第8話 6、北アメリカ町のゲームセンター
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シークレットは警察官の前でX線通信機でハンナに英語で連絡した。
「ハンナ、シークレットよ。重武装の兵士30名を準備できますか。」
「5分で準備できます、シークレット様。」
応答も英語だった。
「では兵士30名を北アメリカ町に入れなさい。目的は私とニューマンの護衛です。ヤクザ者達との戦闘が予想されます。」
「了解しました。15分後に現地に集結いたします。」
「了解。今はファーストフード店にいるわ。通信終わり。」
シークレットは警察官に言った。
「15分後に重武装の兵士30名がここに来ます。相手が100人でも簡単に皆殺しできます。相手の本拠も潰しておきましょう。この町も少しだけ綺麗になるかもしれません。」
「参ったな。この街で戦争を始めるつもりですか。」
「戦争ではありません。アメリカ合衆国では昔、しばしば決闘がなされました。『OK牧場の決闘』ってのもありましたね。主人公の正義の味方が悪者たちを撃ち合いで殺しました。それと同じです。」
「参ったな。大昔の映画とは違うんです。ここは火星ですよ。」
「その通りです。昔の西部には警察はありませんでしたがこの街では立派な警察があります。警察はそんな決闘を止めさせることができます。我々は攻撃を受ければ反撃します。こちらから攻撃は行いません。どうすれば決闘を止めることができますか。」
「警察に『ジョーの仕返しはするな』って言わせるつもりですか。」
「警察はそれができます。『攻撃すれば全員が死に根城も潰される』と加えてもいいですよ。それでも仕返しをしようとするなら、そんな人間は死んだ方がいいですね。馬鹿だから。諺(ことわざ)にありますね。『バカは死ななきゃ直らない』でしたか。」
警察官はため息をつき、二人を店に残し、一人の警察官はパトカーで帰って行った。
遺体を運ぶ救急車を呼ぶか現場検証の鑑識警官を呼ぶのだろう。
シークレットはニューマンに日本語で言った。
「ニューマン、今後の展開を推測してみなさい。」
「1、兵士が来る。2、鑑識員が来る。3、我々は店を出る。4、兵士を連れて繁華街に行く。5、繁華街で遊ぶ。6、ホテルに帰る。7、翌朝は火星を離れる。ヤクザの仕返しはない。・・・そんなところかな。」
「ふふふっ、そうなるといいわね。」
暫(しばら)くすると兵士が到着した。
兵士は等身大の長方形の厚い盾を持ち、全身を覆う重そうな鎧(よろい)を纏(まと)い、分子分解銃を仕込んだ小槍を持っていた。
盾は武器庫になっていた。
子槍を付ける溝があり、手榴弾や煙幕や拳銃や棍棒や爆薬やエネルギーセルが整然と埋め込まれていた。
火星基地の司令官も居た。
「ハンナ、司令官のあなたも来たの。」
シークレットが呆(あき)れて言った。
「はい、シークレット様。火星基地は安定した状態にあります。面白そうなので出撃させていただきました。代理は残してあります。北アメリカ町には入ったことがありませんでしたから。」
「まあいいわ。我々が火星を離れるまでニューマンの護衛をしなさい。ドア近くに倒れている男を殺しました。男はヤクザ者で仲間の報復が予想されます。注意しなさい。」
「小槍を使っても宜しいでしょうか。」
「相手と同程度の武器を使いなさい。子槍の分子分解銃は北アメリカ町に穴を開けてしまう可能性があります。使うときは方向に気をつけなさい。」
「了解しました。楽しみです。」
鑑識警官と救急車が到着し死体が運び去られるとシークレットは残っていた警察官に英語で言った。
「ここを離れていいですか。我々は明日には火星を離れる予定です。30人の兵士はニューマンの護衛です。」
「いいですけど、どこに行く予定ですか。」
「繁華街を通って歓楽街に行く予定です。目的は社会見学です。学校で言えば修学旅行です。地球の学校では火星の街を見学できることは滅多にありません。」
「もう問題を起こさないで下さいよ。」
「そのつもりです。」
ニューマンとシークレットはハンバーガーショップを出て繁華街らしい方向に進んだ。
二人の前後と左右と上空には30人の兵士が浮遊して二人をあからさまに「護衛」した。
その目立つ集団の後をハンバーガーショップで出会った娘がついてきた。
それを見たシークレットは歩みを止め、娘に手招きし、近づいて来た娘に言った。
「お嬢さん、一緒に来たいの。」
「はい。よければ一緒に行きたいです。面白そうですから。」
「そう。でもジョーの仲間は貴方を私たちの仲間だと思うわよ。」
「どうしてそうなったかは直ぐに分かります。一緒に行ったのは相手を知るためだと言えばいいと思います。」
「分かったわ。名前はミミーさんだったかしら。警察官がそう言ってたわね。」
「名前はミミー、16歳です。」
「私はシークレット、隣はニューマンよ。」
「あのー、年齢を聞いてもいいですか。」
「ふふっ、私は159歳。ニューマンは20歳くらいかな。」
「本当ですか。20歳くらいだと思ってた。」
「ふふっ、私は仙人なの。」
「僕の母さんだよ。よろしく、ミミーさん。」
ニューマンが付け足した。
それからは快調だった。
ミミーの私見を含む絶え間ない案内で繁華街を通り過ぎ歓楽街に来た。
歓楽街は昼間から賑わっていた。
火星の北アメリカ町の住人は小金持ちだ。
簡単には戻れない火星での危険を伴う採鉱作業員の給料は高く、その金の多くは街に流れ、町の住民の懐(ふところ)を潤す。
町の役所にも地球からの多額の補助金が入ってくるので町の税金はない。
政治的に重要な火星の町、外に出ることができない閉じられた町を維持するには住民を優遇しなければならないのだ。
ミミーの案内でニューマンとシークレットはゲームセンターに入った。
そのゲームセンターの経営者は儲けようとは思っていないらしく、少額の入場料を払えば各ゲームには十分な賞金が付いていた。
ゲームに慣れた若者はゲームに勝って入場料以上の賞金を得ることができ、それで生計を立てる者もいるとミミーが言った。
もちろん多くの客は損をする。
ニューマンが興味を持ったのは決闘ゲームだった。
風景は荒野であろうと牧場であろうと、西部の町であろうと任意の場所が選択できた。
お客はガンベルトを腰に巻き本物そっくりのシングルアクションのリボルバーピストルをサックに入れる。
相手はホログラムのガンマンで距離は10m。
客がピストルを抜くとサックの底のスイッチが入り試合がスタートする。
客は撃鉄ハンマーを上げ、狙い、引き金を引く。
空砲の轟音がゲームセンターに響き、客の撃った弾の弾道がホログラムで表示される。
だがその時には既にホログラムのガンマンはピストルを撃っており、その弾道は客の頭に達しており、客は負ける。
最低の賞金の場合はそうなる。
賞金が高くなるとホログラムガンマンは素早く動くようになる。
横に跳んだり、前に倒れたりする。
さらに高額の賞金の場合にはクイックドローの時間が短くなってくる。
最高額の賞金の場合には0.1秒で撃ってくる。
ニューマンは第一段階を11回連続して負けた。
シークレットはその様子を楽しそうに見ていた。
「ニューマン、ピストルの動作を考えてはだめよ。」
「了解。」
「ニューマン、相手を見るのよ。見たところに銃口は自然に向くから。」
「了解、母さん。」
「ニューマン、相手を見つめてはダメ。背景で見るの。目で追ったら遅れる。」
「了解、母さん。でもさっき言ったことと違うよ。」
「進歩してるからよ。」
ニューマンは12回目からは勝つようになった。
早撃ちができるようになり狙いも正確になっていった。
最高金額の設定ではニューマンは体を右に飛びながら射撃した。
ホログラムガンマンの射線はニューマンを外れ、ニューマンの射線は相手の額に当たった。
ニューマンは儲けて決闘ゲームを終えた。
「すっごい。」
ミミーが尊敬の眼差しでニューマンを見上げて言った。
「へへっ、慣れれば軽いもんだ。」
「今まで最高設定で勝った人は誰も居ないよ。絶対に勝てない設定だと思っていた。」
「本当はおそらく相打ちだよ。横に動いたから勝てたと思う。」
「でもすごい。」
シークレットは何かを思いついたらしく、ニューマンを標的射撃ゲームに挑戦させた。
そのゲームは的までの距離300mのホログラム画像で、銃はオープンサイトのボルトアクションで空砲の薬莢を装填する。
ホログラム像には温度計と落ち葉が落ちている枯れ木が表示されていた。
その日の気温と風速と風向をゲームの射手に知らせているのだ。
射撃姿勢は自由だ。
客は照星の上に見える小さな黒点に向けて銃を発射する。
空砲の爆音がしてホログラム像には弾道が輝線で表される。
的の大写し画面には弾の跡が映る。
大抵の客は当たらない。
何発も撃ってようやく的に当たるようになる。
ニューマンも同じだった。
シークレットはため息をついて言った。
「ニューマン、銃口を動かしてはいけません。これは銃口を動かさないことを競うゲームです。もちろん銃口を動かしてもタイミングが良ければ的に当たります。でもそれでは何発も中心に当てることはできません。」
「でも母さん、これは難しいよ。」
「お前にはできるはずです。・・・見せてあげましょう。」
シークレットはニューマンから銃を受け取り、弾をつめ、構えて言った。
「ここが的の中心を狙っている位置です。気温は火薬の燃焼速度に影響し風は弾を流します。」
シークレットはそう言って弾丸を発射した。
弾は大きく外れて的の円の左下に当たった。
「これが温度と風の影響です。本来はここで銃の照門を調整しますがオープンサイトですから微調整はできません。だから的を外して撃ちます。」
シークレットは次弾を撃った。
弾は的の黒丸の中心に当たった。
シークレットは次弾を装填し「次は10と9の線上。」と言って撃った。
弾は黒丸の10と9の線上に当たった。
結局シークレットは黒丸の中心から真っ直ぐ下に一列に等間隔で弾痕を並べた。
「ニューマン、こんなことができるのは銃口が動かないからです。的を狙うより銃口を動かさないことに意を注ぎなさい。」
「母さんは凄すぎるよ。」とニューマンは言った。
結局ニューマンは黒丸に当たるようになったが弾痕を集めることは最後までできなかった。
「まっ、いいか。今度はスコープ付きの実際の銃で練習しましょう。」
そのゲームでは儲けが出なかった。
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