妖艶で、闇で、情熱で。女は積年の禍を祓う

剋帝(こくてい)姫(き)舜(しゅん)は、国を治める腕は名君との呼び声高いが、一方で後宮に5人もの妻を抱えつつも、誰の元へも通わない。なぜなら、女たちの顔には黒い靄や蟲が張り付いて見えるからだ。この世に在らざる禍を目で見てしまう皇帝の元に呼ばれたのは、禍祓いの一族である、禍祓士(かばつし)の姚(よう)流麗(りゅうれい)。
白い仮面を着けているものの、立ち居振る舞いや言葉使いは艶やか。何より彼女には蟲がいない。舜はすぐに流麗に興味を抱く。――

後宮に渦巻く女どもの禍々しい欲と、過去の出来事、そして舜の皇帝としての生き方が錯綜する重厚なストーリーは、最後まで読者を惹き付けて離さない。
罪と贖罪。皇帝と国。横たわる背景は重いが、原動力はやはり人だ。間違いも、正しさも、もたらすのは全て人なのだ。

特に流麗が長年密かに持ち続けてきた想いが報われるような瞬間は、今まで真っ黒な霧に覆われていた視界が一気に晴れるようで。

中華ファンタジーがお好きな方も、そうでない方も、是非ご一読いただきたい。
きっとこれは、情愛を煮詰めた、人の真実の物語だから。

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