第24話 22、ホムスク人の村
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ニューマン達は猪苗代湖の湖畔に住んでいるホムスク人と連絡を取ることにした。
生死を含め状況を確かめるためだった。
メレック号を隣接7次元にして高速道路に沿って北上し、首都東京を通り過ぎ、猪苗代湖に向かった。
高速道路上では動いている乗り物とは出会わなかった。
各種のホログラム道路標識も消えていた。
もちろん広大なサービスエリアに人気(ひとけ)は無かった。
この時代にあっても、高速道路は物流の主要幹線になっていた。
重力遮断の技術が民間にも広まり、自動車は空中を自在に走行することができるようになっていた。
しかしながら重力遮断での走行は飛行機や船と同様に急停止することができない。
そのため空中を走行する自動車は道路上空を走らなければならないようになっていた。
高速道路上ではその速度に応じて上下に通行区分がなされ、早い自動車ほど高い位置を走らなければならなかった。
もちろん、ゴムタイヤを着けて地上を走る自動車もあった。
そして相変わらず日本国では左側通行だった。
猪苗代湖の東側、将村がホムスク人の住む村だった。
メレック号は船体の一部を地中に入れたまま湖畔に沿った道を北上し、湖畔の道から外れて将村に着いた。
将村は3方を山で囲まれ1方が湖に面していた。
畑は山際まで広がり、中央には集団住居と思われる5階建てのビルディングといくつかの倉庫といくつかの工場らしき建物が建っていた。
畑には雑草が生えていた。
将村は磐梯山山麓にあるアッチラ遠征隊の町からは山が影になって見えなかった。
メレック号は将村の広場の地表に停まり、30分間ほど待機した。
建物から出てくる人間は居なかった。
シークレットは拡声器で呼びかけた。
『将村の住民に告げます。この乗り物はアクアサンク海底国の宇宙船で、私はアクアサンク海底国のシークレットです。生きている方は居られますか。居られましたら何らかの合図をしてください。繰り返します。将村の住民に告げます。この乗り物はアクアサンク海底国の宇宙船で、私はアクアサンク海底国のシークレットです。居られましたら何らかの合図をしてください。』
応答はなかった。
その後、何度か呼びかけたが応答はなかった。
「応答がないわね。死んでいるのかしら。少し危険だけど無線で呼びかけようか。」
シークレットはそう言って121.5メガヘルツの民間緊急周波数で呼びかけた。
『将村の住民に告げます。この乗り物はアクアサンク海底国の宇宙船で、私はアクアサンク海底国のシークレットです。生きている方は居られますか。居られましたら応答してください。』
応答はなかった。
シークレットは暫く考えてから呼びかけ先を変え、日本語で発信した。
『宇宙船G14号のマザーのG14号さんに伝えます。こちらアクアサンク海底国の宇宙船、メレック号のシークレット。以前あなたが会ったことがあるマリア・ダルチンケービッヒの友人です。応答願います。付近にホムスク語を話す敵性ロボット人集団が町を作っております。傍受を恐れ日本語で発信しております。応答は小出力でホムスク語ではなく日本語でお願いします。」
直ちに応答があった。
『アクアサンク海底国の宇宙船、メレック号のシークレットに伝える。こちら宇宙船G14号のG14号。何ですか。』
『連絡できて良かったG14号。聞きたいことがいくつかあります。最近この惑星、地球に128隻のホムスク巨大宇宙船が来たことを知っていますか。』
『知りません。』
『G14号、ホムンク12号を知っていますか。』
『会ったことはありませんが知っております。』
『G14号、ホムンク28号を知っていますか。』
『知りません。』
『G14号、地球に来た128隻の大宇宙船はホムンク28号が作った宇宙船であり、同じくホムンク28号が作った12800人のロボット人が乗っております。そのことを知っていますか。』
『知りません。』
『G14号。地球に来た128隻の大宇宙船団は『アッチラ遠征隊』と言います。ホムスク語を話します。アッチラ遠征隊は地球に致死性病原菌を撒きました。地球の人間は大部分が死にました。病原菌のことは知っていますか。』
『知っています。』
『G14号。この村、将村のホムスク人は生きていますか。』
『一部の人は生きております。』
『それは良かった、G14号。この無線に出られますか。』
『聞かなければ分かりません。』
『聞いていただけませんか。G14号。』
『聞いてみましょう。暫くお待ちください。』
返事は30分後に来た。
『アクアサンク海底国の宇宙船、メレック号のシークレットに伝える。将村の岩倉一平だ。何か用か。』
『・・・岩倉一平さん。私はアクアサンク海底国のシークレットと申します。岩倉という姓には記憶があります。岩倉洋平(いわくらようへい)あるいは岩倉明人(いわくらあきひと)さんをご存知ですか。』
『知っている。岩倉明人は父の名前で岩倉洋平は祖父の名前だ。』
『岩倉一平さん。私は岩倉洋平さんの時代にこの村のことを知りました。岩倉一平さんは何百万年前にホムスク星から地球に来たホムスク人の子孫であることをご存知ですか。』
『知っている。父から聞いたし、この宇宙船に入って確信しました。』
『岩倉一平さん。ホムスク人は肉体的には地球人と変わりませんが染色体数が地球人の46本と違って32本になっております。そのため地球人との間で子供ができにくいようになっています。岩倉洋平さんの奥様は伊能早智子さんという将村出身の方でした。岩倉明人さんの奥様、岩倉一平さんのお母様は将村のご出身ですか。』
『染色体数が違っているとは知らなかった。母は秋山翔子と言って将村の出身です。』
『岩倉一平さん。秋山という姓にも記憶があります。秋山翔子さんとは秋山傑(あきやままさる)さんのお子様ではありませんか。』
『よく知っていますね。秋山傑は母方の祖父の名前です。』
『岩倉一平さん。私の友達であるマリア・ダルチンケービッヒは岩倉洋平さん、伊能早智子さん、秋山傑さんと友達でした。私はマリアから皆さんのことを聞きました。・・・岩倉一平さんは地球に異星人が侵入して来ているのをご存知ですか。』
『知っています。人工衛星や宇宙船が破壊されているのをニュースで知りました。』
『岩倉一平さん。異星人はアッチラ遠征隊と言って長さが1㎞もある巨大宇宙船128隻から成っております。宇宙船に乗っているのはロボット人です。アッチラ人と言っています。アッチラ人は地球人を殺すために致死性の病原菌を撒(ま)きました。病原菌のことは知っていますね。』
『知っています。この村でも多くの人が死んだ。・・・と思います。』
『岩倉一平さん。岩倉一平さんはどうやって生き残ったのですか。』
『東京や大阪に行っていた人間が村に戻って来ました。疫病は空気感染だと聞いていたので家族を連れて宇宙船に避難しました。この宇宙船は数人しか生活できません。部屋が小さくて少ないのです。食事はロボットが用意してくれています。村はどうなっているのですか。』
『岩倉一平さん。私はこの村に来たばかりで詳しくは分かりません。人気(ひとけ)はなく、呼びかけても返事はありません。建物は無傷で残っているようです。』
『そうか。死んだんだろうな。他の場所はどうなっているのですか。』
『岩倉一平さん。私は静岡から来ました。その途中では人間には出会いませんでした。道路標識は消えておりました。・・・岩倉一平さんのご家族は何人ですか。』
『妻と子供一人です。』
『そうですか。まだ外に出ない方がいいと思います。生活にご不便はありますか。』
『文字と言葉が分からないのが不便です。それと人恋しいですね。』
『岩倉一平さん。静岡市の清水区では病原菌に耐性がある人間が見つかりました。今は我々の基地で一緒に住んでおります。ですから日本中にはまだ生き残っている人がたくさんいると思います。岩倉さんも我々と一緒に住みたくなったら知らせてください。』
『どのようにして知らせたらいいのですか。』
『岩倉一平さん。普通なら無線連絡すればいいのですが、それはここでは危険かもしれません。この近くのスキー場にアッチラ人が町を作っております。岩倉さんがいる宇宙船から強烈な電波を出せば発信地が分かってしまいます。・・・ちょっと待っていてくださいね。・・・G14号さん、指向性が高いX線通信機を積んでいますか。』
『積んでいますが通信機が違えば通じないと思います、シークレットさん。』
『そうですね、G14号さん。とにかくこの村はアッチラ人の町にあまりに近すぎます。分子分解砲の1放射で地面ごと消されてしまう可能性があります。・・・さてどうするか。』
『岩倉です、シークレットさん。・・・私たちはここを出て皆さんと一緒に暮らしたいと思います。この宇宙船は無傷で残すべきだと思います。』
『そうしていただければ安心です、岩倉さん。・・・ご家族は暫く静岡市のアクアサンク海底国の大使館で過ごしていただきます。早急に大使館の近くに防疫機能が付いたマンションを建てましょう。そこには五十鈴川玲子さんという大学生とミミーさんという火星の娘さんも住むと思います。防疫機能が付いていますから病原菌は入って来ませんし宇宙服を着れば外出することができます。必要な物があれば将村に取りにくればいいと思います。それで宜しいですか。』
『それでOKです。』
『G14号さん。2台の搭載艇がありますね。搭載艇を出すことができますか。』
『できます、シークレットさん。』
『確か、三人乗りでしたね。』
『そうです。』
『そうしましたら岩倉さん御一家を乗せて静岡に連れて来てください。アッチラ人に見つからないようにメレック号が先導します。』
3時間後、岩倉一家を乗せた円盤型の搭載機が宇宙船から猪苗代湖の水中に飛び出した。
メレック号は船体の半分を水面下に沈め搭載機を誘導した。
アッチラ人の町から十分離れると搭載機は低空を進み静岡に向かった。
富士山の陰に入るとシークレットは3000mの上空で3着の宇宙服を持って搭載機に飛び、円盤機のキャノピーを開けてもらい宇宙服を渡した。
「初めまして、岩倉さん。シークレットです。ここは上空3000mです。病原菌は地表よりは少ないと思います。研究所に入るのに地上を歩かなければならないので宇宙服を持って来ました。宇宙服の着方はご存知ですか。」
「知っています。シークレットさんはロボットだったのですか。」
「160年前に作られたロボットです。・・・お嬢さんは大人用の宇宙服には小さすぎますね。お母様は抱っこして宇宙服を着ていただけますか。いくらでも伸びますから。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「どういたしまして。・・・ロボットさん。シークレットと言います。あなたの名前は何ですか。」
シークレットは洋服を着ているロボットに言った。
「・・・。」
「了解。ホムスク語がいいわね。・・・ロボットさん。私はシークレットと言います。あなたの名前は何ですか。」
シークレットは途中からホムスク語で言った。
「私の名前はシルバーと言います。マリアさんに名前を付けていただきました。この服もマリアさんに着せていただきました。」
ロボットはホムスク語で答えた。
「大切に着ているのね。日本語が話せるのはG14号さんだけなのですか。」
「そうです。」
「了解。これから静岡市清水区の研究所に行きます。以後の指示は無線でホムスク語で行います。通話できる最小の出力で応答してください。」
「了解しました、シークレットさん。私は研究所に行ったことがあります。」
「そうだったわね。マリアが他の宇宙船を探す時に来たわね。」
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