第27話 宇宙の中心
『ワンダー 君は太陽』。
遺伝性疾患で他人とは違う見た目で生まれた男の子、オギーを中心にした一家のストーリーだ。
オギーが産まれてのベ何十回もの手術を経ても彼の顔は醜く歪んでいるとしか形容することができない。それは十歳ほどの子どもにはあまりに重い枷だ。
その家族は皆、人間味と魅力に溢れる人ばかり。ユーモラスで妻に尻に敷かれている父、自らの夢を中断して子育てに奔走する母、“手のかからない子”で内心に鬱憤を溜めている姉——そして一匹の老犬。
彼らはスタンスの違いはあれど、心からオギーを愛し、心配している。姉の友人は家族を「
物語はこれまで家庭学習で学校に行っていなかったオギーが編入するところから始まる。
——— ——— ———
『いじめの的になるのは目に見えてる!』
『一生自宅学習させるの? 先延ばしにするほど大変よ』
『僕は普通じゃないから、後編で他の子に逃げられる。どこに行ってもジロジロ見られる』
『見たいならどうぞ』
——— ——— ———
オギーの顔がアップで映った瞬間、黒江が思わず息を呑むのが音で分かった。彼女はそのまま息を吐き出すと共に絞り出すように声を出した。
「——“障害”がテーマ?」
「軸の一つではあるけど、メインテーマは人間関係かな。主に学校と家族についてのアレコレ……って感じ」
「なるほどね」
彼女が既にこの作品に強い関心を持っているのが分かる。
彼女の上半身は前のめりになって、話している間も画面から目は離れていない。これは特に刺さった時の姿勢だ。
オギーの登校初日は案の定、散々なものになった。
クラスの中心生徒に目を付けられて、大好きな『スター・ウォーズ』を絡めて揶揄われたり——個人的にここが一番辛い——、授業では前後左右に誰も座ろうとせず、ドッチボールでは的にされた。
映像としてはそれらがダイジェスト式に短くまとめられているが、この一日が彼の人生で最も長く苦痛だったのだろうと胸が痛くなる。
家に帰ったオギーは塞ぎ込み、初日の感想を聞こうとした両親に強く当たってしまう。
見ているだけでその場の息苦しさが伝わってきて喉が締め付けられるような心地がする。
——— ——— ———
『なぜ僕は醜いの?』
『あなたは醜くないわ』
『ママだからそう言うの?』
『……だってママだもの。ママだからあなたを一番知ってる。あなたを知れば醜くないって気づくわ』
『誰も話しかけない。この顔のせいだよ。違うって思いたいけど……』
『——心は人の未来を示す地図で、顔は過去を示す地図なの。あなたは絶対に醜くないわ』
『ママの白髪は?』
『……フフッ、たぶんパパのせいよ』
——— ——— ———
生まれ持ったものは変わらない。
目立つことも好奇の目に晒されることも、いじめられることもある。それでもこの母親が、家族が居ればオギーは大丈夫だろうと思えてしまう。
まだまだ序盤だが、このシーンこそがこの作品を名作たらしめているのではないかと思う。それほどまでに色々な想いが凝縮した場面だ。
ツンとする目頭を押さえていると、隣からやわらかな声が飛んできた。
「いいね、このママ。慎のお母さんにちょっと似てる」
「えっ、そう?」
正直、彼女はこのシーンをあまり好まないと思っていた。だから思わず返事の声が半分裏返ってしまった。
「うん。優しくて芯がある女性で、子どもを愛してる」
「愛……愛かぁ」
「ふふっ、何照れてんの。良い事じゃん」
彼女はクスクス含み笑いをしながら言う。
なんとなく、今の黒江は学校に居るときと同じ雰囲気を纏っている気がした。
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