第23話 21、アッチラ遠征隊の町

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 1000機の戦闘機のサイクロトロン砲と分子分解砲の同時攻撃で敵宇宙船の片側には500個の穴が開き500個の凹みが生じた。

穴が開いたのはサイクロトロン砲で開けられた7次元シールドの穴に分子分解砲が通過して宇宙船に届いたからで、凹みが生じたのはサイクロトロン砲だけが宇宙船に届いたためだった。

攻撃したブルー大隊の戦闘機1機が内部からの核爆発で消えた。

敵宇宙船の前方方向に逃げた一機だった。

 2次攻撃は行わなかった。

攻撃は相手に気づかれずにサイクロトロン砲の射程1000m以内まで近づかなければならない。

そのためにはシースルーケープを張らなければならない。

その時には7次元ゼロ位相に居なければならない。

警戒した敵船はランダムに強力な分子分解砲の拡散放射で宇宙船周囲を照射するかもしれない。

それは宇宙船全周に亘って行われるだろう。

そんな照射に当たったら一瞬で1000機が消されるかもしれなかった。

逆に分子分解砲では消されない隣接7次元位相で接近を試みれば、遠くから遷移攻撃を受け続けることになる。

 さらに別の問題もあった。

敵宇宙船は地球の10000分の1の質量を持つ。

多量の中性子をエネルギー源として積んでいるからだ。

敵宇宙船が破壊され隣接7次元から7次元ゼロ位相に戻って地球に落ちたらその衝撃だけで地球は(おそらく)深刻な被害を受ける。

 また敵宇宙船は長さ1000mの巨大な船体を銀河系の端から端まで一瞬で遷移させることできるだけのエネルギーを出すことができるエネルギー源を持っているはずだ。

惑星を消すことができる分子分解砲のエネルギーを供給するエネルギーセルを持っているはずだ。

そんなエネルギーセルが破壊され、そのエネルギーが放出されれば地球は(おそらく)さらに深刻な被害を受ける。

太陽系もその影響は免れないだろう。

敵宇宙船は完全に破壊してはいけないやっかいな宇宙船なのだ。

 攻撃された敵宇宙船は7次元に遷移して逃げることもせず移動して逃げることもしなかった。

何らかの損傷を受けたに違いない。

他の場所にいた6隻の敵宇宙船は攻撃された宇宙船に近づきその周囲を防御するように囲んだ。

 敵司令官は動揺していた。

それまで無敵だったホムスク宇宙船が攻撃され航行不能になったのだ。

ホムスク宇宙船同士が戦ってもどちらも傷付かなかった宇宙船が損傷を受けた。

それも恒星間宇宙飛行もできない程度の惑星からの攻撃で損傷を受けたのだ。

そして損傷を詳細に調べさせた。

 3つの事実が分かった。

1、敵は隣接7次元位相界に居る宇宙船を攻撃できた。

2、敵は7次元シールドを突破できたが突破できない場合もあった。

3、敵の攻撃は宇宙船内部の7次元シールドを突破できなかった。

一つ目は宇宙船の外壁に凹みが生じていたことから明白だった。

二つ目は宇宙船の外壁に穴が開いていたことと凹みが生じていたことからの推測だった。

三つ目は敵の分子分解砲が7次元シールドを個別に張ってあるエネルギーセル室や中性子塊保管室や中枢装置を破壊できなかったからだった。

 それを知って敵司令官はニヤっとした。

相手兵器の限界が見えたからだった。

相手は隣接7次元に居ることができ、隣接7次元に居て7次元シールドを張ったこちらの宇宙船を攻撃することができたが、宇宙船内部の7次元シールドを破壊することはできなかった。

つまり7次元シールドを何枚も張れば敵の攻撃を跳ね返すことができることになる。

盾は1枚よりは2枚がいい。

それは宇宙船では難しいことだったがこれから作る町では容易なことだった。

 数日経つと穴が開き宇宙空間に漂(ただよ)っていた宇宙船は修理が終わったらしく地球に接近し地表に降下していった。

場所はサハラ砂漠の中央部のオアシス近くで地上に着くとそのまま地中に潜って行って消えた。

暫(しばら)くするとオアシス周辺に多数の建設資材らしき物が地上に突然出現した。

地中の宇宙船から遷移された物だ。

次に搭載艇と思われる直径60mの宇宙船が地中から出現し、中から多数のロボット人が出てきた。

ロボット人達は出現した建材を使って次々と瀟洒(しょうしゃ)な建物を建て、オアシスを含む小さな町が出来上がった。

 その町は7次元シールドで覆われているようだった。

それはサハラ砂漠の砂嵐の時に分かった。

小さな町を中心として半径2㎞の範囲には砂塵は侵入しなかったからだった。

そんな様子はシースルーケープを張ったステルス偵察機からアクアサンク海底国に伝えられた。

 「母さん、アッチラ遠征隊はとうとう地上に町を作ったね。」

ニューマンは映像を見て母、シークレットに言った。

「そうね。攻撃はもう不可能に近いわね。」

「それにしても、宇宙船はうまい格納庫に入れたね。思いもしなかった。隣接7次元状態で地中深くに潜られたらサイクロトロン砲もお手上げだ。分子分解砲で土を消しても隣接7次元では効果はないしどんどん深くに潜られたらどうしようもない。」

 「推測だけど、あの町の7次元シールドはサイクロトロン砲でも破壊できないと思うわ。7次元シールドを多重に張っていると思う。だから安心して町の建設を始めたのね。」

「最初のシールドを破って次のシールドを破ろうとする頃には最初のシールドが復活してしまうんだね。」

「そう思うわ。人口100人のロボット人町ね。」

 月裏にいた120隻の宇宙船も動き始めた。

一隻一隻と飛び立ち、地球に向かい、好みの場所に着陸し、地中に潜ってから搭載艇と建築資材を吐き出し自分たちの好みの町を作った。

アマゾンや他の密林に町を作った宇宙船もあれば、海に接するナブミ砂漠に町を作った宇宙船もあれば、奇怪な岩山がある中華人民共和国湖南省張家界の景勝地に町を作った宇宙船もあれば、アンデス山脈のチチカカ湖岸に町を作った宇宙船もあった。

果(は)たして地球には巨大な宇宙船が地中に潜んだ121箇所のロボット人町が出来上がった。

 日本には会津磐梯山の裾野、猪苗代湖のスキー場を中心にして半径2㎞の町を作った。

当然その中には日本人の街が含まれたが、異星人達は街を表土ごと分子分解砲で綺麗に消してから1日で生育する芝生を植えた。

 ニューマンはそれを知って母に言った。

「母さん、猪苗代湖だよ。なんであそこに町を作ろうとしたのかな。あそこにはホムスク人の末裔が住んでいて猪苗代湖の中には大昔の宇宙船が沈んでいるんだろ。猪苗代湖は宇宙人好みの場所なのかね。」

「さあ、分からないわ。宇宙から届く宇宙線が少ないのかしら。・・・地球のホムスク人が販売していた『子宝草』は猪苗代湖の近くでしか育たなかったそうよ。子宝草はホムスク人が子供を作るのに欠かせない草なの。猪苗代湖はホムスクのロボット人にとっても特別な場所なのかもしれないわね。でも近くにホムスク人がまだ住んでいたらアッチラ遠征軍のロボット人はびっくりするでしょうね。」

 「ホムスク人はまだ生きているだろうか。」

「そうね、リーダーに依るわね。賢いリーダーなら早期に宇宙船に避難していると思うわ。それに宇宙船には『治療箱』とか言う何でも治すことができる機械もあるそうだから。」

「なぜホムスクロボット人はホムスク人を気にするんだろう。」

「マリアの話だと、ホムスクロボットはホムスク人には頭が上がらないそうなの。マリアが会ったホムンク12号はホムスク人に会ったら近づくこともできなかったそうよ。命令には絶対従わなければならないんですって。」

「それじゃあ気になるね。ホムスク人に連絡を取らなくてもいいかな。」

 「少し怖いわね。ホムスクロボット人の行動が予想できないから。・・・まず、ホムスクロボット人の町とホムスク人の住んでいる村は近すぎるわ。ホムスク人に連絡を取ろうとしたらその動きはおそらく直ぐに探知される。怪しそうな辺りに分子分解砲を撃つかもしれない。地面ごと抉(えぐ)り取られるわ。それにホムスク人なんて恐れることはないって思っているかもしれないし、昔の宇宙船を見つけたら消してしまうかもしれない。それに何とも厄介な物が宇宙空間にいる6隻の宇宙船ね。6隻では地球全体を監視するのは難しいけど居るかもしれないし居ないかもしれないって状態が厄介ね。まず、宇宙空間に居れば攻撃されるかもしれないって思わせることが重要だと思うわ。空に宇宙船が居なくなれば色々な行動を採れる可能性が高くなると思うわ。」

 「町を広げようとしなければこのまま居ても問題を生じないね。」

「生き残っている人間の数が問題ね。イスマイル様が言っておられたように全世界でバラバラに100万人しか生きている人間が居なかったら数世代で地球文明は滅びるわ。」

「地球は面白い星になるね。土着地球生物人間とアクアサンクロボット人間とホムスクロボット人間と居るかもしれないホムスク人間の共存惑星だ。」

「ニューマンは面白い発想をするのね。」

「母さんの影響だよ。」

 数週間後、機体を緑に塗ったグリーン大隊の戦闘機の敵宇宙船に対するゲリラ攻撃がなされた。

攻撃方法はブルー大隊と同じだった。

受動的隣接7次元探知機でアッチラ遠征隊宇宙船の遊弋パターンを調べ、攻撃しやすい敵宇宙船の目星をつけ、戦闘機1000機が予想進路宙域でシースルーケープを張って待ち伏せした。

 敵宇宙船が真横に来るとシースルーケープを格納し、隣接7次元に移行してからサイクロトロン砲と分子分解砲を同時に発射し、直ちに四方に全速力で離脱逃走した。

グリーン隊の攻撃には250機による特殊高速ミサイル攻撃も行われた。

サイクロトロン砲を積んだ高速ミサイルが相手に衝突する寸前にサイクロトロン砲を撃って隣接7次元と7次元シールドを突破し、宇宙船の舷側にぶち当たり、積んであった緑色の塗料を舷側に撒き散らした。

塗料の代わりに小型核爆弾を載せることもできるという示威行為だった。

果たして敵宇宙船の舷側には250箇所の凹みと500箇所の穴と20箇所の緑色のペンキ跡が着いた。

 この攻撃では2機の戦闘機が敵の遷移攻撃によって内部爆発した。

小型戦闘機1000機による攻撃は巨大なホムスク宇宙船にとっては厄介な存在だろう。

隣接7次元に居るので分子分解砲の拡散放射で一瞬に全滅させることができない。

遷移攻撃で相手艦に爆弾を送り込むにしても相手は早く小さく方向を常に変えて逃走するので狙いを着けるのが難しい。

それに1機や2機を破壊しても1000機の相手にとっては微々たる損害だろう。

そして宇宙船には確実に数百の穴が開いていくのだ。

厚みが500mもあるので貫通する穴はないが宇宙船の中枢近くにまで達している。

 さらに数週間後、地球周辺の宙域を遊弋するアッチラ遠征隊宇宙船の数は5隻になった。

攻撃を受けた宇宙船が地上に降下し地中に潜りそこに町を作ったからだ。

残りの5隻も数週間後にアクアサンク海底国のレッド大隊戦闘機1000機のゲリラ攻撃を受けると地上に降下し地中に潜って地上に町を作った。

地球のホムスクロボット人町は127箇所になった。

そしてアクアサンク海底国のロボット大隊には127箇所の町の観測業務が生じた。



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