第37話 35、日本にホムスク通訳機を贈呈
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世界の各地では生き残った人間が集団を作っていた。
集団の主体は軍隊で、生き残った人間が集団に吸収されていった。
軍隊は上下関係がはっきりしており、何よりも武器を持っている集団だから安全だ。
最初、集団に集まった一般人は自分たちが避難民だと思っていた。
税金を払っていた政府に避難民として面倒を見てもらおうとしていた。
だがすぐに働かなければ生きていけないと分かるようになり、与えられた仕事を無償でするようになった。
日本においては東京の周囲に臨時日本国ができていた。
臨時日本国の主体は自衛隊の生き残りで、以前ニューマンに会いに来た原子力潜水艦『飛龍』の乗員も入っていた。
ニューマンはホムスク語ー日本語の通訳機を渡すために護衛戦闘機10機を連ねて清水の研究所からメレック号で東京に出かけた。
隣接7次元で7次元シールドを張っていた。
レーダーでは検知されず、分子分解砲もミサイルも銃弾も通り抜け、物質の遷移も跳ね返す状態だった。
メレック号は高度5000mで東京を周回したがどこからの誰何もされなかった。
ニューマンは増幅器を付けたホムスク通訳機と緊急用電波で呼びかけた。
「眼下の町の住民の代表に告げます。私はアクアサンク海底国のニューマンです。高度5000mから243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけております。代表者は同一周波数の電波で応答してください。・・・繰り返します。眼下の町の住民の代表に告げます。私はアクアサンク海底国のニューマンです。高度5000mから243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけております。代表者は同一周波数の電波で応答してください。」
応答は直ちに来た。
「アクアサンク海底国のニューマンに伝える。こちら首都防空隊。レーダーには映っていないが何用か。」
「首都防空隊の発信者に伝える。眼下の町の住民の代表者の応答を要請している。貴殿は眼下の町の代表者か。」
「・・・通信の代表者だ。何用か。」
「なるほど。色々な代表者はあるものだな。・・・通信の代表者、地球人を殺すために病原菌を地球に撒いたアッチラ遠征隊を知っているか。」
「知らない。」
「地球を侵略しようとして来たイリヤス遠征隊を知っているか。」
「知らない。」
「アッチラ遠征隊とイリヤス遠征隊の言語を知っているか。」
「知らない。」
「アッチラ遠征隊およびイリヤス遠征隊と連絡を取りたいか。」
「分からない。」
「分かるようになったら連絡せよ。以上だ。通信終わり。」
ニューマンは少し意地悪した。
東京の周辺には新しい人間集団ができているようだった。
少なくとも首都防空隊と名乗る者が呼びかけに直ちに無線で応えた。
組織立っている人間集団だ。
ニューマンはメレック号で首都東京の周囲を旋回した。
利根川の流域には青々とした水田と温室畑が広がっていた。
水田は機械化されており植え付けから収穫まで人手を必要としない。
温室畑は室内を陽圧にできるから病原菌の感染を防ぐことができる。
数万の人間を養っていくには十分な耕作面積だった。
メレック号が再び東京上空に戻ってくると呼びかけがあった。
「アクアサンク海底国のニューマン殿に告げます。こちら日本国緊急東京政府総理大臣の大岩俊輔(おおいわしゅんすけ)です。応答を願います。」
ニューマンは脳波型のホムスク通訳機と緊急用電波で応えた。
「日本国緊急東京政府の大岩俊輔総理大臣に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。現在、脳波型のホムスク通訳機と緊急用電波で応えております。・・・どうぞ。」
「アッチラ遠征隊とイリヤス遠征隊のことを聞きました。今回ニューマンさんがここに来られ我々に呼びかけられた理由は何でしょうか。」
「ここに来て呼びかけたのは私が作ったホムスク語ー日本語の通訳機を差し上げるためです。」
「ホムスク語とはどんな言葉でしょうか。」
「地球に侵略して来たアッチラ遠征隊が話す言葉です。」
「何故(なにゆえ)アッチラ遠征隊の言葉を教えてくれるのでしょうか。」
「・・・地球人が生き延びるための道の一つを作るためです。・・・長さ1000mの巨大艦128隻で地球に来たアッチラ遠征隊はホムスクロボット人1万2千8百人で構成され、圧倒的な科学力を持ち、地球に病原菌を撒いた侵略者でホムスク語を話します。強力すぎて排除はできません。現在は127ヶ所で町を作っております。・・・また長さ100mの宇宙船多数で地球に来たイリヤス遠征隊はイグル人で構成され、超空間通信に誘発されて最近地球に来た侵略者でイグル語を話します。数と人数はまだ分かりません。排除できるかどうかも不明です。私はイグル人に日本語とホムスク語を教えました。ホムスク語ー日本語の通訳機はアメリカ合衆国、中華人民共和国、その他の国々にもプレゼントする予定です。地球人がホムスク語を話すようになれば地球人は少なくとも異星人の侵略者達と会話をすることができるようになります。」
「それがなぜ地球人が生き延びるための道の一つなのでしょうか。」
「公(おおやけ)の通信で話す内容ではないと思いますが簡単に言います。・・・高致死性高伝染性の病原菌が撒かれてしまい地球人は激減しました。激減した地球人が生き残るのにはいくつかの道があります。一つは異星人から隠れながら生き残りだけで生きていく方法です。その場合、最初はうまくいくと思います。でも子供、孫、ひ孫の代になれば現在の文明を継承あるいは発展させることが難しくなります。人口は簡単には増えないからです。数百年経てば地球人世界は自給自足の農業世界になり、地球は自然と地球に居着いたロボット人の世界になります。・・・地球人が生き残る二つ目の方法は世界中にホムスク語を広げホムスクロボット人やイグル人と積極的に交流することです。恒星間飛行の技術を学び地球人の科学文明を一気に高めるのです。どうなるかは想像できませんが農業世界にはならないと思います。ホムスク語を世界に広め異星人と積極的に交流することが地球人が生き延びる第二の方法だと思います。」
「異星人を排斥するのではなく異星人を積極的に受け入れようとするのですね。」
「そうです。」
「でも地球に来る異星人が友好的な異星人だけとは限らないですね。」
「そうです。もともとアッチラ遠征隊もイリヤス遠征隊も敵対的でした。アッチラ遠征隊はアクアサンク海底国の戦闘機に宇宙船を壊され町に爆弾を落とされてようやく停戦することにしました。イリヤス遠征隊はアクアサンク海底国の科学技術に驚いて敵対性を隠しております。上手くすれば次に来る異星人も敵対から友好に変わるかもしれません。」
「ニューマンさんは地球を異星人の溜まり場にしようとお考えなのですか。」
「そうです。出ていってくれないのなら、あるいは追い出すことができないのなら積極的に受け入れた方が隠れて衰退するよりいいと思いました。」
「分かりました。ホムスク語ー日本語の通訳機を有り難く頂戴しようと思います。日本国はよく考えて対応しようと思います。」
「了解。プレゼントいたします。」
ニューマンはホムスク語ー日本語の通訳機を護衛の戦闘機を介して上空3000mで渡した。
その夜、ニューマンはホムスク語ー日本語の通訳機をプレゼントするためアメリカ合衆国の新しい町に行った。
場所は大統領の住んでいたホワイトハウスがあったワシントンDCだった。
ワシントン町は東京町と同じく新しい町の住民の多くは火星の北アメリカ町の住民であり、およそ10万人が住んでいた。
火星では食料やエネルギーの生産ができなかったので地球からの供給が無くなればたとえ地球が致死的病原菌で汚れていても地球に戻って来ざるを得なかったのだ。
護衛戦闘機20機を引き連れニューマンはワシントン上空50㎞から500mまで降下し、243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して英語で呼びかけた。
「眼下の町の住民に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけている。代表者は同一周波数の電波で応答せよ。繰り返す。眼下の町の住民に告げる。こちらアクアサンク海底国のニューマン。243メガヘルツの国際緊急周波数の電波と脳波発信機を通して呼びかけている。代表者は同一周波数の電波で応答せよ。」
応答は直ぐに来た。
「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。こちらアメリカ合衆国臨時政府だ。頭の中でも声が聞こえる。脳波発信機のためか。」
「そうだ。増幅回路を通して私の声を送っている。言葉が通じない人間や動物への一方的な告知に使われている。言葉を持つ犬、猫などは異常な行動を取るかもしれない。神の声のように聞こえるのかもしれない。」
「何用か。」
「何用だと思うか。ミスター、アメリカ合衆国臨時政府君。私が呼びかけているのは代表者だ。代表者と話す。」
「アクアサンク海底国のニューマンに告げる。何用か。」
「・・・。」
ニューマンは返事をしなかった。
ニューマンはまた意地悪をしたのだ。
待っている間、ニューマンはホワイトハウス観光をした。
メレック号をホワイトハウスに重ね内部を観光した。
家の中には人間は居なかった。
有名な執務室(オーバルオフィス)を覗き、地下に伸びるエレベーターに沿って下降し核シェルターを見た。
エレベーターに接する何本かの抜け道を見つけた。
どれも広い通路で電動自動車が停車していた。
地下鉄の駅に通じている抜け道もあれば高速道路に通じている道もあった。
ある抜け道に沿って進み扉を通り過ぎると銃を持った衛士が扉を守っていた。
衛士は自分を通り抜けている宇宙船に驚いたが銃は発砲しなかった。
「驚くことはない。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。隣接7次元、簡単に言うと幽霊の世界に居るから物体を通り過ぎることができる。脳波発信機を通して語りかけている。驚くことはない。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。落ち着け。」
ニューマンがそう言うと衛士は銃を落とし頭を抱えて床に突っ伏した。
衛兵の頭の中で頭が割れんばかりの大声でニューマンの声が聞こえたのだ。
ニューマンは慌(あわ)てて脳波発信機の増幅器を外してから言った。
「すまなかった。増幅器を接続したまま話してしまった。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。ホワイトハウスを見物していたらここに来てしまった。君が見えているのは私の宇宙船の操縦室だ。空間的に重なっているから操縦室と通路の両方が見える。・・・大丈夫か。」
「大丈夫だ。」
衛士は銃を拾ってから言った。
「ここは何だい。」
「司令本部だ。」
「おやおや、重要な場所に来てしまったな。この通路を進めば皆さんがいるのかな。」
「待て。止まれ。」
衛士は銃をニューマンに向けた。
「銃弾は通り過ぎるから通用しないよ。でも止まってあげる。で、どうする。」
「・・・行ってもいい。」
衛士は渋々言った。
「了解。」
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