第29話 27、カレーの昼食会 

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 ニューマンが言った。

「母さん、みんなで昼食を食べようか。久しぶりに生きた日本人と会ったんだから。」

「そうね。でも何にしたらいいかしら。」

「カレーがいいよ。」

「ニューマンのお気に入りね。明美ちゃんが居るから甘口ね。・・・沖田艦長、昼食をご一緒にいかがですか。カレーは潜水艦の定食でしょうけど甘口はあまり食べないと思います。」

「ぜひともいただきたいと思います。」

 昼食会は冷房の効いたガラステラスにテーブルを並べて行われた。

ニューマン、シークレット、沖田遥、速田学、岡本太郎、岩倉一平、岩倉明美、岩倉朋花、ミミー、五十鈴川玲子が五人ずつの対面になって甘口のカレーライスを食べた。

ニューマンが3歳の子供にも分かるように紹介した。

 「母さんの隣にいる髭が生えているおじさんは空飛ぶ潜水艦の艦長さんの沖田さん。その隣は潜水艦を動かす航海士の早田さん。その隣のおじさんは外務審議官という偉いお役人の岡本さん。それでその向かいは猪苗代湖湖畔の将村の岩倉一平さん、明美ちゃん、朋花さん御一家です。その隣は火星の北アメリカ市のミミーさん、そして僕の対面が当地清水で生き残った五十鈴川玲子さんです。五人は研究所の隣のマンションに住んでいます。岩倉さん一家は野菜を作っています。ミミーさんは水田で稲を作っているようです。五十鈴川さんの最近の様子はわかりません。何をしているんだい、玲子さん。」

 「私はホムスク文学にのめり込んでいます。シルバーさんにお願いして宇宙船にあった小説の視聴機を持ってきてもらいました。とってもおもしろいんです。夢が溢れているんです。」

「それはいいですね。大航宙時代に二度と故郷に戻れない決死の覚悟を持った人達が読む物語です。1億年の時のフィルターを通り抜けた傑作ばかりでしょう。文明の宝物です。」

「そうだと思います。体が熱くなって胸がつまって自然と涙が出てきます。」

「僕も読んでみようかな。」

「ニューマンさんはやめた方がいいわ。きっとのめり込むから。凄い量があるのよ。お仕事ができなくなるわ。」

「じゃあ玲子さんがお勧めの小説を読むことにしようかな。」

「ふふっ。了解。」

 岡本太郎が言った。

「五十鈴川さんはホムスク語を読めるのですか。」

「少し勉強しましたので読めるようになりました。でも小説が入った視聴機はホムスク語で語ってくれます。文字は不要です。」

「皆さんはホムスク語を話すことができるのですか。」

「ニューマンさんとシークレットさんとミミーさんと私だけです。マンションに移る前まではこの研究所の共通語はホムスク語でした。私は英語がダメでミミーさんは日本語が苦手でしたから。」

 「それは貴重な特技ですね。今、世界の各国政府が求めているものです。」

「父がホムスク語を学ぶように言ったのです。敵と話が通じなければそれこそ話にならないと言っていました。」

ニューマンが横から口を出した。

「イルマズさんは侵略者の正体が分かっていたのですね。」

「最初に敵の宇宙船を見てホムスク船だと思ったようです。」

 沖田艦長が待っていたように言った。

「アクアサンク海底国はそんなホムスク船にどうやって勝ったのですか。」

「それは偉大なマリア・ダルチンケービッヒ先生のおかげです。先生は7次元への扉を開いてくれました。僕は先生の考えを進めてサイクロトロンエンジンを考えたんです。今では火星まで2日で着くことができます。それからさらに実験を続けて7次元世界に行くことができるようになり、ようやくホムスク宇宙船が居る隣接7次元世界に行くことができるようになりました。隣接7次元にいる宇宙船は地面の中を走ることができるんですよ。・・・それから父の助言を受けてサイクロトロン銃とサイクロトロン砲を作りました。サイクロトロン砲のおかげで敵の7次元シールドを破ることができるようになりました。現在のアクアサンク海底国の戦闘機は全てサイクロトロンエンジンを付け、隣接7次元に居てサイクロトロン砲を装備しています。」

 「みんなニューマンさんが作ったのですか。」

「いや、僕は実験機を作るだけでそれを完成品にするのは父と工場の技師達です。」

「敵は強力な分子分解砲を使います。人工衛星も宇宙船もあっという間に消されてしまいます。アクアサンク海底国の戦闘機は無事なのですか。」

「分子分解砲に対しては無事です。通り過ぎてしまいますから。それは相手にとっても同じです。こちらの分子分解砲のガンマー線も通り過ぎてしまいます。」

「それでは引き分けですね。」

 「そうはなりません。相手は物を送り込むことができます。戦闘機の内部に小型の核爆弾を送り込まれました。爆弾の代わりに毒ガスでも送り込んだら相手船を鹵獲できますね。・・・そんな攻撃を防ぐものが7次元シールドです。1億年の文明の最終防御盾だそうです。7次元シールドができたら争いは無くなったと聞いています。」

「それをニューマンさんが破ったのですね。」

「運が良かっただけです。シールドを複数張られたら破れないと思います。・・・ただ・・・。」

 「ただ何なのですか。」

「無敵の7次元シールドですがどうも装置は小さいし簡単にできそうな気がします。個人用の7次元シールドがあるそうですから。」

「こちらも7次元シールドができたらいいですね。」

「そう思います。今後の実験課題ですよ。」

 シークレットが言った。

「あら、ニューマン。あなた、そんなことを考えていたの。」

「うん、母さん。15年前から溶岩に埋まっていた旧型ホムスク宇宙船はワープ航法ができて強力な分子分解砲を持っていたけど7次元シールドが無かったんで分厚い装甲板を付けていたんだろ。ところがダルチンケービッヒ先生が出会ったホムンク12号の最新型宇宙船は分子分解砲を持っていて、7次元遷移航法をしていて、物質の遷移攻撃ができて、7次元シールドを張っていたんだろ。要するにホムスク文明で7次元位相界が解(わか)るようになって一気に7次元を利用するようになったってことだ。僕らは7次元位相界に行くことができたのだから7次元シールドも直ぐに出来るようになると思っているんだ。」

 「・・・7次元を知ったホムスク人は何を考えたかが問題ね。」

「そうなんだ。7次元に居たらこの世のゼロ位相界は見えないだろ。それじゃあ困るよね。だから7次元ゼロ位相を含めて多数の7次元位相界にしたと思うんだ。そうすれば外が見えてしかも外からは攻撃されないことになる。」

「ガンマー線の周波数を高速でスイープさせればいいのじゃあないの。」

「そうなんだけどウチで使っているガンマー線の周波数は固定だろ。ガーザーの周波数を変えることはできないよ。」

「そう言えばそうね。考え続けなさい、ニューマン。考えれば解決策は出てくるものよ。レーザーでは出来るんだから。」

「へいへい了解。」

 昼食会は和(なご)やかに終わり沖田艦長らは潜水艦に帰っていった。

ニューマンは岩倉一平に言った。

「岩倉さん、頼みたいことがあるんだが、いいかな。」

「何ですか、ニューマンさん。」

「ぼくは今7次元シールドを作ろうとしている。でも7次元シールドがどんなものかはまだ見たことがないんだ。実際に見てみたいんだ。それで会津の磐梯山の麓のスキー場にあるアッチラ遠征隊のロボット人町に見に行こうと思っている。アッチラ遠征隊とは停戦協定を結んでいるんだけど相手が町から分子分解砲で攻撃するかもしれない。僕は安全に見たいんだ。・・・ホムスク製のロボット人はホムスク人には逆らえないそうだ。アッチラ遠征隊を作ったホムンク28号がそう言っていた。岩倉さんは僕と一緒にロボット人の町に行ってほしいんだ。ホムスクロボット人が本当にホムスク人に逆らえないのか実際に見てみたいし、7次元シールドをゆっくり見てみたいんだ。」

 「でも私が行っても言葉が通じませんよ。」

「それは大丈夫。僕が通訳になる。僕に協力せよって日本語で言ってくれればいい。」

「分かりました。一緒に行きましょう。」

「ありがとう。少し懸念もあります。町の中の空気に病原菌が浮かんでいるかどうかが分かりません。最初は宇宙服を着なければならないと思いますが、宇宙服を着たらホムスク人だと認識できないかもしれません。そこら辺は臨機応変で対応しようと思います。」

「了解しました。」

 「玲子さんも一緒に来てくれないかな。病原菌に耐性を持っている地球人が居るっていうことを見せたいし、ホムスク語を自在に話せる人は多い方がいい。」

「いいわよ。面白そうね。通訳になるわ。」

「サンキュー、頼むよ。」

 数日後、ニューマン達はメレック号で会津磐梯山に向かった。

隣接7次元状態で高速道路を四半分地下に沈めて飛んだ。

「この船凄いわね。四半分だけ地面の中を走っている。」

玲子が驚嘆の声で言った。

「これが隣接7次元世界、幽霊の世界だよ。現世と共存するが現世に影響を与えない。隣接7次元の宇宙船はレーダーでは検知できない。分子分解砲で撃たれても通り過ぎるだけで安全だ。空中を飛べば見つかるかもしれないから地上を走っている。研究所の位置はあまり知られたくないからね。」

 「相手が隣接7次元に居たらどうなるの。」

「分からない。きっとぶつかるだろうね。でもこの船の外壁は60㎝厚の鋼鉄だ。おそらく新型のホムスク宇宙船とぶつかっても壊れない。たとえ相手の質量が惑星規模だとしてもね。・・・でも船は壊れないだろうけど中の人間は無事にはすまない。注意するよ。」

 ニューマン達は動いている自動車と出会うことなく猪苗代湖に着いた。

曇り空であったその日は猪苗代湖に来ると雨が降り出した。

雨粒は船内を通り抜け、ニューマン達の体を通り抜けた。

「隣接7次元ってのは雨の日は不向きね。濡れないけど体の中を雨が通り抜けるって気分がいいものではないわ。」

玲子が言った。

「同感だよ。濁った水の中を通る時は前が見えない。木の中や土の中では辺りは真っ暗闇なんだけど船内は船内の灯りで見えるんだ。あまり気分がいいものではないね。」

ニューマンが同意した。

 雨の中、メレック号は東側の湖畔に沿って北上しロボット人町の境界まで進んだ。

町の境界ははっきりしていた。

町の外側は分子分解砲で平らに整地された剥き出しの土に雨が流れ、いく筋もの浅い流れができていた。

雨は7次元シールドに沿って流れ落ち、境界に溝を作っていた。

 「雨の日に来て良かった。7次元シールドの輪郭が見える。7次元シールドは別に雨を消しているわけではないんだ。通さないだけだ。と言うことは7次元シールドには触れても安全と言うことだ。棒で突いたら柔らかいんだろうかそれとも硬いのかな。」

ニューマンが呟(つぶや)いた。

 7次元シールドの向こうは良く見えた。

シールドの内側は青々とした芝生と背が低い雑草が一面に生えていた。

芝生の先、小高い丘の上には何軒かの家が建っていた。

家の形はそれぞれ違っていた。

ロボット人は自分の好みに合わせて家を建てたのだろう。

芝生の広い庭を持った家もあるし、花で満たされた庭を持った家もあるし、大木が生えた小さな林になっている庭を持った家もあった。

 「遠くからではよく分からないけど、ロボット人の家ってなかなか素敵な家ね。どれも趣味に溢れている家みたい。」

五十鈴川玲子が言った。

「ロボット人も人間のように多様性を持っているってことだ。」

ニューマンが応じた。

「雨の日に来てラッキーだったわね。」

シークレットが呟(つぶや)いた。

「ドキドキします。」

岩倉一平が言った。

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