期の目的に従ってαB星の惑星αBbを探した。

惑星αBbという名前の理由はケンタウルスα星(3連星)の2番目に大きい恒星(αB)の惑星bということらしい。

惑星αBb星の公転周期は3.2日で恒星αB星のごく近傍を回っているらしい。

ホムスク宇宙地図にはαBb星が記述されていた。

αBb星に関する短い記述は次のように四半分だけ肯定的だった。

「マグマオーシャン惑星(溶岩惑星)。生存不可。将来惑星軌道を変えることができれば生存可能な惑星が望める。」

 果たして太陽より少し小さいαB星の惑星として地球と同程度の大きさのαBb星は存在した。

それは惑星全表面が溶岩の星だった。

惑星αBb星はホムスクの探検者が発見して以来、何十万年に亘って恒星の近傍を周回していたことになる。

地球規模の質量を持つホムスク宇宙船を高加速度で推進させているサイクロトロンエンジンがあればαBb星の軌道速度を上げることができる。

軌道速度が上がれば軌道半径は大きくなり星は冷える。

ホムスク宇宙船ならαBb星を冷やし、溶岩を硬い岩石と水(海)にすることができるだろう。

大昔のホムスクの探検者は将来ホムスク文明がそうできるようになるとだろうと確信して予想を記述したのに違いない。

 ニューマンがαBb星を見ていると通常電波による通信が入ってきた。

搭載艇ビッグボール号は通常ほとんどの周波数に対して受信体制を取っているが入って来た通信は広い周波数帯での通信だった。

「前方の宇宙船の乗員に告げる。こちらホムスク宇宙船。応答せよ。繰り返す。前方の宇宙船の乗員に告げる。こちらホムスク宇宙船。応答せよ。」

それはホムスク語だった。

 ニューマンが宇宙船周囲の様子を映しているディスプレイを見るとビッグボール号の後方に巨大なカプセル型の宇宙船が止まっていた。

見慣れた長さ1㎞のホムスク宇宙船だった。

恥ずかしいことだがパピヨンも宇宙船の接近には気付かなかったようだった。

短距離遷移をして来たのかもしれない。

ニューマンはホムスク語で応答した。

 「後方の宇宙船の乗員に告げる。ホムスク語での誰何だったのでホムスク語で応(こた)えている。こちら地球のニューマン。何用か。」

「地球のニューマンに告げる。こちらホムスク帝国のホムンク29号。貴殿の宇宙船はホムスク宇宙船の搭載艇だと思われる。何故(なにゆえ)貴殿は搭載艇に乗っているのか。」

「ホムスク帝国のホムンク29号に伝える。貴殿のことはホムンク28号から聞いたことがある。何故(なにゆえ)貴殿はこの宙域にいるのか。」

 「ふふふっ。なかなかやるな。取引なしで話そうか。」

「同意する。この搭載艇は超弩級宇宙戦艦ギズリの搭載艇ビッグボール号だ。戦艦ギズリの前の名前はホムンク28号が作ったアッチラ遠征隊の8番艦だ。8番艦は我らの攻撃を受けて7次元の位相世界から出られなくなった。私は8番艦の乗員を救助し8番艦を貰った。私はホムスク文明を学び8番艦を修理し超弩級宇宙戦艦ギズリにした。」

 「ニューマンはホムスク宇宙船を直すことができたのか。」

「8番艦はナノロボット作成機が被弾して修理できなかった。この搭載艇も被弾していた。私は手作りのナノロボット作成機を作っただけだ。親のナノロボットができれば後は自動的に修理が行われる。」

「アッチラ人はそれができなかった。だがニューマンはそれができた。たいしたものだ。」

「7年間も勉強すればホムスク文明も少しは分かるようになるさ。ホムンク29号はなぜここに来たんだ。」

 「知らない言葉の超空間通信が飛び交(か)っていたからここに来た。」

「そうか。恒星間通信は初めてのことだった。強力な通信だったのか。」

「誰にも聞こえるような大きな声だった。」

「少し失敗したようだな。」

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