第28話 26、原子力潜水艦飛龍
<< 26、原子力潜水艦飛龍 >>
アメリカ原子力潜水艦が去って数日後に日本政府から接触があった。
今度は三保の沖合に浮上した日本の原子力潜水艦からだった。
電話が使えなくなって久しい。
「アクアサンク海底国在日大使館に伝える。こちら日本自衛隊原子力潜水艦飛龍。応答願う。・・・繰り返す。アクアサンク海底国在日大使館に伝える。こちら日本自衛隊原子力潜水艦飛龍。応答願う。」
「日本自衛隊原子力潜水艦飛龍に伝える。こちらアクアサンク海底国在日大使館。何用か。」
「アクアサンク海底国在日大使館、こちら日本国自衛隊潜水艦隊所属の原子力潜水艦飛龍艦長の沖野遥(おきのはるか)。代表者と話をしたい。イスマイル・イルマズ氏は居られるか。」
「原子力潜水艦飛龍の沖野遥艦長に伝える。こちらはアクアサンク海底国在日本大使館通信士の綾乃だ。我が国の代表者は公表されていない。イスマイル・イルマズ日本国自衛隊陸海空軍少将兼防衛顧問はここには居られない。」
「綾乃通信士に伝える。すまなかった、変更する。国の代表者ではなく大使館の代表者と話をしたい。」
「沖野遥艦長に伝える。了解した。貴殿の意向は伝える。その場で待機せよ。」
「了解。待機する。」
1時間後、ニューマンが呼びかけた。
「日本国原子力潜水艦飛龍の沖野遥艦長に伝える。こちらアクアサンク海底国在日大使館のニューマン。応答せよ。」
「アクアサンク海底国在日大使館のニューマン殿。私は日本国自衛隊潜水艦隊所属の原子力潜水艦飛龍の艦長の沖野遥と申します。面会を希望いたします。」
「了解した。『飛龍』と言う艦名では空中飛行ができるのか。」
「短時間ならできます。」
「搭載機はあるか。」
「あります。水中発着艦できます。」
「防御服はあるか。」
「簡易宇宙服があります。」
「了解。宇宙服を着て搭載機に乗り艦上空で待機してください。案内の戦闘機を送ります。大使館内で面会します。」
「了解しました。宇宙服を着て上空で待機します。」
沖田艦長らは米軍と同じような潜水艦搭載機で研究所の庭に降り、滅菌トンネルを通ってガラステラスに入った。
ニューマンは前と同じようにテラスに机と椅子を出して対応した。
「初めまして。私がニューマンです。アクアサンク海底国の軍事衛星で育ちました。隣は母のシークレットです。どのようなお話しですか。」
「お初にお目にかかります。飛龍艦長の沖田遥(おきたはるか)です。右隣は航海士の速田学(はやたまなぶ)、左隣は外務審議官の岡本太郎(おかもとたろう)です。・・・シークレットさんのことは私が自衛隊に入った頃に聞いております。イスマイル・イルマズさんの秘書をなさっていたと聞いております。・・・本日は誠にお恥ずかしいことですが情報を仕入れに参りました。最近アメリカ海軍の潜水艦とこの大使館との間で交信がありました。その後この大使館で会談が行われた模様でした。その前には地球侵略者と地球人との間で分からない言語での交信がありました。何がどうなっているのか分からなくなりアメリカ軍の真似をしてここに来ました。状況をお教えいただけませんか。」
「日本国も自衛隊が生き残っていたのですね。いいことです。・・・アメリカ軍の潜水艦がここに来たのは地球侵略者と地球人との交信が原因だと言っていました。まあ色々な目的はあったのでしょうが。・・・交信の中で『アクアサンク』とい言葉があったので地球側の交信相手がアクアサンク海底国だろうと当たりをつけたそうです。自衛隊は交信場所が分かりましたか。」
「分かりませんでした。でも交信者の片方がニューマンさんの声であることを今確信しました。」
「ペルーのチチカカ湖とこの辺りでの交信でした。私は相手の位置は分かりませんでしたがアメリカ軍は相手の発信場所がチチカカ湖の周辺だと特定したようです。使っていた言葉はホムスク語です。ホムスク語はマリア・ダルチンケービッヒ先生がホムスク宇宙船から学んだ言葉です。交信相手は『ホムンク28号』と言って200億光年離れたホムスク星から来たロボット人です。ホムンク28号はロボット人と宇宙船を作ってアッチラ遠征隊を編成しました。地球に来た者達はそのアッチラ遠征隊で128隻の大型宇宙船に乗った12800人程のロボット人で構成されています。大部分の地球人と動物を殺した疫病はアッチラ遠征隊が撒いたそうです。」
「戦わずして人間や動物を殺すことができるのですね。実に効率的です。・・・現在はそのアッチラ遠征隊はどうなっているのでしょう。宇宙船と人工衛星を撃ち落とされて情報がほとんど入って来ないのです。」
「最初、遠征隊の主力は月の裏に居たのですが現在は地球の各地に町を作って住んでおります。宇宙船の数と同じ127箇所です。日本には会津磐梯山のスキー場を中心に半径2㎞の円形の町を作っています。住民は最初は100人だったようですが現在は分かりません。巨大宇宙船は町の地中に潜っております。直径60mの搭載艇は町の中に居ることになりました。外には出てきません。今はそんな状況です。」
「日本にもそんな町が出来ていたのですね。知りませんでした。分からなかったのは巨大宇宙船が地中に潜っているとおっしゃったことです。分子分解砲で巨大な穴を開けたのでしょうか。」
「違います。宇宙船の質量は地球質量のおよそ10000分の1だそうです。100隻なら100分の1です。そんな宇宙船がこの世に出現すれば地球の軌道自体が変わるかもしれません。そのため宇宙船は常に別の次元に居るのです。正確に言えば『隣接7次元』にいるのです。隣接7次元とは簡単に言えば幽霊の次元で宇宙船は見えますが背景も同時に見えるのです。そんな次元に居る宇宙船はレーダーでは探知できません。こちらからミサイルを撃っても通過してしまいます。始末が悪いことに相手が撃った弾はすぐさまこの世の物になり当たれば爆発します。そんな状態の宇宙船だから地面の中に潜ることができるのです。」
「凄い科学力ですね。」
「地球の恐竜時代に宇宙の地図を作るために地球に来た国ですからね。」
「そんなロボット人とどんな話をしたのでしょうか。」
「停戦を提案し相手も同意しました。もちろんアクアサンク海底国とアッチラ遠征隊との間の停戦です。こちらは攻撃しないし相手は町から出て来ないという条件です。」
「相手はよく同意しましたね。」
「相手にダメージを与えることができたからだと思います。アクアサンク海底国の戦闘機は1隻の大宇宙船を異次元に消し、数隻の大宇宙船に穴を開け、1隻の搭載艇を撃墜し、相手の町に爆弾を落とすことができました。」
「大戦果ではないですか。」
「はい、でも相手の宇宙船は地球では撃墜してはならないと結論しました。」
「どうしてですか。」
「撃墜した搭載艇のエネルギーセルが暴走を始めたのです。ゴビ砂漠でした。周囲の砂を溶かして溶岩に変えどんどん広がって行ったのです。こちらは何もすることができませんでした。直径が10㎞になった時、母船が出動し溶岩を消し、エネルギーセルを持ち上げて宇宙空間に飛び上がりました。エネルギーセルは太陽に投げ捨てたそうです。ゴビ砂漠には直径10㎞、深さ10㎞の穴が空いています。搭載艇でもそれだけのエネルギーを持っているのです。母船を撃墜したら地球は溶岩の海になってしまうかもしれません。それで停戦を提案しました。」
「厄介な敵ですね。」
「アメリカ合衆国には地球に危険を及ぼすような攻撃をするより再建を始めるように提案しました。日本も生き残っている人々を集め再建を始めるようにされたらいかがですか。」
「確かに。侵略者が10000人程度で今の町から出て来ないのであれば再建を始めた方がいいですな。」
「遅くなればなるほど再建は難しくなります。この清水で生き残っていた女性は飢え死にする直前でした。それで日本政府はまだあるのですか。」
「・・・残念ながらほとんど機能していません。実働する人間が居ないのです。まず、給料が入ってきません。電気が止まっていますから銀行が機能していないのです。それにたとえ現金があっても街には人が居ないので使えません。だれしも生き残ることに一生懸命です。幸い私の艦は潜水艦で閉鎖空間ですから疫病に対しては安全です。上下の統制も取れております。みんな仲間ですし潜水艦に居れば生き残ることができると思っているのです。しっかりした組織でなければ生き残っていけないと思います。もちろん誰しも家族はおります。でも誰も家族のことには触れません。」
「普通の人は宇宙服は持っていません。再建するにはまず空気中の病原菌を無くさなくてはなりません。死体や衣服の病原菌を除去しなければなりません。焼却も一つの手段でしょうがガンマー線滅菌が一番便利だと思っています。分子分解砲の搬送波はガンマー線です。変調機を外せば強烈な滅菌線になると思います。気密性のあるドームを作りドーム全体をガンマー線での拡散照射をすれば無菌のドームができると思います。その時には協力しますよ。」
「ありがとうございます。とにかく最近の状況が分かりました。一旦基地に帰って今後の対策を練ろうと思います。また連絡しても宜しいでしょうか。」
「いいですよ、沖田艦長。」
「あのー、少し宜しいですか、ニューマンさん。」
「何ですか、外務審議官の岡本太郎さん。」
「本来、潜水艦に乗っているはずがない立場ですが疫病の様子を見ようと安全な潜水艦で出かけたまま今では潜水艦の客になっております。ニューマンさんはどのようなお立場なのでしょうか。在日大使館の代表はこれまでイスマイル・イルマズ氏だったと思いますが。」
「私はイスマイル・イルマズの子供です。祖父は元外務審議官の川本五郎です。現在父は安全と思われる場所に避難しております。それで在日大使館の責任者と勝手に名乗っているのです。」
「川本五郎外部事務次官は日本のスーパー外交官でした。そうでしたか。日本国はこれまでアクアサンク海底国に日本防衛の一部を担って頂いておりました。今後はどのようになるのでしょうか。」
「・・・どうなりますかね。・・・母さん、どうしたらいいのかな。」
「あら母さんに振ってくるの、ニューマン。・・・そうね。アクアサンク海底国は日本国の安全保障と交換に多くの金員を得ておりました。でも現在では日本の『円』は価値を持っておりません。どんな物と交換できる価値を失っているからです。ですから日本国との契約は自動的に解消されると思います。」
「そうなりますよね。」
「アクアサンク海底国は中央アジア連合とオスマン連合と安全保障条約を交わしております。そちらの方も自動的に解消されると思います。」
「金塊でも同じでしょうか。」
「同じです。今後は買いたい物が買えない状況になると思います。アクアサンク海底国はそれらを自前で作らなければなりません。つまり自給自足の状況になります。多品目少量生産体制です。新たな海底基地を作るかもしれません。アクアサンク海底国の国民はロボット人ですから空気を必要としません。ロボット人は生物人間よりも容易に海底基地に住むことができます。」
「日本国もそうなるのでしょうね。」
「そうなると思います。いずれ衣食住を心配しなければならなくなります。順番は住居、食料、衣料の順です。まず安全に住める住居を作らなくてはなりません。電気と水がある住居ですね。次は食料です。日本政府は多量の備蓄米を保管しています。主食に関しては数年は心配ありません。生鮮野菜は今の冷凍物はダメになっているでしょうから作らなければなりません。衣服は探せば見つかると思います。・・・全ては生き残っている人間の数によって変わってきます。今の子供にはホログラム道路標識や宇宙スクーターの技術を伝えることはできるかもしれませんが、その子供の子供にそれを伝えることは難しくなると思います。数世代が過ぎれば高度な文明製品は残っているが誰も同じ物を作ることができなくなります。文明の崩壊です。生物人間は多人数多様性によって文明を進展させることができました。ロボット人は多人数になることはできませんが死にませんから少なくとも文明の維持はできるだろうと思います。」
「子供の教育が重要なのですね。」
「あるいは文明の閾値(しきいち)を越えることですね。」
「文明の閾値とは何ですか。」
「人間が文明を発展させなくても文明崩壊が起こらない文明の高さです。卑近な例がアッチラ遠征隊です。アッチラ遠征隊を創ったホムンク28号の宇宙船は地球と同程度の質量を持つ宇宙船だったと思います。その宇宙船は自分のエネルギーを使って自分と同じ宇宙船128隻を作りロボット人12000体も作りました。そんな文明の域に達したらその文明はたとえ人口が一人になったとしても衰退することはないと思います。もちろん発展はあまりしないでしょうが。」
「地球文明はそこまでは進んでいないのですね。」
「そう思います。」
「まずは衣食住の住から始め、人間を集めることが重要ですね。」
「避難民ではなく働く人間をです。」
「そう思います。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます