中学2年生の如月 誉(きさらぎ ほまれ)は塾からの帰り道、唐突に降ってきた隣のクラスの女子――それもセーラー服にピンヒールを履き、何者かに追われているらしい風早汐璃(かぜはや しおり)と出遭う。「あたしと、逃げてくれる?」、なんの説明もなしに投げられたその言葉へ彼は乗り、ふたりきりの逃避行へと踏み出したのだ。
謎ありな女の子が降ってくるのはボーイミーツガールの王道ど真ん中ですが、女子中学生とは相容れないピンヒールを“謎”にしたキャッチーさ、目を奪われました!
でも、奪われた目はすぐに深々と引きずり込まれるのですよ。夜の街をいっしょに逃げる中、それこそ相容れないはずのふたりを苛む背景が見えて、実は同じような葛藤を抱えていることが知れて、子供だからこそベストならぬベターな先を選ぶしかないふたりの現実と向き合わされて……でも夜はかならず明けるんだという希望が見えもして。ほろっと思うのですよ。これはつまり青春だなって。
青々しく清々しい一夜物語、ぜひご一読あれ。
(「現代ドラマ×恋愛=多彩!」4選/文=高橋剛)
セーラー服とピンヒール。何だか合っているようで、合っていないような、組み合わせ。そんな恰好をする少女は、まさにそのちぐはぐさを感じさせ、そして彼女の内面も、「ちぐはぐ」を抱いている。
ラブホテルに大人を誘って逃げるという危険な遊びに興じる「ちぐはぐ」を。
そんな少女と出会ったらどうするか。
これは、その「どうするか」を体験した優等生の少年の話。
そしてそんな彼も、やはり逃げたいと思っていて――。
そんなピンヒールで逃げられるのか?
そう思う読者の前で、彼は、彼女は逃げて、逃げて。
そして最後に見出したものは――それは、やはり逃げなければわからなかったもの、つかめなかったものなのでしょう。
投稿された時間に注目しながら読んでみると、より臨場感の高まる逸品です。
ぜひ、ご一読を。
戦争で心に傷を負った男が場末のホテル街で出会う、訳アリの女……。
え? 青春ものだろうって? 間違っていませんよ。(受験)戦争で心に傷を負った男(の子)が場末のホテル街で出会う、訳アリの女(の子)ですから!
皆さん、受験の時の模試の判定で一喜一憂した経験はありませんか?
主人公である誉は、高校受験を控えたある日、模試の結果が芳しくなかったことを理由に帰宅拒否します。そんなことで? いえいえ、皆さん思い出してください。皆さんも中学生の頃、「そんなことで?」した愚行はたくさんあったでしょう? それに、受験生にとっての模試はまさに人生大舞台の予行演習。そりゃ心も動きます。
で、帰宅拒否してうろついた夜の街で、女の子と出会います。セーラー服にピンヒール……何だか言葉だけ聞くとガチャガチャした、でも美しいであろう女の子に。
二人は夜の街へ逃げ出します。誉はさっきの帰宅拒否で。女の子……汐璃は援交オヤジから盗んだ財布を持って。
汐璃の奔放ぶりに振り回される誉。誉の実直さに励まされる汐璃。二人の逃避行はやがて……?
思春期の、それも初期の頃の繊細な針を感じられる作品です。鋭いけれど、一度刺したら折れてしまいそうな細い針。中学生の心の表面に生えたそれらを、柔らかな指先で触れるような読書感。
作者様の美しい文章表現が重なって、ヒリヒリ痛いけど爽やかな読後感があります。
人生で初めてソーダを飲んだ時、とも言える作品かもしれませんね。シュワシュワぱちぱちに耐えて飲み込むと、爽やかな清涼感。
少年少女の逃避行には、そんな刺激があります。
「今」がどうしようもなく辛くて、でも子供みたいに逃げる覚悟が決まらない夜。
この作品で、浮世から逃げてみては?
本作を読み進めていくうちに、ふと自分の中学時代が蘇りました。
比較的優等生寄りだったとはいえ、作中の誉ほどの優等生というわけでもなく。
かといって、汐璃のような問題児のような生徒とは縁もゆかりもなく。
何とも半端者で無難な中学生活だったなぁ、と思うなど。
そういう意味では、二人の突然始まった逃避行に、少し羨ましさすら感じられます。
優等生と非行少女という、一見正反対のように見える二人。
しかし、互いに閉塞感を抱え、息苦しい生活をしているという点で、互いに通じ合い、認め合います。
そんな二人が逃避行の末に、どこに辿り着くのか。
大人を信じきれないながらも、最後は大人に頼るしかないという矛盾を抱えた青臭さ香る物語に、引き込まれること間違いなしです。