第38話 36、アメリカ合衆国と中華人民共和国の現状 

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 通路の先の扉を通り過ぎるとディスプレイが付いたコンソールが並んだ部屋になった。

コンソールの数は多かったがコンソールの前に座っているのは四人だけで全員がニューマンの方を凝視していた。

広い部屋にたった四人しかいないのは人手不足のようだった。

 「やあ、ここはアメリカ合衆国の司令本部らしいね。こんにちは。ホワイトハウスを見物しているうちにここに来てしまった。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。現在のアメリカ合衆国の代表は疫病前の大統領ですか。」

「そっ、そうだ。」

一人が答えた。

 「疫病に罹らなかったのですね。大統領とお会いしたいと思います。大統領はどこに居られると思いますか。」

「大統領の居場所は分かりません。でもここに向かっているはずです。そちらの呼びかけが聞こえていたはずですから。」

その時電話が鳴った。

受けた男が応答した。

「大丈夫だと思います。ここにアクアサンク海底国のニューマンさんが居られ大統領と会いたいと申しております。・・・了解しました。」

 電話が切れて暫(しばら)く経って前の扉が開いて6人の男達が入って来た。

1人がニューマンの方に進み出て言った。

「ニューマンさんですか。私はアメリカ合衆国臨時政府の大統領のケント・ブライスです。お初にお目にかかります。何か御用でしょうか。」

「アクアサンク海底国のニューマンです。隣は母のシークレットです。今日は私が作ったホムスク語ー日本語の通訳機をアメリカ合衆国臨時政府にプレゼントしに参りました。必要ならホムスク語ー英語の通訳機をお作りください。」

 「ありがとうございます。なぜプレゼントしてくれるのですか。」

「地球人が侵略者の異星人と会話できるようになるためです。侵略者は2部隊あり、一つは1000mの巨大宇宙船128隻で来たホムスクロボット人のアッチラ遠征隊、一つは100mの宇宙船多数で来たイグル人のイリヤス遠征隊です。ホムスクロボット人が話す言葉がホムスク語です。イグル人が話す言葉はイグル語ですが私はイグル人にホムスク語を教えました。ですからホムスク語ー地球語の通訳機を作れば異星人侵略者達と会話することができます。もちろん会話しなくてもいいですけどね。」

 「なぜ会話しなければならないのですか。我々の独立を保持するため侵略者は排除されなければなりません。」

「二つの問題点があります。一つは侵略者が圧倒的に強いことです。侵略者を排除することはできません。もう一つの問題点は地球人の人口が激減したことです。数万人の集団では現在の文明を維持することはできません。もちろん致死性病原菌が浮遊するアメリカ合衆国全土を統治することもできません。新しい生活スタイルを模索すべきです。」

 「アメリカ合衆国がどうするかは我々が決めます。でもホムスク語を知っていても問題は生じません。ありがたくホムスク語ー日本語の通訳機をいただくことにいたします。」

「分かりました。ホムスク語ー日本語の通訳機はここでは渡せませんからホワイトハウスの大統領執務室のデスクの上に置いておきましょう。使い方は簡単です。」

「了解。・・・ところでこの状態はどうなっているのでしょうか。」

 「私の宇宙船は現世の隣の隣接7次元世界におります。幽霊の世界ですね。位相が違うので重なることができるのです。幽霊も同じです。アッチラ遠征隊の巨大宇宙船は常に隣接7次元世界におり、我々の攻撃を避けて地面と重なっております。我々にはどうにもできません。もしアメリカ合衆国が攻撃の手段をお持ちなら教えてください。それでは失礼いたします。」

ニューマンはメレック号を上昇させ、地上でホムスク語ー日本語の通訳機を戦闘機の乗員に渡して大統領執務室のデスクの上に置かせた。

 ニューマンは中華人民共和国にもホムスク語ー日本語の通訳機を持って行った。

中華人民共和国は弱い国には居丈高になる傾向にあるので500機の戦闘機を護衛につけて北京市上空50㎞から地上500mに降下して展開した。

戦闘機はわざとレーダーに掛かるように7次元シールドを張って7次元ゼロ位相に存在した。

果たして迎撃戦闘機3機が上空に舞い上がって来た。

アクアサンク海底国の戦闘機は迎撃機が上がってくると隣接7次元に遷移しレーダーから消えた。

ニューマンは迎撃戦闘機の誰何が始まる前に243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して英語で呼びかけた。

ニューマンは中国語を知らなかったのだ。

 「眼下の町の住民に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけている。代表者は同一周波数の電波で応答せよ。繰り返す。眼下の町の住民に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけている。住民の代表者は同一周波数の電波で応答せよ。」

ニューマンの声は住民の頭の中では中国語で聞こえる。

住民に聞こえない電波では英語だ。

戦闘機の誰何(すいか)が始まった。

 「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。ここは中華人民共和国の領空である。多数の戦闘機と共に即刻上空から退去することを命ずる。」

「こちらアクアサンク海底国のニューマン。死を恐れない勇敢な3機の戦闘機のパイロットに問う。所属はどこか。」

「・・・中華人民共和国首都防衛隊だ。」

「了解。中華人民共和国首都防衛隊の3機の戦闘機のパイロットに告げる。退去命令は拒否する。実力で退去させようとしてもかまわない。攻撃には反撃する。」

「・・・。」

中華人民共和国首都防衛隊の戦闘機は反転し去って行った。

レーダーにも映らない500機の戦闘機を相手に攻撃などできるはずがない。

アクアサンク海底国の戦闘機3機が後を追った。

アクアサンク海底国の戦闘機の方が加速に優れていたので着陸まで振り切ることはできなかった。

 暫く経って電波での呼びかけがあった。

「アクアサンク海底国のニューマンに伝える。中華人民共和国の羅士勇首席がお答えになられる。」

「了解。どうぞ。」

「・・・(羅士勇です。どのような御用でしょうか。)」

中国語だった。

「私は中国語が話せません。それゆえ脳波発信機で呼びかけました。できれば英語で話してくれませんか。あるいは対面して話しませんか。対面すれば脳波通訳機を使って互いに母国語で話すことができます。」

 「私は頭の中で声が聞こえる通訳機で話したいと思います。」

英語だった。

「了解。対面して話しましょう。しかもどちらも絶対的に安全な状態で会談できます。同じ方法でアメリカ合衆国臨時政府のケント・ブライス大統領と昨日話して来ました。これから方法を説明します。」

 結局、ニューマンは羅士勇首席を広い居間のソファーに掛けさせ、そこにメレック号の操縦室を重ねて会談した。

居間の隅には護衛の兵士が居たが兵士たちはメレック号の仕切り壁の中に重なっていた。

居心地が悪そうだった。

 「羅士勇首席、今の状態を説明します。首席は現世に存在して居間に腰掛けております。私は現世の隣の隣接7次元に居る宇宙船メレック号の操縦室におります。居間と操縦室は7次元位相が異なっているのでパラパラ漫画のように交互に重なることができるのです。ですから首席は私の体を通して背景を見ることができます。もちろん握手はできません。」

「分かりました。信じ難い科学技術ですね。アクアサンク海底国はこんなに進んでいたのですね。」

「侵略者もこの技術を使っております。ですからレーダーにも掛からず弾丸やミサイルは通り過ぎてしまうのです。

 「お話は侵略者のことですか。」

「そうです。現在地球は二つのグループから侵略されています。一つは最初に来たアッチラ遠征隊です。1000mの巨大な宇宙船128隻で来ました。乗員はロボット人で圧倒的な科学技術を持っておりホムスク語を話します。もう一つは最近来たイリヤス遠征隊です。100mの宇宙船多数で来ました。乗員はイグル人でイグル語を話します。私はイグル人にホムスク語と日本語を教えました。ですから両異星人侵略者はホムスク語を話すことになります。」

 「伝染病を広げたのは異星人ですか。」

「そうです。アッチラ遠征隊が撒きました。何十億人もいる地球人を殺すには一番効率が良いからです。目論み通り地球人は激減しました。しかも今だに病原菌は空中を浮遊し、外での生活はできない状況です。ロボット人には好都合の状況です。・・・アッチラ遠征隊は世界に127ヶ所の町を作りました。中華人民共和国にはいくつかアッチラ遠征隊の町ができていますね。町の地下には宇宙船が隣接7次元で潜(もぐ)っています。イリヤス遠征隊は安全のためかアッチラ遠征隊の町の隣に村を作っております。だいたい1村で宇宙船5隻が停泊しております。羅首席はこのような状況下でどのように対処するおつもりでしょうか。」

 「どうにもなりません。核兵器も戦闘機も有り余っていますがそれを運用できる人間がおりません。また核兵器を使っても逆に核兵器で攻撃されるでしょう。十数億人の人間が居ればたとえ核攻撃されても生き残る人間が必ずおります。一般兵器を使って人間を殺しても十数億の人間を殺すのは大変です。でも人間が居なければ核兵器でも一般兵器でも皆殺しが可能です。ほんとにどうにもなりません。」

「私もそう思います。それに核攻撃はイリヤス遠征隊には効くかもしれませんがアッチラ遠征隊には効きません。攻撃しない方がいいと思います。」

 「侵略者は攻撃してこないのですか。」

「分かりません。でもアッチラ遠征隊は当分町から出てこないと思います。アクアサンク海底国と停戦しましたから。アクアサンク海底国は攻撃しないしアッチラ遠征隊は町から出ないと言う約束です。イリヤス遠征隊とは停戦しておりませんから攻撃して来たら反撃します。」

 「圧倒的に強いアッチラ遠征隊とよく停戦できましたね。」

「我々の方が強かったからです。我々の宇宙船は相手の宇宙船と町に損傷を与えることができますが相手は我々の宇宙船を破壊できません。」

「それなら勝てるじゃあないですか。」

「勝てません。相手は地球を破壊することができますから。地球を消されたら我々はどこかの惑星を探さなければなりません。でも恒星間飛行はできません。我々は火星にでも行くしかなく火星では自給自足できる人数は限られておりますから結局は死滅することになります。」

 「ニューマンさんがここに来られた理由は何ですか。」

「私が作ったホムスク語ー日本語の通訳機をプレゼントするためです。その通訳機があればホムスク語ー中国語の通訳機を作ることができます。侵略者達と会話をすることができるようになるのです。」

「それがニューマンさんが考えた地球人の生き残る方法ですか。」

「その通りです。人数が減った地球人は数世代で発展は止まり次の数世代で現代文明を失います。異星人と交われば新たな発展を期待できるかもしれません。」

 「中国では十数億人いた人間が数万人になってしまいました。しかも人員構成は火星から来た一般人が大部分です。このままでは滅亡です。」

「せめて全世界の生き残りが集まればいいでしょうが互いに張り合っているから無理でしょうね。」

「アクアサンク海底国はどのようにするおつもりですか。」

 「アクアサンク海底国はお金持ちでしたからこれまでは材料から製品まで全て買うことができました。お金が通用しなくなった現在欲しいものは自前で調達しなければなりません。工場を倍増し多種の一般製品を作ると共に原料を調達しております。まあ人間が居ないから強奪ですね。どれもこれも作るというわけではなく必要な物が出て来たらそれを作るというやり方です。」

「中国も早くそうなればいいのですが今は有るものを使うという段階です。」

「中国は広いですし人口も少ないから10年や20年は大丈夫だと思います。」

 「ホムスク語ー日本語の通訳機をいただこうと思います。」

「了解。次はホムスク語で会談しましょう。」

「ニューマンさんはホムスク語が話せるのですか。」

「アッチラ遠征隊の指導者とホムスク語で会談しましたから何とか通じるようです。」

「それは羨(うらや)ましいですね。」

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