第22話 20、敵船との交信

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 イスマイルは続けた。

「三つ目は敵の言葉を知ることだ。言葉を知らなければ交渉もできない。マリアは日本語ーホムスク語の通訳機を残していった。それをお前にやろう。ホムスク語を覚(おぼ)えよ。相手がホムスク語を話すかどうかは分からんが知っておくことに問題はない。シークレットはホムスク語を知っているはずだ。」

「分かりました、父さん。」

 「グレース、お前たちもホムスク語を覚えておくがいい。渡り合う敵と言葉が通じれば対応に幅ができる。」

「承知しました、イスマイル様。」

5大隊の司令官が同時に言った。

 「それからグレース、お前たちに知っておいて欲しいことがある。敵宇宙船を完全破壊する時は高次7次元位相でして欲しいのだ。マリアの報告によれば150万年前の旧型ホムスク宇宙船は中性子物質を積んでいたそうだ。船内には中性子塊の保管庫があったそうだ。中性子塊を移動させて加速度を中和したり中性子を使ったエネルギーセルをエネルギー源にしていたそうだ。今度地球に来た新型宇宙船も多量の中性子を積んでいると思われる。新型宇宙船の質量は地球質量規模だとマリアが言っていたがそれは中性子塊を積んでいるからだと思う。そんな宇宙船が完全に破壊され地球に中性子塊が降り注げば地球自体が不安定になって自壊するかもしれない。それ故、完全に破壊する時は高次7次元位相でして欲しいのだ。」

「承知しました、イスマイル様。」

 「何とも厄介な宇宙船だな。・・・今造船所ではサイクロトロン砲を着けたミサイルを作らせている。サイクロトロン砲で穴を開けて同時にミサイルが飛び込むわけだな。ミサイルは通常の爆薬の他、核弾頭を持つ物もある。7次元シールド内で核爆発が起これば宇宙船は破壊するだろう。その時に中性子塊やエネルギーセルはどうなるかが問題だ。軍艦は普通、破壊されることを前提として設計される。もしそうだとすれば中性子塊は7次元シールドで船体とは別に囲まれているはずだ。これは核爆発でも破壊されない。そうなっていることを願うばかりだ。」

「承知しました、イスマイル様。」

 「少し眠くなった。・・・ニューマン、ワシが眠っている間はお前がアクアサンク海底国の指揮を取れ。大隊司令官はニューマンに従え。」

「承知しました、イスマイル様。」

「父さん、僕はまだアクアサンク海底国の全貌を知らないよ。」

「シークレットはワシより良く知っている。シークレットに聞けばいい。」

「・・・やってみます。」

「少し安心だ。」

 ニューマンは第2海底基地に戻るとさっそくホムスク語の勉強を始めた。

五十鈴川玲子とミミーがそれに参加した。

父から貰ったヘッドフォンにマイクとスピーカーを取り付け単語の記憶から始めた。

日本語で「やま」とマイクに言えばスピーカーからホムスク語の「やま」が発音された。

その音を真似(まね)てホムスク語の「やま」と言えばスピーカーからは日本語の「やま」が発音された。

 ミミーはそれを日本語ー英語の通訳器を通して英語の「やま」を聞いた。

3人とも暇だったので一日中勉強を続けた。

まだ異星人の言葉がホムスク語だとは分かっていないが、もしもホムスク語だったら通訳は重要な仕事になる。

たとえ地球語ーホムスク語の通訳器ができたとしてもだ。

 1ヶ月ほど経つとホムスク語は4人の共通語になった。

食事の時の会話もホムスク語で話すようになった。

問題は相手がホムスク語を話すかどうかだった。

ニューマンは異星人と接触を試みることにした。

 受動的隣接7次元探知機によれば地球の周りに遊弋(ゆうよく)している敵宇宙船の数は8隻から7隻に減っていた。

穴を開けられ逃げるように消えてしまった敵宇宙船はまだ戦列に復帰していないようだった。

ニューマンは敵宇宙船に見つからないように衛星軌道上に3個の無線器を置き指向性電波で連携させた。

指向性電波を使えば発信源の特定は難しい。

受信はどの無線機でも受けることができる。

ニューマンはメレック号から通常電波で発信した。

 「異星人の宇宙船に告げる。こちら地球のニューマン。ホムスク語で話しかけている。言葉が通じるなら同一波長で応答せよ。繰り返す。異星人の宇宙船に告げる。こちら地球のニューマン。ホムスク語で話している。言葉が通じるなら同一波長で応答せよ。」

3回の呼びかけに宇宙船からの応答があった。

発信源は敵宇宙船の一隻だった。

 「地球のニューマンに告げる。こちらアッチラ遠征隊。ホムスク人か。」

それはホムスク語だった。

「アッチラ遠征隊の応答者に告げる。こちら地球のニューマン。言葉が通じて幸いだった。ホムスク人か。」

「地球のニューマンに告げる。こちらアッチラ遠征隊。ホムスク人か。」

「地球のニューマンだと伝えている。ニューマンは名前だ。貴殿には名前がないのか。」

「・・・アッチラ遠征隊7番艦の186号だ。ニューマンはホムスク人か。」

 「アッチラ遠征隊7番艦の186号、貴殿はアッチラ遠征隊の指導者か通信士か。指導者と話をしたい。」

暫くして応答があった。

「地球のニューマンに告げる。アッチラ遠征隊7番艦の艦長のオメガだ。話を聞こう。質問もする。」

 「オメガ艦長に告げる。この惑星系は太陽系と言う。そしてこの惑星は地球と言う。アッチラ遠征隊が地球に来た目的は何だ。」

「地球に住むためだ。ニューマンはホムスク人か。」

「・・・私はホムスク人ではない。オメガ艦長は何人だ。」

「・・・私はアッチラ人だ。ニューマンは何人だ。」

「私は地球人だ。貴殿の宇宙船には少なくとも貴殿と通信士、186号が居る。その型の宇宙船は通常ホムンク1名が乗っていると思っていた。貴殿はホムンクか。」

 「・・・ホムンクを知っているのか。私はホムンクではない。ホムンクに作られたロボット人だ。ニューマンは何故(なにゆえ)ホムスク語を知っているのか。」

「・・・ホムスク語はホムスク宇宙船の通訳器から学んだ。アッチラ遠征隊は128隻の宇宙船から構成されていると思われる。アッチラ遠征隊には何人のロボット人が居るのか。」

「・・・12800人から構成されている。ニューマンは何故宇宙船の数を知り得たのか。」

「探知できたからだ。アッチラ遠征隊が地球に病原菌を撒(ま)いたのか。」

「そうだ。・・・8番艦が戻ってこない。ニューマンが攻撃したのか。」

 「そうだ。分子分解砲で無警告攻撃されたので反撃した。損傷はあったが消えた。どこかの7次元位相界に居るはずだ。動かなければ7次元探知装置があれば見つけることができる。・・・そうとは限らないか。質量によるな。・・・質問する。ホムスク宇宙船は惑星規模の質量を持っていたはずだ。質量の大部分は中性子だ。アッチラ遠征隊の宇宙船の質量はどの程度だ。」

「おそらく地球質量の10000分の1程度だ。ニューマンは7次元探知装置を持っているのか。」

「貴殿らを作ったホムンクは自分の宇宙船の中性子を使ってロボット国を創ったようだな。いいことだ。7次元探知装置は持っていない。今考えたばかりの想像の産物だ。質量探知すればいい。簡単だからすぐに作れるはずだ。・・・質問する。太陽系第3惑星の地球の衛星は月と言う。月は大昔は第5惑星の衛星だった。最新のホムスク宇宙地図にどのように記載されているのかは分からない。アッチラ遠征隊の宇宙地図には月はどのように記録されているのか。」

 暫く間があった。

「月は第3惑星の衛星だと記録されている。ニューマンはなぜそんなことを聞くのか。」

「興味本位で聞いた。ホムスク星の大航宙時代に一隻のホムスク宇宙船が太陽系で遭難した。そんな遭難はよくあることで通常は無視されるそうだがホムスク星の為政者はなぜか3隻もの宇宙船を太陽系に救助に向かわせた。遭難した宇宙船にはホムスク星の為政者の関係者が乗っていたのだろうと推測している。救助に向かった宇宙船が地球に到着した時には月は第3惑星の衛星になっていたそうだ。それがホムスク星に報告されていたのかどうかを知りたかっただけだ。救助に向かった宇宙船から報告されていたのだな。・・・質問する。アッチラ遠征隊を創ったホムンクは何号だ。」

 「・・・ホムンク28号だ。ニューマンはなぜそんなことを聞くのか。」

「これも興味本位で聞いてみた。地球にはホムンク12号が来たことがある。ホムンクがどの程度の規模で大宇宙に派遣されていたのかを推測したかっただけだ。ホムンク宇宙船は惑星規模の中性子塊を積んでいる。それがホムンクをしてホムスク国の代行者たらしめていると聞いたことがある。ホムスク星ができることならホムンク宇宙船ができるということだな。ホムスク星がどの程度の中性子星を保持しているのかを知りたかっただけだ。それは大宇宙にどの程度の中性子星があるかの推測をも助ける。・・・質問する。月の裏側に停泊している120隻の宇宙船はいつ地球に来るのか。」

 「・・・不明だ。地球が落ち着いてからだ。ニューマンは月の宇宙船の場所を知っているのか。」

「・・・地球が落ち着かなければ主力部隊は来ないわけだな。主力部隊の場所は知らない。だが、隣接7次元位相にいて7次元シールドを張っているだろうことは想像できる。7次元ゼロ位相に居たら宇宙船の質量で月の軌道が変わるからだ。・・・これで通信を終える。通信に応えてくれてありがとう、オメガ艦長。アッチラ遠征隊は明らかな意思を持って地球を侵略しようとしていることが分かった。」

 ニューマンは通信を終えて母のシークレットに言った。

「母さん、情報を与えすぎたかな。」

「そんなことはないわ。地球はホムスク星の為政者と関わりがあるってことを知らせたわ。大昔のホムスク宇宙船があることも知らせたしホムスク人が居るかもしれないことも匂わせました。月が地球の衛星であることが宇宙地図に載っているならホムスク宇宙船はホムスク星と連絡ができることを意味します。ですから地球の様子はホムスク星に伝えられる可能性があります。私がアッチラ遠征隊のリーダーなら今後は慎重な行動を取るでしょうね。」

 「ホムスク人の末裔はまだ生きているのかな。」

「分からないわ。アッチラ遠征隊が地球に撒いた病原菌でホムスク人が死んだとしたらアッチラ遠征隊はホムスク人を殺したことになるわ。地球にあるホムスク宇宙船の電脳はホムスク星に連絡するかもしれないわね。」

「ホムスク語で通信したんだから地球のホムスク宇宙船の電脳はアッチラ遠征隊が病原菌を撒いたことを知ったね。」

「そう思うわ、ニューマン。」

 アクアサンク海底国のロボット大隊によるゲリラ攻撃が始まった。

最初はブルー大隊1000機だった。

受動的隣接7次元探知機(PDS、パッシブ・ディテクション・システム)でアッチラ遠征隊宇宙船の遊弋パターンを調べ、攻撃しやすい敵宇宙船の目星をつけ、戦闘機1000機が予想進路宙域でシースルーケープを張って待ち伏せした。

敵宇宙船が近づくと地球側から敵船の500mまで重力航法で静かに接近し、シースルーケープを格納し、隣接7次元に入ってからサイクロトロン砲と分子分解砲を同時発射した。

発射後はサイクロトロンエンジンでの20Gの加速で四方に逃げ出した。

 隣接7次元に居れば敵宇宙船の強力な分子分解砲の攻撃に耐えることができた。

だが隣接7次元に居ても敵の核爆弾遷移攻撃を防ぐことはできない。

核爆弾遷移攻撃を防ぐにはシースルーケープで姿を隠すことしかない。

ところがシースルーケープを張るには7次元ゼロ位相に居なければならなかった。

だが7次元ゼロ位相に居たら分子分解砲の拡散放射で簡単に消されてしまう。

本当はシースルーケープを張って隣接7次元に行ければいいのだが現段階ではそれができなかった。

攻撃には犠牲が伴うことになった。

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