第17話 15、父との会話
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ニューマンと玲子はコーヒーを淹れて飲んだ。
「どこまで話したっけかな。」
「話を折ってしまってごめんなさい。宇宙船の性能の話からよ。」
「・・・その宇宙船はね、強力な矛(ほこ)とそれより強い盾を持っていたんだ。それと鎧(よろい)かな。矛は分子分解砲だよ。地球人も分子分解砲を持ってるけど威力が桁違いに違う。こちらはせいぜい宇宙船を切るくらいだが相手は地球を切ることができる。太陽も消すことができるらしい。宇宙船の盾が7次元シールドだ。シールドを張ると分子分解砲もはね返すし7次元経由の遷移も入れないらしい。だから超能力者のジャンパーも入れない。とにかく何も通さないそうだ。これが発明されると争いは無くなったそうだよ。負けないけど勝てないからね。鎧は7次元位相界だ。さっきの図でちょっとだけ7次元軸の上に行くと隣接7次元位相界に入れる。隣接7次元界はこの世の7次元ゼロ位相に隣接していてこの世と重なっているんだ。さっきの図のt4軸の存在場面が交互に重なっているんだね。互いに姿が見えるし電波も声も届く。この世の重力も届いているんだ。この重力が曲者(くせもの)なんだ。重力は7次元位相が高くなるとだんだん届かなくなって無重力になる。大宇宙の重力場がだんだん届かなくなるから時間速度はどんどん早くなる。だからそこまでアンテナを伸ばせば超空間通信ができることになる。ダルチンケービッヒ先生はそんなアンテナを大昔の宇宙船からもらって超空間通信機を作ったんだ。論文にもでている。凄い先生だよ。」
「矛と盾と鎧は分かったわ。ニューマンさんのサイクロトロン銃はどれに効くの。」
「ごめん、また興奮してしまった。効くかどうかは不明だよ。これは父さんの考えだけど7次元シールドに潜在質量を持った物が当たった時には7次元シールドに一瞬穴が開くのだと思っている。重力は7次元を通るからね。ちょっとでも穴が開けばそこから7次元シールド内に物を入れることができる。今の場合は光速の電子が細孔を開けてその後の水素分子イオンが7次元シールド内に飛び込むわけだ。後はどうなるか分からない。隣接7次元も7次元シールドの一つの位相だから効果があるのではないかって想像しているだけさ。みんな想像だよ。僕らには7次元シールドはないし隣接7次元位相界にも入れないんだからね。」
「ニューマンさんが己を知っていることは分かったわ。孫子で言えば一勝一負の引き分けね。」
「そうなればいいけどね。」
「共鳴周波数はどうなったの。今の話には出てこなかったけど。」
「それはもっと大きい話なんだ。・・・ダルチンケービッヒ先生は静電場と交流電場で実験された。静電場はこのサイクロトロン銃でやってるように時間が早くなった物質が周囲から存在場面を引き抜くのを阻止した。だから不安定な物質をそのままにしておける。静電場を張っておけば超能力者のジャンパーはそこにはジャンプできないことになる。交流電場はもっと凄いことを起こしたんだ。時間が早くなった不安定な物質を7次元に持ち上げて消してしまったんだ。この世から物が消えたんだ。『質量エネルギー保存の法則』なんて誤った法則になる。まあ消えた物質は7次元位相のどこかの位相界に居るだろうから7次元時空界全体で見れば質量エネルギー保存の法則は成立するんだろうけどね。・・・物が消えるのは共鳴周波数の交流電場をかけた時だけだ。その周波数の時だけヒューズがとんだって母さんが言ってたからその時だけ物体は導通状態になって電気エネルギーが物体に流入したってことになる。電場のエネルギーを吸収して高位相の7次元に行ったことになる。玲子さんは『糸を着けたらどうなるの』って言ったろ。僕は宇宙船を着けたらどうなるかを知りたいんだ。とんでもない高エネルギーの交流電場をかけなくてはならないかもしれないけどとにかく高位7次元位相界に行けることになる。だって不安定な状態にあるのはリチウムの電子だけなのに周りのカーボンナノチューブも一緒に消えたんだからね。宇宙船をつけたって同じだ。隣接7次元に行けるかもしれない。そうしたら敵と同じ鎧を着ることできるようになる。」
「確かに大きな話ね。」
「問題はそんな不安定な物質にどうやって紐を着けるかだ。ダルチンケービッヒ先生はカーボンナノチューブで紐をつけた。紐に宇宙船を着けるにはどうするかが問題なんだよ。」
「あら、静電場をかければいいんじゃないの。だって静電場は不安定な電子を保存できるんでしょ。電子と静電場は一体ということだわ。」
「そうか、静電場か。・・・そうかもしれない。宇宙船の外壁を電線で囲んで静電場をかけ宇宙船の中の結晶に共鳴周波数をかければいいんだ。いや逆がいいかな。宇宙船の外壁に共鳴周波数をかけた方がいいかな。」
「模型を作って実験したらいいわね。私でも考えたんだからニューマンさんの先生もそれをしてたかもしれないわね。」
「母さんに聞いてみるよ。」
母、シークレットの答えは「お父様に聞いたら。」だった。
ニューマンは母と共にメレック号で父のいるマリアナ海溝のアクアサンク海底国第一海底基地に行った。
父は清水区の川本研究所とそっくりの建物のガラステラスで待っていた。
「ニューマン、元気だったか。地上ではほとんどの人間が死んだそうだな。」
「はい父さん。清水では一人だけが生き延びました。耐性を獲得したようです。今はトルコの第2海底基地に居て僕の実験を手伝ってくれています。二十歳の女性です。」
「そうか。ニューマン、お前もオーラは見えるな。その娘のオーラは何色だった。」
「真っ赤なオーラでした、父さん。」
「赤か。・・・シークレット、その娘のカリオタイプを調べておきなさい。正常なら世界中で何人も生き残っている者がいるはずだし、異常なら原因が分かる。」
「了解しました、イスマイル様。」
「それで今日は何かな、ニューマン。」
「はい。父さんが言っていた武器を作りました。サイクロトロン銃です。大きくすれば大砲にもなると思います。それから7次元位相界に行く実験について父さんの考えを知りたいと思って来ました。」
「サイクロトロン銃の概念図を持って来たか。」
「はい、これです。サイクロトロンエンジンと違ってサイクロトロン銃に反動はありませんでした。」
イスマイルは渡された概念図と設計図を見て言った。
「電子と水素分子イオンはそのまま飛び出したってことだな。なかなか面白い。うまくいけば8000トンの宇宙船が10Gの加速が出る力で7次元シールドにぶち当たることになる。7次元シールドとか言うものも結構な負荷になるだろうな。撃った方が無反動ってのがいい。サイクロトロンエンジンは出来ているから作るのも楽だ。重力爆弾を作るよりずっといい。なにより安全だ。」
「作ってくれますか、父さん。」
「作ってやる。お前のいる第2基地の造船所で作らせよう。お前もそろそろ実学を学んだ方がいいな。造船所の工場長と相談しなさい。設計図を見て実際に作るところも見たらいい。造船所で何ができるかが分かるはずだ。」
「分かりました、父さん。」
「7次元に行く実験とは何だ。」
「ダルチンケービッヒ先生は遠心加速された結晶を交流電場をかけて7次元位相界に送り込みました。共鳴周波数の交流電場をかけると電場エネルギーを吸収して7次元に行くようです。宇宙船を7次元に送り込もうと思います。敵がいる隣接7次元に行かなければ敵とは対等に戦うことができません。」
「それで何が問題なのだ。」
「静電場は不安定な物体を保つことができます。ですから交流電場と静電場をかけようと思います。どちらを外側にしたらいいのか悩んでおります。」
「・・・ワシにも分からん。それこそ実験したらいい。・・・戦闘機の外側に電線を貼ればいい。そこには直流電場をかけるか交流電場をかければいい。小型のサイクロトロンエンジンの周りにも電線を張れ。そこにも交流電場か直流電場をかければいい。だが成功しないかもしれんぞ。マリアが使った共鳴周波数は物が微小結晶だったからエネルギーが小さかった。だが今回は何十トンもある戦闘機だ。数ミリグラムと数トンでは10億倍の違いだ。マリアが使った共鳴周波数は憶えていないがおそらくメガヘルツ(M㎐)だ。ようやく見つけたとか言っていたからな。そうだとするとお前がかけなければならない交流電場は・・・ギガ、テラ、ペタか・・・ペタヘルツのオーダーになる。10の15乗だぞ。そんな周波数の発生装置は今は作れない。1サイクルがフェムト秒オーダーになる。光も300ナノメートルしか進まない時間だ。電線の中を伝搬する電子だって進まんだろう。電線1ミリメートルの間に10000のプラスとマイナスだ。何もないのと同じだ。」
「分かった、父さん。キログラム程度の宇宙船で実験するよ。テラヘルツなら何とか出せる。・・・父さん、X線かガンマー線を使ったらどうだろう。100ペタヘルツだよ。」
「・・・うまくいくかもしれんな。電線による電場ではなく電波による電場ってわけだ。X線通信機のX線を使ったらいい。分子分解砲のガンマー線を使ってもいい。ペタヘルツの交番電場であることには違いない。」
「やってみるよ、父さん。」
ニューマンは7次元に入ることができるにはまだまだ時間がかかるだろうと思いながら第2基地に戻った。
ニューマンはさっそく造船所の工場長と会った。
作業衣を着た娘だった。
「工場長のテスラです。何でございましょうか、ニューマン様。」
「テスラさん、もうすぐ父さんからサイクロトロン砲の建造を頼まれると思う。その時、製造過程を見せて欲しいんだ。父さんが書いた設計図とそれが作られる過程を見せてほしい。実学なんだそうだ。」
「サイクロトロン砲とはどんな物ですか。」
「サイクロトロンエンジンの噴射口に高電圧をかけた筒を着けたものです。僕が作った模型ではね。実際にはそんな形ではないかもしれない。地球人を皆殺しにしようとしている異星人の宇宙船を破壊するためだ。希望的推測だけどね。」
「筒はどんな働きをするのですか。」
「エンジンから出た物質が潜在質量を具現化されるのを遅らせる働きをするんだ。サイクロトロンエンジンから電子と水素分子イオンが出ると潜在質量が具現化されてエンジンに推力を与えるだろ。8000トンのメレック号を10Gで加速する推力だ。その力を出すのを暫く待ってもらって敵の7次元シールドで具現させるってわけさ。何物も通さない7次元シールドに穴があいたらめっけものってこと。」
「筒には力がかからないのですか。筒から出た状態とサイクロトロンエンジンから出た状態とは同じだと思いますが。」
「実験では力はかからなかった。」
「筒がそうしたことは間違いないですね。」
「そうなるね。」
「分かりました。イスマイル様から設計図が来ましたらお知らせいたします。」
「よろしく。」
イスマイルが造船所に送って来たサイクロトロン砲の設計図はアクアサンク海底国が使っている戦闘機に着けたものだった。
普通のアクアサンク海底国の戦闘機は長さが7m、高さが2.5mのカプセル型の二人乗りで室内の高さは2m、前部の床下に分子分解砲が付いておりエンジンは着いていない。
装甲は厚さ25㎝の鋼鉄で動力は電池で移動は重力遮断パネルだけで行う。
地球近辺の戦いに特化しており運動性能が悪いので単艦ではなく集団で戦う。
設計図に描かれた戦闘機にはカプセルの前後にサイクロトロンエンジンが加わっていた。
「へーっ、前後エンジンにサイクロトロンエンジンとサイクロトロン砲の兼用か。メレック号に積んである有翼戦闘機より操縦しやすそうだ。メレック号の有翼戦闘機に乗ってみたけどね、素人にとっては翼を利用した飛び方は難しいんだ。操縦桿より操縦ボールの方が楽だ。とにかく行きたい方向に行けるからね。」
ニューマンは設計図を一緒に見ていたテスラに言った。
「有翼戦闘機は装甲が脆弱なのでこちらの方が良いと思います。メレック号の格納庫にもギリギリですが入れることができます。・・・アクアサンク海底国の戦闘機もこれからは前後にエンジンがある形になると思います。地球の戦闘機と空中戦をすることができるようになります。」
「サイクロトロンエンジンは凄い推力を持っているからね。人間には耐えられないけどロボットなら大丈夫だ。僕は6Gで音(ね)をあげたよ。・・・この型の戦闘機はどこまで潜れるんだい。」
「安全な深度は5000mです。第一基地がある10000mは行けない思います。あそこに行けるのは60㎝の装甲を持つ航宙母艦だけです。」
「サイクロトロンエンジンに着いている筒はたった10㎝程度だけど、これで光速近くで射出された電子の潜在質量を保存できるんだろうか。」
「伸縮型のようですね。1mほど船外に出ると思います。」
「撃つ時だけ伸びるわけだ、OK。・・・船外の表面を覆っているのは何だろう。」
「・・・まあ、ST117だわ。イスマイル様もきつい注文をなされた。・・・これはシースルーケープです、ニューマン様。ST117は可視光だけでなく赤外線と紫外線も後方に通過させます。ラジオ波とマイクロ波は吸収します。ミリ波は少しだけ散乱します。ST117は作るのが難しいんです。それを船体全体に貼り付けるのはもっと難しいんです。」
「シースルーケープは8枚ほどメレック号に積んであるよ。見えるように裏打ちしてある。」
「ST117は可視光だけのケープより良い性能を持っています。これを被った宇宙船を探知できるのは鉄を探知できる磁気探知機だけです。ですから遠くからは探知できません。」
「サイクロトロン砲を試すにはちょうどいい。」
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