映画好きの神崎慎くんはある日、橋から飛び降りようとしていたクラスメイトの黒江ナナさんを引き留めるため、「死ぬ前に! えっと、その——映画観ない?」と誘います。
その日から、2人は神崎くんの部屋で一緒に映画を見るようになります。
映画を一緒に見る中で、同じ時間を共有し同じ感情を共有することで、2人は少しずつ心の距離を近づけていきます。
そして明らかになる黒江さんが橋から飛び降りようとしていた理由。
黒江さんは一度神崎くんを拒絶したものの、神崎くんはもう一度彼女と話すべく、神崎くんは彼女の元に走り出します――・・・!
日上口さんの映画を通して紡がれる2人の心情や映画のシーンの描写が素晴らしく、映画初心者でもその映画を想像し、そして神崎くんと黒江さんの心情に重ね合わせることができます。
時に楽しく、時に心がぎゅっと苦しくなりますが、青春の1ページがとても丁寧にそして鮮やかに紡がれています。
神崎くんの黒江さんの人生を陰ながら応援させて頂いているような、2人が現実にいるんじゃないかと思わせてくださる作品でした…!
皆様もぜひご覧になってください・・・!
ひょんなことから親しくなった映画好きの男子高校生・神崎慎と、クラスメイトの女子・黒江ナナ。
自ら死を選ぼうとしていた黒江を引き留めるため、慎は彼女と一緒に映画を見る。
エピソードごとにいろいろな作品が取り上げられ、前後に様々な体験をしたり、感想を言い合ったりするうちに二人の関係が深まっていきます。
作中に登場する映画は最後の『番外』にまとめられていますが、私自身、観たものとそうでないものがありました。
主人公の解説や、観たあとのヒロインの心の動き、行動の描き方が大変よく、一度観た映画はもう一度、未鑑賞のものなら今すぐ観たくなります!
二人のべたべたしすぎない距離感も好感が持てます。
また、大人はあまり登場しないのですが、主人公のお母さんのおおらかさには安堵しました。一方、私にも娘がいるので、娘とすれ違ってしまった黒江の母親の気持ちも多少は分かる。
『大人なら何でもできると思っているうちは、まだまだ子供』というのが私の持論ですが、主人公たちぐらいの年齢はまさに大人と子供の過渡期。
映画や進路、親たちの関係などを通して、主人公たちが成長する様に爽やかな感動を覚えました。
人より詳しい分野(今回は映画)があるのは創作者にとって何よりの強みであると思います。その分野の魅力を十分に伝える筆力を、文章からひしひしと感じました。
青春小説としての完成度も素晴らしく、読んだあと、いつまでも心地よさが残る一作です!!
映画おたくの慎が、偶然今にも川へ飛び込もうとしている同級生の黒江さんを見つけ、咄嗟に「映画でも」と誘うところから物語は始まります。
生と死を分かつ境界というのは、本当に些細なことかもしれない。死ぬまでに見て欲しい映画がたくさんある、という『誘惑』が、黒江さんの生への蜘蛛の糸となるのは、非常に細いからこそリアルだなと感じました。
映画を一緒に見るという新たな関わりをきっかけとして、慎と、家族と、クラスメイトたちと、今まで見えていなかった部分に視野を広げていく黒江さんをずっと見守りたくなります。儚げで危うくて、可愛い。
特に映画の感想を言い合うことで、心の奥底までも共有と共感をしていく慎とのやり取りは、情緒を揺さぶられたり、ほっこりしたり。
さらさらと綴られる文字で表現される、多彩なカメラワークや心情変化、映画への愛をふんだんに盛り込まれた本作品は、まさに映画を一本見終えたかのような充足感にあなたを包んでくれるでしょう。
文字の川で、映画のような物語でもいかがですか。オススメです!
まず初めに、私はあまり恋愛モノを読みません。理由はあまり乗れないから。でも、この作品はそんな私でも一気読みしてしまう程に面白かった!
夜の街で飛び降りようとしている少女と映画好きの少年が出会い、映画を通して、それまでただのクラスメイトだった二人の関係が少しずつ変わっていく。うん、この時点でエモいですね。
そして、そのエモい関係性を余すことなく読者へと伝える美しい言葉選び。いや、美しい響きの言葉とかそういうのではなくて、主人公である慎君の年相応で目の前の状況に対して彼の心そのままに語られるこその美しさ、という意味でとても秀逸だと感銘を受けましたね。
また、作中で扱われる映画語りもまた秀逸。私も作中で取り上げられている映画全てを網羅している訳ではないですが、知りえる範囲で言えば、作者様が自身の作品を好きなのと同じくらい映画が好きなのだろうと感じましたね。そして、映画が物語に更なる深みを与え、二人が変わるキッカケを与える。良い。
正直、なんで長いこと私は一章を読んだだけで終わっていたのか。初めから読み返しましたけど、過去の私を殴りたくなるほど面白かったです。
さて、そんな本作ですがあと一話で最終話だそうです。この素晴らしい作品の最後が一体どうなるのか、楽しみにさせていただきます。
ではでは皆さん。ぜひ一度、この作品を手に取ってみてはいかがでしょうか?
辛いとき、悲しいとき、現実から逃げ出したいとき。
あなたは何をしますか?
お気に入りの音楽を聴く?
アニメを観る?
あるいは小説を?
さほど仲が良いわけでもない、でも顔見知りの少女が人生に絶望したとき、絶望から彼女を救い上げるために主人公が差し伸べたものは、映画でした。
本作では、映画が彼女の救いになることを信じ、そして自分の「好き」を彼女にも楽しんでほしいと願う主人公の心情や少女の変化が、丁寧で澱みのない筆致で描かれています。
ふたりをスクリーンの陰からそっと応援したくなる、そんな作品です。
あなたも一緒に応援しませんか?
あ、でも、クッションとその隣は空けておきましょうね。そこは彼女と彼の指定席なので。
人付き合いが苦手な神崎慎は幼少期から映画が好きだった。そんな彼も高校2年生となり、受験と向き合わされるのだが……。晴れない心を抱えつつ休日のルーティンである映画観賞へ出かけた彼は、身投げしかけていたクラスメイトの黒江ナナと行き会ってしまう。果たして彼の口を突いて出た言葉は「死ぬ前に! えっと、その――映画観ない?」。
本作をひと言で表せば「キャラクター小説」となりましょう。定義は様々あるものですが、あえてこの言葉を選んだわけは、主人公の慎くんというキャラクターにあります。心情描写で、独白で、他者の言葉や態度で、徹底的に描き抜かれた彼の様は、そこまで突き詰められているからこそ現在や将来とうまく折り合えない思春期のもどかしさを際立たせます。さらに映画を通して向き合ったナナさんと、ぎこちない思いを交わして育んでいく淡い恋! その有り様に心を深々と抉られるのです。
映画と青春と少年と少女。それらが織り成すほろりとした甘苦さをご堪能いただけましたら。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)