第41話 39、宇宙戦艦ギズリ 

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 「やあ、ロボット君。ニューマンだよ。最初に君の名前を付けなくてはならないね。希望はあるかい。」

ニューマンは直立しているロボットに言った。

「できれば勇者の名前をお願いします。」

「了解。・・・ジークフリートではどうかな。殺した龍の血を浴びて不死身になった勇者の名前だよ。」

「ありがとうございます。私の名前はジークフリートです。」

「よろしく、ジークフリート。・・・少し長い名前なのでジークと呼ぶのを許してくれ。」

「ジークとお呼びください。」

「ありがとう、ジーク。隣に居るのは僕の母のシークレットだ。パピヨンのところに案内してくれたまえ。」

「了解しました。どうぞ着いて来てください。」

 格納庫から操縦室までの距離は長かった。

「結構長いね、母さん。」とニューマンが母に言うとジークフリートが言った。

「申し訳ありません、ニューマン様。通常、操縦室と搭載艇格納庫の行き来には転送機が使われます。転送機は確立した技術で安心なのですがパピヨン様は歩行を指示しました。遷移を試みた乗員が消えてしまったことがその理由だとおっしゃりました。」

「確かにね。遷移も転送も同じような物かもしれないからね。ところで聞いてもいいかな。」

 「どうぞ、何でございましょうか。」

「僕が知っているホムスクロボット人はみんな人間の姿形をしていた。・・・おっとホムンク28号だけは金属光沢だったかな。ジークは姿を変えることができるのかい。」

「自由に変えることができます。」

「それなら若者の姿にしてくれないか。」

「かしこまりました。若者の勇者に姿を変えます。」

そう言うとジークの表面が上からマントを着て大型の剣を腰に吊るした若者の姿になった。左手には小さな盾を着けていた。

「凄いね。」

ニューマンが言った。

「お気に召しましたか。」

「なかなかいいよ。でも盾は余計だと思う。」

「そうですね状況に合わせて姿を変えることにいたします。」

ジークはそう言って盾を体に吸収した。

「それがいいね。」とニューマン。

 操縦室はけっこう広い部屋だった。

全面にディスプレイが連なっておりディスプレイに面してキャプテンシートが並んでいた。

キャプテンシートの後、部屋の中央には立体的に表示された宇宙地図があった。

中央の緑点が自船宇宙船の位置であり太陽も地球も火星も木星も土星も表示されていた。

拡大も縮小もできるのだろう。

こんな宇宙地図があって初めてワープ飛行や遷移飛行ができるのだろう。

 宇宙地図の向こうには四角い枠で囲まれたようなコンソールがあり、コンソールの前には何種類かの椅子が並んでいた。

好みの椅子を使ってくれと言っているようだった。

コンソールの中はホログラムの小部屋がありそこには若い女性が立っていた。

大きさは違うがメレック号のミミーと同じく電脳のインタラクティブ(双方向性)末端なのだろう。

だが女性はメレック号と比べるとあまりにリアルで人間の女性のようだった。

ニューマンとシークレットがコンソールの前に立つとコンソール内の女性が言った。

 「男性の方がニューマン様ですね。私はパピヨンです。本艦を制御する電脳の末端です。」

ニューマンが言った。

「僕がニューマンです。隣は母のシークレットです。よろしくね。」

「よろしくお願い申し上げます。」

「早速だが、この船を説明し現状を報告してくれ。」

 「はい。単位を地球に合わせて説明いたします。本艦は20年前に製作されました。製作場所は地球から100光年ほど離れた宇宙空間です。形はカプセル型で長軸方向の長さは1000m、太さは500mです。本艦の最大遷移距離は1000万光年ですが実働は100万光年です。加速は100Gで燃料は無制限に供給されます。常時可能な兵装は分子分解砲ですがこれまで存在した兵器を短時間で作ることができます。ロボット兵士の数は100体ですが短時間で増員させることができます。防御兵装は7次元シールドです。常時存在する隣接7次元位相も有効な防御手段になります。搭載艇は一機だけで直径60mの球形です。搭載艇には2機の戦闘機と2台のスカイカブが積載されております。」

「スカイカブが分からなかったが了解。」

 「居住区は操縦室に隣接しております。広さは300m方形で高さは200mです。現在はアッチラ人の兵舎が建っておりますが早急に分解し更地にしておきます。

「了解。」

「次にエネルギー関係についてお話しします。これには宇宙船内の相対位置を示す方が理解しやすいと思います。線表示します。」

パピヨンの横の空間に線で表された宇宙船が映り中央部が赤く表示された区画が現れた。

「この部分が宇宙船のエネルギー発生部分です。特殊なナノロボットが中性子をエネルギーセルの形に変えています。その上側の橙色区画はエネルギーからナノロボットが必要とする物質を作る部分です。その上側の黄色区画は色々なサイズのナノロボットを作る部分です。本艦の大部分の物質はナノロボットで構成されております。」

 「ナノロボットはどのようにして物を構築していくのだい。」

ニューマンは抑えきれなくて質問した。

「分子に意思はありません。小さなナノロボットほど単一機能になっております。例えばロボットの指に使われる金属線をロボット上に構築させる場合、まずその金属を持つナノロボットが組み立て装置の基準に基づいた適切な位置に配置されます。その金属を持つナノロボットは金属の表面に当たり金属を分子的に結合させます。小さいですから押し付けるだけで分子は金属に結合されます。金属を放出したロボットは周囲の金属補給ロボットから金属を得、金属構築を続けます。補給ロボットと作業ロボットは金属の縁に付着したロボットで囲まれた空間で作業しますから線が作られて行きます。それらのロボットをまとめて包含したロボットは位置保持機能を持っており、適正な場所に移動されます。移動は2つの電磁波ビームによってなされます。光ピンセットと同じ原理です。光の波長では長すぎるので実際にはずっと短波長の電磁波を使います。後に話すかもしれない牽引ビームの微小版です。電磁波が作る電場面に分子が持つ電子が分極して極性を生じファンデルワールス力で引力が生じます。ロボットが必要とされる位置に2本のビームの交点を合わせ、ナノロボットを集積させます。このようなロボットシステム全体を運ぶロボットが存在します。そのロボットは作業の種類により持っていくロボットを包含できるように分子構造が変形されます。電磁波の種類により異なる種類の輸送ロボットを送ることができますから見た目には空中に線が伸びていくようにみえます。輸送ロボットと位置指定装置が司令者の制御を受けます。司令者の制御とはこのコンソールのことです。必要な輸送ロボットの位置と量、そして組み立ての順番が制御されます。例えば兵士のロボットを作る場合、それは既存の作業ですから細かい指令は必要とされません。このようなロボットを作成したいと命令するだけです。例えば『防御用のロボットを作れ』と大まかな指令でも装置は蓋然性の高いモデルを提示して許可を求めます。」

 「説明を聞いているだけで一生が掛かってしまいそうだ。」

「ニューマン様の一生が掛かることはございません。ホムスク文明はホムスク人のための文明です。本艦もまたホムスク人のための宇宙船でございます。」

「どういうことだい。」

「本艦に居る限りニューマン様は老衰で死ぬことはありません。寿命の延長は二つの方法で可能です。一つは細胞の賦活化で一つはクローンへの入れ替わりです。」

 「そうだろうな。ホムスク人だって不死は望んだはずだ。1億年も文明が進めば不老不死化はできたんだろうな。とにかくここにくれば長生きできるわけだ。細胞の賦活化ってのはどんな刺激を与えるんだい。」

「赤外線変調のX線です。」

「X線で全身に熱刺激を与えて細胞を刺激惹起性多能性獲得細胞(Stimulus - Triggered - Acquisition of Pluripotent Cells)に変えるわけだね。クローンへの入れ替えは分かりやすいが問題は記憶と自我性の継承だ。それはどうやって克服しているんだい。」

「理屈は分かりませんが隣接7次元に置かれたオリジナルと重ねて完全に重なるように成長させると記憶と自我は継承されるそうでございます。」

「どうしてそうすると自我と記憶が継承できるのかは分からないが出来ているのならそうなんだろうな。まあ使うなら当分はX線の細胞シャワーにするよ。・・・『細胞シャワー』って言葉は『ペリーローダン』ってSF小説で使われていた言葉だ。62年ごとに浴びれば62年は歳を取らないそうだ。・・・いや、すまん。脱線してしまった。続けてくれ。」

 「はい、緑の区画はロボットの生産区画です。材料のナノロボットから作られます。同じ製造装置が4個あり1個の装置からおよそ1時間でロボット1体が生産されます。1日で100体のロボットが生産できますが現在はロボット生産は停止しております。」

「ロボットの動力源は電気だね。」

「はい、ロボット中央部のエネルギーセルから電気が供給されます。」

「ロボットはナノロボットからでエネルギーセルもナノロボットからか。なんでもナノロボットだね。ナノロボットはどんな構造になっているんだい。」

 「ナノロボットは多種類の分子素片から構成される巨大な分子です。分子構造を自在に変える分子同士を切り貼りすることができるようになって初めてナノロボットを作ることができます。ナノロボットは自身に材料となる分子を持たねばなりませんからいくつもの方向性を持った籠(かご)を持った構造になっております。そのような構造の分子は自然には出現し難いので人工的に構築されねばなりません。ナノロボットは同一の分子で構成されているのではありません。目的ごとにその外殻を構成する分子の配置は異なっております。ナノロボットの種類は莫大な数になります。使用頻度によって在庫の分布が変わります。」

「了解。続けて。」

 「現状を説明いたします。船体の多数箇所に穴が空き機能が損(そこ)なわれております。その穴の一つが多種のナノロボットを作り出す装置にも空いております。先ほどお示ししました黄色部分の構造物です。在庫のナノロボットで外壁の穴は塞ぎましたがナノロボットの供給ができないので船体内部の補修には至っておりません。搭載艇も遷移関連の主要部分に穴が空き使用できなくなっております。」

「要するにこの状態から抜け出すことはできないと言うことだね。」

「その通りです。」

 「別のホムスク宇宙船がここにくれば修理はできるのかい。」

「容易です。物質遷移で多数のナノロボットを遷移させてもいいし転送機で転送させてもいいです。最初にナノロボットの製造装置を治してしまいさえすれば後は自分で修復することができます。」

「分かった。ホムンク28号かフリーダム町長に頼んでみよう。」

「そうしていただければこの宇宙船は完全になります。」

 「後で聞いてもいいんだがどうしても気になることがある。・・・この7次元世界は重力がない世界だ。だがこの宇宙船では常に床方向に引力が働いている。どうして引力を発生させているのかな。」

「中性子塊を使用しております。引力の大まかな強弱の調節は中性子塊の量で調節しております。また微調節は重力を遮断するルテチウムとローレンシウム1:1合金という合金を使っております。」

 「ふーむ。ルテチウムとローレンシウム1:1合金が7次元世界を貫通しているのは知っていたが重力も遮断できるとは知らなかった。と言うことはこの宇宙船はルテチウムとローレンシウム1:1合金を作ることができるんだね。」

「できます。」

「ありがたい。これで超空間通信機を作ることができる。・・・この宇宙船の加速時の操縦室における加速度はどれほどか。」

 「床方向に1Gでございます。」

「この宇宙船の加速度中和装置には中性子塊が使われているのか。」

「使われております。」

「この宇宙船・・・『この宇宙船』と言うのも面倒だな。この宇宙船の名前は何と言うのか。」

「『8番艦』です。」

「名称を変えてもいいのかい。」

「可能でございます。」

 「母さん、何て名前にしようか。」

「あら、母さんに振ってくるの。そうねえ『残悔の鬼滅号』(ざんかいのきめつごう)ってどう。ふふふっ。『スターダスト』でもいいかな。でもダストじゃあ可哀想ね。『スターチップ』はどう。・・・そうねえ。『火食鳥(ひくいどり)』にしましょう。黒くてずんぐりしていて大きくて強い。それとも私の仕事のセクレタリー(秘書)の名前を持つ『セクレタリーバード(へびくいわし)』がいいかしら。」

 「秘書がいいなら、母さんの名前、シークレット(ひみつ)でどうだろう。分からないように変形して『ギズリ(ひみつ)』でどうだろう。」

「シークレット(ひみつ)のトルコ語ね。いいわ。それにしましょう。『戦艦ギズリ』。語呂もいいわ。」

「パピヨンさん、この宇宙船の名前を『ギズリ』に変えた。『戦艦ギズリ』だ。『ギズリ』の意味は『秘密』だ。」

「了解しました。」

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