第42話 40、ホムスク文明を学ぶ 

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 その日からニューマンは戦艦ギズリに籠(こも)ってホムスク文明を学ぶようになった。

シークレットも共にニューマンを見守るように学んだ。

戦艦ギズリでの1週間が地球での数時間だったことがそれを容易にさせた。

地球での半日を使ってホムスク文明を1週間学んだ。

操縦室の隣の空間にホムスク人が住む標準的な家を建ててもらいそこで生活した。

人間には食べ物と睡眠と風呂とトイレと着替えが必要なのだ。

1週間学んでから地球に戻り半日間を過ごした。

 そんな生活が現世時間での1年ほど続いた。

ニューマンは戦艦ギズリで365週間(およそ7年間)ホムスク文明を学んだ。

ニューマンが学ぶということは学んだ物をナノロボットなしで作ることだった。

ルテチウムとローレンシウム1:1合金を貰(もら)って超空間通信機を作った。

火星と地球の間の通信は待ち時間なく通信できるようになった。

分子分解砲のガンマー線発信機(ガーザー)の周波数を上げることができるようになるとメレック号をより高い7次元位相世界へ遷移させることができるようになった。

 高7次元から現世(7次元ゼロ位相)への遷移において各種の変調をかけると宇宙船を過去にも未来にもそして遠距離への遷移ができることを学んだがニューマンはメレック号では実験しなかった。

自信がなかったからだ。

失敗すればこの世に戻ってこられなくなる。

過去や未来に行きたければ安全なホムスク宇宙船で行けばいい。

 細胞シャワーは大いに利用した。

体の内部にまで熱刺激をさせる細胞シャワーを受けると体に活力が漲(みなぎ)り細胞組織の更新が活発になるのだ。

宇宙船内で7年間も過ごして来たのにニューマンの容貌は若い時のままだった。

現世での経過時間は1年なのだから現世では変化がないのは当然だった。

父、イスマイルにも細胞シャワーが照射されたが効果は分からなかった。

 治療箱は驚異の治療具だった。

骨折や創傷を短時間で治してしまう。

腕を無くしても再生させてしまうのだ。

ガンも消してしまうらしい。

進んだ遺伝子診断とナノロボットによる直接治療と治療箱内の早い内部時間が奇跡的現象を起こしているのだ。

治療箱の内部は重力場を完全に排除しているので箱の外の時間進行よりも1000倍も早くなっている。

聖人が手を翳(かざ)すだけで病気を完治させることと同じになる。

だがホムスク人の遺伝子が治療の根本にあるので地球人にも使うことができるかどうかは分からなかった。

ニューマンは病気にならず怪我もしなかったので使ったことがなかった。

 ホムスク人の1億年の宝物である宇宙地図をニューマンはコンソールディスプレイで見た。

大宇宙は球形で、星を表す点で隙間なく満たされていた。

もちろん星を実際の大きさで表せば宇宙地図は何もない空間に見えたことだろう。

宇宙地図に記載された星はホムスク帝国の大航宙時代、何千万人もの冒険心に満ちたホムスク人が何千万年もの時間をかけて調査したものだった。

 ワープ飛行ができるようになり、超空間通信機が作られるとホムスク帝国の大航宙時代が始まった。

冒険者達は二度と故郷のホムスク星に戻ってこられない宇宙への旅に世代を越えて出発したのだった。

冒険者たちは母星での安寧(あんねい)な生活よりも未知の星々を知りたかったのだ。

冒険者は星の軌道を観測し未来における位置を推測できるようにした。

 ホムスクの冒険者達は大宇宙の各星がまだ未成熟でたとえ生物が居てもホムスク星の文明レベルには達していないことを知った。

ホムスク星の時間の進み方が早かったのでホムスク星は他の星より文明の進み方が早かったのだ。

 時間の進行速度は重力場に依存する。

強い重力場ほど時間進行速度は遅い。

ホムスク星は大宇宙の辺縁にあったので周囲の重力場は大宇宙の内部よりも弱かった。

ホムスク星の時間進行速度は地球のそれよりも1000倍早いと説明にあった。

地球は多くの重力場に曝(さら)されている大宇宙球の内部にあった。

それでも天の川銀河系の渦状腕にあるから銀河の中心よりは早い時間速度を持っている。

地球から見ればホムスク星は北にあった。

 流石(さすが)のニューマンも宇宙地図を作ることはできなかった。

パピヨンにお願いして宇宙地図のコンソールを2個作ってもらった。

1個はメレック号に設置し、1個は直径1㎞の軍事衛星に置いた。

ニューマンは軍事衛星自体を恒星間宇宙船に変えようとしていたのだ。

 ニューマンは宇宙地図を眺めるのが好きだった。

大宇宙地図の地球部分を拡大し、太陽系を出し、地球を出し、月を出した。

縮小し、地球から4光年離れたケンタウルス座のα星やβ星やその衛星を眺めた。

それは現在の位置にある数千万年前の姿だった。

 ホムスク宇宙船の加速度中和装置にはニューマンは大いに失望した。

加速度中和装置は斬新な新発見で加速度を中和するのではなく大昔からある万有引力の法則を利用していただけだった。

ホムスク宇宙船は地球規模の質量を持っている。

その質量の大部分は宇宙船のエネルギー源にもなっている中性子塊だ。

地球と同じ質量を持つ中性子塊の引力加速度は地球の半径である6300㎞の距離においては1Gである。

 引力は距離の二乗に反比例し質量に比例する。

宇宙船の操縦室の引力加速度を10Gにするには操縦室から63m離れた位置に地球質量の10億分の1の質量を持つ中性子塊を置けばいい。

40Gにするには31.5mの位置に置けばいい。

加速度中和を調整するには距離を伸縮したり、中性子塊を分散したり、ルテチウムとローレンシウム1:1合金を使って引力を遮断したりするわけだ。

戦艦ギズリの持つ中性子塊は地球質量の1万分の1だから10億分の1の中性子塊を加速度中和に使っても何の問題も生じない。

ニューマンは新しい宇宙船ができたら加速度中和できるだけの中性子塊を貰(もら)うつもりでいた。

 そのように重いホムスク宇宙船を高加速で推進させるエンジンはニューマンが作り出したサイクロトロンエンジンと同じものだった。

それを知った時、ニューマンの心は歓喜と自負で満たされた。

1億年の文明で最終的に出来上がった宇宙船の推進エンジンが恒星間飛行もできない地球で発明されたエンジンと同じものだったのだ。

 ホムスク星ではサイクロトロンエンジンを「時間エンジン」と言っていた。

時間速度を変えた水素分子をサイクロトロンで電子と水素分子イオンに分けて光速近くで打ち出すからだ。

時間を遅めることによって9.1x10-28グラムの一個の電子はあたかも1x1022倍質量が増えたように9.1x10-6グラムとして打ち出されるのだ。

 時間を推進力に使っていると言えないこともない。

1x107㎏のメレック号ではたった1個のサイクロトロンエンジンが毎秒6000個の水素分子イオン/電子を打ち出して1Gの加速度を与えている。

1モル、2グラムの水素には6x1023個の水素分子が含まれている。

戦艦ギズリでは多数の電子エンジンが水素分子イオン/電子を使って高加速を得ているが、その時に使われる水素の量は微々たる量だ。

 ニューマンはナノロボットを学ぶことは諦(あきら)めた。

ナノロボットはホムスク文明を支えている。

空気や水や食物から宇宙船までほとんどあらゆるものがナノロボットによって作られている。

何万年、何十万年にも亘るナノロボットの蓄積があってあらゆるものを作ることができるナノロボット制御技術が確立されていったのであろう。

ナノロボットの種類は悠に億を超えているはずだ。

そんなナノロボットを全て覚えることは不可能だ。

 さらに理解できないナノロボットもあった。

エネルギーから物質を作り出すナノロボットだった。

正確に言えばエネルギーを作り出す中性子から分子を作るナノロボットだった。

そのナノロボットは中性子を核と電子に分け、電子に時間遅延を起こさせて原子軌道に乗せて色々な原子を作ることができた。

ルテチウムとローレンシウム1:1合金もこのナノロボットによって中性子から作られている。

さらにさらに信じられないナノロボットもあった。

エネルギーセルの中に存在するナノロボットだった。

そのナノロボットは中性子を全て電子に変えることができた。

1個の中性子を1800個余りの電子に変えることができたら便利だろう。

 ニューマンはナノロボットを介さないで物を作ろうとした。

もともとナノロボットで物を作る方法ができる前はホムスク人はナノロボットを介さないで物を作っていたはずだ。

ニューマンはナノロボット作成装置を3週間かけて詳しく学び、操縦室の隣の家の前に手作りのナノロボット作成装置を作った。

その装置は大きく、生産速度は遅かったが機能する親元の修復ナノロボットを生産した。

 後は容易だった。

修復の材料となるナノロボットは十分な在庫があり親ロボットは手順に乗っ取って宇宙船のナノロボット作成装置を修繕していった。

宇宙船のナノロボット作成装置が治ると搭載艇が修復され、分子分解砲で開けられた穴は塞がれていった。

 「ニューマン様、おかげさまで戦艦ギズリは完全に機能を取り戻しました。これで隣接7次元に戻ることができます。お礼の申しようがありません。」

電脳パピヨンがニューマンに言った。

「だが、まだ戻らないでくれよ。僕のメレック号がこの位相世界に取り残されてしまう。メレック号は重くないから質量探知機では引っかからない。一度7次元で迷子になったら見つけるのが難しいからね。」

「もちろんでございます。」

 結局、ニューマンとシークレットはメレック号で現世に戻り、戦艦ギズリは隣接7次元で同じ宙域に戻った。

ニューマンは戦艦ギズリから搭載艇を出しホムスクロボット、ジークフリートと共に搭載艇に乗り込んだ。

搭載艇は母船と同じ機能を持つが、質量がそれほど大きくないので現世に出現できるのだ。

シークレットはメレック号を搭載艇が入っていた格納庫に入れ戦艦ギズリの操縦室から戦艦ギズリを動かした。

搭載艇の大きさが60mの球形でメレック号は長さが60mのカプセル型だからメレック号は格納庫に収納できた。

シークレットは敵対行為があったら(仮定法過去)操縦室を消すつもりでいた。

 長さ1000mの超弩級宇宙戦艦ギズリと直径60mの球形型の搭載艇と長さ7mのカプセル型戦闘機10機は地球に戻った。

シークレットは宇宙戦艦ギズリを隣接7次元状態で月のアクアサンク海底国基地の近くの地中に沈め、メレック号で清水の研究所に戻った。

ニューマンは搭載艇を軍事衛星の近くに置きジークを連れて乙女号で研究所に戻った。

 アクアサンク海底国はさらに強力な軍事力を持つ国になった。

天の川銀河10万光年を一飛びにできる超弩級宇宙戦艦ギズリ、それと同じ性能を持つ搭載艇、サイクロトロンエンジンとサイクロトロン砲を備えた5000機の戦闘機5大隊を擁していた。

それらは全て隣接7次元に居ることができ7次元シールドを張ることができた。

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