第34話 32、イグル人との異位相会談 

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 正体不明の宇宙船は人工衛星軌道を越えて太陽方向に向かった。

その宇宙船は500機の戦闘機が追尾していることを知っているはずだ。

正体不明の宇宙船は急ブレーキをかけたり急カーブをしたりして500機の戦闘機を振り切ろうとしたが加速に優れたアクアサンク戦闘機を振り切ることはできなかった。

戦闘機の追尾を振り切れない宇宙船はどうするのか。             

結局どこかで対決しなければならなかった。

 当該宇宙船はやがて地球から150万㎞離れた地点を目指していることが分かった。

地球と太陽を結ぶ直線上にある地球から150万㎞の位置は「L1」と呼ばれるラグランジュ点として知られている。

そこは太陽と地球の重力が釣り合っている安定した位置であり地球と同じ公転周期を持つため多くの観測機器が浮遊している。

地球から見れば背景が太陽なので隠れるには都合がいい。


著者注32-1:


 L1ラグランジュ点には10隻の宇宙船が待っていた。

アクアサンク戦闘機に追われて来た宇宙船はそれらの宇宙船群を通り過ぎてから反転し仲間の宇宙船に加わろうとした。

アクアサンク戦闘機501機もそれを見て急停止した。

 アクアサンク海底国シルバー隊隊長のオーヤ(Oya)は少し戸惑っていた。

もともと東京で部下のアグネスが正体不明の宇宙船と出会い、呼びかけたら宇宙船が逃げ出したのでそれを追跡しただけだ。

別に相手宇宙船が攻撃をして来たわけではない。

それにたった1隻の宇宙船を500機もの戦闘機で追跡してしまった。

(名前のように)暇つぶしにそうしたのだが少し軽率だったと反省していた。

 オーヤ隊長は航宙母艦単機で相手艦の方にゆっくり進み300m手前で停止し英語で呼びかけた。

「前方の宇宙船群に告げる。こちらから攻撃する意思はない。私はアクアサンク海底国シルバー隊隊長のオーヤだ。追跡して申し訳なかった。なり行きでそうしてしまった。今は少し反省している。・・・言葉は通じないと思うが何らかの応答を期待する。」

 しばらくして同一周波数の電波が相手艦の一隻から発せられた。

「・・・(前方の宇宙船に告げる。こちらイリヤス遠征隊。私は隊長のイリヤだ。当然だがそちらの言葉が分からない。私の言葉もわからないだろうと推測する。そんな状況下で貴殿らが発砲しなかったことは賞賛に値する。発砲していたら争いになっていただろう。言葉が通じるような手段を見つけてくれることを期待する。以上だ。)」

それは理解できない言葉だった。

だが相手宇宙船の乗員は言葉を話すことが分かった。

 シルバー隊隊長のオーヤは状況をシークレットに伝えた。

シークレットはアクアサンク海底国の戦闘機隊を指揮する立場になっていた。

イスマイルはほとんど眠っているしニューマンは「研究」の方に興味を持っていたからだった。

シークレットは状況をニューマンに伝え、ニューマンは早速(さっそく)ホムスク通訳機を携(たずさ)えて太陽と地球のL1ラグランジュ点に向かった。

 ニューマンとシークレットが乗ったメレック号はシルバー隊の後方から近づき、シルバー隊を通り過ぎ、オーヤ隊長が乗る航宙母艦も通り過ぎて相手宇宙船群に近づき、増幅器を着けたホムスク通訳機を通して呼びかけた。

 「前方の宇宙船群の乗員に伝える。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。諸君の脳に直接話しかけている。私の声が聞こえるか。聞こえたら何らかの応答を示して欲(ほ)しい。青色の発煙弾を打ち出してくれたら分かりやすい。・・・繰り返す。前方の宇宙船群の乗員に伝える。私はアクアサンク海底国のニューマンだ。諸君の脳に直接話しかけている。私の声が聞こえるか。聞こえたら何らかの応答を示して欲(ほ)しい。青色の発煙弾を打ち出してくれたら分かりやすい。」

 その言葉はホムスク通訳機から発せられ、シークレットやシルバー隊のロボット人にも分かるように同時に通常電波でも発せられた。

暫(しばら)くすると前方の宇宙船から青色の発煙弾が打ち出された。

ニューマンは再び発信した。

 「青色の発煙弾が打ち出されたことを認めた。言葉が通じて喜(よろこ)ばしい。この惑星は地球と言う。諸君らは地球外から来た宇宙人あるいは異星人か。そうなら青色の発煙弾を打ち、違うなら赤色の発煙弾を打て。」

青色の発煙弾が打ち出された。

「青色の発煙弾を認めた。諸君らが地球に来た目的は何かを聞きたいがこの通信方法では対面しないと聞くことができない。私と対面して話すことができるか。できるなら青色の発煙弾を打ち、いやなら赤色の発煙弾を打て。」

異星人宇宙船から青色の発煙弾が打ち出された。

 「青色発煙弾を認めた。互いに対面して話すことにしよう。どのような対面状態を作るかが重要だな。・・・ふうむ。お互いに自艦に乗った状況で対面したらいいかな。初めての試みなのでうまくいくかどうかは分からないがやってみよう。・・・代表の貴殿が乗っている宇宙船を特定する。分かるように前に出よ。」

暫(しばら)くすると一隻の宇宙船が前に出て停止した。

 「貴殿が乗っている宇宙船は分かった。これから貴殿の宇宙船と重なる。貴殿の宇宙船は7次元ゼロ位相にあり私の艦はその隣の隣接7次元にある。貴殿の宇宙船に7次元物質が無ければ問題なく重なることができるはずだ。加速してはならない。艦が重なったら貴殿は右手を上げてほしい。貴殿を特定するためだ。それでは重なる。」

 メレック号は重力場航法でゆっくりと相手艦の正面に近づき、そっと真正面に接触した。

メレック号はそのまま相手艦と重なり何もないかのように進んだ。

相手宇宙船の部屋も壁も装置もそして乗員の体もニューマンとシークレットの体を通り過ぎた。

 ニューマンは宇宙船の通路を見つけ、通路に沿ってメレック号を移動させた。

そして通路の扉を通過すると操縦室と思われる比較的大きな部屋に入った。

その部屋は壁にディスプレイが埋められ、多くの乗員がコンソールの前に座ってニューマンを見つめていた。

乗員の外形は大きさもふくめて地球人とほとんど同じで、男達の頭頂には鶏冠(とさか)のような肉球があった。

鳥から進化した異星人かもしれなかった。

一人の男がキャプテンシートに座って左手前腕を上げニューマンを見ていた。

 「ここでいいかな。私はニューマン。私が見えますか。」

ニューマンがそう言うと部屋の乗員全員が頭を抱えて苦しそうな様子を示した。

頭の中の声が大きすぎたのだ。

「声を小さくして、ニューマン。」

シークレットはそれを見てニューマンに言った。

ニューマンは直ちに増幅器を外して言った。

「これでいいですか。私はニューマン。私が見えますか。」

 「ニューマンが見える。私はイリヤス遠征隊隊長のイリヤだ。」

キャップテンシートの男が立ち上がって言った。

「イリヤス遠征隊隊長のイリヤさん。私はアクアサンク海底国のニューマンです。ここは操縦室ですか。」

「そうです。ニューマンさんが居る部屋も操縦室ですか。」

「そうです。私の隣に居るのは私の母のシークレットです。」

「こちらも紹介します。私の隣に居るのは副官でコンソールの前に座っているのは乗組員達です。」

 「最初に質問です。貴殿らを何人と呼べばいいのかな。私のことは地球人のニューマンと呼んでほしい。」

「我らはイグル星のイグル人だ。私はイグル人のイリヤだ。」

「イグル星のイグル人のイリヤ殿ですね、早速ですがイリヤス遠征隊の目的をお伺いできますか。地球に長く居る予定なら貴殿らが話している言葉を学ばなければなりません。現在の会話方法では遠距離会話ができないしロボット人とは会話できないからです。」

 「地球に長らく居る予定でしたがそれは変更されるかもしれません。我々は今、理解できない技術を実際に見ております。宇宙船と宇宙船が重なるなんて理解できません。」

「長く居る予定だったが我々の科学技術を見て予定は変更されるかもしれないと言うことですね。・・・すみません。貴殿の返答を繰り返しております。この会話は脳波を出さないロボット人には聞こえません。皆が分かるように貴殿の答えを繰り返しております。・・・質問です。何故(なにゆえ)地球に来たのですか。」

 「この星系から発せられた超空間通信を聞いたからです。我々の星ではワープ航行ができるようになりました。少し時間がかかるが超空間通信もできるようにもなりました。この星系がある方向から超空間通信が発せられました。発達した文明があるだろうと推測してここに来ました。」

「超空間通信が太陽系の方向から聞こえたので来たわけですね。地球の現状をどのように思いましたか。」

 「理解できない状況です。大都市はあるが住民が居ない。戦争で破壊された様子もない。住民が住んでいる小さな町がある。それと今知ったことですが我々の科学を越えた科学文明を持っていることが分かりました。」

「理解できない現状にあるということですね。教えてあげましょう。地球の大気は致死性の病原菌で満たされているのです。地球に来たホムスクロボット人が撒いた接触空気感染性の伝染病菌です。大部分の生物人間と大部分の哺乳類動物は死にました。・・・鳥類は死なないようです。もし貴殿らが鳥類から進化した人間だとしたら感染しても死なないかもしれません。まあそれを試すには勇気が必要ですけどね。」

 「ホムスクロボット人とは何ですか。」

「ホムスクロボット人とは何かと言う質問です。答えましょう。数千万年前に大宇宙の地図を作った至高の文明を持つホムスク人が作った人型ロボット人はホムンクと呼ばれています。ホムンクはホムスク人の意思を実行する代理人でホムスク文明を継承しております。ホムンクが作ったロボット人がホムスクロボット人です。ホムスクロボット人は圧倒的に強力で地球人は歯が立ちません。ホムスクロボット人は完全な侵略者で地球に127ヶ所の小さな町を作っています。」

 「我々は圧倒的に強力な侵略者が町を作っている星に来たのですね。」

「そうです。貴殿らは圧倒的に強力な侵略者が町を作っている星に来たのです。貴殿らが聞いたという超空間通信もホムンクが発した通信だと思います。」

「我々が地球に長期に滞在する時、学ぶべき言語は何が良いですか。」

 「イグル人が学ぶべき言葉は何かと言う質問です。地球人は多数の言語を話します。英語は共通語に近い役割を持っておりますが誰でも話すことができるというわけではありません。およそ5パーセント、100人に5人が話す言葉です。もちろん疫病が始まる前の割合です。私が今話している言葉は日本語です。およそ1.5パーセントの人間が話す言葉でした。この地球でイグル人が学ぶべき言葉はホムスク語だと思います。ホムスク語はホムスク人が話す言葉でホムスクロボット人もホムンクも話します。イグル人が聞いた超空間通信もホムスク語で話されていたと思います。宇宙のどこかで未知と遭遇した時ホムスク語で呼び掛ければ通じるかもしれません。ホムスク人は大宇宙の覇者です。1億年続く文明を築いて大宇宙の覇者となった人類の言葉は覚えておいても損はありません。」

 「分かりました。この星の言葉の一つを推薦するのだと思っておりました。侵入者の言葉を推薦したのには驚きました。ホムスク語を学びたいと思います。どうすれば学べますか。」

「どうすればホムスク語を学ぶことができるかという質問です。ホムンク28号に頼めば通訳機を作ってくれるかもしれません。ホムンク28号とは地球にホムスクロボット人を連れてきたロボット人です。・・・あるいはホムスクロボット人の町の横にイグル人の町を作ったら交流が起こってホムスク語が分かるかもしれません。」

「地球にイグル人の町を作ってもいいのですか。」

 「地球にイグル人の町を作ってもいいのかという質問です。疫病が蔓延(まんえん)する前は地球上で誰のものでもない土地はほとんどありませんでした。どんな場所でもどこかの国に属しておりました。ですから異星人が国を造ろうとすればそれはその土地を持つ国にとっては侵略行為になります。定義として国は侵略に対して排除できる力が必要です。その力は軍事力でもあり外交力でもあり経済力でもあります。侵略者を排除できなければその国は国としての機能を果たさないことになります。・・・ホムスクロボット人が地球に来て町を作りました。その土地を持つ国はホムスクロボット人を排除できませんでした。圧倒的な科学力の違いがあったからです。ですからその国は国を保つためにはその土地を放棄しなければなりませんでした。それが現状です。ですからイグル人がホムスクロボット人の町の近くに町を作った場合イグル人はその土地を持つ国と戦わなければなりません。戦いに勝てばその土地はイグル人の物になります。地球の大部分の人間は死にました。生き残った人間はこれまでの国の規模を維持できなくなっていると思います。それらの国の住民はあえてイグル人の町を排除しようとはしないかもしれません。このままでは数世代先には自滅ですから新しい体制を模索しなければならないからです。」


著者注32-1:ラグランジュ点は太陽と地球とか地球と月のように天体2体を考えた時に生じる点である。太陽と地球の場合、L1は地球から太陽方向に150万㎞、L2は反対方向に150万㎞の位置である。地球と月の場合、L1は月から地球方向に61350㎞、L2は反対方向に61350㎞である。

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