第26話 24、ホムンク28号との通信 

<< 24、ホムンク28号との通信 >>

 ニューマンは敵宇宙船との交信に使ったネットワークに地上との交信ができる送受信機を加えてホムスク語で呼びかけを行った。

地球に生き残っている者が聞くかもしれないので243㎒(メガヘルツ)の軍用国際緊急周波数を用いた。

「アッチラ遠征隊の代表に伝える。こちら地球のニューマン。ホムスク語で話しかけている。同一周波数で応答せよ。繰り返す。アッチラ遠征隊の代表に伝える。こちら地球のニューマン。ホムスク語で話しかけている。同一周波数で応答せよ。」

応答は3回の呼びかけの後に来た。

 「地球のニューマンに告げる。こちらアッチラ遠征隊のホムンク28号。アッチラ遠征隊を創った者だ。何用か。」

「ホムンク28号、最初に搭載艇のエネルギーセルの暴走を処理してくれたことに対して感謝を伝えたい。地球自体の危機が起きそうな状況だった。」

「地球のニューマン。私も推測できなかったので処理した。現在エネルギーセルは太陽に向かっている。ニューマンが搭載艇を撃墜したのか。」

「私の国が撃墜した。搭載艇は攻撃に対して母船よりも脆弱だったようだ。母船への攻撃と同じように攻撃してしまった。以後の攻撃は墜落しない様に攻撃するから安心していい。・・・提案と質問をしたいので呼びかけた。話を続けていいか。」

「続けよ。」

 「部分的な停戦を提案したい。地球は多数の国で構成されている。私の国はアクアサンク国と言い、その中の一つだ。それゆえ私には地球を代表する権限はない。停戦は我国とアッチラ遠征隊との間の停戦だ。停戦が成立すれば我国は127箇所のアッチラ人の町を攻撃しない。アッチラ遠征隊は町から出ないで欲しい。それが停戦条件だ。・・・地球の他の国は分子分解砲も核兵器も持っているが隣接7次元に居ることはできない。7次元シールドを張った町は核攻撃されても無傷だし分子分解砲での攻撃に対しても無傷だ。停戦できるか。」

「・・・アクアサンク国と停戦しよう。停戦を解消する時には伝える。」

「停戦が成立したことに感謝する、ホムンク28号。こちらも停戦を解消する時には伝える。・・・次に質問したい。質問していいか。」

「いい。」

 「地球にはホムスク人が住んでいる。少なくとも15万年以前から住んでいる。ホムスク星の大航宙時代にG13号という宇宙船が太陽系で遭難しG14号、G15号、G16号という3隻の宇宙船がその救助に向かった。宇宙船の救助など当時としては異例のことだったそうだがホムスク星から宇宙地図の作成を止めて救助に向かうよう命令されたそうだ。だがG13号は見つからず3隻のホムスク人は地球に居着いた。これはG16号の電脳から聞いた話だ。理解できるか。」

「理解できる。」

 「宇宙船には1000人のホムスク人が冷凍冬眠されていたので一年ごとに少しずつ眠りから起こしホムスク人の国を作った。3つの国になったらしい。・・・ホムスク人の染色体は32本で地球人の染色体は46本だ。そのためホムスク人と地球人の間に子供を作ることは難しい。だが『子宝草』を使えば混血の子供が生まれる。G15号の国はそうしたらしい。貴殿には分からないだろうが場所は南アメリカという大陸だ。G16号の国のことは分からない。大天変地異が起こって滅びたらしい。南極という大陸だ。宇宙船G16号は溶岩に埋まっていた。宇宙船G14号のホムスク人は地球人と交わったり近親相姦を繰り返したりして現在まで生き残っている。ここまでが現状だ。理解できたか。」

「ホムスク人がこの惑星に居たとは知らなかった。理解できた。」

 「・・・100年ほど前にホムンク12号が地球に来た。超空間通信機の実験に興味を持ったらしい。ホムンク12号は混血のホムスク人と握手をすることはできたが純粋なホムスク人には近づくこともできなかったそうだ。現在、我が国には3人の純粋なホムスク人が暮らしている。ホムスク人の村には22人の純粋なホムスク人が住んでいたそうだが疫病が蔓延してから連絡がとれない。都市に出て行っていたホムスク人とも連絡が取れない。アッチラ遠征隊が撒(ま)いた病原菌で死んだと思われる。・・・そこでホムンク28号に質問する。ホムンク28号は純粋なホムスク人を殺すことができるようになったのか。」

 「・・・ホムスク人を殺すことは禁忌(きんき)事項だ。その場に出会わなければ分からないが、それが変わっているとは思えない。」

「それはホムンク28号が作ったロボット人でも同じか。」

「同じだと思う。電脳アルゴリズムは同じはずだ。」

 「ホムンク28号はホムスク人を見たことがあるか。」

「ある。ホムスク星で遠くから垣間見(かいまみ)たことがある。」

「白く輝いていたか。」

「輝いていた。ホムンク12号から聞いたのか。」

「そう言っていたと聞いたことがある。私が生まれる前の話だ。ホムスク人特有のオーラに依るのかもしれないな。」

 「オーラとは何だ。」

「ホムンク28号は生物人間を直接見たことがないのか。髪の毛の先から出ている色の着いている湯気だ。」

「今度見てみよう。」

「とにかく停戦は成立した。最後にホムンク28号に言っておきたいことがある。言ってもいいか。」

「時間は十分にあると思う。」

 「ホムンク28号が地球を侵略したことには怒りを覚えるが感謝することもあった。ホムンク28号はアッチラ遠征隊を作る際に自分の宇宙船の中性子を使ったのだと思う。アッチラ遠征隊の宇宙船の質量が小さかったことからそう思った。それは大宇宙にとって良いことだ。過去に行って中性子星を持ってくることもできただろうがホムンク28号はそれをしなかった。それをしたら巨大な6次元世界が出現したはずだ。多数の6次元世界がこの大宇宙に出現したら大宇宙のビッグバン以来続いている大宇宙の拡大での均衡が崩れてしまう。結果としてビッグバンの反対の現象、ビッグクランチが起こるだろうと想像している。そうなったらホムスク星も地球も関係なく大宇宙の全ての物質は一点に収縮し、再度のビッグバンになるだろうと想像している。そうなったら我々は対処できない。逃げる場所もない。それゆえホムンク28号が自分の中性子を使ったことに感謝している。」

「ニューマンが言ったことを考えてみよう。」

 「これで通信を終える。そちらからの呼びかけにはこの周波数を使えばいい。この243㎒(メガヘルツ)は軍用国際緊急周波数で万国共通だ。どこの国も傍受することができる。だがホムスク語はおそらく誰も知らない。」

「了解した。通信終わり。」

 通信を終えてニューマンは母に言った。

「母さん、ホムンク28号が出て来たよ。」

「そうね。ということはアッチラ遠征隊ってのはホムンク28号が作ったって言うことね。」

「どうして地球に来たのか聞けばよかった。ホムスク人を殺すことは禁忌(きんき)事項だって言っていたから地球にホムスク人が居るって本当に知らなかったんだね。」

「そうなるわね。」

 停戦が始まると地球は暫く静かになった。

アッチラ遠征隊の搭載艇が出て来なくなったからだ。

ホムスク人の岩倉一家は研究の隣に建てられたマンションに住むようになり、近くの放棄された畑を再開墾し野菜栽培を始めていた。

自動運転の耕運機はGPSが使えなくなっていたので手動の耕運機を使用した。

野菜の種も耕運機もエネルギー電池も無人の店から借用した。

 ミミーはそれを手伝い農業を学んだ。

水田に興味を持ち、適当な水田を見つけて稲作を始めた。

もちろん岩倉一平の助言を受けた。

 五十鈴川玲子はニューマンの学習装置を貸してもらい、再学習を始めた。

それが終わると研究所の庭に停まっていた円盤艇のシルバーに頼み込んで宇宙船に保存されていたホムスク文明の粋を学び始めた。

最初にホムスク文字を学び、次に1億年に亘る文明で生き残った文学、音楽、科学、そしてホムスク国の歴史を学んだ。

ホムスク国の歴史はいかにしたら1億年の文明が成就できたかを語っていた。

もちろん歴史はホムスク国の大航宙時代までの物だったが、それはホムスク人が最も高揚感に満たされていた時代だった。

 ニューマンは悩んでいた。

アクアサンク海底国の今後についての悩みだった。

アクアサンク海底国は軍事国家だ。

軍事力を基盤として他国を守り報酬を受けてそれを生活の糧としていた。

ところが地球から人間が居なくなった。

国も無くなっているだろう。

アクアサンク海底国の顧客が居なくなったのだ。

アクアサンク海底国は独自で生き延びなければならなくなったのだ。

 「母さん、地球の人間がほとんど居なくなったらアクアサンク海底国はどうしたらいいんだろうか。強い軍隊があっても相手がいなくなってしまった。」

「そうね。生活に必要な全てを生産しなければならなくなるわね。イスマイル様がおっしゃっておられたように1億人の人間集団がいなければ人間文明は衰退していくでしょうね。どうしてだと思う、ニューマン。」

 「・・・どうしてかな。文明は文明を継承していく者が居なくなれば衰退する。継承する者は子供。子供は文明の糧を学ぶ時間を必要とする。そんな子供が大人になって色々な方面に少しずつ進歩をもたらしていく。だけど人数が少なければ全ての面に広がることはできない。どうすれば子供を増やすことができるか。子供が増えても安定した生活ができることが必要。・・・母さん、人間は食べ物がなければ生きていけないからだ。」

「飛躍があったようだけど母さんもそう思うわ。1000万人しかいなかったらどうすべきだった。」

 「父さんは共産主義にすべきだって言った。リーダーが計画を立てて進展させればいいって言ってた。」

「そうだったわね。アクアサンク海底国の人口は戦闘機の電脳も含めて戦闘員が10000人で工員が5000人の15000人よ。食物を食べる必要はなく原子電池の充電が必要になる。その電力は小型の原子力発電で供給される。原子炉の燃料は高速増殖炉で十分に生産される。ロボット人間は生物人間より生きるのが楽ね。」

 「・・・作らなければならない世の中の物の数ってどれくらいだろう、母さん。」

「分からないわ。2030年頃のアマゾンって言うお店の品数は数億品だったらしいわ。項目だけなら数千万項目くらいだって記憶がある。」

「人間の力って凄いね、母さん。少人数では文明は発展しないわけだ。」

「それだけ品物を作る人間が自分で食料を作らなくても食べていけるからよ。」

 「アクアサンク海底国の人数を増やした方がいいかな。余剰人間だろうけど。」

「それが良(い)いかもしれないわね。イスマイル様は今までは必要な人数しか作らなかった。ロボット人が増えることは地球の生物人間にとっては脅威だったから。」

「ダルチンケービッヒ先生のような研究者も出てくるかもしれないね。」

 「アクアサンク海底国の工場は第2基地の造船所よ。造船所は宇宙船を作っている。宇宙船には文明の最終産物で最先端の知識と技術と材料が使われているわ。造船所で作れない物はないって思えるほど。イスマイル様は造船所で使う物を作る工場も時間をかけて少しずつ造船所内に移転してきたの。ネジを作る工場から半導体を作る工場まで採算を度外視して移転されたの。だから足りないのは食料と鉱物原料だけ。その原料も人間が居なくなっていれば外国の土地から自由に採掘できる。アクアサンク海底国は当分安泰よ。」

 「地球でどれだけの人間が生きているんだろう。玲子さんじゃあないけどそろそろ生産を始めなければ飢え死にしてしまうはずだろ。」

「あらどうかしら。お米を炊くことさえできれば生き延びることができると思うわ。ニューマンの1食のご飯は170gの2パックだから340gよ。お米はご飯にすると2.3倍になるからお米の重さでは148g。1日3食とすれば1日で443g。1ヶ月で13㎏ね。1年で160㎏。10m四方の1アール当たりの米の収穫量は53㎏だから160㎏なら3アール(300㎡)ね。普通の人ならその半分だから150㎡。46坪の水田があれば一生食べていけるわ。ごま塩があればもっといいけど。」

「母さん、生身の人間はご飯だけ食べて生きていくことはできないよ。」

「そうでした。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る