第四章 サーカスナイト

第24話 緊急取調


「素直に白状する方が、身のためだと思うぜ、オレはよぉ」


「そーそー、は割れてんだぜェ」


「朝っぱらからなんだよ……風間、亀井、落ち着けって。な? というか何のこと言ってるんだ?」


 明くる月曜日、始業前。

 俺は登校早々に友人二人に呼び出されたかと思えば何故か尋問が始まった。亀井に至っては久しぶりに会ったと思ったらコレである。

 体格のいい風間とどう見ても“輩”な亀井はこの至近距離で並ぶと中々に威圧感がある。


 そして厄介なのが、ネタとやらに心当たりがないわけでもないという事である。


 風間は「やれやれ」とわざとらしく首を振って、これまたべたべたに演技くさい台詞を吐いた。


「お前が白昼堂々休日映画デートとはなぁ相棒……黒江さんと付き合ってんだろ!? オレたちを差し置いてリア充青春生活なんだろ!?」


 やはり、黒江の件だった。

 言い方こそふざけているが、まるで本当に尋問をされているような緊張感が全身に走り、冷や汗が流れる。


「ネタは割れてんだぜェ……他のセリフなんだっけ? 風間っち」


「おいおいしっかりしろよなー、『ゲロっちまいな』とか『故郷のおふくろさんが悲しむ』とか色々あるだろ」


「故郷徒歩十分じゃん」


 二人ともそこまで本気で攻めようという気はないのはよく分かった。だが、今まで秘匿にしていた黒江との関係が外に漏れていることは違いない。

 近所に映画を見に行っただけでこうもトラブルが続くものかと、自分の運のなさを呪った。


「わかった。素直に話す。でもその前にどうやってそれを知ったのかだけ教えてくれ」


「あたしが見たー。つっても映画んとこの前でナンパ? されてる黒江さんのとこに神崎が割り込んで二人でェ、そのままどっか行っちったところ見ただけなんだけどねェ。弟たちと居たから追えなくてさー、残念」


「よりによってそこ見られたのか……」


「そしてオレが亀井からそれを聞き、プロファイリングをして、お前が黒江さんと映画を観に行ったのではないかという結論に至った。ナンパは待ち合わせかお前が便所でも行ってる間にされたのだろう」


「どこで身に付けるんだその技術!」


「警察モチーフの戦隊だが」


「今の戦隊ものってプロファイリングとかすんの?」


 そんな馬鹿なと言いたいが、本当に全部言い当てられているからそれ以上は何も言い返せない。


 しかし安心できる要素もある。亀井が見たというだけならば話はここまでしか広がらないだろう。

 高校に入ってさらに見た目のファンキーさに拍車がかかった彼女はクラスで浮いていると聞いた。本人から。


「で、実際どうなんだ? 付き合ってんのか?」


「げろっちまいなよー」


 二人はニヤニヤとした笑みをたたえながらまた距離を詰めてくる。


 彼らの言う通りネタは上がっていて、そして二人ともむやみにゴシップを流布するような人間じゃないことも分かっている。

 もう、選択肢は他にないだろう。


「付き合っては、ない。でも仲は良い……と思う。友達以上ではあると少なくとも俺は思ってるけど、黒江が俺をどう思ってるのかはよくわかんない……って感じ、です」


 素直に今の黒江との関係性を白状した。

 二人の顔を見ながら言うのは照れくさくて視線は斜め下にいってしまったが、ちゃんと言えた。

 改めて人に話すと妙に照れくさくて胸の奥がムズ痒くなるような感じがする。


 俺の決死のカミングアウトに対して、二人は何故か反応を示さない。

 もしかして自分が思った以上に声が萎んでいて聞こえなかったのだろうか、と不安になって正面を向くと俺以上に照れてモジモジとする二人の姿が目に映った。


「なんだよ」


「いやなんか、思ったよりガチっぽくて、その」


「いじれねェー甘酸っぱさだった」


「なっ」


「おい、その温かい目をやめろ……さらに恥ずかしくなるから、本当に!」


 そのとき、気まずい空気を断ち切るように予鈴が鳴り響いた。 


「ま、まぁとにかく! オレらは応援するからよ。お前が選ぶ相手なら悪い奴じゃないんだろうしな。うん、出来ることあったら何でも言えよな」


 これ幸いと風間は俺の肩に手を置いて無理矢理いい感じにまとめた。


「あたしは何も力になれねェけど面白そうだから進展あったら教えてケロ」


 亀井はあっけらかんと言ってそのまま「じゃーね」と手を振って行ってしまった。マイペースを極めた彼女らしい。


 俺と風間も彼女に続くように教室へ戻る。

 その道中、やけに機嫌がいい風間に念のため釘を刺しておいた。


「一応言っとくけど、黒江はあんまり大っぴらにしたくないらしいから変なことしないでくれよ」


「わーってるって。でもなんかあったときに後押しするくらいなら良いだろ? 文化祭も近いし、なんかイベントあるかもじゃん」


「……不安だ」


 応援してくれるのは嬉しいが、俺と黒江の関係は言えないことも多い。

 今はただ、変なトラブルにならないことを祈ることしか出来ない。


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