概要
ある日の映画館からの帰り道、神崎はクラスメイトの黒江ナナが橋から飛び降りようとする現場に居合わせてしまう。
「死ぬ前に映画観ない?」
咄嗟に彼女の手を掴み、彼はついでにそんなことを口走った。
一緒に映画を観るうちに二人はお互いのことを少しずつ理解していく。共通点、意外な内面、夢や目標、そして黒江が飛び降りようとした理由——。
大人でも子どもでもない。社会を知っているようで知らない。必死に自分のアイデンティティを探っている。そんなどこにでもいる二人の高校生の物語。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!映画を通して紡がれる青春の1ページ
映画好きの神崎慎くんはある日、橋から飛び降りようとしていたクラスメイトの黒江ナナさんを引き留めるため、「死ぬ前に! えっと、その——映画観ない?」と誘います。
その日から、2人は神崎くんの部屋で一緒に映画を見るようになります。
映画を一緒に見る中で、同じ時間を共有し同じ感情を共有することで、2人は少しずつ心の距離を近づけていきます。
そして明らかになる黒江さんが橋から飛び降りようとしていた理由。
黒江さんは一度神崎くんを拒絶したものの、神崎くんはもう一度彼女と話すべく、神崎くんは彼女の元に走り出します――・・・!
日上口さんの映画を通して紡がれる2人の心情や映画のシーンの描写が素晴らし…続きを読む - ★★★ Excellent!!!一度観た映画はもう一度、未鑑賞のものなら今すぐ観たくなる!
ひょんなことから親しくなった映画好きの男子高校生・神崎慎と、クラスメイトの女子・黒江ナナ。
自ら死を選ぼうとしていた黒江を引き留めるため、慎は彼女と一緒に映画を見る。
エピソードごとにいろいろな作品が取り上げられ、前後に様々な体験をしたり、感想を言い合ったりするうちに二人の関係が深まっていきます。
作中に登場する映画は最後の『番外』にまとめられていますが、私自身、観たものとそうでないものがありました。
主人公の解説や、観たあとのヒロインの心の動き、行動の描き方が大変よく、一度観た映画はもう一度、未鑑賞のものなら今すぐ観たくなります!
二人のべたべたしすぎない距離感も好感が持てます。
また、大…続きを読む - ★★★ Excellent!!!文字の川で、映画のような物語でも
映画おたくの慎が、偶然今にも川へ飛び込もうとしている同級生の黒江さんを見つけ、咄嗟に「映画でも」と誘うところから物語は始まります。
生と死を分かつ境界というのは、本当に些細なことかもしれない。死ぬまでに見て欲しい映画がたくさんある、という『誘惑』が、黒江さんの生への蜘蛛の糸となるのは、非常に細いからこそリアルだなと感じました。
映画を一緒に見るという新たな関わりをきっかけとして、慎と、家族と、クラスメイトたちと、今まで見えていなかった部分に視野を広げていく黒江さんをずっと見守りたくなります。儚げで危うくて、可愛い。
特に映画の感想を言い合うことで、心の奥底までも共有と共感をしていく慎との…続きを読む - ★★★ Excellent!!!三途の川のほとりから始まるボーイミーツガール。
まず初めに、私はあまり恋愛モノを読みません。理由はあまり乗れないから。でも、この作品はそんな私でも一気読みしてしまう程に面白かった!
夜の街で飛び降りようとしている少女と映画好きの少年が出会い、映画を通して、それまでただのクラスメイトだった二人の関係が少しずつ変わっていく。うん、この時点でエモいですね。
そして、そのエモい関係性を余すことなく読者へと伝える美しい言葉選び。いや、美しい響きの言葉とかそういうのではなくて、主人公である慎君の年相応で目の前の状況に対して彼の心そのままに語られるこその美しさ、という意味でとても秀逸だと感銘を受けましたね。
また、作中で扱われる映画語りも…続きを読む - ★★★ Excellent!!!スクリーンの陰から見守り隊
辛いとき、悲しいとき、現実から逃げ出したいとき。
あなたは何をしますか?
お気に入りの音楽を聴く?
アニメを観る?
あるいは小説を?
さほど仲が良いわけでもない、でも顔見知りの少女が人生に絶望したとき、絶望から彼女を救い上げるために主人公が差し伸べたものは、映画でした。
本作では、映画が彼女の救いになることを信じ、そして自分の「好き」を彼女にも楽しんでほしいと願う主人公の心情や少女の変化が、丁寧で澱みのない筆致で描かれています。
ふたりをスクリーンの陰からそっと応援したくなる、そんな作品です。
あなたも一緒に応援しませんか?
あ、でも、クッションとその隣は空けておきましょうね。そこは彼女…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ふたりは映画を挟んで思いを交わす
人付き合いが苦手な神崎慎は幼少期から映画が好きだった。そんな彼も高校2年生となり、受験と向き合わされるのだが……。晴れない心を抱えつつ休日のルーティンである映画観賞へ出かけた彼は、身投げしかけていたクラスメイトの黒江ナナと行き会ってしまう。果たして彼の口を突いて出た言葉は「死ぬ前に! えっと、その――映画観ない?」。
本作をひと言で表せば「キャラクター小説」となりましょう。定義は様々あるものですが、あえてこの言葉を選んだわけは、主人公の慎くんというキャラクターにあります。心情描写で、独白で、他者の言葉や態度で、徹底的に描き抜かれた彼の様は、そこまで突き詰められているからこそ現在や将来と…続きを読む