第35話 33、戦闘機と通信士 

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 「ニューマンさんの国と戦わなければならないのですか。」

イリヤス遠征隊イリヤ隊長は幾分心配そうに言った。

「アクアサンク海底国と戦わなければならないのかという質問です。アクアサンク海底国は陸上に国土を持ちません。イグル人が地上に町を作る限りアクアサンク海底国として侵略者を排除することはしません。でももちろん地球人として戦う場合の可能性を排除することはできません。」

ニューマンは母、シークレットに相手の言葉が分かるように相手の質問を加えて話していた。

 「もしそうならホムスクロボット人の町についてはどうなされていたのですか。」

「もしそうならホムスクロボット人の町についてはどうしたのかという質問です。地球に来たホムスクロボット人とは停戦しました。アクアサンク海底国はロボット人の町を破壊できロボット人の宇宙船を破壊できました。ですがホムスク宇宙船は地球そのものを破壊することできます。我々はそれを阻止することができません。それゆえアクアサンク海底国は停戦することにしました。」

 「我々には惑星を破壊できる力はない。」

「イグル人の宇宙船は地球を消すことができないそうです。少し安心しました。これで心置きなくイグル宇宙船と戦うことができそうです。」

「ニューマンさんとは戦いたくない。あっという間に負けるような気がする。」

「イリヤス遠征隊のイリヤ隊長は私と戦いたくないそうです。私もイグル人を排除しなければならないような状況にならないことを期待します。」

 「ニューマンと話せて良かった。まずホムスク語を学ぶためにホムスクロボット人の町を探します。」

「まずホムスクロボット人の町を探すようです。・・・私が知る限り町の数は127ヶ所です。」

「ところで地球人はホムスク語を知っているのですか。」

「地球人はホムスク語を知っているかとの質問です。・・・アクアサンク海底国の国民は皆知っております。そちらの宇宙船への呼びかけもホムスク語を使ったはずです。大部分の地球人はホムスク語を知りません。」

「ホムスク語を覚えたら確かめてみましょう。」

 「ホムスク語を覚えたら確かめるとのこと。会談はこれで終わりましょう。互いの連絡を取るにはこの周波数の電波を使います。そちらから連絡したい時は『アクアサンク・ニューマン』と発信してください。こちらから発信する時は『イリヤス・イリヤ』と発信します。通訳機を外しますから『アクアサンク・ニューマン』と言ってみてください。」

「アクアサンク・ニューマン。」

「OK。はっきりと聞こえました。イリヤス・イリヤ・・・どうです。耳から聞こえましたか。」

ニューマンは通訳機を冠って言った。

「はっきりと聞こえました。」

「了解。会談を終わります。」

そう言ってニューマンはメレック号を後進させイグル人の宇宙船から離した。

 「未知との遭遇から未知との接触に成功したよ、母さん。」

ニューマンは母に言った。

「そうね。少なくともイグル人は生物人間のようね。」

「隣接7次元も知らなかったようだった。」

「でも7次元を知らなくても恒星間飛行ができるってことね。」

「どんな航法なんだろう。」

「教えてくれるかもしれないわね。」

 メレック号と501隻の戦闘機と航宙母艦は地球に戻って行った。

ニューマンのイグル人との会話はアクアサンク海底国の住民が聞いた。

アクアサンク海底国の新しいリーダーになるニューマンの応答はアクアサンク海底国のイグル人宇宙船への対応を決めるものだった。

それはイグル人との宇宙船と出会ったら積極的な攻撃はしないということだった。

 イグル人宇宙船の地上での活動は盛んになった。

ホムスクロボット人の町を探しているようだった。

地球表面で127ヶ所のホムスクロボット人の町を見つけることは難しい。

町は直径4㎞の円形と比較的狭く、7次元シールドで囲まれているが周囲と特段に異なっていることもない。

 砂漠のオアシスに作られた町もあれば、アマゾンや他の密林に作られた町もあれば、海に接するナブミ砂漠に作られた町もあれば、奇怪な岩山がある中華人民共和国湖南省張家界の景勝地に作られた町もあれば、アンデス山脈のチチカカ湖岸に作られた町もあれば、高山の平地に作られた町もあれば小島に作られた町もあった。

日本では会津磐梯山の裾野、猪苗代湖のスキー場を中心にして半径2㎞の町ができていた。

そんな町はよほど注意深く観察しなければ見つけることは難しい。

町の共通点といえばアッチラ遠征隊のロボット人の趣味の町だということだ。

 しかしながら暫くするとイグル人はアッチラ遠征隊の町の位置がわかるようになった。

町の上空にはアクアサンク海底国の戦闘機が常時見張っていたからだった。

アクアサンク海底国の戦闘機は隣接7次元に居て7次元シールドを張っていた。

たとえ町からの攻撃があったとしても攻撃を防ぐことができる状態になっていた。

アッチラ遠征隊とアクアサンク海底国との間では停戦が成立しておりアッチラ遠征隊は町から出ずアクアサンク海底国は町を攻撃しないことになっていた。

戦闘機での見張りは常態化され、そこではホムスク語での会話もなされていた。

 サハラ砂漠のオアシスの町。

「こちらシルバー隊の鹿子(かのこ)。今日のアッチラの通信士はだれかな。おはよう。今日はいい天気ね。」

「おはよう鹿子。いい天気だ。こちらはジャスワンだ。茜(あかね)と交代したのか。」

「そうよ。茜は今日はお休み。ジャスワンの休みはいつなの。」

「明日から1週間の休みに入る。鹿子とは暫く話せなくなるな。」

「そうね。ジャスワンは何をして休暇を過ごす予定なの。」

「まだ決めていない。本でも読んで過ごすかもしれない。」

 「ジャスワンはどんな本を読んでいるの。」

「今は冒険物だ。」

「冒険といっても色々あるわ。例えばどんな話。」

「そうだな。この前の休暇では『宇宙の断崖』を読んだ。宇宙の端を見つけようと大宇宙の端に向かって宇宙船を進める話だ。」

「それは奇妙な題名ね。宇宙に断崖があるって言うの。それにどちらが宇宙の端なのか分からないでしょ。」

 「どうもあるらしい。宇宙の端は越えることができない断崖になっているそうだ。それと周りを星で囲まれているこの星ではどちらが宇宙の端かは分からないがホムスク星では分かる。ホムスク星の夜空は半分だけが星で満たされているそうだ。ホムスク星は大宇宙の端にあるそうだ。」

「それなら端のある方向は分かるわね。それで宇宙の端はどうなっていたの。」

「分からない。宇宙の端に行くと宇宙船は消えてしまうらしい。戻ってきた宇宙船もいない。物語ではそうなっている。」

「それが本当なら不思議ね。」

「同感だ。・・・ところで鹿子、そっちの軍事機密を少し教えてくれないか。」

 「いやよ。軍事機密を教えたら機密でなくなるから教えないわ。・・・それで何、諜報通信員のジャスワン。」

「そっちは知らないだろうが地球の様子は各地に観測球をばら撒いているからおおよそのことは分かっている。だが最近前部が円盤になっている不審な宇宙船が飛ぶようになった。鹿子は知っているか。」

「もちろん知っているわ。侵略者の宇宙船よ。ニューマン様はその代表者と会われているわ。その宇宙船はイグル人の宇宙船。イリヤス遠征隊と言って地球を侵略しに来たみたいなの。ジャスワン達のアッチラ遠征隊と同じね。」

 「鹿子達はうちにしたみたいに侵略者を排斥しないのか。」

「ジャスワン達は人工衛星を全て撃ち落としたじゃない。相手が敵対行動を取れば排斥するわ。でもイグル人は今のところ何の破壊行動も敵対行動も起こしていないの。ニューマン様はイグル人にホムスク語を覚えろと言われたそうよ。」

「驚いたな。なんでホムスク語なんだ。」

 「だって異星人に覚えてほしい言葉って地球にあると思う。地球の言葉はバラバラでしょ。バッカみたいね。ローカル言語って仲間意識は持ちやすいけど不便。人口の少ない国なんて人がいっぱい死んで同じ言葉で話す人間も居なくなっている。どうするんでしょうね。言葉が通じる人が一人も居なくなる。・・・その点、ホムスク語なら全宇宙の共通語になれる資格があるわ。私はまだホムスク語をよく知らないけど長い歴史を持つ至高の文明を築いた言語だからきっと語彙(ごい)も豊富でしょ。」

「そうかもしれない。でも僕はホムスク語で話すけど僕の語彙はそんなに豊富でない。」

「普通の人なら誰でもそうよ。小説家じゃあないんだから。・・・ジャスワン、なぜホムスク星ではホムスク語が一つなの。」

 「そりゃあ歴史物語を読めばすぐ分かる。ホムスク星では1億数千年前に言語の統一がなされたからさ。始皇帝は違う言葉を話す国を滅ぼしホムスク語を話せない人間を皆殺しにしたんだ。それ以来ホムスク星ではホムスク語だけが話されるようになった。」

「ホムスク星の始皇帝って非道(ひど)いことをしたけど先見の明(めい)があったのね。」

「そうだろうな。1億年以上文明を継続させる国を創った人間だからな。・・・とにかくあの変な宇宙船は侵略異星人の宇宙船だと分かった。1億年の歴史を持つホムスク語を教えてくれって言ってきたら教えてやることにするかな。へへっ、暇だからな。」

 侵略的な未確認飛行物体が友好的な対応を受けるとは限らない。

むしろ敵対される場合が多い。

言葉が通じない時は特にそうなる。

 イグル人の宇宙船は隣接7次元に居たホムスク宇宙船と違ってレーダー探知に容易に引っかかる。

そして各地で未確認飛行物体として迎撃を受ける。

最初の衝突は中華人民共和国の湖南省の上空で起こった。

 空軍基地を中心としてできていた町は十分な数の戦闘機を持ち、可動するレーダーがあり、不審な飛行物体を発見し、迎撃戦闘機を一年ぶりに発進させ、英語で誰何した。

「前方の宇宙船に告げる。こちら湖南省航空路町の新中華人民共和国だ。所属を明らかにせよ。」

「・・・(何を言っているのか分からない。こちらイリヤス遠征隊。)」

当然会話は成立せず武力排除が行われた。

 中華人民共和国の局地戦闘機は空中戦を目的とした翼を持ち、20㎜機関砲と対空ミサイルと分子分解砲で武装しており、重力遮断による重力航行にジェットエンジンによる加速を加えている。

簡単にいえば100年前のジェット戦闘機に分子分解砲と重力遮断パネルを付けたものだった。

 一方、イグル人の宇宙船は恒星間宇宙船だ。

重力遮断による重力航行にロケットエンジンによる短期加速を加えている。

前方の円盤は宇宙船をワープ遷移させるためのエンジンで光速近くまで加速させてからワープ遷移を行う。

主要な武器はX線に赤外線を載せた光線砲(メックス砲、Mex砲、赤外線変調X線砲、Microwave Emitter by Coherent X-ray砲)だ。

それと高速宇宙飛行を安全にする分厚い装甲を持っていた。

7次元シールドを持っていないので分厚い装甲が必要だったのだ。

 最初、中華人民共和国局地戦闘機3機が20㎜機関砲を発砲した。

機関砲弾は宇宙船に当たったが宇宙船の装甲壁に跳ね返された。

戦闘機は機体を反転させてから空対空ミサイルを発射した。

3発の対空ミサイルは宇宙船に当たったが高速隕石を跳ね返す宇宙船装甲壁はびくともしなかった。

3機の戦闘機の次の攻撃はなかった。

イグル人宇宙船から放たれた3本の薄赤色の光線が戦闘機に当たると戦闘機は瞬時に赤熱し蒸発してしまった。

 イグル人宇宙船は上昇し高度3000mで中型核爆弾1発を基地の町に落とした。

核爆弾は地上500mで爆発し町は壊滅した。

一つの町が異星人の核爆弾で消滅したのだがそれは他の町では話題にもならなかった。

主にはニュースを発信するものが居なかったからだ。

従には自分の町のことで精一杯だったからだった。

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