第27話 25、アメリカからの接触
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ニューマンとアッチラ遠征隊のホムンク28号との243㎒(メガヘルツ)での通信は世界中で傍受され興味を持たれた。
国際緊急周波数だったし、宇宙空間のネットワークを通して通信されたし、内容が世界共通の英語ではなく全く分からない言語が使われたからだった。
一方の相手の発信場所が世界の各地に作られた異星人の町からであったことから、通信が地球人と異星人の間でなされた通信であることは分かったが通信の内容は全くわからなかった。
ある日、一隻の原子力潜水艦が海上走行して日本国の駿河湾に入って来た。
日本国の周辺はアクアサンク海底国の哨戒網が敷かれており潜水艦が潜水して日本に近づくことはアクアサンク海底国に対する敵対行動とみなされていたのだ。
原子力潜水艦は航空機と同様に気密性に優れ、フィルターを通して空気中に浮遊しているかもしれない致死性の病原菌を除去できる。
そして何よりも水中で長期に生活できるようになっている。
当該潜水艦は清水港に近づいて243㎒(メガヘルツ)で呼びかけた。
「アクアサンク海底国日本大使館に伝える。こちらアメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオン。応答願う。・・・繰り返す。アクアサンク海底国日本大使館に伝える。こちらアメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオン。応答願う。」
「アメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオンに伝える。こちらアクアサンク海底国在日大使館。何用か。」
「アクアサンク海底国在日大使館、こちらアメリカ合衆国海軍所属、原子力潜水艦スコーピオン艦長のネビル・シュートだ。アクアサンク海底国の代表者と話をしたい。」
「原子力潜水艦スコーピオンのネビル・シュート艦長に伝える。こちらはアクアサンク海底国在日本大使館通信士の綾乃だ。アクアサンク海底国の代表者はここには居られない。それに代表者は公表されていない。」
「綾乃通信士に伝える。了解した。変更する。在日本大使館の代表者と話をしたい。」
「ネビル・シュート艦長に伝える。了解した。貴殿の意向は伝える。その場で待機せよ。」
「了解。待機する。」
2時間後、ニューマンが呼びかけた。
「アメリカ合衆国海軍原子力潜水艦スコーピオン、ネビル・シュート艦長に伝える。こちらアクアサンク海底国在日大使館のニューマン。応答せよ。」
「アクアサンク海底国在日大使館のニューマン殿。潜水艦スコーピオン艦長のネビル・シュートだ。呼びかけに応じてくれて感謝する。聞きたいことがあったのでアメリカ合衆国から来た。聞いてもいいか。」
「ネビル・シュート艦長、質問とは無線でできる内容の質問か。」
「できれば面談したい。」
「了解した。艦載機は搭載しているか。」
「搭載している。」
「防御服はあるか。」
「簡易宇宙服がある。」
「了解。宇宙服を着て搭載機に乗り艦上空で待機せよ。案内の戦闘機を送る。随伴は数名までだ。大使館は大きな建物ではない。」
「了解した。宇宙服を着て上空で待機する。」
ネビル・シュート艦長は部下2人と共に3座の有翼戦闘機に乗り潜水艦上空で待っていた。
ペンシル型の有翼戦闘機は重力遮断でき、円盤機よりも運動性能に優れ、翼を畳めば潜水艦に格納するのに便利だ。
有翼戦闘機は研究所の庭に降り、艦長達は宇宙服を着たまま滅菌トンネルを通ってガラステラスの中に入った。
ニューマンは広いテラスに机と椅子を出し、母と共にネビル・シュート艦長と会った。
「初めまして、私がニューマンです。一応ここの責任者になると思います。隣は母のシークレットです。どのようなお話しですか。」
「初めまして。スコーピオン艦長のネビル・シュートです。右隣は航海士のケント・ギルバートで左隣はアメリカ合衆国の大統領補佐官のスタンリー・クレイマーです。アメリカ合衆国から来ました。・・・最近、地球侵略者と地球人との間で通信がなされました。侵略者側の発信地は南米のチチカカ湖近くの侵略者の町からで地球人側の発信地は特定地点からではなく色々な場所からなされました。会話は知らない言葉でしたが時々アクアサンクという言葉が入っておりました。そこで侵略者とアクアサンク海底国の間の通信であろうと推測し確かめるため合衆国から参りました。心当たりはおありですか。」
「私が通信しました。通信相手は『アッチラ遠征隊』というロボット人の集団で128隻の巨大宇宙船からなる集団です。通信に使用した言語はホムスク語です。」
「ホムスク語というのはどこの国の言葉ですか。」
「ホムスク国の言葉です。ホムスク国は地球から200億光年ほど離れているホムスク星にあります。大宇宙の端ですね。」
「・・・侵略者は200億光年も離れたホムスク星から来たのですか。」
「何て言ったらいいのでしょかね。ホムスク星から来た1隻の宇宙船に乗った1人のロボット人がアッチラ遠征隊を作りました。どこで作ったのかは知りません。」
「どのような内容の通信かお聞きできますか。」
「いいですよ。停戦交渉でした。アクアサンク海底国はアッチラ遠征隊と停戦することになりました。アクアサンク海底国はアッチラ遠征隊を攻撃せずアッチラ遠征隊は町から出ないという停戦条件です。圧倒的にこちらが不利な条件です。・・・『アッチラ遠征隊』という言葉がアッチラ人を意味するのか宇宙船や航空機を意味するのかは曖昧(あいまい)です。アッチラ人の町から分子分解砲で攻撃することはできることになります。相手がどのように解釈しているのかはなってみなければ分かりません。必要な人工衛星を飛ばし宇宙空間に宇宙船で避難することは可能でしょうね。火星の北アメリカ町に食料を運ぶこともできると思います。」
「どうして停戦を提案なされたのでしょうか。」
「勝てないからですよ。相手は強すぎます。相手が破壊するまで攻撃すれば地球が壊れてしまいます。・・・ゴビ砂漠のアッチラ人の町の近くにできた直径10㎞深さ10㎞の穴をご存知ですか。」
「私は知りません。」
「アッチラ人の搭載艇を撃墜したら搭載艇のエネルギーセルが暴走を始めました。搭載艇を輝く金属の塊にし、周辺の砂を溶岩に変えて行ったのです。溶岩の池は直径10㎞、深さ10㎞にもなりました。こちらはなす術(すべ)もなく、見ていることしかできませんでした。やがて地中から母船が出て来て溶岩を分子分解砲で消し、輝き続けているエネルギーセルを釣り上げ宇宙に消えました。現在、そのエネルギーセルは太陽に向かっているそうです。搭載艇でもそれだけのエネルギーを持っているのです。母船はそれ以上のエネルギーを持っているはずです。母船の質量は地球の10000分の1だそうです。この世に居れば地球の軌道に影響を与えますから常に別次元に存在しています。だから地中に潜ることができるのです。ホムスク宇宙船は恒星を消すことができると聞いています。そんな宇宙船のエネルギーセルが暴走したら地球は確実に破壊されると思いました。攻撃するときは地球がなくなってもいいと思った時だけです。だから停戦を提案しました。」
「相手のことをよくご存知なのですね。」
「知る機会に恵まれましたから。・・・アメリカ合衆国の状況を教えてください。以前、世界の各地で呼びかけを行いましたがアメリカ合衆国からの応答はありませんでした。」
「全てを把握しているわけではありません。大部分の一般人は死んだと思います。いち早く核シェルターに入った人間は生きております。政府高官と軍関係の人間は生きております。特に私のような潜水艦業務に就いていた者は生き残っております。」
「現在の地球大気の状況はご存知ですか。測定の手段が見つからないのです。」
「私にも分かりません。実験しようにも感染していない実験動物を見つけること事態が難しいのだと思います。大型動物は居なくなりました。アメリカの自然公園の哺乳動物は居なくなったそうです。鳥類と両生類は生き残っています。爬虫類も生きています。魚類は確実に生き残っております。でも生き残っている動物で試しても無駄ですから。・・・恐ろしい病原菌です。」
「アッチラ人が地球征服のために撒いた病原菌ですからね。インフラを破壊せずに生物人間を殺すことができます。自分たちはロボット人間ですから何ともないんですよ。」
「やはり異星人が撒いたのですか。」
「そうです。そう言いました。」
「どんな病原菌なのかをご存知ですか。」
「知りません。でも耐性を持った人間が居ることは知っています。こんな小さな町でも一人が見つかりました。現在我々と一緒に住んでいます。若い女性です。ですからアメリカ合衆国にも耐性を持って生き残っている人間は相当数いると思います。」
「落ち着けば調査すると思います。今は軍隊の維持も不安がある状態です。とにかく人がいないのです。」
「軍人と役人と政治家だけとは我が国みたいですね。我が国はほとんど軍人ですから。」
「アクアサンク海底国では死人は出なかったのですか。」
「疫病では死にませんでしたがアッチラ遠征隊との戦いで4人が死にました。戦闘機の内部に小型核爆弾を遷移されました。敵の遷移攻撃には手も足も出ません。ひたすら逃げ回るしかありません。」
「敵は核爆弾を戦闘機の中に入れたのですか。」
「そうです。相手の位置が分かれば何でも送り込むことができるようです。核爆弾でも毒ガスでも自在だと思います。ただ強引に一点に押し込む方法みたいですから岩の中には送り込むことはできないと思っています。希望的推測ですがね。」
「凄い科学力ですね。」
「そうです。位置が分かればこの研究所にも核爆弾を送り込むことができるはずです。偵察衛星や無人機を飛ばして世界の状況を知るでしょうから早晩見つかります。停戦を信じているだけですよ。・・・何と言っても相手は1億年続いている文明を持つ国が作ったロボット人ですからね。大宇宙の宇宙地図を持っているんですよ。地球には地図作成のために恐竜時代に来たみたいです。」
「地球人はどうしたらいいのでしょうか。」
「・・・分かりません。とりあえず異星人は居ないと考えて地球の再建を試みたらいかがでしょう。致死性病原菌が浮遊する大気の中で政治家と役人と軍人だけでは難しいと思いますが。」
「そうですな。軍人は守るべき人民が居なくなり、役人は税金を取るための住民が居なくなり、政治家は導くべき大衆が居なくなりました。」
「アクアサンク海底国も顧客が居なくなったので自前で生きていかなければなりません。」
「・・・政治家や軍人の中には核ミサイルで侵略者の町を攻撃しようと言っている者がいます。敵の町は核兵器で破壊できると思いますか。」
「思いません。相手は7次元シールドと呼んでいるシールドを張っております。それはホムスク文明の最終防御法だと聞いています。何物も通さないそうです。分子分解砲も核爆発も遷移攻撃もです。核兵器での攻撃は町の周囲を荒らしますからアッチラ人は嫌がるでしょうね。そんなことをした相手が北アメリカだと分かれば北アメリカ大陸を海に変えるかもしれません。そんなことをした政治家や軍人は自殺してもアメリカ大陸を消した責任を取ることができません。まあ、そんな人たちは何かと理由をつけて自殺なんてしないでしょうがね。」
「アメリカ大陸を海にですか。」
「惑星を消すことができる敵ですから。・・・アッチラ遠征隊が何で地球に来たのかは分かりません。ホムスク宇宙地図で見つけたのかもしれません。敵はいざとなれば地球を消して別の惑星に行くことができるはずです。そんな決断をさせてはいけません、シュート艦長。」
「やられたのに反撃しないのですか。」
アメリカ合衆国大統領補佐官のスタンリー・クレイマーが言った。
「大統領補佐官のスタンリー・クレイマーさんでしたね。確かに反撃したら溜飲(りゅういん)は下がるでしょう。でも反撃は相手にダメージを与えなければ別の意味を持つものになります。まるで巨体のプロレスラーに2歳の子供が殴りかかって行くようなものになります。それは反撃とは言えません。相手が微笑んでそれを受けてくれている間はいいのでしょうが、度が過ぎれば子供は壁に叩きつけられます。」
「どうしたらいいと思われますか。」
「私の考えは先ほど答えました。アッチラ人は無視して地球を再建するのです。今は火星と似ていると思います。外に出ることができません。でも火星より有利なことがあります。太陽の光は強く、地上で農作物を作ることができ、海では魚を取ることができます。空気はフィルターを通せばいくらでも吸うことができます。水はよく分かりませんが当面地下水を利用すればいいと思います。死体を焼却し新しい無菌の町を作って行くのです。火星の町のように洞窟を利用してもいいし、巨大なドーム町を作ってもいいと思います。アクアサンク海底国のように海底都市を作ってもいいし巨大な宇宙ステーションを作ってもいいと思います。疫病の病原菌の研究を始め対処法を見つけることも必要です。そんな広範な計画は政治家の得意とする所だと思います。町ができれば人も集まります。・・・今は働く人間はあまりいないでしょうが軍隊があります。軍人を中心として街づくりを始められたらいかがでしょうか。食糧危機になっている火星町の住人を呼んでもいいですね。5万人は居ると思います。」
「大統領に話してみましょう。」
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