第25話 23、搭載艇の撃墜 

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 メレック号と円盤型搭載機は無事に清水区の研究所上空に着いた。

メレック号が先に地上に着地し、その隣に円盤機が着地した。

メレック号からはシークレットと宇宙服を着たニューマンが出て、円盤機の梯子の下で待った。

円盤機からは宇宙服を着た二人半が降りて来た。

岩倉一平は大きなトランク2個を持っていた。

 「川本研究所にようこそ、岩倉さん。」

「お世話になります。」

「隣は私の息子のニューマンです。紹介は室内で行いましょう。この家の出入り口は2箇所で玄関の風除室とガラステラスにあります。どちらにもエアシャワー室とガンマー線滅菌機がついたトンネルがあって出入りはそこを通らなければなりません。エアシャワー室はフィルターを通った強い風で衣服に付いた病原菌を吹き飛ばす装置でガンマー線滅菌機はガンマー線を当てて病原菌のDNA鎖を分断させる装置です。入ったら指示に従ってトランクを脱衣箱に入れエアシャワーを浴びてから前に進んでください。トランクはその間に滅菌されます。トランクを受け取ってから玄関からお入りください。室内は陽圧になっていますから外から病原菌は入りません。宇宙服は玄関で脱いでもいいし家の中で脱いでもかまいません。宜しいですか。」

「分かりました。」

 「それではニューマンが最初に入ります。その後岩倉さん御一家。最後は私が入ります。円盤機はここに留まるように伝えます。将村に帰るための足ですから。」

シークレットは岩倉にそう言ってからシルバーにホムスク語で言った。

「シルバーさん、シルバーさんはしばらくここに停まっていてください。キャノピーは閉じておいてください。連絡が必要なことが生じたら小電力の無線で発信してください。ホムスク語でもOKです。」

「了解しました、シークレットさん。」

 研究所の居間には五十鈴川玲子とミミーがお茶とお菓子とコーヒーとミルクセーキを準備して待っていた。

皆が集まるとシークレットが言った。

「紹介します。面白い組み合わせですね。最初は私でイスマイル様に作られたロボット人で160歳です。私の隣の青年は私の息子でイスマイル様がお造りになった12倍体人間のニューマンです。その隣は五十鈴川玲子さんで大学生でした。五十鈴川さんは疫病に耐性がありました。確認してありませんがおそらくニューマンと同じ多倍体人間です。その隣はミミーさんと言って火星の北アメリカ町の住民でした。火星に帰れなくなったので此処に住んでいます。言ってみれば火星人ですね。・・・その隣の男性は岩倉一平さん。16万年以上前から日本に住み着いている遺伝子的に純粋なホムスク人です。その隣の女性とお嬢さんは岩倉一平さんの奥様とお嬢様です。・・・お嬢ちゃん、お名前は何て言うの。」

 「岩倉明美、3歳。」

「おりこうね、歳も分かるんだ。お母さんの名前は何て言うの。」

「岩倉朋花。」

「おりこうさんね。お菓子を食べてもいいわ。おいしいわよ。追分羊羹(おいわけようかん)って言ってね、ここの名物なの。ミルクセーキも飲んでね。」

母の膝に乗った娘は母を見上げ、母はうなずき許可を与えた。

「ありがとう。」

そう言って娘は母の膝からすべり降りて追分羊羹を頬張った。

ホムスク宇宙船にお菓子はなかったらしい。

 岩倉一平が言った。

「岩倉一平です。猪苗代湖の畔(ほとり)の将村の住人です。疫病が流行り始めたので宇宙船に避難しておりました。よろしくお願いいたします。」

シークレットが応えた。

 「将村に人影はなく音声で呼びかけても応答はありませんでした。将村には何人のホムスク人が住んでいたのですか。」

「22人が住んでいました。正常で元気なホムスク人は将村を出て大都市に行っていました。将村に残っていた人間の半分は身体的に欠損を持った人間でした。子宝草でもそれは防げませんでした。東京から村人が戻って来たので宇宙船に避難してしまったのです。」

 「分かりました。岩倉さん達には3週間ほどここで暮らしてもらいます。研究所の隣に機密性があるマンションを早急に造ります。防疫機能を持ったマンションです。五十鈴川さんもミミーさんもそこに住んでもらいます。この研究所にはお客様用の小さな部屋しかありません。マンションは十分な広さがあり電気があり水があり生活に支障はないと思います。食料も十分にあります。ただ夜は灯火管制をいたします。マンションだけが灯りが点いていれば目立つからです。窓を開けて星空を見ることはできません。」

 「ありがとうございます。他の人と話せることが何よりだと思っています。」

「宇宙服は連続3時間使えます。半日吊るしておけば元に回復します。この研究所は郊外にあります。ですからマンション周囲に畑を作ることができます。まあ実際には雑草が生えている畑を元に戻すことになります。清水の街には生きている人間は居ないと思いますが、街に出る時は兵士の護衛を付けてください。清水の街のことは五十鈴川さんに聞いてください。清水は五十鈴川さんが育った街ですから。」

「何から何までありがとうございます。」

 暫くしてからアッチラ人の町に対するアクアサンク海底国の新たな攻撃が始まった。

それは上空50㎞から大型爆弾を落とすことだった。

コリオリの力を考慮し、風向きを考慮すれば50㎞の上空から半径2㎞の的に当てることはそれほど難しいことではない。

爆弾の先端にはサイクロトロン砲が付いており着弾直前に7次元シールドを破るために発射される。

 7次元シールドが破れるかどうかはサイクロトロン砲と着弾のタイミングに依(よ)っている(らしい)。

一重の7次元シールドではシールドが破れる場合があった。

二重の7次元シールドでは突破することは難しいかもしれなかったが、試してみる価値はあった。

うまく二重シールドを突破できれば幸運だ。

 投下から着弾までの時間(終速度にはならないとするとおよそ100秒)は投下後に逃げ出すには十分だった。

戦闘機は隣接7次元にいるので分子分解砲は効(き)かない。

畢竟(ひっきょう)爆弾を戦闘機内に遷移させる遷移攻撃になる。

だが、ホムスク船といえども50㎞離れている7mの高速戦闘機を捉えて爆弾を遷移させるのは難しいだろう。

 結局アッチラ人は爆弾が落下中に分子分解砲で爆弾を消そうとするだろう。

だがそうなったら爆弾自体を着弾直前まで隣接7次元にいるようにすればいい。

武器は常に進歩するものだ。

 128箇所のアッチラ人の町に対して1日1町1発が128日かけて投下された。

127個の爆弾は7次元シールドで跳ね返されたり予測が外れて地上で爆発したりしたが、最後128日目の1発の爆弾が7次元シールドを破って町の地表で破裂した。

それは7次元シールドで守られたアッチラ人の安寧(あんねい)を破る事件だった。

破裂した爆弾が通常爆薬ではなく核爆弾だったら小さな町は壊滅していたろう。

無敵の7次元シールドが破られた事実を重視したアッチラ人町は搭載艇を出して町の上空を守ることにした。

 アッチラ遠征隊の搭載艇は直径60mの球形で本艦とほとんど同じ性能を持っていた。

強力な分子分解砲を持ち、あらゆる7次元位相界に入ることができ、7次元位相経由で10万光年を一瞬で遷移でき、過去にも未来にも行くことができ、何物も通さない7次元シールドを張ることができた。

違いは積んでいる中性子を使ったエネルギーセルの量による。

一億年続いたホムスク文明が作り出した(おそらく)最終の宇宙船だった。

 アクアサンク海底国の戦闘機隊は搭載艇が防空任務に着いたのを待っていたかのように搭載艇攻撃を始めた。

母艦との違いは1000mの大きさか60mの大きさかだけだった。

場所はゴビ砂漠の上空。

オアシスを含むアッチラ人の町の上空だった。

 シースルーケープを張って探知されないように接近し、ケープを格納して分子分解砲に対して安全な隣接7次元に移行し、宇宙船の一方向から密集隊形で全速で突っ込み、距離500mでサイクロトロン砲と分子分解砲を同時に発射し、直ちに八方に全速力で離脱逃走した。

遷移攻撃を受けて戦闘機内部に小型の核爆弾を送り込まれたらそれは運がなかったことになる。

戦いではよくあることだ。

 結果、直径60mの搭載艇にはおよそ500個の穴が開き、500箇所に凹みが生じた。その搭載艇は本船の場合と違って地上にゆっくり落下した。

落下の途中で宇宙船は背景が見えなくなり砂漠の地上に激突した。

隣接7次元から7次元ゼロ位相に戻ったためだった。

暫くすると搭載艇の外壁は赤く輝き内側に陥没していった。

外壁は赤の光輝から金色に変わり搭載艇の周囲の地面からは蒸気が吹き出した。

 爆発ではなかった。

莫大なエネルギーが連続的に周囲に供給されているようだった。

搭載艇のエネルギーセルが暴走しているらしい。

搭載艇は白金色に輝く球になっていった。

球の周囲の砂は溶解し体積を減らし溶岩の池を形成した。

やがて白金色の球は溶岩に沈み姿を消した。

 溶岩の池は周囲の砂を溶解して次第に大きくなり、池の表面のそこかしこからガスを噴き出して溶岩をはね散らした。

溶岩池の大きさが10㎞になってアッチラ人の町に近づくと地中に潜んでいた巨大な宇宙船が空中に飛び出して来た。

巨大宇宙船は溶岩池の真上に移動し高空から溶岩池に向かって分子分解砲を放射した。

溶岩は原子に分解され風に乗って拡散した。

 宇宙船は分子分解砲を放射し続け直径10㎞、深さ10㎞の穴を作った。

穴の底の中心に白金色の塊が現れ、それはなおも周囲に熱を供給し続けていた。

宇宙船は塊に近づき船首と船尾から拘束ビームを照射して金属塊を空中に釣り上げた。

宇宙船は塊を空中に釣り上げたまま上昇し、宇宙空間に消えていった。

後にはアッチラ人の町の横にできた直径10㎞、深さ10㎞の穴が残った。

宇宙に消えた宇宙船が太陽の引力圏(いんりょくけん)でエネルギーセルを太陽に投げ捨てたか、エネルギーセルの暴走を止めて再使用したのかは分からなかった。

 そんな様子は高空から撮影された。

ニューマンは映像を見て母に言った。

「それにしても敵は凄まじいエネルギーを使っているんだね、母さん。」

「ほんとね。どんな核爆弾だって直径10㎞の溶岩池を作ることはできないし、溶岩池を作ったエネルギーセルを持ち上げるなんてことは地球の技術ではできないわ。」

 「今回は敵の母艦が後始末をしてくれたけど、そうしなかったら地球に巨大な穴が空いたかもしれなかったね。チャイナシンドロームだ。」

「穴だけで済めばいいけどね、ニューマン。エネルギーが無くなるまで大陸全体を溶岩に変えていったかもしれないし、海に接したら海が沸騰するかもしれなかったわ。・・・これで敵宇宙船の搭載艇は地球で撃墜できなくなったわね。」

「ホムスク宇宙船が惑星を消すことができる分子分解砲を持っているってことは知っていたけど実感したよ。搭載艇であれだからね。母艦のエネルギーセルが暴走でもしたら地球は小型太陽になるかもしれない。厄介な敵だ。・・・時間が必要な気がするよ、母さん。」

 「そうね。宇宙空間には敵の宇宙船は居なくなったのだから各国の宇宙船は宇宙に出ることができるようになったわね。まだ生き残っていればだけど。」

「こちらは確率は悪いけど7次元シールドで守られたアッチラ人の町を攻撃できた。その攻撃を防ぐために出て来た搭載艇も撃墜することができた。だが撃墜したら地球が壊れるかもしれないほどの破壊をもたらした。みだりに敵搭載艇を撃墜できなくなったわけだ。ましてや母艦を攻撃して母艦のエネルギーセルが暴走したら僕らは地球が壊れていくのを黙って見ているしかない。アッチラ人にしても地球がなくなったらここに来た意味がない。だから母艦を宇宙空間から地中に移したんだと思う。・・・停戦を提案してみようか、母さん。」

「それがいいかもね。地球の生き残りもわかるし。」

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