第40話 38、7次元位相界からの救出
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ニューマンは7次元シールドを張ってからホムスク語で全方位に大出力で呼びかけた。
「アッチラ遠征隊の宇宙船に告げる。こちらアクアサンク海底国の宇宙船メレック号のニューマン。救助しに来た。感あれば応答せよ。繰り返す。アッチラ遠征隊の宇宙船に告げる。こちらアクアサンク海底国の宇宙船メレック号のニューマン。救助しに来た。感あれば応答せよ。」
呼びかけを何回か繰り返すと応答があった。
「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらアッチラ遠征隊第8番艦。助けに来てくれたのか。」
「気になっていたのでここに来た。助けが必要なら助ける。助けが必要か。」
「助けてほしい。本艦は動けないのだ。いや、動けるのだが何もない場所なのでどちらに行っていいのか分からないのだ。」
「自動の修復機構はないのか。搭載艇で現世に戻ることもできたと思うが。」
「修復機構は働かない。搭載艇には穴が空いている。」
「当りどこが悪かったのだな。・・・貴艦諸君らを助けよう。アッチラ遠征隊が作っている町まで届けよう。それでいいか。」
「それで十分だ。」
「了解。こちらはこの位相ではあまり動きたくない。貴艦は自力で移動することができるか。」
「できると思う。」
「了解。とにかくここには光がない。闇夜の海だ。まず宇宙船の船外にランタンを吊るすか自船を照明せよ。こちらもそうする。次にメレック号の周囲に発光弾を打ち出してみる。それが見えたら近づいてくれ。」
「了解。」
発光弾が打ち出され、アッチラ遠征隊第8番艦はその光を発見し、メレック号に接近して来た。
ニューマンはメレック号のデッキに照明光源を配置して言った。
「メレック号が見えるか。」
「見える。」
「貴君らは空気がない宇宙空間でも大丈夫だな。」
「大丈夫だ。」
「乗員は何名か。」
「88名だ。12人が戦死した。」
「了解。44人ずつ運ぶことにする。方法を話す。艦橋に続いている格納庫に入ってもらって地球に戻ることにする。最初に格納庫から有翼の二座戦闘機を外に出す。戦闘機は
ビーコン発信機を付けてここに置いておく。次に乗員は一人ずつ照明されている艦橋に向かって遷移して格納庫に入る。44人が格納庫に入ったら現世に戻って地球に行く。貴君らをアッチラ遠征隊の町に届けてから次の44人を救助するため再びここに戻る。それでどうだ。艦橋まで遷移できるか。」
「それでいい。艦橋まで遷移することは容易だ。だがアッチラ遠征隊の町とは何だ。」
「貴君らとの戦いの後で、アッチラ遠征隊は地球の色々な場所127箇所に町を作った。宇宙船は地中に潜(ひそ)み、その周囲に半径2㎞で7次元シールドを張って町を作っている。アクアサンク海底国とアッチラ遠征隊との間には停戦協定が結ばれている。アクアサンク海底国は町を攻撃しないしアッチラ遠征隊は町から出ないという内容だ。」
「こちらが不利そうな協定だな。本当にそんな協定を結んだのか。」
「ホムンク28号と結んだ。アクアサンク海底国の戦闘機は7次元シールドを張った町に爆弾を落とすことができたし隣接7次元にあるアッチラ遠征隊の宇宙船を攻撃することができたからだと思う。この宇宙船もそうだったな。詳しくはホムンク28号に聞けばいいだろう。」
「了解。そうしよう。」
事件は最初のロボット人がアッチラ遠征隊の宇宙船内からメレック号の艦橋に遷移した時に起こった。
「よし、一人目、遷移してくれ。・・・遷移が確認できない。・・・遷移していないのか。」
「いや、こちらは遷移している。一人目は既に消えている。」
「・・・なぜかな。物体の遷移はゼロ位相と高次位相では違うのかな。分からない。・・・8番艦に伝える。とにかくこの救出方法は中止する。高次7次元位相で遷移しようとすると遷移前と同じ位相には戻って来ないようだ。それを確認するのは容易だ。船内で遷移すればいい。だが消えた隊員を探すことはできない。どこの7次元位相界に行ったのかが分からないからだ。ロボット人の質量は小さいからどこの位相に行ったのか質量探知機での検出もできない。7次元位相界の迷子になる。」
「私も知らなかった。確かに高次7次元で遷移をしたことはこれまでなかった。どうすればいい。」
「テレキネシスでの移動もしないほうが無難だな。原始的だがロープを張ってロープを伝って移動しよう。長いロープの準備ができるか。宇宙船間にロープを張ることができるか。」
「共にできる。超能力を使って消えるのは嫌だから大昔のジェット推進器を使ってロープを張ることにする。」
「それがいいな。」
宇宙船間にロープが渡されホムスクロボット人44人はメレック号の格納庫にすし詰めで押し込められるとメレック号は外殻の高電場を切って7次元ゼロ位相に戻った。
それはメレック号の周囲に多数の星が現れたことから明らかになった。
格納庫のロボット人も扉の隙間から星空を見て安堵の歓声を上げた。
ニューマンは地球からブラック隊の戦闘機10機を呼び寄せた。
宇宙空間のその場所に目印を付けるためだった。
目印を付けるだけだったら電波発信機をその場所に置いておけば良かったのだがニューマンは少し自慢したかったのだった。
ニューマンはメレック号を猪苗代湖の近くのアッチラ遠征隊第13町の上空に停めて電波発信した。
「アッチラ遠征隊第13町、町長のフリーダム殿に伝える。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答せよ。」
しばらくして応答があった。
「アクアサンク海底国のニューマンさんに伝えます。こちらアッチラ遠征隊第13町のフリーダムです。何でしょうか。」
「7次元に遭難していたアッチラ遠征隊第8番艦の乗員44人を受け入れてほしい。受け入れが完了しだい残りの43人を救助しに行く。」
「了解しました。行方不明になっていた第8番艦の乗員87人を受け入れます。ニューマンさんの申し入れに逆らうことはできません。」
「ありがとう。メレック号は7次元シールドの近傍外側に着陸させる。乗員はそこで下艦させる。後は乗員から事情を聞いてほしい。」
「了解しました。」
ニューマンはメレック号をイリヤス遠征隊の村の反対側に着陸させ格納庫のロボット人44人は重力遮断で飛翔して地上に降りた。
一人として短距離遷移で地上に降りる者はいなかった。
遷移して知らない7次元世界に飛ばされたらほぼ絶対に助からないからだ。
第13町の7次元シールドはすぐに消えて44人のロボット人達は町に入って行った。
ニューマンは再び戦闘機10機が待つ場所に戻り再びアッチラ遠征隊第8番艦が居る7次元位相界に行った。
第8番艦は元のままだった。
ニューマンは無線連絡をした。
「アッチラ遠征隊の宇宙船に告げる。こちらアクアサンク海底国の宇宙船メレック号のニューマン。応答せよ。」
「アクアサンク海底国の宇宙船メレック号のニューマンに告げる。こちらアッチラ遠征隊第8番艦。少し遅かったな。」
「アッチラ遠征隊第8番艦に告げる。ここではどれほどの時間が経っているのだ。こちらの船内時間では数時間しか経っていない。ほぼ瞬時で現世に戻っているし、地球に戻るのには1時間もかからなかったし、アッチラ遠征隊第13町への輸送も1時間も掛からなかった。」
「こちらではニューマンが消えてから既に1週間が経っている。この7次元位相では時間の進行が早いのだな。」
「そのようだ。前の44人は無事にアッチラ遠征隊第13町に入った。今回も第13町に連れていくつもりだ。準備はできているか。」
「できている。」
「了解。残った8番艦はどうするのだ。ここに残すのかそれとも自爆させるのか。とにかくとてつもない質量とエネルギーを持つ宇宙船だ。放置するわけにはいかない。」
「・・・新しい宇宙船が必要なら隊長のホムンク28号が作ってくれる。惑星規模の質量だから現世に持ってくることはできない。自爆させるならこの位相界がいい。自爆させよう。」
「そうか。自爆させるつもりなら僕が貰ってもいいかな。この宇宙船はホムスク文明の粋(すい)が詰まっている。電脳からホムスク文明を学びたい。」
「了解。ニューマンは我々を助けに来てくれた。お礼にホムスク文明を差し上げてもいい。宇宙船の電脳は『パピヨン』と言う。パピヨンにはニューマンに従うように命じておく。」
「それはありがたいな。貴殿らを第13町に連れて行った後(あと)でパピヨンと接触してみよう。ホムスク文明か。ワクワクする。」
「こちらも自爆させなくて良かった。」
ニューマンは残りの43人を猪苗代湖近くのアッチラ遠征隊第13町に連れていった後、再び当該宙域に戻った。
ニューマンは搭載艇を回収した後、無人となった8番艦に無線で呼びかけた。
「アッチラ遠征隊8番艦の電脳パピヨンに告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。応答を乞う。」
「アクアサンク海底国のニューマン様に伝えます。こちらアッチラ遠征隊8番艦の電脳パピヨン。ニューマン様を受け入れるよう命じられております。」
「受け入れるとは僕の命令に従うと言うことか。」
「その通りです。本艦は現在ニューマン様のものでございます。」
「それは嬉(うれ)しいな。船内に入ってパピヨンと会うことができるかな。」
「可能です。」
「船内はホムスク人が呼吸できる空気で満たされているのか。」
「一部を除き満たされております。」
「気閘(きこう、エアロック)の機能は完全か。」
「完全でございます。」
「案内のロボットを準備することができるか。」
「可能です。」
「案内ロボットの準備ができたら知らせてくれ。船内に入る。」
「了解しました。」
ニューマンは8番艦への移動に有翼の二座戦闘機を使った。
ニューマンとシークレットが乗り、ホムスク宇宙船の搭載艇格納庫から入った。
ホムスク宇宙船の搭載艇は直径が60mの球形だったので格納庫は二座戦闘機を入れるに十分な広さを持っていた。
格納庫の扉は機能していた。
扉は開き、戦闘機が入ると扉は閉まって空気で満たされた。
だが不思議なことに格納庫に置かれていた60mの搭載艇の下側には明らかな分子分解砲による穴が空いていた。
母船の修復はなされていたが搭載艇の修復はなされていなかったのだ。
理由は分からなかった。
格納庫には重力があった。
中性子塊が上手く敷かれていたのかもしれない。
ニューマンらの戦闘機が着地すると1体の金属光沢を持ったロボットがどこからか浮遊してきて戦闘機のキャノピーに向かってホムスク語で言った。
「ニューマン様。いらっしゃいませ。私がご要望の案内ロボットです。名前はまだありません。」
ニューマンはキャノピーを開け、右手を軽く上げて「やあっ。」と挨拶し、戦闘機の操縦席から床に飛び降りた。
シークレットは重力遮断でゆっくりと床に降りた。
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