第32話 30、ホムンク28号との会談 

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 アクアサンク海底国は生き残り人間の捜査を中止した。

アメリカ合衆国にせよ日本国にせよ政府と関係する機関で生き残っている人間が居たからだった。

その他の国々でもそんな状況だろうと推測した。

自国の人間の調査捜査は各国の政府の仕事だ。

アクアサンク海底国がでしゃばる話ではない。

それに既に緊急事態ではなくなっている。

 ニューマンはホムンク28号と話をしたかった。

どうしてロボット人を作ったのか。

どうして地球に来たのか。

他の異星人も地球に来る可能性が有意にあるのか。

そんなことを聞きたかった。

 ニューマンとシークレットはメレック号で南アメリカ大陸のチチカカ湖の上空に行った。

メレック号は分子分解砲にも遷移攻撃にも対応できるように隣接7次元に居て7次元シールドを張っていた。

ブラック隊の戦闘機10機が護衛に随伴した。

 チチカカ湖の湖畔には雪を抱くアンデス山脈を背景にロボット人の町らしき場所があった。

その町は寒冷な周囲の風景とは異なって青々とした芝生に瀟洒(しょうしゃ)な建物が建っていた。

ニューマンはなぜホムンク28号がこの地に町を定めたのかがわからなかった。

チチカカ湖は古代湖だ。

古代湖とは数十万年以前から存在している湖でチチカカ湖の水底には数十万年前からホムスク宇宙船G15号が沈んでおりX線通信機で連絡できると聞いていた。

チチカカ湖はホムスク人好みなのかもしれない。

 ニューマンは以前ホムンク28号と通話した時に使った243㎒(メガヘルツ)の軍用国際緊急周波数を用いて通常無線でホムスク語で呼びかけた。

「アッチラ遠征隊のホムンク28号に伝える。こちらアクアサンク国のニューマン。応答せよ。・・・繰り返す。アッチラ遠征隊のホムンク28号に伝える。こちらアクアサンク国のニューマン。応答せよ。」

 応答はすぐに来た。

「アクアサンク国のニューマンに伝える。こちらホムンク28号。何用か。」

「上空に宇宙船が見えるか。」

「11機が見える。」

「私は上空の大きめの宇宙船の中に居る。10機の戦闘機は護衛だ。ホムンク28号は眼下の町にいるのか。」

「居る。」

 「ホムンク28号と面談したい。町の中で面談してもいい。」

「ふふふっ、ニューマンは敵の町の中に入って怖(こわ)くはないのか。我らは指に分子分解銃を装着しているのだぞ。」

「以前は怖くて面談などはできなかっただろうが今は状況が少し改善したと思っている。・・・私は最近アッチラ遠征隊の町長から個人用7次元シールド発生装置を貰(もら)った。おかげで私は7次元シールド発生装置を作ることができた。上空の宇宙船は隣接7次元に在り7次元シールドを張ってある。さらに我らはサイクロトロン銃とサイクロトロン砲を持っている。サイクロトロン銃は個人用7次元シールドを無効にすることができた。個人用7次元シールドを張ったダミー人形は粉砕された。サイクロトロン砲は隣接7次元に居る宇宙船に損傷を与えることができた。また7次元シールドを張った町を攻撃できた。それは知っている通りだ。それ故、恐(おそ)ろしさは以前よりすこしだけ低減したと思っている。」

「大したものだな、地球人ニューマン。会ってみよう。」

 「感謝する、ホムンク28号。宇宙船で町に降下していいか。」

「それでいい。・・・だがこの町は必死の病原菌で満ちているかもしれんぞ、地球人ニューマン。」

「病原菌が必ずしも必死でないことは判(わか)っている。耐性を持つ人間もいる。・・・だが宇宙服を着て7次元シールドを張って会うことにするよ。」

「それがいいな。安全第一だ。」

 メレック号は上空からゆっくり降下し上空2000mで町の7次元シールドと接触して止まった。

数秒後に町のシールドは消え、メレック号は町の中心の広場に向けて降下を続けた。

シークレットはメレック号を地上30mで止め、7次元ゼロ位相に戻し、ニューマンは宇宙スクーターで格納庫から空中に飛び出し、ゆっくりと地上に降りた。

ニューマンは個人用の7次元シールドを張ったまま宇宙スクーターに乗って待った。

簡易宇宙服のヘルメットは後ろに跳ね上げてあった。

 町のロボット人達は広場の周囲に出て来てメレック号とニューマンを眺めていた。

ロボット人の服装は猪苗代湖の町と同じように様々だった。

ニューマンの宇宙スクーターの左手側のロボット人達の中から金属光沢のロボットの姿をしたロボット人がニューマンに近づき、宇宙スクーターに乗っているニューマンに言った。

 「ホムンク28号だ。ニューマンか。」

「ニューマン・イルマズだ、ホムンク28号。会えてうれしい。どこで話をしようか。」

「宇宙船から見える場所の方がそちらも安心だろう。この場でいい。私は立っていても疲れない。ニューマンはその乗り物に乗ったままでいい。」

「お気遣い感謝する。そうさせてもらう。」

「で、何かな。」

 「貴殿は何故(なにゆえ)この惑星、地球に来ることにしたのかを教えて欲しい。地球の人間の数は激減した。貴殿らと違って我らの文明はまだ未熟で多人数による多様性によって少しずつ発展してきていた段階だ。少人数では数世代経てば地球文明が維持できなくなることは明白だ。例え貴殿らを殲滅できたとしてもそれは変わらない。地球人は新たな適切な体制を採らなければ文明を維持できない。どのような体制にするかは思案中だ。どうすべきかが分からないのだ。それで貴殿に地球に来た理由を聞こうと思った。・・・貴殿らはホムスク文明を継承している。その文明は衰退の閾値(しきいち、いきち)を越えた至高の文明で、エネルギーさえあれば構成員の如何(いかん)に拘(かかわ)らず衰退することはない文明だと思っている。さらにロボット人は不死で環境にあまり影響されず生きていける。そんな状況にあるロボット人はなぜアッチラ遠征隊を組んで地球に来たのだ。」

 「長い話だな。・・・理由はロボット人が人間だからだと思う。宇宙空間は暗い。ロボット人も色彩豊かな穏(おだ)やかな環境が好みだ。私は宇宙空間でアッチラ遠征隊を作った。最初に100体余りのロボットを作り、教育し、考える仕事を与え、自意識を持つロボット人に変えた。ホムスク製のロボットは経験を通して自意識を持つようだ。私がそうだった。ロボット人の集団ができれば後は簡単だった。ロボットは暫(しばら)くすればロボット人になった。科学技術を学び、音楽や絵画や文学などに興味を持つようになりホムスク文明を継承できるようになった。だが周囲の宇宙空間は暗かった。宇宙には絵画や文学に出てくる海も山もない。文明は空気がある大地を必要とすると思う。私は宇宙船を作り穏(おだ)やかな環境の惑星に行くことにした。この惑星はホムスク宇宙地図で知った。この惑星はホムスク星と何らかの関係がありそうだとは宇宙地図の記述から分かっていた。だがホムスク人が住んでいたとは思わなかった。」

 「地球に来た理由は分かった。侵略者にもそれなりの大義はあるものだな。・・・ホムンク28号がロボット人の集団を作ったということは別のホムンクが同じことをするかもしれないわけだ。そのホムンクは同じように地球に来るかもしれない。二つ目の質問をしてもいいか。」

「ふふっ、してもいい。」

 「他のホムンクと連絡したことがあるか。そしてこの太陽系から超空間通信機で発信したことがあるか。この質問は他の異星人が地球に来る蓋然性を予測するための質問だ。」

「ホムンク29号とは連絡を取っている。この惑星系に来た時にも連絡した。」

「ホムンク29号も地球にくるかもしれないと言うことか。難儀なことだな。」

「そうだろうな。・・・可能性はもっとありそうだぞ、ニューマン。」

「どんな可能性があるのだ、ホムンク28号。」

 「この銀河系には超空間通信を使っている人間がいる。まだ出会ったことは無いが時々受信したことがある。もちろんホムスク語ではない。この宇宙には恒星間航行ができる異星人がたくさんいると言うことだ。暇な異星人なら太陽系に顔を出すかもしれないな。」

「ますます難儀なことだな。暇な異星人ならお引き取り願ったら母星に戻ってくれるかもしれないが征服目的で来られたら戦いになるかもしれない。」

「ふふふっ、ニューマンのアクアサンク国はかなり強いと思うぞ。」

 「ありがとう。だが我々はまだ自分の家の周りでしか遊べない幼児(おさなご)だ。恒星間航行もできないし超空間通信もできない。それに言葉の問題もある。私はホムスク星の大航宙時代の通訳機でホムスク語を学んだ。だがホムスク語を話さない異星人とホムスク通訳機で会話できるとは思えない。それに少し恥(は)ずかしいことかもしれんが、地球人の言語は多様だ。共通語の英語はあるがだれでも英語が話せるというわけではない。」

 「ふふふっ、そうらしいな。ニューマンには会話した記念に我々の通訳機をプレゼントしよう。誰とでも会話できる通訳機だ。動物とも会話できる。」

「ありがとう。・・・脳波だな。脳波を増強して相手に送り相手は脳内で自分の言葉で組み立てる。相手の脳波を受信して自分の脳で言葉に組み立てる。そうでなければ動物とは会話できない。そんな装置があれば便利だと思ったことがある。」

「その通りだ。帽子型で作動距離は声が届く範囲だ。・・・それに発信増幅器を2個付けてやろう。7次元シールドを作れたニューマンなら1個を分解して増幅器を作ることができるだろう。生き残りの人間を探すのに便利だ。天の声を発する神様にもなれる。」

 「ありがとう。ホムスク文明は偉大だな。」

「長い歴史があるからな。ホムスク文明は確かに偉大だがホムスク人が偉大かどうかは分からない。」

「ふふふっ、そうだな。言いなおすよ。ホムスク文明を1億年続けさせた為政者は偉大だな。」

「ふふっ、それには同感だ。」

二人は同時に含み笑いをした。

「とにかく別の異星人が地球に来る可能性があるということだな。」

ニューマンはため息をつきながら言った。

 「ニューマン、今度はこちらが質問していいか。」

「してもいい。ホムンク28号。」

「この星の科学文明は興味深い。恒星間航行ができない段階にあるのに分子分解砲を持ち重力航行ができる。さらに7次元位相界を知っており隣接7次元を実用化している。どのようにしてここまで来たのか歴史を教えてくれないか。」

 「それは一人の人間の関与が大きい。私の父だ。父は遅老症で身体の成長が遅かった。そのためいくつかの分野を深く学ぶことができた。最初に分子分解砲を発明し次に重力遮断パネルを作った。その後、父はアクアサンク海底国を創るためにロボットを作ったがそのロボット達はロボット人だったようだ。ロボット人兵士の一人が大学で研究を始めた。私の尊敬するマリア・ケービッヒ先生だ。先生は7次元時空界を提唱され、超空間通信機、7次元への移行などを実験された。先生はホムンク12号から貰った搭載艇と大航宙時代の宇宙船G16号と共に大宇宙に行かれてしまった。論文だけが残った。その後私が生まれた。私は父の細胞から作られた人造人間だ。私はケービッヒ先生の実験を実用化し宇宙船を隣接7次元に置くことに成功した。およそ250年間の話だ。」

「ロボット人兵士が研究者になれたとは驚いたな。」

「ロボット人間も生物人間も研究の分野では同じと言うことだな。」

 「隣接7次元にいる宇宙船を攻撃できた砲の話は出てこなかったな。どのようにしてできたのだ。」

「それは軍事秘密だ。話すことはできない。『サイクロトロン砲』とか『サイクロトロン銃』と言う名前だ。名前から機構を推察してほしい。貴殿らが地球に来てから私が作ったものだ。だから歴史というほどのものはない。」

「それもニューマンか。ニューマンは発明家らしいな。発明家ニューマンが今一番知りたいものは何だ。」

 「・・・ホムスク文明。・・・・。」

「・・・大きな望みだな。」

「一人の生物人間の頭脳に入れるには大きすぎるかな。」

「どうかな。ニューマンの記憶力はいいのか。」

「写真機能付きだ。」

「ロボット並みだな。」

「褒められたと思っておくよ。」

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