第39話 37、イグル人の植民 

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 ニューマンはその後オスマン連合、アフリカ連合、ヨーロッパ連合、南アメリカ連合、中央アジア連合、インド共和国、東アジア連合の町にホムスク語ー日本語通訳機をプレゼントした。

それらの町が国を代表している町かどうかは分からなかったが、地球に呼び戻された火星からの人間が居着いた町だった。

そして会談した者はその集団の代表であると言っていた。

 そんな集団でホムスク語ー日本語の通訳機からホムスク語ー当該グループ言語の通訳機ができるかどうかは分からなかった。

翻訳機を作るには高度のエレクトロニクス知識を必要とし、通訳アルゴリズムに精通していなければならなかったからだ。

一般人は通訳機を使うことはできても通訳機を作ることはできない。

 イグル人は急速にホムスク語を学んでいるようだった。

アッチラ遠征隊の町のホムスクロボット人とアクアサンク海底国哨戒艇乗組員との会話にイグル人が入ってくることがあったのだ。

 「おはよう。今日のアッチラ通信士はだれかな。私はシルバー隊の緑(みどり)。応答して頂戴。」

「おはよう緑。こちらはキースだ。今日は雨だな。」

「7次元シールドに雨が弾き流れてきれいだわ。7次元シールドは疎水性ね。でも真ん中あたりは雨雲の上に突き出ているわ。」

「まあ下から見るのと上から見るのとは違うだろうな。」

「みなざん、私は隣村のイムジンです。仲間、加えてください。」

 「・・・もう一度言って。キースじゃあないの。」

「僕じゃあないよ。隣村のイムジンだと言っていた。イグル人か。」

「そうです。イグル人のイムジンです。隣村から電波出しています。」

「へー、もうホムスク語をしゃべれるようになったんだ。」

「はい。話すことできるようになりました。」

 「じゃあ、日本語も話せるようになったのね。」

「はい。どちらも幼児語の段階ですが。」

「ホムスク語はすぐに話せるようになるわ。私はアクアサンク海底国シルバー隊の緑(みどり)。仕事はアッチラ遠征隊が町から出てくるかどうかを見張ることよ。まあ今はイリヤス遠征隊も見張ることも仕事になっているわね。何か変わったことをする時は教えてね。」

「アクアサンク海底国とアッチラ遠征隊はえらくフレンドリーなのですね。」

「今のところ戦わないからね。それにどちらも勝てないから戦えないの。」

 「なぜ勝てないのですか。」

「そのうち分かるわ。・・・やっぱり教えてあげる。イリヤス遠征隊の村は雨が降っているわね。でも見た通りアッチラ遠征隊の町には雨が降っていない。アッチラ遠征隊の町は7次元シールドを張っているから雨は弾(はじ)かれるの。7次元シールドは何物も通さないの。だからどちらも7次元シールドを張ったら戦っても勝てないの。アッチラ遠征隊の町や私の戦闘機は7次元シールドを張っているわ。だから戦っても無駄だから戦わないの。」

 「よく分かりました。うちは遅れているのですね。」

イグル人のイムジンが言った。

「アッチラ遠征隊が進みすぎているのよ。」とアクアサンクロボット人の緑。

「1億年の文明の果実だからな。」

ホムスクロボット人のキースが言った。

3人は知り合いになった。

 緑の詮索(せんさく)が始まった。

「イムジン、教えて欲しいんだけどいいかしら。」

「なに、緑。」

イリヤス遠征隊の村は5隻の宇宙船からできているわね。地上に4隻と上空に1隻。1隻の宇宙船には何人のイグル人が乗っているの。」

「宇宙船1隻には100人が乗っている。だから一つの村には500人のイグル人が居ることになる。」

「ふーん。アッチラ遠征隊は1隻の宇宙船で100人の乗員だから町の人口は5分の1ね。そしたら数的なら『村』なんて呼んだら失礼ね。でも家が建っていないし狭いからやっぱり『村』ね。いつ家を建てるの。」

「分からない。」

 「イリヤス遠征隊の村は127箇所のアッチラ遠征隊町の隣にできているわ。総計で635隻よ。いったい何隻で地球に来たの。」

「1000隻で来た。」

「1000隻ってことは総計で10万人ね。たった10万人で地球人80億人を征服しようとしたわけ。1日100万人殺しても8000日かかるのよ。22年よ。少し自信を持ちすぎだったわね。」

「そうだったみたいだ。」

 「地球人を殺すにはアッチラ遠征隊がやったように病原菌を撒き散らすのが一番よ。・・・あっ、そうだった。病原菌なら自分が死ぬかもしれないわね。・・・イリヤ人ってロボット人ではないわよね。」

「生物人間だ。」

「男性と女性がいるわよね。」

「男と女がいる。」

「男と女がいていいわね。ロボット人は男女の外形的違いはないから。・・・子供は女性から生まれるのでしょ。」

「もちろんそうだ。」

「イリヤス遠征隊の半分は女性なの。」

「女性は3分の1だ。」

「どうして半分じゃあないの。」

「わからない。」

 「私は充電してエネルギー補給するしキースはエネルギーセルを使うからエネルギーの心配はないの。イムジンはイスマイル様やニューマン様のように食べ物を食べるの。」

「もちろん食べるし飲むさ。」

「ニューマン様は米飯やパンを食べるの。イムジン達は何を食べるの。」

「同じだよ。穀物や肉を食べる。名前や調理法は違うだろうがね。」

「ふーん。穀物は種を持っているだろうから地球で育てることはできると思う。でも肉は大変かもしれないわよ。キース達が撒いた病原菌で地上の哺乳類はほぼ全滅よ。馬も牛も豚もいなくなったわ。鳥は死ななかったけど鶏(にわとり)は世話をする人間が居なくなったので飢え死にして全滅よ。もちろん魚は死んでいないから魚肉はOKよ。イムジンは魚は食べるの。」

 「食べたことはないが食べれるだろうと思う。その病原菌ってまだ浮いているのだろうか。」

「分からない。だれも試したくはないみたいよ。実験動物でも飼っていたら判るわね。宇宙船には動物実験室ってないの。」

「ないと思う。」

詮索好きの女性の場合は際限がない。

 イリヤス遠征隊のイグル人は日本語とホムスク語での会話ができるようになると地球の状況が分かるようになった。

地球は何十億人の人間が伝染病で死に廃墟のような都市町村が破壊なく残っているのだ。

大気にはなお病原菌が浮遊しており地球人は感染防御服を着ないで外に出ることはしない。

地球の国の数は200ほどあったが、人口1億人以上の国は14カ国で人口1000万人以上の国は100国程度だ。

各国は異なる言葉を話し、共通語は英語だが誰もが話せるわけではない。

それぞれの国の生き延びている人間の数は多くない。

大国での生き残りが10万人だとすれば地球人の数はせいぜい140万人だ。

 イリヤス遠征隊のイグル人は国を創ることにした。

イリヤス遠征隊は10万人だ。

目的を持った人間が1ヶ所に定住し、外部からの干渉を排除できれば国はできる。

63500人はアッチラ遠征隊の隣の村127箇所で宇宙船暮らしをしている。

残りの34500人が居れば1ヶ所にまとまって町をつくることができる。

そこで食料を作るのだ。

 イリヤス遠征隊はアフリカ大陸東側のマダガスカル島に町を作った。

マダガスカル島は日本国よりも大きな面積を持ち島の東側は熱帯雨林だ。

島の住民はほとんど死に絶えていたが熱帯雨林には哺乳類の動物が生き残っていた。

イリヤス遠征隊は農業を始めた。

それは連作可能な水田農法で育てたのは米と同じような穀物だった。

宇宙船から異なる種類の耕作機械が降ろされ農地を整備していった。

イリヤス遠征隊は侵略した異星で農業を始めるように準備していたようだった。

 イリヤス遠征隊のマダガスカル島侵略に対してはマダガスカル共和国からも他のどこの国からも非難は起こらなかった。

地球人を守るべき責任がある(?)大国は自国内にアッチラ遠征隊の町ができているのを咎(とが)め立てもできないでいるし、広大な面積の国土を守るにはあまりに少ない兵士の数だったし、異星人が地球人を殺しまくっているわけでもなかった。

異星人がマダガスカル島に着陸したのも知らなかったのかもしれなかった。

自国を守るのに精一杯で余裕がなかったのだ。

そして、マダガスカル島では生き残っている人間は少なかったからだった。

イグル人の部分的地球侵略は一人の死者も出さずに成功した。

 ニューマンは実験室に篭(こも)って質量探知機を作っていた。

アッチラ遠征隊の一隻がアクアサンク海底国の戦闘機の攻撃を受けて消えてしまったことに責任を感じていたからだった。

質量探知機があれば何もない7次元位相界ではもし地球相当の質量が近くにあれば検出できるはずだと思っていたのだ。

 ニューマンの質量探知機は球形の金属ボールの表面に薄い膜を張った物だった。

質量を感じたら金属ボールは歪み、表面に薄膜の干渉縞(かんしょうじま)が生じるはずだ。

その変形を検出すれば物体の有無が分かるだろうと考えたのだった。

金属球を高い7次元位相界からゆっくり降下させれば重い物体のある7次元位相界で金属ボールは変形するから物体が存在する7次元位相界が分かることになる。

後はその7次元位相界に行って電波で呼び掛ければいい。

 ニューマンはメレック号をアッチラ遠征隊の宇宙船がブラック隊の攻撃を受けて消えた場所に行って実験を行った。

当該宇宙船が遷移した7次元世界で移動していなければその場所にまだ居るであろうと考えた。

太陽系は大宇宙を高速で移動しているが7次元位相世界もゼロ位相界と同じように移動しているだろうと考えた。

 メレック号が行ける最高次の7次元位相界はガーザー発信機の周波数に依存する。

もし当該宇宙船がその位相界より低ければ質量探知機で検出できるかもしれないが、その位相界より高ければ絶対に見つからない。

ニューマンは実験室の中央に質量探知機を置きメレック号を高次7次元に遷移させてから外壁に掛けていた高電圧をゆっくり細かく逓減させた。

質量探知機の干渉膜は位相逓減途中で大きく変化した場合があった。

何回かの位相逓減実験でメレック号はアッチラ遠征隊の宇宙船が存在していると思われる7次元位相界に留まることができるようになった。

そこは周囲に星が見えない、重力もない暗黒の世界だった。

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