第54話 52、ハワイ上空での戦い

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 中国、インド、中東、アフリカ、ヨーロッパの都市も攻撃された。

100箇所ほどの都市には最初に核爆弾が投下され、その後に戦闘機が出て来た。

北京市のように迎撃機が出て来る都市もあれば無人の都市もあった。

そして迎撃機は大部分が撃ち落とされた。

 アメリカ大陸は最初の時点で夜だったので攻撃を受けなかった。

だが夜が明ければ攻撃されるのが明白だった。

アメリカ合衆国臨時政府は貧しい情報網を活用し敵のプロファイリングをした。

敵は大都市であれば無人の都市でも攻撃する

敵は最初に核爆弾を投下する。

迎撃機は撃墜され敵の戦闘機は撃墜されていない。

敵は愚かだが強い。

目的:不明。

結論:静観する。

 アメリカ大陸に夜が明け、異星人の攻撃が始まった。

アメリカ合衆国も異星人の攻撃を受けた。

ニューヨークを初めとして大都市に次々と核爆弾が投下された。

地球人の感性からすれば一つの星を侵略して奪う場合、その星の資産はできる限り温存するものだ。

反抗も無いのに都市を破壊し星に放射能物質を撒き散らすことはしない。

アメリカ合衆国臨時政府は迎撃機を出さず、ひたすら耐え忍んだ。

無人の都市が破壊されようとくやしいが問題はない。

地球大気が放射性物質で汚染されようと地球大気は既に致死率100%の疫病病原菌で汚染されている。

空中を舞う病原菌の方が空中を漂う放射性物質よりも恐ろしい。

 アクアサンク海底国は全力をあげて対抗することにした。

最初から核爆弾を投下して町を破壊する異星人は明白な敵だからだ。

アクアサンク海底国にはブラック大隊、ブルー大隊、レッド大隊、グリーン大隊、シルバー大隊の5大隊があり、各大隊は1000機の戦闘機と1隻の航宙母艦から構成されていた。

 戦闘機は30㎝の鋼鉄の装甲壁で囲まれた長さ7mのカプセル型で下部に分子分解砲、サイクロトロン砲、20㎜機関砲を装備し、上部に5㎜機関銃が装着されていた。

隣接7次元位相界に存在することができ、何物も通さないと言われていた7次元シールドも張ることができた。

運動性能は重力遮断航法の他にカプセルの前後にはサイクロトロンエンジンが付いており、強力な加速でトンボのような飛行が可能になっていた。

乗員は2名一組で、一人は戦闘機自体、一人は人型のロボット人であった。

燃料は蓄電池で各大隊の隊長が乗る航宙母艦から充電される。(著者注52-1)

 レッド大隊が最初に敵と戦い敵の戦闘力を評価しようと言うことになった。

日本時間の深夜、アクアサンク海底国のレッド大隊の戦闘機1000機と航宙母艦1隻はハワイ上空に展開し敵宇宙船を待った。

その時刻、ハワイは夜明けを迎え、敵宇宙船はハワイの町を攻撃するかもしれなかったからだ。

 隊長のオスマン(炎のような男)チェリク(鋼)が言った。

「敵は7次元シールドを張っていると思われる。攻撃はサイクロトロン砲と分子分解砲の近接同時発射だ。サイクロトロン砲が少し前だ。集団で斉射せよ。今回は待ち伏せ時にだけシースルーケープを使う。戦闘が始まったら使うな。衝突を避けるためだ。敵戦闘機が出て来たら小隊ごとに対処せよ。小隊長に任せる。余裕があれば個別空中戦をしてもいい。」

それを聞いて戦闘機の娘達は心の中で歓声を発した。

敵と1:1の空中戦ができるからだった。

 ハワイ上空に現れたのは5角形宇宙船10隻だった。

同時に来たのではなく時間差をおいて到来した。

北太平洋には目ぼしい大都市がなかったのかもしれなかった。

レッド隊戦闘機1000機は中隊100機ずつがまとまってハワイ上空50㎞で待機した。

 戦闘機の機体を覆うST117シースルーケープは透明マントのようにマントに入射した光が入射角度と同じように出ていくので外から見えないのだ。

特にST117は可視光だけでなく赤外線と紫外線も後方に通過させる。

ラジオ波とマイクロ波は透明マントが吸収する。

ミリ波は少しだけ散乱する。

ST117は可視光だけのケープより良い性能を持っている

ST117を被った戦闘機を探知できるのは鉄を探知できる磁気探知機だけだった。

戦闘機は前が見えるように透明マントに針穴を開けて針穴カメラを通して外を見ている。

 味方が見えない状態で団体行動できるのは日頃の訓練の賜物(たまもの)だった。

互いに信頼しているからだ。

敵宇宙船に近づき、シースルーケープを外し、距離200mでサイクロトロン砲を発射し、同時に分子分解砲を発射し、上方に離脱した。

長さ500m、幅300m、厚さ50mの宇宙船の表面に1000個の穴や凹みが生じた。

穴は分子分解砲が当たった結果であり、凹みはサイクロトロン砲の跡だった。

 攻撃の第1波が終わると戦闘機は反転し第2波の攻撃を始めた。

第2波の目標は砲塔と滑走路だった。

砲塔は沈黙し、搭載していたブーメラン型戦闘機は最後まで出て来なかった。

第3波の攻撃は停止した攻撃で目標はジェットの噴出口だった。

ジェット噴出口が破壊されると敵宇宙船の動きはなくなり高度が下がり、とうとう海に墜落して行った。

 レッド大隊大隊長のオスマン・チェリクが直ちに命じた。

「第一中隊、海中から敵宇宙船を攻撃せよ。武器は分子分解砲だ。海中では7次元シールドは展開できないはずだ。半透明ではないから隣接7次元にも居ない。分子分解砲が使えるはずだ。」

隣接7次元にいる第一中隊の戦闘機は水飛沫(みずしぶき)も立てずに海中に突入し、分子分解砲で宇宙船の下側から攻撃した。

宇宙船を下から上に貫通する多数の穴があき宇宙船は海中に沈んで行った。

 500mの大宇宙船が7mの戦闘機1000機の3波の攻撃で撃墜されたことの衝撃は大きかった。

不意打ちだったとはいえ、戦闘機の出撃もなく、相手を一機も撃墜できずに海にしずんでしまった。

少し遅れて到着した9隻の宇宙船の船長は驚き、直ちにブーメラン型搭載機100機を出撃させた。

 1001機対909機の戦いとなった。

「最初に敵戦闘機と戦う。隣接7次元位相の2機一組で戦うことが望ましい。敵戦闘機は7次元シールドを張っている。7次元位相はゼロ次元だ。サイクロトロン砲と分子分解砲の同時発射が唯一の有効打だ。接近して発射することが重要だ。こちらは隣接7次元に居るからこちらが打ち出した弾は直ちに7次元ゼロ位相に入る。味方の流れ弾は離れていれば気にする必要はない。存分に戦え。状況が変われば追って命令する。」

大隊長のオスマン・チェリクが言った。

 戦いは正面衝突から始まった。

敵戦闘機は遠い位置からメックス砲(MEX:Microwave Emitter by Coherent X-ray)を撃ち出した。

メックス砲は敵艦の装甲を溶解蒸発させて船内を焼き尽くす赤外線レーザーの一種だが搬送波にX線を使っている。

 メックス砲は二つの利点を持っていた。

まず、赤外線より波長が短いから拡散は少なく、威力はそれほど落ちず、遠距離から攻撃できる。

次に装甲に当たった時の浸透度が深い。

赤外線レーザー砲は装甲を表面から溶かすがメックス砲は内部から装甲を溶かす。

船内に早く到達するのだ。

 最初の戦いで20機の敵戦闘機が墜落し味方は無傷だった。

撃墜率2.2%だ。

アクアサンク海底国の戦闘機は隣接7次元に居たのだが7次元シールドを張った敵戦闘機と正面衝突すると衝突せずに互いに弾かれた。

アクアサンク海底国の戦闘機は200mの直近まで接近してからサイクロトロン砲と分子分解砲を発射した。

 互いの一撃離脱が終わると本格的な空中戦が始まった。

空中戦闘能力はアクアサンク海底国の戦闘機が圧倒的に優れていた。

船首と船尾に着けたサイクロトロンエンジンの桁違いの推力が戦闘機に30Gの加速度を与えた。

生物では耐えられない加速度をロボット人の娘達は悠々と耐え、敵戦闘機の尾部数十メートルに居続けることができた。

 敵戦闘機の数は次第に減って行った。

劣勢だったが逃げ出すことはできなかった。

アクアサンク海底国の戦闘機の加速力は凄まじく、戦域離脱しようにもあっという間に追いつかれ撃墜されてしまうのだった。

母船に戻ることもできなかった。

敵戦闘機のパイロットは絶望を感じたろう。

45分の戦闘で敵戦闘機900機は撃墜され、アクアサンク海底国側の損失はゼロだった。

 アクアサンク海底国のレッド隊戦闘機は敵母艦9隻に向かった。

9隻の敵航宙母艦に対し9中隊900機の戦闘機が攻撃した。

残りの1中隊100機は航宙母艦と共に空中に浮遊し味方の攻撃を見守っていた。

空中戦において味方の戦闘機の損失がゼロだったことは敵の攻撃が効果的ではないということかもしれなかった。

戦いを見てそれを確認すると言うことが大隊長の表向きの理由だった。

だが、真の理由は9中隊のどの中隊が一番早く敵船を撃墜できるかを競わせるためだった。

 敵航宙母艦からの攻撃は激しかった。

死ぬか生きるかの瀬戸際だったからだ。

宇宙空間に逃げ出すことはできなかった。

逃げ出した戦闘機があっという間に追いつかれて撃墜されている。

空中に赤い線を残すメックス砲。

曳航弾が弾道を示す機関砲。

どちらも敵戦闘機を貫いているのだが敵戦闘機は何事もなく飛び過ぎていく。

核ミサイルの弾幕を張っても敵戦闘機は核爆発の光輝の中を通り過ぎて攻撃して来た。

 敵艦の正面を攻撃した第4中隊が最初の成果を上げた。

敵艦は浮力を失い海面に墜落して行った。

第4中隊はそれを追って水中から止めを刺した。

次の成果は後ろからジェット噴射口を攻撃した第8中隊だった。

敵艦は内部から次々と連鎖的に爆発して残骸は海面に落下して行った。

次の成果は宇宙船の上部にある滑走路を攻撃した第6中隊だった。

これも内部から広がるように爆発した。

 結局、40分余りの戦闘で敵航宙母艦9隻が撃墜された。

その結果はニューマンとイスマイルに知らされた。

そして戦いの様子はハワイにあったアッチラ遠征隊第19町のアッチラ人とイリヤス遠征隊第19村のイグル人に目撃された。


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ニューマンの宇宙世界(異端の子ら5) 藤山千本 @fujiyamasenbon

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