ふたりは映画を挟んで思いを交わす

 人付き合いが苦手な神崎慎は幼少期から映画が好きだった。そんな彼も高校2年生となり、受験と向き合わされるのだが……。晴れない心を抱えつつ休日のルーティンである映画観賞へ出かけた彼は、身投げしかけていたクラスメイトの黒江ナナと行き会ってしまう。果たして彼の口を突いて出た言葉は「死ぬ前に! えっと、その――映画観ない?」。

 本作をひと言で表せば「キャラクター小説」となりましょう。定義は様々あるものですが、あえてこの言葉を選んだわけは、主人公の慎くんというキャラクターにあります。心情描写で、独白で、他者の言葉や態度で、徹底的に描き抜かれた彼の様は、そこまで突き詰められているからこそ現在や将来とうまく折り合えない思春期のもどかしさを際立たせます。さらに映画を通して向き合ったナナさんと、ぎこちない思いを交わして育んでいく淡い恋! その有り様に心を深々と抉られるのです。

 映画と青春と少年と少女。それらが織り成すほろりとした甘苦さをご堪能いただけましたら。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

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