第7話 5、北アメリカ町で騒動
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街に入るとニューマンとシークレットは宇宙服を脱ぎ、宇宙スクーターの座席の下に収納し、最初に換金所に行った。
火星の町での生活には金貨が必要だった。
換金所で金貨を相当する金額のプリペイドカードに変える。
町での支払いは全てカードで行われ、町を出る時には換金所で残額分をその町の金貨で受け取る。
町毎に金貨のデザインは違うが材質は全て同じで純金10gだ。(現在日本の価格で8万円程度)
残額の端数は切り捨てられるので端数が換金所の儲けになる。
シークレットはアクアサンク海底国発行の金貨10枚をカードに換えた。
二人は換金所近くのホテルに行き、1泊分を先払いし、繁華街の場所を聞き、それほど遠くなかったので徒歩で出かけた。
ニューマンの社会勉強のためだった。
二人は最初に大きな看板が目立つファーストフード店に入った。
ニューマンはコーヒーとフライドポテトと具材がたくさん挟まれたハンバーグを注文した。
「母さん、なかなか美味しいよ。」
「良かったわね、ニューマン。おそらくそれが北アメリカの味の一つよ。美味しくて安くてカロリーたっぷり。」
「お腹も膨れるね。」
「ふふふっ、そうね。」
二人は日本語で話していた。
隣の席でフライドポテトを食べていた娘が英語で声をかけた。
「外から来られたのですね。英語が話せますか。」
二人は娘の方を振り向き、ニューマンが言った。
「一応話せます。あなたはここに住んでいるのですか。」
「はい、生まれた時からここにずっと住んでいます。地球から来られたのですか。」
「はい、地球から来ました。つい先ほど此処についたばかりです。」
「地球ってどんな所ですか。」
「どんなって、何て言えばいいんだろう。空気があって海があって風があって太陽の光はここの2倍ほど強いけど暑い場所もあれば寒い場所もあります。」
「色々な場所があるのね。」
「色々な場所があり色々な人が住んでいます。」
「いいわね。行ってみたいわ。ここはいつも同じ。海の映画を見てどんなのかは分かっているんだけどほんとは今だに信じられないの。」
「でもきっと映画の通りだよ。」
「そうよね。きっとそうよね。」
娘は頬杖をついて天井を見ながら言った。
突然入り口が開き、火星では不要なサングラスを掛けた男が入ってきて、娘に近づいて言った。
「このあま、何を油売ってやがるんだ、仕事をせんかい。仕事を。」
「ジョー、今は休憩中よ。仕事はするわ。」
「僕たちは話をしているんだ、君はだれだい。」
ニューマンが言った。
「君だとー、気取った言葉を使うじゃねえか、えーっ。俺様を知らんだってえか。分からせてやろうか、あんちゃん。えーっ。」
「母さん、この男はきっと悪者だよ。戦ってもいいかな。」
ニューマンは日本語で言った。
「ふふっ、いいわよ。でも殺しちゃあだめよ。」
ニューマンは椅子から立ち上がってその男の前に立って見下ろして言った。
「OK。・・・分からせてくれないかい、名前も知らないチンピラ風の小さいの。」
「やっ、やろう。」
そう言い終わってから男はいきなりニューマンの腹部を狙って右のアッパーカットを繰り出したがニューマンは左手で男の手首を掴んだ。
「君の動きは遅いね。火星の重力で筋肉が弱っているようだ。地球人は筋肉が強いからこんなことができるのさ。」
そう言ってニューマンは手首を締め付けた。
鈍い音がして手首の骨が潰れた。
男は「ぎゃーっ」と叫んだがニューマンは手首を離さず腕を捻って背中に着けそのまま上に擦り上げた。
今度は男の肩が脱臼し男は再び絶叫した。
「母さん、膝を潰してもいいかな。」
ニューマンは爪先立ちになった男の手首を掴んだままシークレットに言った。
「膝は止めておきなさい。相手が逃げられなくなるでしょ。」
「それなら目を潰すのもだめだよね。」
「片目くらいならいいわよ。」
「たっ助けてくれ。目は潰さないでくれ。降参だ。勘弁してくれ。俺が悪かった。」
男は爪先立ちのまま叫んだ。
目が見えなくなったら火星では生きていけない。
「まあいいか。この店から出ていくんだな。」
そう言ってニューマンは男の手を離した。
男は捻られたままの右手を背中に貼り付けたまま入り口の方に歩いて行き、ドアの前で振り返った。
左手には小型拳銃を持っていた。
左手で器用に引き出したらしい。
「きさま、よくもこけに・・・」
そこまで言った時、男の眉間に1㎝ほどの穴が開いた。
シークレットの左手人差し指の分子分解銃が男の頭蓋に穴を貫通させたのだった。
男は仰向けに倒れた。
シークレットはニューマンに言った。
「ニューマン、ここから逃げ出しますよ。」
「でも母さん、これは正当防衛だよ。防犯カメラを見ればすぐ分かることだ。」
「でもこの町の警察がどちらの味方をするのか分からないわ。・・・ま、いいか。これもニューマンの経験ね。」
そう言ってシークレットは腰のX線通信機を取り出してアクアサンク基地の方向に向けて英語で言った。
「アクアサンク基地、こちらシークレット。緊急司令。北アメリカ町で面倒な事態になった。北アメリカ町の上空で威圧せよ。ハンナ、直ちに実行しなさい。」
「了解しました、シークレット様。直ちに実行します。」
小さな通信機から返事が来た。
「今に警察がくるわ。ニューマン、食事を済ませてしまいなさい。」
「了解。あとはフライドポテトとコーヒーだけだ。」
警察官が来る前にアクアサンク国の航宙母艦と戦闘機50機が北アメリカ町の上空に現れメリック号を囲むような配置を取った。
管制塔から通信があった。
「アクアサンク国の戦闘機群に告げる。こちら北アメリカ町の管制官だ。何事か。なにゆえ上空を覆っているのか。」
「北アメリカ町の航空管制官に告げる。シークレット様から緊急連絡を受けた。トラブルに巻きこまれたと推察する。シークレット様に何かあったらこの町を壊滅するために出動している。そうならないことを期待している。」
「シークレット様とは何者だ。」
「アクアサンク海底国のナンバー2のお方だ。G13スポットに停まっているメレック号で地球から来られた。」
「事情は分かった。警察に連絡を取ろう。」
「それがお互いのためだ。」
そんなやりとりをしている頃、シークレットは震えている娘に言った。
「娘さん、驚かせてしまったわね。ごめんなさい。もう何も起こらないわ。」
「こっ殺してしまったの、ジョーを殺してしまったの。」
「そうよ。拳銃を向けたからね。殺さなければ私たちが殺されていたわ。」
「そうよね。そうだった。」
「この男とはお友達だったの。」
「ジョーは私の紐よ。私が売春で稼いでその上前をはねるの。他の女の子の紐にもなっていたの。」
「もう自由になったわね。」
「でもすぐに誰かが紐になるわ。私たちには守ってくれる人が必要なの。」
「そうね。娘一人は弱いから。でも歳を取ったら今のお仕事はできなくなるでしょ。その時はどうするの。」
「分からないわ。歳とったお姉さんはいつの間にか姿を見かけなくなっていくの。」
「きっとどこかに行ったのね。」
その時、パトカーが店の前に止まり、制服姿の警察官3人が店に入って来た。
ドアの近くの額に穴が開いた死体を見(み)、死体のためにドアから出られなかった店内のお客を見回し、店の奥のニューマン達に当たりをつけて言った。
「ジョーじゃあないか。死んでる。だれが殺したんだ。」
店の客達は一斉にニューマン達の方を見た。
警察官はその方向に件(くだん)の娘が居るのを見つけて言った。
「何だ、ミミーじゃないか。お前が殺したのか。」
「ううん。あたしじゃない。」
シークレットが言った。
「私が殺しました。正当防衛です。拳銃で撃たれそうになったので殺しました。」
「お前が殺したって。どうやって殺したんだ。」
「分子分解銃で額に穴を開けました。」
「分子分解銃だって、どの銃で殺したんだ。」
「私の指には分子分解銃が仕込まれております。常時発射可能です。」
「・・・詳しい話は警察署で聞こうか。」
「拒否します。どうします。実力で連行しますか。抵抗しますよ。」
「何い。」
「聞こえませんでしたか。連行しようとすれば抵抗すると言いました。」
「抵抗するだと。」
「あなた方を全員殺すと言うことです。」
「何い・・・お前は何者だ。」
「アクアサンク海底国の者です。私に手を出せばこの町は壊滅します。全員が死にます。アクアサンク海底国と戦争しますか。あなた達3人が戦争の最初の犠牲者になります。」
「・・・待て、連絡してみる。」
警察官の一人が無線でやりとりしていたが話を終えて言った。
「・・・正当防衛であることが分かった。放免する。」
「おい、いったいどういうことだ。」
一人の警察官が同僚に聞いた。
「この町の上空はアクアサンク海底国の戦闘機で覆われているらしい。この娘は重要人物らしいな。戦闘機は何かあったらこの街を壊滅させるって脅かしているそうだ。ブラフ(はったり)じゃあないぞ。あの国は冗談を言わない。」
「・・・。」
シークレットが言った。
「あの死体はそちらで引き取っていただけますか。」
「・・・分かりました。でも調書は作らなければなりません。死人が出ましたから。貴方の名前と身分を明かしてください。それから状況を説明してください。」
「私はアクアサンク海底国の秘書のシークレットと申します。連れは私の息子のニューマンと言います。隣の娘さんはこの店で知り合いました。名前は知りません。原因は殺された男とニューマンの諍(いさか)いです。男が先に手を出し、ニューマンに手首を砕かれ肩を脱臼されました。この男が謝ったので解放したところ扉の所で拳銃を向けましたので私が頭に穴を開けました。経緯は防犯カメラで調べれば分かるはずです。店の客も証言するでしょう。」
「分かりました。その通りなら正当防衛です。でも即刻この町から出てくれませんか。ジョーの仲間が仕返しすると思います。」
「私たちはこの街に観光に来たばかりです。もう少し滞在しようと思います。仕返しを受ければ殺します。楽しい観光になりそうです。」
「でも相手は一人じゃあないんですよ。」
「そうですね、相手が多数ならめんどうですね。こちらも応援を呼びましょう。50人の兵士が居れば数百人の相手に対応できます。全員を殺して大掃除してやってもいいですよ。警察がやろうとしても法律があるのでできません。私たちがやれば単なる喧嘩ですから問題は生じません。」
「参ったな。」
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