第31話 29、7次元シールド発生機 

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 五十鈴川玲子が言った。

「ニューマンさん、ちょっと頼んでもいいかしら。」

「何だい、玲子さん。」

「小説の視聴装置を貸して欲しいんだけど。頼んでくれない。G14号の宇宙船にある小説の後の小説も読んでみたいの。大航宙時代までの小説とその後の小説を比べてみたいの。特に最新の小説。文明が飽和して退化しなくなった文明下での小説を読んでみたいの。」

 「OK。・・・フリーダム町長さん、最新のホムスク小説を読みたいんだが小説が読める視聴装置を貸してくれないだろうか。」

「ふふっ、よろしいですよ。五十鈴川玲子さんでしたね。大航宙時代までの小説で何が一番良かったですか。」

「カール・ヘルベルト・シェールの『大宇宙の深淵に向けて』が一番好きです。何度も泣けました。」

「その話は私も好きですよ。ホムスク文字もご存知なのですね。」

「大昔から変わっていなければ読めます。」

「了解。お帰りの時にさしあげます。」

「ありがとうございます、フリーダム町長さん。」

 ニューマン達は個人用7次元シールド発生装置と小説の視聴装置を持ってメレック号に戻った。

フリーダム町長と町の住民は宇宙船を見送った。

町の住民はホムスク人が自分たちに如何なる圧力をかけるかを知ったし、ニューマン達はホムスクロボット人とその町を知った。

 個人用7次元シールド発生装置は素晴らしい装置だった。

宇宙スクーターに乗って移動してもスクーター全体をシールドが包んだし、シールドを張って地上を歩くこともできた。

シールドの厚みが厚く地面との摩擦が生じているらしい。

実験は簡単なタイマーをスイッチに取り付けて無人で行われた。

時間がくればスイッチが入り、時間がくればスイッチが切れる。

 シールドは分子分解砲も機関砲弾も跳ね返し、その時には装置は微動だにしなかった。

サイクロトロン銃は7次元シールドを突破して中のダミー人形を吹き飛ばした。

その時には、装置は強い力を受けて跳ね飛んだ。

ドライアイスをシールド内に入れるとシールド内の炭酸ガスは暫くすると外気に置き換わった。

低分子量物質は通るようだ。

雨粒の水は分子量が酸素分子より小さいが液体の水は会合体を作っているから通らない。

水蒸気は通るのだろう。

水中においてはシールドは大きな泡になったが不思議なことに浮力は生じなかった。

その泡内での空気の交換は起こらず、人間が入っていたら人間は窒息する。

 7次元シールド発生装置の分解は慎重に行われた。

グラインダーで表面を削ると傷は直ちに修復された。

分子分解メスで表面を削っても傷跡は直ちに修復された。

7次元シールド発生装置の筐体(きょうたい)は生きているようだった。

今も機能しているナノロボットなのだろう。

 ニューマンはグラインダーで表面を少しずつ削って修復させ、再び削って修復させた。

やがて筐体は薄い膜になり、薄い幕をさらに少し削ると筐体は一気に崩れ落ちた。

筐体としての機能が達成できなくなったのであろう。

筐体のナノロボットは無くなり中身が剥(む)き出しになった

ニューマンは剥き出しの7次元シールド発生装置を研究所地下の実験室に運び、長らくじっと眺めていたがゆっくりと機能調査を始めた。

 1ヶ月ほどして五十鈴川玲子が研究所に来てニューマンに言った。

「こんにちわ、ニューマンさん。研究は捗(はかど)っているの。」

「なかなか機構を理解するのが難しくてね。」

「ニューマンさんが興味を持つと思って小説情報を持ってきたの。7次元シールドの発見物語よ。この前もらった視聴装置の中に入っていたの。役立つかしら。」

「きっと大いに役立つよ。どんな物語なんだい。」

 「何かここと似ているの。最初に7次元世界への道が発見され、隣接7次元って世界も分かるようになったの。それから主人公は7次元世界の幕を考えたの。ニューマンさんと同じね。主人公は空中配線ってアイデアを考えてその線に沿って7次元世界を展開したわけ。どう、そっくりでしょ。」

「そっくりだよ。その空中配線ってのはどんな配線なんだい。」

「そりゃあ空中に電線みたいものを通すんでしょ。主人公は釣りをして思いついたの。波は色々な波長の波の重ね合わせでしょ。だから位相が偶然合うと何十メートルの大波ができるんですって。それと同じように色々な波長の電波を合わせると特定の位置に強烈な電波の電場幕ができるんですって。その電場幕に沿って色々な7次元世界を展開するわけ。」

 「そうか。それで電波発信機構が入っていたのか。思いつかなかった。」

「どう、役に立った。」

「大いに役に立つ。7次元シールドを作ることができそうだよ。その小説を今読ましてくれないか。玲子さんにはコーヒーを淹れるよ。コーヒーを飲んでる間に読み終わる。」

「ニューマンさんは速読ができるの。」

「1秒で1ページが読める。記憶装置付きだよ。200ページ程度なら200秒、4分間で読み終える。この能力は父さんと同じだよ。」

「コーヒーを淹れて。視聴装置は持ってきたわ。」

 ニューマンは玲子がコーヒーを飲んでいる間に小説「7次元シールド発明物語」を読み終えた。

物語はニューマンが悩んでいたシールドを外部に展開する方法が記載されていた。

7次元位相界を空中配線に乗せる方法も、色々な7次元位相界を作り出す方法も小説の話の中で記載されていた。

読み終えてニューマンは言った。

 「玲子さん、感謝。7次元シールドを作ることができそうだよ。7次元世界がこんな簡単に作ることができるとは思っていなかった。」

「役立って良かったわね。物語にもなっているのだからホムスク星では7次元シールドは当たり前のことなのね。」

「そういうことだ。」

 2週間後、ニューマンは自作の7次元シールド装置とホムスク製の個人用7次元シールド装置を持ってマリアナ海溝の第一海底基地の父に会いに行った。

父は以前と同じ様子だった。

「ニューマン、なかなか凛々(りり)しくなったな。7次元シールドができたんだって。」

「はい、父さん。猪苗代湖の異星ロボット人に会いに行って個人用7次元シールドを10個もらって来ました。これがそうです。」

 ニューマンは角が滑らかな小さな箱を父に渡した。

「使い方は簡単でスイッチカバーを開いてスイッチを入れれば体の周りに7次元シールドが展開されます。箱の中身は全て機能を持ったナノロボットで出来ているようです。筐体に傷をつけても素早く修復されます。」

「機能を持ったナノロボットか。想像もできない技術だな。」

「はい、そう思いました。・・・筐体を少しずつ削って中身を出したのですが理解できない多数の箇所がありました。悩んでいる時、7次元シールドの発見物語を読んで機構を理解できるようになりました。それに基づいて試作した僕の7次元シールド発生装置がこれです。」

 ニューマンは50㎝方形の装置を父の前に置いた。

「二つのダイアルはシールドの展開距離とシールドの厚さを設定します。あとはスイッチがあるだけです。展開距離は今のエネルギーセルでは半径30mです。分子分解砲も機関砲弾も跳ね返します。その時には装置は反動を受けません。空気は通しますが水は通しません。水中では気泡ができますが浮力は生じません。水中実験はあまりしていません。」

「要するに実用できる7次元シールドができたのだな。」

「そうです、父さん。これで敵からの遷移攻撃を跳ね返すことができます。」

 「設計図は持って来たか。」

「はい。一応の設計図と概念図を持って来ました。

そう言ってニューマンは少し厚めのファイルを渡した。

イスマイルは設計図を詳細に見てからニューマンに言った。

「空中配線か。気がつかなかったな。確かに空中に7次元位相界の幕ができそうだ。幕の電場での7次元位相界のブレークダウン(絶縁破壊)ってわけだ。・・・地球大気に漂っている病原菌は通るのか。」

 「試(ため)すことはできませんでしたが異星人の話では病原菌は通過できないだろうとのことでした。雨水は通りませんでした。雨水の分子量は実質6倍体の100です。病原菌の分子量はそれよりと大きいと思います。」

「ということはエネルギーセルの数を増やせばロボット人町と同じような7次元シールドで囲まれた町を簡単に作ることができるな。ドームで町を密閉するよりずっと楽だ。」

「そう思います。分子分解砲でも核兵器でも破壊できないし遷移攻撃も受け付けないと聞いています。」

 「ふふふっ。ロボット人は驚くだろうな。ホムスク文明の究極の防御装置が程度の低い惑星でできたんだからな。」

「その惑星の住民は自分たちが持っていないサイクロトロン砲で7次元シールドを破ることができるのです。」

「そうだな。だがそんなことで相手を侮(あなど)ることは愚かだ。相手は人間を不死にできるらしいし、どんな病気も治すことができるようだし、ナノロボットを使って何でも作る技術を持っている。食料まで何でもな。人類がそれこそ1万年文明が続いてもできるかどうかは分からない技術だ。」

「肝に銘じます、父さん。」

 アクアサンク海底国は早速7次元シールドの生産を始めた。

1ヶ月後にはニューマンが試作した7次元シールド装置が出来上がり宇宙船に設置された。

筐体サイズがそれほど大きくなかったので全ての戦闘機と航宙母艦に設置した。

もちろんメレック号にも乙女号にも設置した。

研究所全体と隣接するマンションをシールドで包むためエネルギーセルの数を増やした7次元シールド発生装置が試作され、機能検査を経てから研究所にも設置された。

直径1000mの軍事衛星の7次元シールド装置の製作はさらに大変だった。

筐体(きょうたい)の大きさも大きくなった。

 7次元シールドと隣接7次元との関係は宇宙空間で無人の戦闘機で調べられた。

人間は幽霊とは違って隣接7次元には行けないからだった。

隣接7次元世界に居る戦闘機が7次元シールドを張ったら機関砲弾や分子分解ビームはどのようになるかが調べられた。

結果、隣接7次元が優先されることが分かった。

機関砲弾も分子分解砲のビームも戦闘機を通り過ぎた。

7次元シールドはシールド発生機が存在する7次元世界での攻撃に対して防御した。

 7次元シールドと地面との関係も調べられた。

7次元シールドは地中にも展開されているかどうかが調べられた。

結果、7次元シールドは地中には展開されていないことが分かった。

多数の周波数の電波の干渉で構成されている空中配線が地中深くでは形成されなかったためだった。

地上での7次元シールドは地中からの攻撃には弱いことになる。

 とは言え、7次元シールドが地中にまで展開されないことは復興には利点となった。

地中の水脈、水道、ガス、電気の地中配管がそのまま使えるからだった。

小川も水田もそのまま使える。

アクアサンク海底国の造船所は7次元シールド発生機の生産を始めた。

それは(生き残っている)人間が安心して暮らすことができる環境を保障する必須の装置だった。

 直径1000mの軍事衛星は7次元シールドが張れるようになると月の地下基地から地球の人工衛星軌道に戻った。

隣接7次元位相界に存在し、7次元シールドを張った状態で衛星軌道を周回した。

高速隕石が衝突するかもしれない宇宙空間では隣接7次元が効果的だったし、7次元シールドは遷移攻撃を防ぐことができるからだった。

ニューマンは巨大隕石が軍事衛星に衝突したら7次元シールドといえども過負荷になって無事には済まないだろうと思っていた。

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