第21話 19、宇宙空間での戦い
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ブラック大隊司令官グレース・チェリク(鋼のグレース)は通報を受け直ちに戦闘機隊に散開を命じた。
「ブラック隊の戦闘機全機に告げる。グレースだ。直ちに隣接7次元に遷移せよ。第1中隊100機は囮(おとり)になる。月、地球の軸線上に小さく輪状に待機せよ。敵が近づいたら全力で軸線上を逃げよ。他の9中隊は中隊ごとに軸線周囲に大きく分散待機せよ。第1中隊を除く全機はシースルーケープを展開せよ。この辺りには受動的隣接7次元探知機は撒(ま)かれていない。探知は独自でするしかない。辺りの映像を撮れ。変化のあったところが敵だ。だが同士討ちには注意せよ。軸線に直角方向の射撃はするな。」
果たして異星人の宇宙船は真っ直ぐブラック隊に近づいて来た。
レーダーに多数の機影が映ったので確認のため近づいてきたのだろう。
ブラック隊の戦闘機が隣接7次元に入ってレーダーから機影が消えると宇宙船は加速を止め等速で近づいて来た。
星明りしかない暗黒の宇宙ではレーダーで探知できなければレーザー探知装置を使うか映像で見るしかない。
敵宇宙船は中隊群が円形に展開している場所を通り過ぎ、その先の第1中隊100機を発見した。
敵宇宙船から紫色光線がコーン状に発射され、光線は第1中隊の戦闘機群全体を覆った。
分子分解砲が発射され、ガンマー線で宇宙空間の水素分子が発光したのだった。
紫色光線は戦闘機群を通り過ぎて宇宙に消えていった。
戦闘機群は原子に分解されることなく宇宙空間に浮かんでいた。
敵の分子分解砲で消されなかったのだ。
第1中隊の戦闘機群は直ちに全力で逃走を始めた。
航宙母艦は10Gの加速しか出せないが戦闘機は20Gの加速ができる。
ロボット兵士はそんな加速度に耐えることができる。
第1中隊の戦闘機群100機は小さな輪状になっていたが逃走を始めると輪の大きさを次第に大きく広げていった。
敵宇宙船は再び分子分解砲を発射した。
今度の光線の軌跡は拡散したコーン状ではなく太い棒状をしていた。
その光線は輪状に逃走していた戦闘機の1機を完全に貫いたのだがその戦闘機は消えることなく逃走を続けた。
1000mの長さを持つ敵宇宙船の艦長は驚いた。
小さな相手機は分子分解砲の光線が当たっても原子に分解されなかったのだ。
相手は自分と同じ隣接7次元に居ることになる。
この星は重力制御ができてはいたが軍事レベルは低く、これまで宇宙に上がって来た宇宙船は全て分子分解砲で消すことができた。
中には分子分解砲を発射する宇宙船もあったがその威力は小さなものだったし隣接7次元に居る自艦に被害はなかった。
ところが隣接7次元に居る宇宙船が出現した。
相手間はたった7mの大きさの宇宙船だが隣接7次元に居て結構早い加速で逃走している。
艦長は相手機を捕まえようと思った。
接近すれば牽引ビームで相手を拘束することができる。
拘束してしまえば惑星規模の質量を持つ宇宙船を連れて動くことはできないだろうと考えた。(著者注19-1)
10Gで加速し続けている戦闘機ではあったが、敵宇宙船は当該戦闘機に次第に近づいて来た。
「全機シースルーケープを格納、相手宇宙船を攻撃せよ。攻撃は小隊ごとサイクロトロン砲で攻撃せよ。発射には同期を取れ。攻撃場所は相手艦の尾部だ。サイクロトロン砲の射程距離は1000mだ。接近してから射撃せよ。」
ブラック大隊司令官グレース・チェリク(鋼のグレース)が命令した。
999機の戦闘機は10機ごとに纏(まと)まって20Gの加速度で敵宇宙船を追った。
囮となった1機は直角に方向を変え味方機の接近が容易になるようにした。
追撃機の最初の10機は敵宇宙船の後方500mまで接近しサイクロトロン砲を敵宇宙船艦尾部に向けて発射した。
惑星規模の質量を持つ敵宇宙船は吹き飛ばされることもなく、その動きに変化はなかったが尾部に小さな凹みが生じた。
隣接7次元に居る敵宇宙船は当然7次元シールドも張っていただろう。
サイクロトロン砲が隣接7次元も7次元シールドも同時に破った瞬間だった。
ブラック隊の戦闘機は敵宇宙船に接近し、サイクロトロン砲を発射して離脱していった。
100個ほどの凹みが敵宇宙船尾部にできた時、戦闘機の1機が内部から爆発した。
小型の核爆発だった。
続いてもう1機の戦闘機が爆発した。
「全機、直ちにシースルーケープを展開せよ。攻撃は中止。小隊ごとに散開せよ。敵宇宙船は小型核爆弾を戦闘機内に遷移させている。位置を特定させるな。サイクロトロンエンジンは使うな。重力航法で移動せよ。」
ブラック大隊司令官グレース・チェリク(鋼のグレース)が直ちに指令した。
ブラック隊の戦闘機は消えた。
レーダー波は通過するのでレーダーでの索敵はできない。
画像による索敵も姿が見えないからできない。
赤外線を通過するから温度による検知もできない。
それ以後、遷移攻撃されて内部爆発する戦闘機は出なくなった。
敵艦長は再び驚いた。
一つは7次元シールドを張った自船が損傷を受けたからだった。
これまで7次元シールドが破られたことはなかった。
砲弾や核爆発は通らないし、分子分解砲は跳ね返すし、7次元経由の物質転送もできなかった。
どんな物も通さなかったのだ。
ましてや、現在宇宙船は隣接7次元にいる。
隣接7次元の世界では撃ち出された物は重力場があるためかゼロ位相に戻るので砲弾は通り過ぎてしまうはずだった。
重力がほとんどない高次7次元位相界とは違う。
高次7次元位相界では撃ち出された物のポテンシャルエネルギーは保持されるので砲弾は通り過ぎることはなく当たる。
もう一つは相手が消えてしまったことだった。
小型核爆弾の遷移攻撃は成功した。
目標が確定できれば何でもその目標に送り込むことができる。
それを阻止するには7次元シールドを張るしかない。
遷移攻撃が成功したということは相手は7次元シールドを張っていないということだ。
だが相手は消えてしまった。
相手は隣接7次元に居るのだからレーダーでは探知できないことは分かっていたが、レーザー探知装置でも探知できなくなった。
隣接7次元であろうが高次7次元であろうが宇宙船が見えさえすればレーザー探知装置で探知できるはずだった。
だが相手宇宙船は消えてしまった。
敵の艦長は予想しなかった事態に困惑した。
戦闘機の姿が見えなくなったので敵宇宙船は加速を止め等速飛行に移った。
ブラック大隊司令官グレース・チェリクはそれを見て発信した。
「ブラック隊全戦闘機に告げる。敵宇宙船の分子分解砲はこちらが隣接7次元に居る限り効果がないことが分かった。敵宇宙船の遷移攻撃は姿を消していれば目標にされないことも分かった。一方、我が方のサイクロトロン砲は隣接7次元にいる宇宙船に届くことが分かった。また7次元シールドを一部崩壊させることも分かった。攻撃方法を伝える。小隊ごとに纏(まと)まれ。各機はサイクロトロン砲と分子分解砲を同時発射せよ。タイミングの取り方が重要だと思うが適正なタイミングは不明だ。シースルーケープを張って接近せよ。射撃目標は定めない。相手は長さ1000m、太さ500mだ。衝突するな。片側から攻撃せよ。攻撃後は直角に離脱せよ。射撃後は直ちにシースルーケープを張れ。第2中隊から順次攻撃せよ。」
シースルーケープを張った戦闘機は針の先ほどのカメラをケープから出して全周を見ている。
互いの姿が見えない状況で衝突しないのは訓練による団体行動に依(よ)る。
第2中隊の100機は10機ごとに纏(まと)まって敵宇宙船の側面から攻撃した。
敵宇宙船の動きを予想し、300mの距離まで接近し、シースルーケープを格納し、サイクロトロン砲と分子分解砲を同時発射し、シースルーケープを張ってから上方に離脱した。
100機の戦闘機のうち5機が放った分子分解砲は敵宇宙船に穴を開けた。
95機は敵宇宙船の外壁を凹ませた。
分子分解砲が穴を開けた時のタイミングはブラック大隊の全機に伝えられた。
第3中隊100機の攻撃では15機の戦闘機から放たれた分子分解砲が敵宇宙船に穴を開けた。
第4中隊100機の攻撃では20機の分子分解砲が敵宇宙船に穴をあけた。
第5中隊でも20機が穴を開けた。
第6中隊の攻撃は行われなかった。
敵宇宙船が突然消えたからだった。
敵宇宙船は高次7次元位相界に遷移したようだった。
ブラック大隊司令官グレース・チェリクは全機に伝えた。
「全機に告げる。攻撃中止。シースルーケープを格納し中隊ごとに広く隊伍を組め。その後、シースルーケープを張って重力航法で地球に帰還する。衝突に注意せよ。」
ブラック大隊は地球の海底基地に戻った。
戦いの模様は直ちに第一海底基地のイスマイルに報告された。
ニューマンとシークレットは連絡を受け10000mの海底にある第一海底基地に行った。
イスマイルは明るい光に満ちたガラステラスの縁側にベッドを出して横たわっていた。
ガラステラスのフロアにはブラック大隊のグレース・チェリク(鋼の優雅)、ブルー大隊のミレイ・チェリク(鋼の月光)、及びレッド大隊、グリーン大隊、シルバー大隊の司令官が立っていた。
昔はアクアサンク海底国の大隊の司令官は航宙母艦に搭載された電脳であったがその電脳は人型ロボットに移植されていたのだ。
人型の方が会話を含め、何かと便利だったのだ。
イスマイルが言った。
「ニューマン、来たか。敵宇宙船との戦いを聞いたな。」
「聞きました、父さん。」
「サイクロトロン砲は無敵だった7次元シールドを破ったようだな。単独ではダメだったようだが分子分解砲との併用で敵艦に小穴を開けることができた。戦闘機はサイクロトロン砲と分子分解砲を同時に発射したようだがシールドを破ったのは2割だった。7次元シールドが崩壊するのは一瞬のようだな。微妙なタイミングが必要だ。自動化させて何回か試せば適切なタイミングは自(おの)ずと決まるだろう。」
「同じ土俵に上がることができます、父さん。」
「そうだな。だが色々な心配事がある。一つ目はこの地球にどれだけの人間が残っているかだ。1億人の人間が残っていて一ヶ所に集まれば文明は進展できる。日本国程度だな。共通語は英語がいい。地球文明の資産は英語で書かれている。1000万人しか生き残っていなかったとしたら文明の発展は難しい。東京都程度だな。その場合は社会主義や共産主義を強制的に強(し)いて文明を維持しなければならない。県程度の100万人だとしたら絶望的だ。言葉が通じない100万人が世界に散っていたらこれまでの遺産を食い尽くしたら貧しい農業星になる。たとえ敵の宇宙船を全て破壊できたとしてもそうなる蓋然性が高い。・・・二つ目は相手の正体が分からないことだ。宇宙船の形から推測できるのは宇宙船搭乗員は生身の人間ではなくロボット人だ。アクアサンク海底国の住民と同じだな。アクアサンク海底国のロボット人は生身人間と共存できる。それゆえ相手の目的を知らなければならない。宇宙船の中に1000人が乗っているとすれば128隻だから総勢は12万人だ。これでは今以上には発展しない。まあ文明はすでに十分発展しているからそれでもいいと思っているロボット人かも知れんがな。とにかく目的を知ることが重要だ。」
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