第33話 31、新たな侵入者 

<< 31、新たな侵入者 >>

 その時、建物の中から女性の姿をしたロボット人が出て来て野球帽型のヘルメットと2個の小箱をホムンク28号に手渡した。

ホムンク28号は「ありがとう。」と言ってヘルメットと小箱を受け取りニューマンに言った。

 「ニューマン、これがホムスクの脳波型通訳機だ。ニューマンにプレゼントする。小箱は増幅器だ。」

「ありがたく頂戴する。ロボット人には通じないのだな。」

ニューマンはヘルメットを受け取りながら言った。

「通じない。ロボット人が冠っても作動しない。大航宙時代の遺物だな。」

 「地球では役に立つ。・・・ホムンク28号、少し聞きたいことがある。私の場合、ここでの話は上空の宇宙船にいる母が無線で聞いている。ホムンク28号もそうしているのか。連絡なしで通訳機を持って来てくれた。それともホムスクのロボット人は離れていても互いに連絡できるのか。」

「よく気がついたな、ニューマン。我々は相手が特定できていれば離れていても連絡できる。地球人が使っている携帯電話みたいものだな。・・・だがそれは良いことでもあり悪いことでもある。」

 「悪いこと・・・か。ひょっとしてホムスク星とも連絡が取れるのか。」

「相手が特定できれば、・・・つまり電話番号が分かれば連絡できる。」

「凄いな。超空間通信機の最終形だ。ホムスク星の大航宙時代の超空間通信機は誰でも傍受できたと聞いている。時は偉大だな。・・・地球と火星の遠距離無線通信も周波数と暗号ジャミングでようやく相手を限定できている段階だ。電話番号方式になるにはまだ時間がかかるだろうな。それに超空間通信ではないのだからそんな方式になっても宇宙では使えない。・・・ホムスクロボット人の電脳には7次元世界に顔を出しているチップが入っているのか。」

 「入っている。ニューマンはなぜそんなことを聞くのだ。」

「ダルチンケービッヒ先生は宇宙船G14号のマザーからルテチウムとローレンシウムの1:1合金を貰った。その金属は比重500くらいで7次元位相界に顔を出しているらしい。先生はその合金をアンテナにして超空間通信機を作った。ホムスクロボットが超空間通信できるならそんな合金が入ったチップが使われているはずだと思ったからだ。」

 「7次元チップは超空間通信の他に7次元関係の幾つかの機能に関与している。」

「7次元関係の機能か。・・・思いつくのは短距離遷移だが・・・答えなくてもいいがホムスクロボット人はどんなことができるのだ。」

「テレポート(瞬間移動)とテレキネシス(念動力)だ。」

「凄い機能だな。ホムスク人がそんな機能を持ったロボットを近づけさせなかった理由がよく分かる。反乱でも起こされたら始末に負えない。・・・我々はルテチウムとローレンシウム1:1合金を作ることができない。だが生物人間の中にはテレポートやテレキネシスができる者もいるらしい。合金が無くても7次元に行けるかもしれないということだ。」

 「生物人間も大したものだな。」

「負け惜しみを言っただけだ。超能力者は非常に稀な現象だ。私はまだそんな人間を見たことがない。」

「ふふふっ。ニューマンはこれからどうするつもりだ。」

「これから考えることにする。今日はこれで帰る。また会えたらいいな。」

「楽しみに待っている。」

ニューマンは宇宙スクーターから降り、座席を跳ね上げ、脳波型通訳機と増幅器を格納し、再びスクーターに跨(またが)り、左手を立てながらメレック号に向けて上昇した。

 メレック号のシークレットはニューマンが操縦室に戻ると直ちにメレック号を高度50㎞まで上昇させてから言った。

「お帰り、ニューマン。」

「ただいま、母さん。」

「ホムンク28号の印象はどうだった。」

「底が見えない印象だった。悪人のような感じではなかった。」

 「当然だけど自信を持っているようだったわね。脳波型のホムスク通訳機も増幅器付きでプレゼントしてくれた。あれはニューマンに地球人に呼びかけて地球人を纏(まと)めろって言っていることよ。」

「選挙でもあったら便利だろうね。」

「ふふっ、そうね。」

 ホムスク通訳機はミミーと五十鈴川玲子を相手に試された。

玲子は「頭の中でニューマンさんの声が聞こえる。」と言い、ミミーは「頭の中の声なんて初めて聞いた。」と言った。

ニューマンも同じく頭の中での言葉を聞いた。

二人の相手が同時に話しかけると頭の中での言葉は意味をなさなくなった。

脳波型通訳機は一人が多人数に話しかける時とか1対1の会話に適しているようだった。

不思議なことに地上でニューマンが発する言葉は地下50mの研究所地下室まで届いたし、メレック号の中で発した言葉は地上まで届いた。

脳波を出さないシークレットには聞こえなかった。

 ホムスク人一家が清水に住むようになって2年が経過した。

3歳だった岩倉明美ちゃんも5歳になった。

ミミーは19歳、五十鈴川玲子は22歳、ニューマンも22歳になった。

日本国は人を集めて10000人ほどの人口の町を東京の近くに作った。

火星基地の人間を呼び戻したようだ。

 アメリカ合衆国も火星の北アメリカ町から人間を呼び戻してアメリカ東海岸に町を作った。

中華人民共和国もヨーロッパ連合もそこそこの町を作った。

オスマン連合、アフリカ連合、南アメリカ連合も町を作った。

それらの町は政治家と公務員と軍隊兵士が大部分を占めており、一般人の割合は少なかった。

大部分の都市は人影が見えない廃墟となっていた。

どの国も人間が欲しかった。

住民を安全に生活させることが国としての機能の一つとすれば国として機能しているかどうかは甚(はなは)だ疑問だった。

 ニューマンはミミーと五十鈴川玲子と岩倉一家にアメリカ町や日本町で暮らしたいかを聞いた。

ミミーは「ここが一番安全そうだから」と言って今の生活を選んだ。

五十鈴川玲子は「ここが一番楽しそうだから」と言って今の生活を選んだ。

岩倉一平は「ここが一番役にたちそうだから」と言って今の生活を選んだ。

 そんな状況下で見たことがない形の宇宙船が地球宙域に現れた。

アクアサンク海底国の受動的探知網は月の裏側で正体不明の宇宙船を探知した。

その宇宙船は大きなお盆を噛んだサメのように紡錘形の前方が円盤状になっており、長軸方向の長さは100m程度だった。

外殻には目立った突起はなく、背景が見えなかった事から通常の7次元ゼロ位相の現世にいることが分かった。

 正体不明の異星人宇宙船は地球にも姿を見せた。

人工衛星の低軌道で地表を数日間観測し、観測が終わると数機が衛星軌道から外れて地表に降下し人間の活動が見えない大都市の上空に留まった。

異星人宇宙船は北アメリカ大陸のニューヨーク上空にも現れた。

 ニューヨークは巨大な都市で立体道路が街中を縦横に張り巡らされていた。

だがそんな道路を走っている自動車は一台もなかった。

自動車事故の跡がいくつかで見られたが、道路に大きな損傷はなく、恣意的な破壊の跡も発見されなかった。

建物の破壊の跡はほとんど見られなかった。

アメリカ合衆国はワシントンを中心として新しい町を作っておりニューヨークはほとんど無人だったのだ。

異星人宇宙船はゆっくりと無人のニューヨーク上空を旋回しやがてどこかに去って行った。

 異星人宇宙船は北京の上空にも現れた。

中華人民共和国は巨大な北京市の一角に新たな町を作っていた。

「中華人民共和国」は迎撃機2機を発進させ、勇敢にも異星人宇宙船に対して中国語と英語で誰何(すいか)した。

「北京上空にいる宇宙船に告げる。ここは中華人民共和国の首都北京である。即刻、この領域から立ち去れ。さもなくば実力で排除する。」

異星人宇宙船はその言葉を理解しなかっただろうが宇宙船は直ちに上昇して宇宙空間に消えた。

 異星人にとって地球の現状を理解するのはなかなか難しかっただろう。

住民が居ない死んだ大都市があれば即座に迎撃機が出てくる都市もある。

夜の帳(とばり)に煌々と明るい光を発している小さな町もあれば完全な闇に沈む町もある。

植物は生い茂っているが哺乳類動物は見られず鳥が我が物顔で地上に降りている。

 異星人宇宙船は東京の上空にも現れた。

東京は度重なる地震災害に出会ったためか小単位で生活できる群体構造を持つ都市になっていた。

日本国政府(?)が作った新しい町は利根川の近くの群体都市の一つを利用して都市国家を造っていた。

国家と名乗るには外敵を排除できる武力を持っていなければならない。

都市国家日本(としこっかにっぽん)は生き残った自衛隊を集めてそうしていた。

 その日アクアサンク海底国のシルバー隊第一中隊第3小隊のアグネスは戦闘機で人間がいない大都市東京の廃墟を隣接7次元の状態で生き残りを探索していた。

隣接7次元は地面やビルディングを通り抜けることができるので大都市の地下街空間を調べるには便利なのだ。

アグネス戦闘機が地下から空中に出るとその上空には異星人の宇宙船が停止していた。

 「まあ、あれが報告にあった正体不明の宇宙船ね。ラッキー。」

アグネスは呟(つぶや)き真下から呼びかけた。

「上方の宇宙船に告げる。こちらアクアサンク海底国シルバー隊第一中隊第3小隊のアグネス戦闘機。この辺りでは見かけたことがない形の宇宙船だな。何者か。所属を述べられよ。・・・もちろんこれは誰何ではない。ここは日本国の上空だ。アクアサンク海底国の主権は及ばない。自分は興味本位で聞いている。」

相手宇宙船からの応答はなかった。

 隣接7次元にいるアクアサンク戦闘機はレーダーでは探知されない。

ましてや地上付近にいる戦闘機はレーダーでは探知できない。

建物の陰に入っている戦闘機を肉眼で見つけるのもまた難しい。

戦闘機からの電場発信は地上の建物からの発信と同じだ。

 「日本語は通じなかったかな。まあ当然かな。」

アグネスはそう独り言を言って英語で発信したが応答はなかった。

次にアグネスは聞いているかもしれないアッチラ遠征隊のロボット人を考慮し、出力を少し強めてからホムスク語で呼びかけた。

ホムスク語の呼びかけでも正体不明の異星人宇宙船からの応答はなかった。

「まあ、宇宙公用語のホムスク語も知らないなんて。あなた方は『もぐり』の異星人ね。ふふっ。」

そう言ってアグネスは仲間を呼ぶための警報を発した。

 一方、地上から強力な電波を受けた異星人宇宙船は直ちに前方上方に急加速した。

第5小隊のアグネス戦闘機も宇宙船に合わせて急加速した。

正体不明の宇宙船がどの程度の性能機能を持っているかを知ることは哨戒業務にとって重要なことだ。

もしも相手が10G以上の加速で逃走したら相手宇宙船は加速度中和装置を持っているかあるいは宇宙船の搭乗員は人間ではないと見当がつく。

 はたして正体不明の宇宙船は3G程度の加速度で逃走した。

それは生物人間が乗っており加速度中和装置を持っていないということだ。

アグネスは同程度の加速度で追尾した。

正体不明の宇宙船が人工衛星軌道の高度を越える頃、シルバー隊の500機が追跡に加わった。

サイクロトロンエンジンを積んだアクアサンク戦闘機は20G以上の加速度で飛行できたが相手宇宙船を追い越すことはしなかった。

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