文字の川で、映画のような物語でも

映画おたくの慎が、偶然今にも川へ飛び込もうとしている同級生の黒江さんを見つけ、咄嗟に「映画でも」と誘うところから物語は始まります。

生と死を分かつ境界というのは、本当に些細なことかもしれない。死ぬまでに見て欲しい映画がたくさんある、という『誘惑』が、黒江さんの生への蜘蛛の糸となるのは、非常に細いからこそリアルだなと感じました。

映画を一緒に見るという新たな関わりをきっかけとして、慎と、家族と、クラスメイトたちと、今まで見えていなかった部分に視野を広げていく黒江さんをずっと見守りたくなります。儚げで危うくて、可愛い。
特に映画の感想を言い合うことで、心の奥底までも共有と共感をしていく慎とのやり取りは、情緒を揺さぶられたり、ほっこりしたり。

さらさらと綴られる文字で表現される、多彩なカメラワークや心情変化、映画への愛をふんだんに盛り込まれた本作品は、まさに映画を一本見終えたかのような充足感にあなたを包んでくれるでしょう。

文字の川で、映画のような物語でもいかがですか。オススメです!

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