第30話 28、異星人町への訪問 

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 ニューマンは万が一を考えて近くに簡易宇宙服を用意してからホムスク語で通信を始めた。

「アッチラ遠征隊の町の責任者に伝える。こちら停戦中のアクアサンク国のニューマン。ホムスク人の意を受けて連絡している。応答せよ。・・・繰り返す。アッチラ遠征隊の町の責任者に伝える。こちら停戦中のアクアサンク国のニューマン。ホムスク人の意を受けて連絡している。応答せよ。」

「アクアサンク国のニューマンに伝える。こちらアッチラ遠征隊第13町、町長のフリーダムだ。何用か。」

 「アッチラ遠征隊第13町、町長のフリーダムに伝える。こちらニューマン。ホムスク人が貴殿と会いたいと言っている。会えるか。」

「ホムスク人がそう言っているのなら会わなければならない。ホムスク人はそこに居るのか。」

「私の横にいる。ホムスク人かどうかは会えば分かるはずだ。」

「私はホムスク人に会ったことがない。どうして会えばホムスク人だと分かるのか。」

「私には貴殿の認識機構がどのように働くのかは知らない。だがホムンク28号は分かると言っていた。さらに以前この惑星に来たホムンク12号はすぐさま認識できたと聞いたことがある。」

「会ってみよう。」

 「停戦条件ではアッチラ遠征隊は町から出ないことになっている。こちらから町に入ろうか。それとも町の境界で会おうか。あるいは別の適当な方法があるか。」

「町の中で会おう。町の皆もホムスク人に会いたいだろうと思う。話に聞いてはいるが誰もまだ会ったことがないのだ。」

「了解。町の大気の状況はどうか。町の外の大気と同じように病原菌は浮遊しているのか。」

「病原菌に対する対策は取っていない。だが病原菌はほとんど存在していないと思われる。町を囲むシールドは空気だけを通すし、町を作る前に分子分解銃で整地されたからだ。」

 「信用しよう。同じことをすれば地球人も安心して住むことができる町ができるわけだな。現在雨が降っている。町のシールドを消しても大丈夫か。」

「ふふっ、大丈夫だ。たまには雨もいい。」

「こちらの位置は確認できたか。」

「湖側に居ることは分かった。」

 「町のシールドが消えたら宇宙船で中に入る。懸念がある。シールドが再度張られたら我々は外に出られなくなるのか。」

「ふふっ、心配しなくてもいい。シールドは外からは入れないが出ることは常にできる。どんな状態でも可能だ。」

「それを聞いて安心した。シールドが消えたら町に入る。宇宙船が入り終えたら直ちにシールドを張った方がいい。」

「そうしよう。」

 雨粒が突然町に降るようになった。

ニューマンはメレック号を空中に浮かべゆっくりとロボット人の町に入れた。

メレック号が町の境界を通り過ぎると雨は降らなくなった。

再度7次元シールドが張られたらしい。

 「どこに停めたらいいのか。」

ニューマンが言った。

「まっすぐ進めば町の中心に大きな広場がある。そこで降りてから宇宙船を再度隣接7次元にしたらいい。恐れを知らない町民の分子分解銃での攻撃にも耐えられるだろう。」

「ご親切ありがとう。そうする。」

 メレック号は広場中央に着陸し、ニューマンは艦橋を出てデッキから地表に飛び降りた。

ホムスク人の岩倉一平は五十鈴川玲子と共に宇宙スクーターで艦橋から地上に降りた。

シークレットは宇宙船に残り、宇宙船を少し浮かべてから隣接7次元状態にした。

ニューマン達に何かあったら分子分解砲で町とロボット人を消し去るつもりだった。

町の住民は家から出て遠くから驚いた様子でニューマン達を見ていた。

ホムスク人を見たらしい。

 町の住民の衣装は様々だった。

地球人のような衣装を着た者も居れば金属光沢を持った如何にもロボット風の者もいたし、光り輝く薄物のケープを纏(まと)った者もいた。

男女の違いは見分けがつかなかった。

 背広を着た一人の男がゆっくりとニューマン達に近づき10m手前で止まって大声で言った。

「良くいらっしゃいました。私はアッチラ遠征隊第8町のフリーダム町長です。なんなりとお申し付け下さい、ご主人様。」

ニューマンも少し大声で言った。

「フリーダム町長、私がニューマンです。ホムスク人が誰か分かりましたか。」

 「身に染みて分かりました。光り輝いており近づくことができません。近づけば私の電脳が破壊されると思いました。」

「それがホムスク製のロボット電脳のアルゴリズムです。ホムスク人はロボットがホムスク人に反抗しないようにアルゴリズムを組んだのだと思います。何がそう思わせているのは分かりません。・・・ホムスク人の名前は岩倉一平さんと言います。隣の女性は五十鈴川玲子さんでホムスク語の通訳です。岩倉さんはホムスク語が話せません。」

 五十鈴川玲子はホムスク語での会話を岩倉に日本語で通訳していた。

岩倉が玲子に言って玲子がホムスク語で言った。

「町長さん、岩倉さんが話したいそうです。」

「何でもおっしゃって下さい、ご主人様。」

フリーダム町長は岩倉を見ないように下を向いて言った。

 岩倉一平は玲子の通訳を通して言った。

『地球に住む多くのホムスク人はお前達が広げた疫病で死んだ。』

『お前達は贖罪(しょくざい)しなければならない。』

『私と私の家族は幸運にも生き延び、ニューマンさんの保護下で生きている。』

『ニューマンさんの指示に従え。以上だ。』

「おっしゃる通りにいたします。・・・ご主人様。」

フリーダム町長は下を向いたまま答えた。

 「フリーダム町長、そういうことです。・・・頼みがあります。」

「何でしょうか。」

「私は今7次元シールドを作ろうとしています。でもなかなかうまくいきません。空中に7次元世界領域を展開させることができないし、ガンマー線の周波数走査もできません。今までできたのは宇宙船の7次元移行と隣接7次元での停止だけです。それで頼みがあります。この町の7次元シールド発生装置を見せて欲しいのです。見るだけでいいんです。何かのヒントがあるはずです。」

 「ニューマンさんは研究者なのですね。分かりました。容易なことです。私は7次元シールドの機構は知りません。もちろん調べれば分かるでしょうが日常での生活では知る必要がないことです。発生装置は町の中心にあります。一緒にいきますか。」

「お願いします。」

 フリーダム町長が先頭でニューマンが続き、少し後から岩倉一平と五十鈴川玲子がついていった。

一行は広場に面した少し大きめの家に向かった。

家の前には数人のロボット住人がいたが一行が近づくと頭を下げて周囲に散って行った。

岩倉一平は遠くからでも圧力をロボット人達にかけているらしい。

 7次元発生装置は鉄板の上におかれた1m方形の箱で箱の一面には幾つかのダイアルとメーターが付いていた。

箱は2個あった。

「これがこの町の7次元シールド発生装置です。通常は1個なのですが2個設置せよと指令があり2個にしました。」

「宇宙船の7次元シールドがアクアサンク国の戦闘機で破られたからだと思います。」

「宇宙船の7次元シールドが破られたのですか。」

 「何十ヶ所に分子分解砲の穴が開きペンキが入ったミサイルが当たって船殻にペンキをぶち撒(ま)きました。ペンキは核爆弾の代わりで示威行為でした。その後、地球にアッチラ遠征隊の町ができ、宇宙船は町の地下に潜りました。地下に潜られたら攻撃はできません。代わりに60mの搭載艇が町の上空に浮かぶようになりました。」

「その通りです。そんなことがあったのですね。」

「搭載艇を撃墜したら大災害が起こりました。搭載艇のエネルギーセルはとてつもないエネルギーを持っているようで、地球に穴が開きそうになりました。母船が始末してくれました。私はこれ以上戦えば地球もただでは済まないと思い、停戦を提案しました。」

 「アクアサンク国は強い国なのですね。」

「皆さんと同じロボット人の国です。人口も皆さんと同じ程度の15000人です。地球の生物人間がほとんど死んでしまいましたから日常製品を作るために人口を増やそうと考えております。」

「ロボット人の国とは驚きました。」

「父が作った国です。・・・それで7次元シールドはどのように動かすのですか。」

 「それは簡単です。二つのダイアルは距離と厚みを決めます。距離は2㎞、厚みは10㎝と1mに設定してあります。後はスイッチを入れるだけです。正常運転時は緑ランプ、過負荷になると赤ランプが点灯します。まあそんなことはこれまでありませんでしたが。」

「エネルギーセルが入っているのですね。」

「そうだと思います。中身は知りません。宇宙船のマザーに言えばすぐさま作ってくれるのです。」

 「マザーというのは電脳ですね。」

「そうです。何でも作ってくれます。自分と同じ宇宙船を作ることができるし、我々を作ることもできるし、家でも家具でも作ることができます。実際にはナノロボットに命じてナノロボットがそれらの物を構築させていくのです。私の体もそんなナノロボットから出来ています。」

 「うちの宇宙船の電脳とはだいぶ違いますね。ホムスク文明は文明の閾値を越えた文明なのですね。継承する者が居なくても衰退しない文明です。」

「そうかもしれません。我々としても現状に十分満足していますから、これ以上の進展に関心を持ちません。」

「ホムスク星のホムスク人もそう思っているかもしれませんね。」

「そうかもしれません。」

 「ナノロボットですか。地球もあと1億年経たなければ出来そうもない技術ですね。・・・筐体(きょうたい)には継ぎ目もない。ナノロボットによる一体構造ですね。・・・7次元シールド発生装置は固定されていないのですか。」

「床に置いてあるだけです。それでもシールドに物が当たっても発生装置は動きません。だから個人用の7次元シールド発生装置もできるのです。大岩が上から落ちてきても動きません。大砲で撃たれても撥ね飛ばされません。」

「衝撃を均一に中心に集めるのですね。」

「そうだと思います。」

 「シールドの距離をダイアルで決めるということは空中には線は必要ないということですね。」

「そうです。」

「どうしたらそんな事ができるんだろう。先は長いな。」

「個人用7次元シールド発生装置をさしあげましょうか。作動距離は2m程ですが機能は同じです。病原菌も入らず分子分解砲でも大丈夫です。」

「本当ですか。是非とも欲しいですね。安心して外を歩ける。」

「研究用も含めて10個さしあげましょう。」

「ありがたく頂戴します。」

 フリーダム町長は部屋の入り口近くにいた岩倉一平に顔を下げて言った。

「ご主人様、誠に申し訳ありませんが入り口付近から移動していただけませんでしょうか。入り口近くにある引き出しの中にある個人用7次元シールド発生装置を取り出したく存じます。私は貴方様に近づくことができません。」

岩倉一平は玲子の通訳を聞いてから『了解』と言って部屋の奥、ニューマンから離れた位置に移動した。

フリーダム町長は入り口近くの壁の引き出しから10㎝長方形の個人用7次元シールド発生装置が詰まった箱を持ち出しニューマンの所に戻って言った。

 「これをどうぞ。個人用7次元シールド発生装置です。使い方は簡単でスイッチカバーを開けて切り替えスイッチを押すだけです。距離ダイヤルもありません。注意することはスイッチを入れたままシールドの外に出ない事です。二度と入れなくなりますから。」

「それはそうだ。」

「分解なさるおつもりですか。」

「できればね。」

「その際は慎重になされた方がいいと思います。小さいですがエネルギーセルが入っていますから。」

「遠隔操作で慎重にするよ。」

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